『デフレの正体』の藻谷浩介さんとNHK広島取材によって書かれた本。
<「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決するという前提で構築された「マネー資本主義」の経済システムの横に、こっそりと、お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方だ。お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、予め用意しておこうという実践だ>(p. 121)
ということで、現代にはびこるマネー資本主義へのアンチテーゼとして、発想の転換を提案する内容の本書。実例としては、岡山県真庭市での木材利用によるエネルギー創出や、広島県庄原市での地域福祉事業など、地方での取り組みが挙げられている。
こういうのを見ると、「田舎で自給自足と相互扶助を」みたいな発想になりがちなんだけど、里山資本主義では、「お金で買えない資産に、最新のテクノロジーを加えて活用することで、マネーだけが頼りの暮らしよりも、はるかに安心で安全で底堅い未来が出現する」という方針がキモで、あくまでサブシステムの構築を前提とし、マネー資本主義を全否定するわけではないらしい。
でもこうした発想にはたしかにハッとさせられるものがあって、ちょうど発生から3年が経つ東日本大震災が起きたときに体験しかけた、「経済活動がストップした途端に、水と食料と燃料が手に入らなくなる!」という恐怖感を思い出す。それに、大災害というほど切羽詰まった状況でなくても、世界経済の情勢によって日本が財政破綻に近い状態になってしまうという可能性も皆無とは言えない。
ここでふと思い出したのが、小さなウェブ開発会社で働いている知り合いと呑んでいたときのこと。ウェブ開発業ではもちろんお客さんと直接会って打ち合わせをしたりすることもあるんだけど、基本的にはパソコンひとつあれば発注から納品・請求まで、ある程度の仕事はできる。だからその気になれば、たとえば海外に居住して働くのもありだと(英語が不得意なのがネックだと言ってましたけど)。この先本当に日本が大丈夫なのか保証はできないし、どうかなっちゃったときのために「人生のバックアップを持っておいたほうがいい」というその人のことばは印象的だった。
でもそういえば、それってイケダハヤトさんが『旗を立てて生きる』で言っていた「明日、会社がなくなったらどうしますか?」という問いにもつながることで、ほんとにこのシンプルな問いに対する答えをちゃんと用意しておかないとまずいのかも。
あと個人的な感想として、こうした考え方に基本的には賛成なんだけれど、「都市生活者はどうすればいいんだろう?」という素朴な疑問も残る。
というのも、大都市圏においては身近に利用できる資源はなさそうだし、それこそ水と食料と燃料をお金以外でどうやって手に入れるのかということになると、ちょっと想像がつかない……。マネー資本主義どっぷりの都市生活に、どうやってお金に依存しないサブシステムを用意するかというのはけっこう難しい気がする。(なんか当分は自己責任でやっていくしかないような気がするけど)
最終総括で、藻谷さんは2060年の日本は人口がかなり減少し、GDPも低下するけれど、里山資本主義の実践によって暮らし向きはむしろ豊かになると言いっていた。ちょっと楽観視しすぎかもしれないけど、そうあってほしいし、そうありたいですね。