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いろいろレビュー(旧サイト)

本と映画とときどき日記

動的平衡 ―生命はなぜそこに宿るのか

2014年05月16日 | 一般書

分子生物学が専門の福岡伸一さん。

「動的平衡」という聞きなれない言葉のタイトルですが、本書によると、生命の本質をズバリ言い当てた言葉がまさにそれなのだと。

『生物と無生物の間』、『世界は分けてもわからない』など、これまでも福岡さんの本を読んだことはありましたが、いずれも「生命」という、身近にしてよくわからない複雑なシステムを、非常にわかりやすく解説してくれています。しかもそれだけではなく、なんといっても作家顔負けの卓越した文章力で、読み物としても文句なしのおもしろさ!

今回の『動的平衡』では、ミクロなパーツの集積として生命があるのではない、という点で、内容的にはこれまでのものとかなり似通ったもの(実際に聞いたことのあるエピソードもちょくちょく出てくる)。しかしそれを違う言葉やアプローチで言い換えると、また興味がそそられます。

“生命現象のすべてはエネルギーと情報が織りなすその「効果」のほうにある。つまり、このようにたとえることができる。テレビを分解してどれほど精密に調べても、テレビのことを真に理解したことにはならない。なぜなら、テレビの本質はそこに出現する効果、つまり電気エネルギーと番組という情報が織りなすものだからである。”(p137)

というのは、そんな切り口で生命の本質を端的に言い換えた一節。

また、タンパク質とアミノ酸の区別を述べた以下の文章も、特に印象的でした。

“タンパク質が「文章」だとすれば、アミノ酸は文を構成する「アルファベット」に相当する。「I LOVE YOU」という文は、一文字ずつ、I、L、O、V……という具合に分解され、それまで持っていた情報をいったん失う。”(p68)

ここで「I LOVE YOU」を例にあげるのが、また何となく「憎いなぁ」という感じなのです。

ちなみに、この『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』は2009年2月刊行ですが、『動的平衡2 生命は自由になれるのか』(2011年12月)、そして新刊の『動的平衡ダイアローグ 世界観のパラダイムシフト』(2014年4月)とシリーズ化しています。後者は書店でざっと立ち読みしたのですが、けっこうすごい顔ぶれとの対談形式で、食指を動かされるものでした。こちらも近いうちにぜひ。

Live! ウェブマーケティング基礎講座

2014年05月04日 | 一般書

「基礎講座」というタイトルどおり、かなりテキスト風な入門書。
仕事絡みで、本当はもうちょっと局所的な参考書を買おうと思ってジュンク堂に行ったんだけど、そのまえにそもそも基礎知識が乏しい現状に弱気になり、つい隣にあった本書を手にとってしまいました……。

各節、見開きで左ページに文章、右ページに図(チャート)というレイアウトで統一。参照しやすい構成になっているので、ざっと読んだあとに関連個所だけ付箋でも貼っておくと便利かもしれません。

内容的には、基礎講座ということで広く浅くという感じ。

正直なところ、10人程度の従業員数で、ウェブ担当がほぼ1人という私のような会社では、「そこまでやってられない」という範囲のことも多々あります。例えば「ウェブ分析でPCDA(Plan-Do-Check-Action)を回す」なんていうのは、その作業専門で張り付いている人間がいないとまず無理ですが、現実的には当然そんな人員の余裕はなく、「いちおうGoogle Analytics入れてるけど、時間なくてほとんど活用できてないんだよね~」という会社は、おそらくうちだけではないと思います。

それと、全体的に、eコマースみたいなのを中心に、自社ウェブサイトの構築・運営をどうするかという視点でまとめられていたように思いますが、自分の置かれた状況では、そもそも何をもってコンバージョンが達成されたかもよくわからないというのが現状……。こと中小出版社のサイトに関しては、残念ながらそこまでシビアに数字を出すような商業利用は望めません。

ただ、そうは言っても、そうした知識がないと、ウェブマーケティングで何かやりたいと思ったときに、まず社内を説得することができないし、ウェブ開発業者との交渉・発注時にも要件が提示できなくてお任せになっちゃったりするので、やっぱり実践しないまでも知っておいたほうがいいのは間違いない。そういう意味では総じて参考になるところはありました。

あと、以下の項目については、(あくまで個人的にですが)いくらか実用的に役立ちそうかなと思いました。

 CHAPTER 05 リスクマネジメント
  09 発注に関するリスク
  10 RFPによる発注管理

 CHAPTER 05 インターネット技術の基礎
  09 ケーススタディから学ぶ原因の切り分け

ひとつ残念なところとして、SNSの活用や事例については、もうちょっと分量を割いてほしかったという気がします。正直なところ、情報発信の効果だけで言えば、自社ウェブサイトよりもSNS活用のほうがかなり効果が大きいというのが体験的な感想なので。

ちなみにtwitterでの「バルス祭り」の事例はおもしろかったんですが、大手企業の公式アカウントでもみんな「バルス!!!」ってツイートしてるんですね。これは知りませんでした。

橋爪大三郎のマルクス講義

2014年04月15日 | 一般書

以前読んだ、『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』で、『金持ち父さん 貧乏父さん』とともに前提とされていたのがマルクスの『資本論』でした。だいたいどういうことについて書かれているのかは予想できるものの、その中身をちゃんと読んだことはなかったのですが、『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国!』でもかなりストンとくる解説をしてくれた橋爪大三郎さんの『マルクス講義』ということで、今回手に取ってみました。

そもそも『資本論』とは何について書かれた本なのか、ということで、これはやっぱり奥が深いことなのですが、それでもいちおう超簡潔に書かれていたのが以下の一文でした。

『資本論』は経済学の本なのです。世界で最初に書かれた、完璧な資本主義経済の解説書なんです。>(p117)

どういうことかというと、社会科学におけるマルクスは「物理学におけるニュートンみたいな存在」であり、資本主義の原理原則を極めて理論的に、そして科学的に分析したのが『資本論』であると。

ただし、原理原則を語るゆえに、その内容は抽象的なものになり、加えて時代の変遷によって社会が大きく変質してしまったため、それを直接適用できない部分が多々ある。そこを丁寧に見ていきながら、『資本論』に依って現代社会の(特に経済に関わる)諸問題を読み解くというのが、本書の位置づけになっています。

正直、『資本論』で語られていることの細部(特に『労働価値説』のあたり)は難解でよくわからないところもありましたが、入門書としてはよい入口になった気がします(まぁなんといっても読みやすいし…)。

本書の提言のひとつとして、「マルクスの、どこがいけなかったか」という指摘が印象深かったので、備忘録を兼ねて引用しておきます。

問題を、資本家の存在に集約したことだと思います。いまの世界の問題は、労働力と、資本、技術と、土地その他の資源の、配分が最適でなく、その成果の分配も理想的ではなく、貧困や絶対的窮乏が構造化され、再生産されている。これが問題なんです。>(p106)

さらに、

マルクスは、資本家を撲滅すればうまくいくと考えたけれども、資本をうまく人々のあいだに配分して、社会をよりよい状態にするにはどうしたらよいか、ということに関しては、マルクスは何も言えていない。>(p107)

これはそのあとに書かれていた、マルクスと「マルクス主義」は”同じ”ではない(それは「マルクス・レーニン主義」である)という解説でさらに腑に落ちました。

『資本論』はそれをもって何かの処方箋や対策を示すものになるのではなく、あくまで「資本主義経済の解説書」。その境界を明確に意識することで、一歩引いた見方ができるのかなという気がしました。

つながる図書館 ―コミュニティの核をめざす試み

2014年03月29日 | 一般書

公立図書館の在り方について書かれた本です。

キーワードとしては、指定管理者制度、無料公立貸本屋、課題解決型図書館、官製ワーキングプアなど。

一方で集客性や町づくり的な側面があり、もう一方では利用者の知性を支える公共的な側面がある……。図書館としての役割への期待は、どうしても二律背反みたいなことになりがちで、これはほんとに悩ましいところ。

もちろんビシッと答えが出せるものではないのですが、こうしたことに対して各図書館が具体的にどんな取り組みをしているか、本書を読むとわかります。有名なところだと、TSUTAYA(というかCCCだけど)によって運営され、スタバも入っている佐賀県の武雄市立図書館や、市立図書館との二重行政的な運営が指摘された神奈川県立図書館の問題など。なんとなくニュースで知ってはいたけどじっくり考えることもなかったことが詳しく解説されていて、良い機会になりました。

あとそれとは別に個人的な感想として、最後に出てきた、市内に30館の図書館をつくろうという「船橋まるごと図書館」プロジェクトの取り組みには賛同。ふなばし駅前図書館は、本の配架数500冊程度とのことですが、それくらいの小規模でも利便性の高いところ(まぁそれは個々人で異なりますが)に図書館があるとほんとにいいと思います。そうすれば図書館が生活の中に組み込まれる気がする。

本書を読んでたら久しぶりに図書館に行きたくなりました。千代田区立図書館や武蔵野プレイスなどは比較的近いので、ぜひ足を向けてみたい。

1995年

2014年03月21日 | 一般書

阪神・淡路大震災とオウム地下鉄サリン事件のイメージが強い1995年。実はそれ以外にも時代の転機を示唆するいろんなことが起きていたということで、1995年に何があったかを横断的に読み解く内容の本書。

章立てを見ると、

 第1章 政治 ―ポスト55年体制の誕生
 第2章 経済 ―失われた20年の始まり
 第3章 国際情勢 ―紛争とグローバル化の時代
 第4章 テクノロジー ―インターネット社会への転換期
 第5章 消費・文化 ―オカルトと自己喪失の世界
 第6章 事件が・メディア ―大震災とオウム事件のあいだ

というような感じで、政治・経済などの堅い話から、当時のヒット曲を分析したポップカルチャー論みたいなものまで、たしかに幅広い。速水さんは「自分の専門を作らない」ことをスタンスにしているようですが、その意味で言えば、これはたしかに「らしい」本なのかも。村山内閣の誕生経緯と、ユーミンからドリカムへの変遷を同時に語れるような人はまぁそうそういないような気がします。

個人的なことを言うと、1980年生まれの私は、1995年当時まだ中学3年生だったので、政治・経済のことなんかはあまり記憶にありません。でもその代わりヒット曲やスポーツについてはわりとよく憶えていて、オザケンが出始めのときや、若き日のイチローの話題などは懐かしい感じがしました。あと阪神・淡路大震災とのときに、あの田中康夫が50ccバイクに乗ってボランティア活動をしていたというのは初めて知って驚き。梅田ウェスティンホテル大阪に滞在していたというのも含めておもしろいエピソードでした。

ただ、全体としてはどちらかというと出来事を羅列するタイプの本のため、特に「これ」といった一本調子なテーマが見えず、何かを論じたり結論的なものを導こうとすることはありません。そのため、「いろいろ書いてあったけど、結局あとに何も残らなかった」という読者からの感想もあったみたい(と、著者本人が言っていました)。んー、たしかに読んでいるときはおもしろいんだけど、読後に何らかの視点を得たという満足感で言えば、この前読んだ『フード左翼とフード右翼』のほうに軍配が上がるかもしれませんね。

とはいえ、「あとがき」ではちょっとまとめ的なことも書いてあったので、最後にそこで印象に残った一節を引用。

「1995年」は、バブルの時期からたった5、6年あとの世界でしかない。一方、2013年の現在からは、18年も前である。とはいえ、「1995年」はバブルの時期よりも現在に近い時代であるように思う。そして、現在の日本はその95年の延長線上に置かれている未来であるのは間違いない。>(p. 208)

私はバブル期を直接的に体験していないので、いわゆる「ポスト95年」がバブル絶頂期とどこまで決定的に違うのか、実感としては何とも言い難いところではあります。でもそれ以降、日本はそんなに変わってないだろうと言われれば、それはそうなのかもしれないですね。