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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

死神の精度

2014年08月30日 | 小説(男性作家)

おなじみ伊坂幸太郎。今回は短編集だった。

人の死に判定をくだし、「可」の場合はその人の死を見届ける死神。

解説でも言われているように、そのプロット自体はありがちなものだけど、さすがというかやはりというか伊坂幸太郎らしさが随所に見られる。

「人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、もっとも醜いのは、渋滞だ」という死神の「千葉」。本作はなんといっても、死神らしからぬ彼のキャラクターが一番の見どころだ。

決してお人好しというわけではないが、憎めない親近感を覚える率直な語り口。一方で、人の死に対してはまったく感情が揺らぐことのない、カラリとした冷徹さ(というか、それが死神の仕事だから当然なのだけど)。

伊坂作品はどちらかというと長編のほうが好きなのだが、短編にしてもやっぱりそれほどハズれない。

探偵はBARにいる

2014年08月27日 | 映画(邦画)

2012年の日本アカデミー賞で7部門ノミネート。ヒット作ということで見てみたんだけど、はっきりいって個人的にはハズレである。

映像、脚本、キャラクター、どれをとってもなんだか中途半端で、「これならテレビでいいのでは?」と思ってしまう。とはいえ、ススキノを中心にローカル風景のカットが多用されていたせいか、北海道では特に人気が出たらしい。

本作で俳優として高評価を得た大泉洋だけど、『清須会議』のほうが断然良かった気がする。まぁそっちのほうがあとに公開されているから成長したという見方ができるのかもしれないけれど。

どうにも盛り上がりに欠けたまま退屈な状態になってきたところ、なんと最後にウェディングドレス姿の小雪が披露宴会場で銃を撃ちまくるというシーンが用意されてた。スローモーションカットで絵に描いたようなベタ演出だったけど、そこでやっと目が覚めた感。


小室直樹の中国原論

2014年08月25日 | 一般書

96年刊行とやや古い本だが、かなりおもしろい。

アメリカや日本など、民主主義・資本主義の国の人たちにはまったく理解できない中国。中国人の基本行動様式(エトス)とは何か?

本書によると、その中心には「帮」という根本的な人間関係があって、それをとりまくように、「情誼―関係―知り合い」などの関係が多層の構造をなしているという(これとは別に、タテ軸たる「宗族」の関係もあるのだけど)。

この関係の内と外で人間関係が「天地雲壌のちがい」になるというから驚き。逆に言うと、そうした人間関係が行動の基盤にあるから、目的合理性や契約などは、ほとんど実効性を持たない。

“この次に会うのは、何日の何時はどうですか、という話をする。その時に先約があった場合、日本人なら「すみませんが先約がはいっているので」と言うであろう。ところが中国人は、「じゃ、そっちはぶっ飛ばしてこっちへ来なさい」と言う”(p. 112)

といういかにもありそうな状況も、こうした「原理」に基づけばまったく突飛なことではないというわけだ。

また、「原理」の多くは中国の古典・歴史書を読み解くことによってわかるということだが、『三国志』や『史記』などの引用もおもしろい。

特に、『史記』の「刺客列伝」のエピソードと現代中国像を対比して解説してるところはかなり読ませる。中国式の「刺客」と、アメリカ式殺し屋(キラー)のゴルゴ13とがいかに異なるか、一見俗っぽいけどかなり本質的なところをつく分析。

STAND BY ME ドラえもん

2014年08月16日 | 映画(アニメ)

『STAND BY ME ドラえもん』を劇場鑑賞。

新宿ピカデリーにて3D上映版のほうを見たんだけど、これは400円高くても絶対に3Dのほうがおすすめ! 以前に『ホビット 竜に奪われた王国』の3Dも見たけど、やはりアニメのほうが作りこみが精巧なのか、遠近感がよりくっきり、動きもスムーズで、映像は驚くほどのクオリティだった。

とはいえ、内容的にはやはりドラえもん。

原作に基づいて、大人向けにも見られるストーリーにしているのだろうけど、アニメの演出などがどうしても子ども向けで幼稚に見えてしまうところは否めない。公開ポスターや、「いっしょに、ドラ泣きしません?」のコピーからにじみ出るように、感動押しの意図がありありで、じーんとくるシーンもある一方、頭の片隅ではどこか興ざめしてしまう感覚だった。

あと内容には関係ないけど、未来の町にタイムスリップしたときの、トヨタやパナソニックの広告が目を引く。妻夫木も声優で入っていたし、やはりスポンサーの影響力は偉大。(ちなみにあの場面は1970年代から20年くらいしか経っていないはずなんだけど、どうみても近未来すぎでは??)


大いなる沈黙へ ―グランド・シャルトルーズ修道院

2014年08月14日 | 映画(洋画)

フランスのアルプス山脈にあるという、グランド・シャルトルーズ修道院のドキュメンタリー。嫁さんが見たいとのことで、神保町の岩波ホールで鑑賞。

グランド・シャルトルーズは、カトリック系のなかでも極めて厳格な男子修道院らしく、道士たちは俗世からは断絶した生活を送っている。そのためか、撮影条件も、以下の引用のようにかなり限定されたものだったらしい。

“ドイツ人監督、フィリップ・グレーニングは1984年に撮影を申し込み、ひたすら返答を待つ。そして16年後のある日、突然、扉が開かれた。
 彼は修道会との約束に従い、礼拝の聖歌のほかに音楽をつけず、ナレーションもつけず、照明も使わず、ただ一人カメラを携えて6カ月間を修道士とともに暮らした。なにも加えることなく、あるがままを映すことにより、自然光だけで撮影された美しい映像がより深く心にしみいり未知なる時間、清澄な空気が心も身体も包みこむ”

オフィシャルサイトより)

上映時間はなんと2時間49分。修道院の季節の移ろいや、道士たちの生活を、ただただ淡々と映し続ける。

自分なら暇すぎて発狂しそうだなと思いながら見ていたが、お祈りをしたり、鐘を鳴らしたり、食事を作ったり、猫に餌をやったり、雪かきをしたり、服を仕立てたり、薪を割ったり、髪を切ったり、靴を修理したり、生活するうえではやはりそれなりにいろんなことをするものらしい。いわゆる文明の利器のようなものは読書灯やマイク、電動バリカンなどごくわずかで、アナログな道具を使って静けさの中で生活を営む様子をこれだけじっくり見せられると、それはそれで新鮮に映る。

それにしても、BGMがまったくないというのは、見るほうにもけっこうな緊張を強いる。物音や咳払いなど、ノイズともいえない一つひとつの音がとても生々しく聞こえる(ついでに映画館で寝ている人のいびきもすごい存在感を放っていたが)。

正直かなりヘビーな映画だったが、それだけに見終わったあとの達成感もひとしおという感じ。年に1~2回はこういうのを見るのもいいかもしれない。

ちなみに、ほぼ日でも特集(「山伏の坂本大三郎さんと『大いなる沈黙へ』を観た。」)されるなど、文化系の方面ではけっこう話題になっていたみたい。岩波ホールでは今月22日が最終日とのこと。