ある日の気づき

「ドル化が経済的利益をもたらす」という主張の欺瞞性について

ドル化によって海外経済は米国政権の意のままになるZHワシが舞いおりたった
「ドル化は確かに経済的利益をもたらすが、ラテンアメリカの政策立案者はドル化の
地政学的効果も考慮した方がよい。」
# ↑と最後にあるが、新自由主義の草分けの名を冠した「ミーゼス研究所」発の記事は、
# 経済学的な内容については(少なくとも筆者が見た範囲では)全てデタラメ。
新自由主義≈主流派(=新古典派)経済学は「貨幣ヴェール説」=「貨幣は実体経済に
影響しない」との立場を採る。∴新自由主義≈主流派(=新古典派)経済学者の貨幣に
ついての言説には、真面目に取り合う価値などないということだ。
実際は、*ケインズが正しく指摘した通り*貨幣は実体経済に影響する。←素人目線では
「当たり前」としか感じられない命題なのだが、「経済学」の最初期(=「新」のない
古典派)以来の「貨幣の商品起源説」や「貨幣ヴェール説」など経済学会特有の迷信は、
なかなか死なない(Superstitions die hard. は「歴史は繰り返す」的な定型句らしい)。
ちなみに、マイケル・ハドソンは、古代文明の調査に基づいて、貨幣の起源は簿記における
記帳処理≈近現代の経済での「信用創造」に相当する操作だったと結論した。
近現代の「信用創造」では、「万年筆マネー」や「キーボードマネー」という用語が使用
されるので、「最初の貨幣」は、何か古代の筆記具にちなむ名がふさわしい事になる。
http://shimazaki-sekiyu.com/president_new/お金とは何か・・・「信用創造」/
https://synodos.jp/opinion/economy/27722/
https://agora-web.jp/archives/2055052.html (池田信夫)
# ↑ 新古典派経済学者。信用創造の説明以外に MMT への批判なども述べているが、それら
# 新古典派としての主張には、MMT論者を含む異端派経済学者からは、各々の立場による
# 反論が存在する。例えば、現在のインフレの原因が政府支出増だとするのは、典型的な
# 新古典派の主張の一つだが、↓マイケル・ハドソンの説明は(以前述べたが)全く異なる。
# https://mekong.hatenablog.com/entry/2023/12/06/020008MH ←(↑+αの内容)
# ↑さらに、「新古典派がインフレの原因を政府支出増のせいにする」事は、公共の福祉の
# ための支出は削減する一方、富裕層の利益になる政策を推進する口実だと批判している。
# 例えば「政府事業の民営化」は、独占的な営利事業者を作り出すことに他ならないので、
# 結局、事業者に独占利潤という「レント(不労所得)」を得させるだけだと指摘している。
# 民営化=私有化は、しばしば私益を目的としているとジョン・K・ガルブレイスも警告した。
# なお、マイケル・ハドソンには「現行の中央銀行制度に対する批判的視点」があり、
# 大半の「現行の中央銀行制度に異を唱えないMMT論者」とは、少し違う立場のようだ。
# ∴MMT 批判への反論は↓中野の記事や MMT解説サイトなどを参照。
https://diamond.jp/articles/-/230693 (中野剛志)←「富国と強兵」の著者
# ↑異端派に属する。この記事では信用創造の説明は「入口」に過ぎず、他にも重要な
# 論点が提示されている。本ブログ筆者としては、こちらの記事の方が「お勧め」
# 下記でのプーチンの説明は、上述したマイケル・ハドソンらの知見に照らして*完璧*。
https://manhaslanded.blogspot.com/2023/12/blog-post_76.html
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、アルゼンチン大統領が自国通貨ペソを捨てて
米ドルに切り替える計画を批判した。」
木曜日に行われた記者会見でプーチン大統領は、アルゼンチンの新大統領に選出された
ハビエル・ミレイ氏がグリーンバックを採用すると約束したことは、「国の主権の重大な
喪失につながる」と述べた。」
「プーチンによれば、ペソを廃止するか自国通貨をドルに固定するというミレイの計画は、
社会支出の急激な削減を引き起こし、社会的不安定をもたらす可能性もある。
「もし自国通貨がなければ、何も印刷することができない。社会的分野への予算支出を
減らすしか方法はない。」」
# 長時間かつ対話的(=質問を受ける)条件での説明である事から、プーチンは、ここでの
# 経済学的内容を(論理構造を含め)*確実に*理解している。
# 多忙を極める(クレムリンWebで公開されている予定だけでも「ビッシリ」埋まった)中
# でのことなのだから、彼の知力は驚嘆に値する。正直なところ、首相や大統領はもちろん、
# 蔵相や中央銀行の総裁を含め、これほど経済学的にまともな談話は、他に見たことがない。

ちなみに、マルクスは、古典派(「新」はつかない)の「貨幣も商品の一種」という
誤った観念を引きついではいたものの、「貨幣資本」という概念に到達していたので、
「貨幣ヴェール説」などという空想から離れようとしない新古典派とは違い、貨幣の
現実経済への作用の解明に肉薄していたようだ。∵エンゲルスがマルクスの遺稿から
苦労の末にまとめた「資本論」第2巻、第3巻での金融論が、デヴィッド・ハーヴェイ
経済地理学やマイケル・ハドソンの経済学に重要な示唆を与えた事が確認できるので。

上記記事著者の「ドル化は確かに経済的利益をもたらす」との言説は、自らの理論的
立場を裏切っているわけで、アメリカ人としての内集団バイアスの現れだ。
ポール・クルーグマンのドル体制擁護言説MHも認知バイアスの所産。「地政学的効果」
でのマイナスに言及しているのは、上記記事著者は多少の後ろめたさを感じて、予め
言い訳を用意する程度にクルーグマンより気が小さい、あるいはクルーグマンよりは
自説の矛盾への自覚があるためであろう。

「ドル化」とは、「貨幣について、国家主権を放棄する」事に他ならない。
貨幣は、国家主権を背景としない限り、経済の潤滑油としての機能を果たすことが
できない。例えば、「ユーロ圏」での貿易で「黒字国」と「赤字国」が長期的に固定
してしまうのは、赤字国に通貨主権さえあれば可能な「自国通貨の切り下げ」という
選択肢が、ユーロの拙劣な制度設計により使用できないことが最大の原因であろう。
ブレトン・ウッズ会議でケインズが提案した「バンコール」を参考にすれば、もっと
よい制度を設計できたはず(「バンコール」は今後の BRICS+ にも参考になりそう)。
# 下記は、異端派(=まともな)経済学者のバンコールへの共通認識と思われる。
# https://mekong.hatenablog.com/entry/2023/12/13/085816めこん(mekong)
# 「ブレトンウッズでは、アメリカはモーゲンソーの忠告を実行に移した。彼らは、著名な
# 経済学者ジョン・メイナード・ケインズが提唱した、国家間の貿易決済に使用される
# バンコールと呼ばれる中立的な準備資産の創設というイギリスの提案よりも、ドルを
# 1オンスあたり35ドルの金に固定し、他のすべての通貨をドルに固定するという提案を
# 押し通した。」
# 「当時『エコノミスト』誌の編集者であったジェフリー・クラウザーは、バンコール案の
# 方がはるかに優れたアイデアであるとし、「ケインズ卿は正しかった......世界は彼の
# 主張が否定されたことを痛烈に後悔するだろう」と警告した。米国がドルという特権を
# ますます乱用する一方で、BRICSグループが中立的な超国家通貨を作ろうとしている。」
# ↑バンコール案には、国際収支の不均衡を縮小させる仕組み、および通貨危機的状況の
# 救済に使用可能な「国際取引における信用創造」の仕組みが組み込まれていた。
国家主権と貨幣の関係は、中野剛志「富国と強兵」の第3章までに詳しい説明がある。
仮に「ドル化による経済的利益」なるものがあるとしても、それは国家主権と引き換え
られたもので、国民全体にとっての中長期的利益ではあり得ない。存在が明白なのは、
ドルを発行するアメリカにとっての経済的利益だけだ。

NATO の軍事的侵略で破綻国家になった(=実質的に主権を失った)リビアで起きたような
(あるいは、内戦状態にあった多くの国々でも類似例が多々ある)自然発生的な「ドル化」
現象との類比から、アメリカ以外の国にとって「「ドル化」に「経済的利益」がある」状況
とは、(多くの場合、西側諸国の経済的侵略の結果として)、その国の政治が破綻した状況
だと推定される。∴真の解決策は「ドル化」ではなく、主権国家としての政治の立て直し。

参考にすべき重要な事例は、ロシア。エリツィン時代に「嘘の帝国」の手先=新自由主義
「経済学者」連中の提案に従った政策の結果、国家経済状況は、メチャメチャになるのだが、
「ドル化」提案だけは断固として拒否し、「ルーブル発行による通貨主権」を維持した。
「ドル化」まで採用されていれば、さすがのプーチンにも、あれほど迅速な国家の再建は
難しかったに違いない。
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2167.html
「1990年代ロシアの惨状を振り返ってみよう
―国民がなぜ西側に不信感を持ち、プーチンを支持するかがわかる」
「1992年、ソビエト連邦崩壊後、ロシア全体がウォール街とIMFの手に委ねられた。」
「現実には、民営化は海賊行為となった。」# 極端なレント追求+サプライチェーン破壊
「グローバリストが導入した「改革」の最初の年である1992年、ロシアのインフレ率は
2500%にまで急上昇した。これは二重の打撃を与えた。」
「食料品などの価格が25倍になった」
「年金生活者の貯蓄が消えてしまった... 10万ルーブルの貯蓄が ...4000ルーブルになった」
# 下記はアルゼンチンとロシアの過去30年の経済政策を比較した記事(「必見」と思う)。
https://mekong.hatenablog.com/entry/2023/11/25/094436
セルゲイ・ポレタエフ「アルゼンチンの運命はロシアの運命でもあったのか?」
「1990年代、アルゼンチンはしばしば「経済の奇跡」の例として引き合いに出され、ロシアは
ブエノスアイレスと同じような経済対策をとるよう勧告された。国際通貨基金の勧告にすべて
忠実に従うこと、貿易障壁を撤廃すること、経済の主要部門を欧米の投資家に売却すること、
社会部門を廃止すること、「硬直した」ルーブルの代わりにドルを公式通貨とすること、など」
「四半世紀後、アルゼンチンは、ロシアが避けることができた運命の良い例であったことが判明」
「「アルゼンチンの奇跡」は2001年に終わりを告げた。アジア金融危機のため、国の輸出は減少
し始めたが、政府は通貨切り下げを行うことができず、輸出収入を増やすことができなかった。」
「最大手銀行とほとんどすべての黒字企業は外国資本に支配され、投資家は沈みゆく国から
資金を引き揚げ始めた。拡大する財政の穴は新たな融資でふさがれ、ついに2001年12月23日、
アルゼンチンは世界史上最大の債務不履行(820億ドル)を宣言した。」
「2000年代、プーチン大統領の下、ロシア政府は一貫して財政の独立性を強化し税制改革を
実施し、オリガルヒを掌握した(彼らは国のために働くか、財産を剥奪された)。
そして、このプロセスは原油価格の高騰(ロシアの主要輸出商品)によって促進されたが、
もしアルゼンチンのように外国人投資家に国を売っていたら、プーチンの改革の成功は
不可能だっただろう。」
# 下記に、アルゼンチンの「ドル化」は「沙汰止み」との情報がある。売国大統領ミレイは、
# もっと手軽な売国の手口 ^^; である「民営化」を大々的に行うつもりのようだ。
# 「ドル化」は「目くらまし/猫だまし/選挙キャンペーン用」で、本命は、最初から「より
# 一層の「民営化」」だったとも考えられる。しかし、こうも早く「選挙公約」を反故にする
# 事は、普通の羞恥心があれば、不可能。∴ゼレンスキーと同程度の恥知らずだと思われる。
https://mekong.hatenablog.com/entry/2023/12/06/020008
マイケル・ハドソン「不安定な世界」
「彼はドル化という考えを捨てましたが、アルゼンチンの国際収支を安定させる簡単な方法が
あると言っています。それはまさに1991年にアルゼンチンがやったことで、公有地を売却する
ことです。ミレイは言います。
『アルゼンチンは銀行を売却し、天然資源を売却し、公共事業を売却することで為替レートを
安定させることができました。
すべてを売り払えば、為替レートをもう 一度上げ、減価を止めることができます。
道路や街路を売り払い、土地を売り払い、天然資源をすべて売り払えば、外国資金が
流入し、その外国資金が政府を買い上げ、政府から売り払ったものを買い上げます。』
そしてもちろん、公有地を民営化すれば、民間の所有者は公共サービスの価格を引き上げる
ことになります。」
「アルゼンチンのほとんどの「外国人」はアルゼンチン人であり、その経済を動かしている
50のファミリーは、オフショア銀行センター、オランダ領西インド諸島、アメリカ、
ロンドンを拠点として活動しています。彼らは外国人のふりをし、大規模な民営化を行い、
中流階級と労働者階級を圧迫しているのです。」
# つまり、かって行われた「ドル化」+「民営化」こそ、アルゼンチンの悲惨な現状の原因。
# ∴「アインシュタインが言ってもいないのに広まってるアインシュタインの名言」の状況。
https://www.gizmodo.jp/2014/03/9_13.html
「狂気とは即ち、同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること(The definition of
insanity is doing the same thing over and over and expecting different results)」

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