分子生物学が専門の福岡伸一さん。
「動的平衡」という聞きなれない言葉のタイトルですが、本書によると、生命の本質をズバリ言い当てた言葉がまさにそれなのだと。
『生物と無生物の間』、『世界は分けてもわからない』など、これまでも福岡さんの本を読んだことはありましたが、いずれも「生命」という、身近にしてよくわからない複雑なシステムを、非常にわかりやすく解説してくれています。しかもそれだけではなく、なんといっても作家顔負けの卓越した文章力で、読み物としても文句なしのおもしろさ!
今回の『動的平衡』では、ミクロなパーツの集積として生命があるのではない、という点で、内容的にはこれまでのものとかなり似通ったもの(実際に聞いたことのあるエピソードもちょくちょく出てくる)。しかしそれを違う言葉やアプローチで言い換えると、また興味がそそられます。
“生命現象のすべてはエネルギーと情報が織りなすその「効果」のほうにある。つまり、このようにたとえることができる。テレビを分解してどれほど精密に調べても、テレビのことを真に理解したことにはならない。なぜなら、テレビの本質はそこに出現する効果、つまり電気エネルギーと番組という情報が織りなすものだからである。”(p137)
というのは、そんな切り口で生命の本質を端的に言い換えた一節。
また、タンパク質とアミノ酸の区別を述べた以下の文章も、特に印象的でした。
“タンパク質が「文章」だとすれば、アミノ酸は文を構成する「アルファベット」に相当する。「I LOVE YOU」という文は、一文字ずつ、I、L、O、V……という具合に分解され、それまで持っていた情報をいったん失う。”(p68)
ここで「I LOVE YOU」を例にあげるのが、また何となく「憎いなぁ」という感じなのです。
ちなみに、この『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』は2009年2月刊行ですが、『動的平衡2 生命は自由になれるのか』(2011年12月)、そして新刊の『動的平衡ダイアローグ 世界観のパラダイムシフト』(2014年4月)とシリーズ化しています。後者は書店でざっと立ち読みしたのですが、けっこうすごい顔ぶれとの対談形式で、食指を動かされるものでした。こちらも近いうちにぜひ。