ヘチマカス

「泣いてみようとしたが泣けなかった…」「笑ってみようとしたが笑えなかった…」そんな心の不感症カモンが送る無意欲文章群。

英雄記

2006-05-19 | Weblog

今日は朝から少し熱ぽいので、病院に行って来た。

午前中の病院の待合室はジジババばかりだ。
そこにあるベンチ型のイスの一番端にスペースをみつけて
腰掛けてると

おれの横に黒いナイロンのジャンパーを着た男がスウっと現れ
いきなり首を羽交い絞めにして、包丁を突きつけ
「金を出せ!!」と捲くしたてた。

その声は待合室中に響き渡り、
150はいる人の数の叫びも同時にこだました。

待合室はこの一瞬にしてパニック。

おれは包丁を持つ男の手首をピントを合わせるように下目で見つめ
正直、なぜおれなんだ・・・と思った。

もっと力の弱い人質候補はいくらでもいたはずだし、
ナース、ジジババ、車椅子の少女
男にとって、そっちのほうが有利なはずだ。

なのに、



なぜおれなんだ・・・


そういえば、男は顔を特に隠そうとはしていない。
ふつう金銭目当てなら顔を覆うだろうし、何よりも病院じゃなくたっていいはずだ。

銀行や信用金庫、郵便局のほうがお金ならあるだろうし
目撃者だって少なくて済む。

とすると
これは金よりも、病院に恨みのある者の犯行?

顔を隠さないのは自分という存在を病院に気づいてほしいから?

自分の主張を病院に受け入れてほしい男の突発的犯行?

だから、その瞬間一番近くにいたおれを人質にした、
そうすればすべて、つじつまが合う。

あれ?
なんか生臭い。

この男の凶器、ずっと包丁だと思っていたけど、よく見るとサバじゃないか

しかも男の手のほうが、おれよりもずうっと震えている。
脂汗だって、毛穴から粒ごと出てるのが見える。

やはりそうか

自分の主張が病院に受け入れてもらえなくて、逆恨みした気の弱い魚屋の犯行だな

だとしたら、抵抗するなら今!

犯行に踏み切ったばかりの今なら、この男にまだ迷いがある!!

そう思ったおれはサバを握る男の手首を掴みにかかると、そのままひねり、
柔道五段の腕前で男を投げ飛ばした

テェェイッ!!

これで、ひとまず、オオトリモノの完成。

明日の朝刊の見出しは
『天才イラストレーター凶悪強盗犯を天才的撃退!!@』

こんな感じかなと、
意味はないけど、後ろにアットマークついてるのも、いいかなと、

こんな英雄記を
病院の待合室でのあまりにも長い放置時間
ずっと考えてました。









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