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日本版401k誕生秘話!

2010年12月24日 | 厚生年金基金

日本版401k誕生秘話!

 

「誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント」です。

 

 

 

はじめに 

 

社会保険事務所で相談しても、社会保険労務士に聞いても、Webサイトで調べても、……誰も知らない厚生年金基金! いったい、どうなっているの? というのが、厚生年金基金です。こんな疑問が巷にあふれています。 

 

この本は、厚生年金基金事務所の25年に及ぶ実務経験(事務所の人的物的体制構築・規約規定の整備・基金業務の機械化・加入員の年金計算年金振込み・基金財政の検証・基金の予算決算・ライフプランセミナー開催・OB会運営・年金給付改善・資産運用体制構築・年金調査研究等)と、社会保険事務所の年金相談員5年経験(ほぼ30,000人と面談)の年金カウンセラーが、「厚生年金基金」という堅い話をなんとか柔らかく皆さんにお伝えしようと試みます。

つまり、学者先生が書けないインサイダーによるドメスティックな本になります。ハウトウものや解説本や教科書ではありません。その類の本は筆者の任にあらずです。

そのため、論文調の退屈さ・窮屈さを避けるため、既にWebサイトでたくさんのヒットをいただき好評のコンテンツ(年金カウンセラーのSKYDrive「厚生年金基金アーカイブ」)等から、「基金って何?」、「囲い記事の引用文」、「講演録」、「事例集」、「Q&A」、「401(k)調査」等による話としました。

要するに、いろいろな語り口を通じて、皆さんにお楽しみいただきながら、自然に、「厚生年金基金」のイメージが定まるようにします。

 

さて、平成15年<2003年>10月、確定給付企業年金(DB Defined Benefit)である厚生年金基金の将来分代行返上が法律で認められ、一気に660基金の「代行返上」が始まりました。そのほかに平成13年<2001年>に始まった確定拠出企業年金(DC Defined Contribution)に移行した基金(30基金)や「基金解散」も急拡大し、全国にそれまで1800余基金あったのが、1000基金になり、平成22年<2010年>2月1日現在では609基金になっています。

このように、いまやあたかも「厚生年金基金」は時代の要請を果たし終わり、次にバトンタッチをしているかのような状況にあります。それは、まるで米国の後追いをしているかのような景色でもあります。

 

図表1 年金主体の移り変わり


出所:米国フィディリティィ社 プレゼンテーション資料 1999年訪問 

 

と言いますのも、日本でも、老後の生活保全については、昭和40年以前はFamily家族でした。昭和40年~平成15年頃はGovernment/Company政府/企業でしたが、平成15年頃以降(米国に20数年遅れてIndividual個人の責任へとシフトしつつあるようです。

 

平成22年の現在、このような立ち位置の「厚生年金基金」は確かにタイムリーな話題ではありません。

しかし、「厚生年金基金」には関係者のマドリング・スルーな必死の切磋琢磨によって蓄積されたインフラ・ノウハウ(例えば、退職金の年金化・外部保全化、資産運用の方法、官僚まかせの他者依存意識からの覚醒、受給権保護の方法、受託者責任、個人勘定の革命性等々)には膨大なものがあります。そこに、厚生年金基金の歴史的意義が凝縮されています。 

つまり、この本はそれらの一端に言及している代行返上前のドキュメント、更にはプレ確定拠出年金のドキュメントとしてお読みいただけたら幸いです。要するに、「日本版401k誕生秘話!」です。 

 

若い人たちにとっても、新たに始まった確定拠出年金(個人勘定故の自分年金)の成功のために、この「厚生年金基金」のインフラ・ノウハウを承知しておくことは必要不可欠なことです。 

と言いますのも、日本の退職一時金制度が年金化した経緯を「厚生年金基金」を経路にして承知出来ますし、更に、その「厚生年金基金」代行方式)の限界(受給権保護が不充分)と打開策(確定拠出年金=自分年金)に触れることが出来ます。そこから、若い人たちが将来何をすべきかの方向が見えてくるからです。

 

それでは、皆さん、いろいろな語り口をお楽しみください!

 

 

 

平成22年10月

年金カウンセラー 高野 義博

 

 

 

 


「誰も知らない厚生年金基金」 連載を終えて

2010年11月27日 | 厚生年金基金
「誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント」を10月25日から11月26日にかけて30回連載させていただきました。

ご高覧、誠に有難うございました。

お蔭様で、この間に、閲覧12,539、訪問者4,826人を数えました。又、読者コメント(国士夢想)が筆者を大変勇気付けてくれました。原稿の一部見直しのほかに、キャッチコピー「日本版401k誕生秘話!」も成立しました。

今後は、更に一層プロモーションを展開してまいります。



現在、Webサイトでプロモーションを展開中
YouTube  http://www.youtube.com/watch?v=tvc2woHeA6k 日本版401k誕生秘話!
パブー http://p.booklog.jp/users/hitosamano 電子書籍で販売中
gooブログ http://blog.goo.ne.jp/hitosamano/ 1ケ月連載投稿
googleサイト「年金カウンセラー」 https://sites.google.com/site/pensioncounselor/home 展開中



最後に、是非ご感想などお寄せください。ありがとうございました。


2010/11/27
年金カウンセラー
高野 義博
hitosamano@hotmail.com

誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →30

2010年11月26日 | 厚生年金基金

3.「年金カウンセラー」とは

「カウンセリング」とは、一般的に心理学用語であって、一身上の問題を解決するために助言を与えること(広辞苑)のようです。同様に、広辞苑では「カウンセラー」とは、個人が当面する諸問題について(中略)相談に応じ、適切な指導助言を与える専門家。相談員。となっています。

日本の年金相談の現状では、個々人の条件にそった公的年金・企業年金の年金全体について個別の説明・解きほぐしが欠かせず、制度全体の裏表を承知している者による総合的な「年金カウンセリング」が必要になっているということです。

筆者は厚生年金基金業務の経験と社会保険事務所での年金相談で、上記の認識を得て「年金カウンセラー」という造語を作り、Webで使用しています。雑誌に記事掲載(ビジネスガイド2007/8、2008/2)し、新聞・週刊誌の取材(2007/6/2東京新聞・2007/9/23サンデー毎日)にも応じています。


4.取材記事

●東京新聞 2007/6/2朝刊「こちら特報部」取材記事

「1年で照合は選挙対策」
二十数年間にわたって企業の厚生年金基金担当者を務めた経験をもつ年金カウンセラーの高野義博氏(65)も「実務の経験がないから仕方ないが、国会の論戦は問題のフォーカスがずれているのではないか。五千万件ものデータを一年間で照合するというが、そんなことは不可能。十年くらいはかかる」と断言する。
当然の権利を守るための時効撤廃は容認するが、高野氏は「今の制度は国が管理する社会保険方式だが、依存心を生む。これを確定年金のように個人勘定のような方式に変えていかないと、同じようなことが繰り返される」と指摘。議論すべきは、無駄な施設建設などを防ぎ、国民にも自分の資金は自分で守る意識をどう定着させていくのか、なのだと話す。
実務経験を踏まえた上で、「役所によるデータの紛失は論外だが、役所仕事には漏れがあるものと考えておいた方がいい。自分の老後資金なのだから、記録は自分で作って役所からはぎ取るくらいの意識が必要だ」と年金加入者の意識改革を求める。

●週刊「サンデー毎日」2007/9/23 取材記事

「不安拡大! もらい損ね「企業年金」の重大欠陥」
 25年間にわたって企業の厚生年金基金の事務長の職にあった年金カウンセラーの野義博さんも、自身の経験に照らして断言する。
「社会保険庁の人も、社会保険事務所の窓口の人も、基金についてはほとんど知識がありません。ましてや、加入者のほうは自分が厚生年金基金に加入していたかどうかも知らないし、どこに行き、何を問い合わせていいかも分からないのです。それが基金の現実です」
……。本来なら国が担うべき厚生年金の運用を基金が受け持つ「代行」である。今より景気がよかった時代には、厚生年金だけに加入するよりも、社員が有利に年金を受けられるとの理由で、多くの企業が導入していた。野さんの会社も、そうだった。
「会社にすれば、保険料を国が指定した利率(5.5%)より高い利回りで運用できれば、利ザヤを稼げる。私の経験では、13%ぐらい稼いだことがありますね。ところが、バブル崩壊後はそのメリットはなくなり、利回りが5.5%を切ると、逆に会社が穴埋めしなければならない事態になった。つまり、会社にとっては、代行が『お荷物』になってしまったのです」
そこで起きたのが、「代行返上」や基金の「解散ラッシュ」である。野さんが勤めた会社の基金も数年前に解散した。では基金が解散した場合、加入者の資産はどうなるのだろうか。
「全加入者の資産が企業年金連合会に移管されます。さらに連合会には「中脱者」と呼ばれる、短期間で会社を退職して基金を脱退した人の年金資産も移されます。今回明らかになった『もらい忘れ年金』(請求漏れ年金)は、実のところ、こういった「中脱者」に多いのです。(野さん)
……。前出の野さんも、こう打ち明けるのだ。
「私が退職した数年後に基金は解散しました。解散の際には、代行返上する時と同様に、基金の記録と国の記録の突き合せ(照合)をするのですが、その際『標準報酬月額などのミスマッチが多くて苦労した』と後任者から聞かされたのです」
……。前出の野さんは「行政がきちんと年金を管理することは当然」としたうえで、「一人一人も〝武装〟すべき」と訴え、「年金履歴書」の作成を提言する。「役人のやることには限界があります。国民は、それにどう対処するか。現行制度の下では自分の年金履歴書を詳細に作って、社会保険事務所などで確認することをしないかぎり、この問題は解決しません」もはや、会社任せ、国任せにはできない。


5.読書案内

●年金
・右谷亮次『企業年金の歴史』企業年金研究所 1993
・厚生省年金局企業年金課監修『厚生年金基金事務の手引』年金研究所 平成2年
・厚生省年金局企業年金国民年金基金課監修『‘95厚生年金基金Q&A』社会保険研究所 平成7年
・厚生年金基金連合会「企業年金の将来像」-21世紀企業年金研究会報告 平成8年
・社会保険研究所『年金相談の手引』社会保険研究所 平成13年 第29版
・厚生年金基金連合会『企業年金に関する基礎資料』厚生年金基金連合会 平成14年 平成21年
・厚生省年金局監修『年金白書』21世紀の年金を「選択」する 社会保険研究所 平成10年
・Carter & Shipman ”Promises To Keep” REGNERY
・キース・P・アンバクシア、D・ドン・エズラ『エクセレントな年金経営の条件』三木隆二郎訳 金融財政事情研究会 平成10年
・浅野幸弘 金子能宏『企業年金ビッグバン』東洋経済新報社 1999
・河村健吉『企業年金危機』信頼回復と再生に向けて 中公新書 1999
・企業年金研究所『企業年金白書』ライフデザイン研究所 平成12年
・イポリット『企業年金の経済学』みずほ年金研究所監訳 シグマベイスキャピタル㈱ 2000
・中北徹『企業年金の未来』401kと日本経済の変革 ちくま新書 2001
・高原宣昭『図解 どれを選ぶ企業年金』中央経済社 平成13年
・幸田真音『代行返上』小学館 2004
・安岡孝文「企業年金を分かり易く説明する方法の勉強会」フューチャーペンションプロジェクト 2004
・久保知行『わかりやすい企業年金』日経文庫 2004
・神奈川社会保険事務局・社会保険事務所「情報満載 あなたの年金」2006
・企業年金研究所『年金お助けBOOK』2007ー2008年版 2007

●資産運用
・W.SHARPE“Portfolio Theory & Capital Markets ” McGrawーHill The Original Edition
・井出正介『アメリカのポートフォリオ革命』日本経済新聞社 昭和61
・厚生年金基金連合会 受託者責任研究会「わが国における受託者責任の確立に向けて」(第一次報告)平成8年
・山崎元『年金運用の実際知識』東洋経済新報社 1997
・山崎元『ファンドマネジメント』きんざい 平成7年
・P・バーンスタイン『リスク』神々への反逆 青山護訳 日本経済新聞社 1998
・十菱龍 山本誠一郎『年金基金が変える資産運用ビジネス』アメリカ年金運用の潮流 1998
・J.L.グラント『EVA経済付加価値の基礎』マーケットの新しい投資尺度 東洋経済新報社 1998
・樋口範雄『フィデュシャリー〔信認〕の時代』有斐閣 1999
・企業年金連合会『受託者責任ハンドブック』(理事編)1998(運用機関編)2000
・刈屋武昭『金融工学とは何か』-「リスク」から考える 岩波新書 2000
・P.アードマン『無法投機』森英明訳 新潮文庫 平成11年
・北川哲雄『アナリストのための企業分析と資本市場』東洋経済新報社 2000
・榊原英資『市場原理主義の終焉』PHP研究所 1999
・村上龍JMM VOL.3『通貨を語る』美しき為替市場の魔力 NHK出版 2000
・沢井智裕『トリプルA資産運用法』誰も教えてくれなかった優良海外ファンドのしくみ オーエス出版社 1998
・三ツ谷誠『実践IR』自社株マーケティング戦略 NTT出版 200  0
・B.マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』株式投資の不滅の真理 井出正介訳 2001
・手塚集『ウォール街を動かすソフトウェア』岩波書店 2002
・相田洋『マネー革命』1~3 NHKライブラリ 2007
・浅野幸弘 格付投資情報センター年金事業部『アクティブ運用とマネージャー評価』 日本経済新聞社 2007
・本山美彦『金融権力』岩波新書 2008
・企業年金連合会『企業型確定拠出年金制度運営ハンドブック』平成21年

●経済
・笠信太郎『“花見酒“の経済』朝日新聞社 昭和37年
・岩井克人『不均衡動学の理論』岩波書店 1987
・加護野忠男『企業のパラダイム変革』講談社現代新書 昭和63年
・生田忠秀『ニッポン官僚よどこへ行く』日本放送出版協会 1992
・野口悠紀雄『1940年体制』さらば「戦時経済」東洋経済新報社 1995
・田坂広志『複雑系の経営』「複雑系の知」から経営者への七つのメッセージ 東洋経済新報社 1997
・西山賢一『複雑系としての経済』NHKブックス 1997
・J.S.ミル『自由論』塩尻公明 木村健康訳 岩波文庫 1998
・奥島孝康 中村金夫監修『ストック・オプションのマネジメント』ダイヤモンド社 1998
・山本昌弘『国際会計の教室』IASがビジネスを変える 2001
・A.シュレイファー『金融バブルの経済学』行動ファイナンス入門 兼弘崇明訳 2001    
・岩井克人『会社はこれからどうなるのか』平凡社 2003
・広井良典『日本の社会保障』岩波新書 2003
・A.コント=スポンヴィル『資本主義に徳はあるか』小須田健 C.カンタン訳 紀伊国屋書店 2006

●米国入手401(k) 本
・THE 401(k) MILLIONAIRE
・401(k) Take Charge of Your Future
・How to Build Wealth with your 401(k)
・CREATING RETIREMENT INCOME
・TAKING YOUR MONEY OUT
・Investing in Mutual Funds
・THE MILLIONAIRE KIT
・CHARLES SCHWAB’S GUIDE TO FINANCIAL INDEPENDENCE
・JOHSON & JOHSON RETIREMENT INCOME BENEFITS
・Scudder University Curriculum for Employees
・SONY Rewards & Recognition
・Fidelity Retirement Services Overview June 9,1999
・APL Limited SMART Plan (フィデリティ作成)
・APL BENEFITS HANDBOOK 2 1994


6.インターネット

・「年金カウンセラー」で検索
・年金カウンセラーのSKYDrive「厚生年金基金アーカイブ」
 http://cid-02b2f63519bf4866.skydrive.live.com/home.aspx?sa=776250713
・ブログ「人様のお金 Other People's Money 企業年金」 http://blog.goo.ne.jp/hitosamano/


著作・評論等

・哲学書『情緒の力業』(400字詰め原稿用紙553枚)近代文藝社 平成7年
・調査記録「米国401(k)調査記録」(A4×51枚) 脱稿 平成11年 Web公開
・経済書「人様のお金-厚生年金基金は何になるのか」(A4×426枚) 脱稿 平成12年 Web公開 
・経済書「厚生年金基金事務長奮闘記」(A4×134枚)脱稿 平成12年 Web公開 
・冊子記事「資産運用機関の勝手格付け」 (A4×3枚) 単独連合厚生年金基金連絡協議会「たん・れん」掲載 
平成12年 「パブリック・コメント?」(A4×2枚) 単独連合厚生年金基金連絡協議会「たん・れん」掲載 平成12年
・実用書「Q&A年金の行方(基金解散と代行返上)」(A4×36枚)脱稿 平成15年 Web公開 
・実用書「年金生活への第一歩」(A4×82枚)脱稿・発刊 平成16年 Web公開 
・実用書「事例で学ぶ年金」(A4×163枚)脱稿 平成18年 Web公開
・雑誌記事「年金履歴書の作成による請求もれ年金発見の仕方」(B5×13枚)日本法令ビジネスガイド掲載 平成19年 「企業年金の記録漏れ問題・不払い問題 具体的解決策は何か?」(B5×5枚)日本法令ビジネスガイド掲載 平成20年




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誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント
平成22年10月10日発行
年金カウンセラー
野 義博
メール:hitosamano@gmail.com
(A4・155頁)
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*本書の全部または一部の複写・複製・転訳載および磁気または光記録媒体への入力等は、出所明示で許諾します。




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野 義博(たかの よしひろ)
●1941年千葉市生まれ。1967年東洋大学哲学科卒業。ABC厚生年金基金に25年勤務。続いて社会保険事務所で年金相談員を5年。2001年OPM研究会設立。
●1990年欧州7ヶ国企業年金調査。1998年企業年金連合会の受託者責任研究会WGに参加。1999年米国401(k)調査。
●主な著作・評論に、1995年『情緒の力業』近代文藝社。2000年「人様のお金」Web公開。2000年「資産運用機関の勝手格付け」単独連合厚生年金基金連絡協議会冊子「たん・れん」掲載。2004年「年金生活への第一歩」Web公開。2007年「年金履歴書の作成による請求もれ年金発見の仕方」日本法令ビジネスガイドなどがある。
●ホームページ「@年金」25万ヒットで閉鎖
●Webサイト・ナレッジサーブ「年金カウンセラー検定」で優秀賞受賞
●年金カウンセラーとして2007/6/2東京新聞朝刊「こちら特報部」「1年で照合は選挙対策」、2007/9/23週刊「サンデー毎日」「不安拡大! もらい損ね「企業年金」の重大欠陥」等の取材を受ける。
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誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →29

2010年11月25日 | 厚生年金基金
付 録

1.これは宝もの!

図表42 厚生年金基金加入員証



「厚生年金基金」に加入すると、このような加入員証(紙幣型が一般的、中には箱型もあります)が発行・交付されます。原則65歳になると、これが年金(終身給付)になります。
原則、10年以上加入の場合は当該基金から、10年未満であれば企業年金連合会から給付されます。
厚生年金受給資格の有る人は、厚生年金基金加入1ヶ月以上は年金になります。
例えば、厚生年金基金24ヶ月の加入ですと、おおよそ2,000円/月×24ヶ月で、48,000円/年となり、生涯(65歳~85歳の20年間)換算すると、960,000円にもなります。
代行返上や基金解散で取扱いが区々になっていますので、一度企業年金連合会等に問合せてみるとよろしいでしょう。

・企業年金連合会(旧厚生年金基金連合会)
住所:〒105-0011 東京都港区芝公園2丁目4番1号芝パークビルB館10階・11階
電話番号:03―5401―8711(代表)
ホームページ:http://www.pfa.or.jp/
・当該基金
当該厚生年金基金事務所、または会社の人事課とか総務課の担当窓口

2.請求漏れ年金

日本の公的年金は、制度が分立していること(少し前までは8つの公的年金制度がありました)とか、過去の年金加入記録の管理がしっかり統合されていないとか、年金支払いのミス続発等の欠陥商品になっており、実務面からもリコールが必要な事態に立ち至っています。つまり、国民サイドからすれば、不可解な年金で請求もれ年金が発生しやすい制度になっています。

生涯ひとつの会社しか就労していなくて、基礎年金番号にそのすべての加入記録が管理されている人であれば、一応請求もれ年金を考える必要はないでしょう。しかし、多くの人の場合、過去に加入していた年金が、何らかの事情で加入記録が統合されてないままに放置されているのが現実です。

国が積極的に100%それを統合するなどということは考えられませんし、限界があります。仮に、「総背番号制」や民営化等が導入されても年金の加入記録の統合はむずかしいでしょう。もれ落ちる記録が続出して収拾が付かなくなるでしょう。仮にそうなったとしたら、なおさら「年金お調べ」が重要になります。

筆者の30年の年金実務経験から言えることは、基礎年金番号に記録がきれいに統合されている人は全体の10%位で、残りの90%ほどは年金加入記録のもれや未統合があります。それゆえ、あなたもそのうちのお一人ではないかと懸念されます。

●請求もれ年金って?



このような人は、請求もれ年金の点では一応問題はないでしょう。基礎年金番号の中にすべての年金加入記録が記録されていると考えられます。
しかし、なかには転勤先がそっくり落ちていたりする場合もありますので、全期間であるかどうかを確認します。それと、過去の給料の額が違っている場合もあります。

問題なのは次のような人です。




基礎年金番号の年金加入記録は判然としていても、それ以前の加入記録が統合されていません。制度間の渡り歩きもあるし、不明部分があるし、A社の年金加入記録がありません。

これは、名前(カタカナ)と生年月日(和暦)を使って社会保険事務所のコンピューターで検索すれば調べられます。そのうえで、基礎年金番号にすべての番号を統合しなければなりません。そうしなければ、年金額に反映しません。請求もれ年金が残ります。

一般的な請求もれ年金の事例は次のような人です。



D社の年金手帳しかなく、それ以前の年金加入の手帳とか被保険者証を紛失している場合です。

このままだと、D社の加入期間だけで受給資格期間を満たせず年金が受けられないということになります。このまま、年金は受けられないと独り決めしている人もいらっしゃいます。

実はA社、B社、C社、それに未加入の期間、国民年金の期間を確認すれば年金を受けられる加入期間を満たしていると考えられますので、こういう人こそ「年金お調べ」が必要になります。

●請求もれ年金の典型例
もっと一般的なのは次のような事例です。




基礎年金番号は持っているのですが、A社の年金加入はすっかり忘れている事例です。社名がわかれば社会保険事務所で調査は簡単にできます。本人の口から社名を言ってもらうだけで調べられます。

厚生年金基金の加入があるがどうかも社会保険事務所のコンピューターで確認できます。基金解散や代行返上等も同様です。

基金の年金は、原則10年以上加入の場合は当該基金へ原則60歳になったら請求します。10年未満の細切れ基金の分はまとめて厚生年金基金連合会から終身支払われます。この基金分年金を忘れている人が大勢いらっしゃいます。請求もれ年金の一典型です。



厚生年金基金に関して上のような事例の人は少ないのですが、それでも複数の事案が重なっている人はいらっしゃいます。この方の場合、基金の年金は3ヶ所に請求し、3ヶ所から年金を受けることになります。A基金とB基金は厚生年金基金連合会、C基金は原則当該基金、D基金の代行返上は厚生年金からとなります。

さらに、B基金とD基金が加算型基金であればそれぞれの基金にも請求する必要があります。

こうなってくると、何がなんだかわからなくなりますが、現状個々の年金説明はありますが全体を解きほぐして説明してくれる年金相談所は残念ながらありません。

当然、社会保険事務所の年金相談にも限界があります。社会保険事務所の年金相談では、国民年金・厚生年金・船員保険・3共済等には対応しますが、テリトリー外の共済とか厚生年金基金とか厚生年金基金連合会については多少触れるだけです。

現状、この点を含めて、年金制度全体の説明ができる「年金カウンセラー」が必要になるほど年金の現場は混乱しています。本来、国民全体が関係する制度であればシンプルであることが必須なのでしょうが、現実は世紀末ならぬ制度末を迎えています。

このような事態のため、これから年金を受けようとする人には一層の「年金お調べ」が不可欠です。

●請求もれ年金1ヶ月見つかると
一般的に、請求もれ年金の年金加入が1ヶ月見つけると、次のような年金が終身受けられるようになります。(年功序列・終身雇用下の推定値。生涯給与が安い・高いで区分しても可)


20代の年金加入1ヶ月 → 3000円/年/終身

30・40代の年金加入1ヶ月 → 4000円/年/終身

50代の年金加入1ヶ月 → 5000円/年/終身




例えば、30代の年金加入記録が3年見つかったとすれば、36月×4000円で、144,000円が年間追加され、男性の平均年齢78歳までもらったとすれば60歳からとして18年間で2,592,000円になります。また、女性でも結婚前の3年が見つかったとすれば、36月×3000円で、108,000円/年、終身では平均年齢85歳として60歳から25年として2,700,000円にもなります。下手な資産運用や蓄財をやるならこの請求もれ年金の発掘をしたほうがよっぽど効果的です。

上記の例で、厚生年金基金の加入があったとすれば、厚生年金基金連合会から半分、厚生年金から半分ほどがもらえることになります。

仮に、請求もれ年金が10年も出てきたら、どういうことになるでしょう。120月×4000円として、480,000円/年追加され、18年間として8,640,000円にもなります。こういう大金を請求もれにするか、自分の年金としてしっかり確保するか、すべてはご自分の「年金お調べ」にかかっているのです。政府が取り揃えてくれるわけでもなく、社会保険庁は請求主義をたてに請求されなければ支払いません。

大雑把に1年見つかれば、12月×4000円として48,000円、おおよそ5万円の年金が増額になり、終身受けられることになります。

なお、すでに年金を受けている人がこの請求もれ年金を見つけたとすれば、5年の時効で消滅する分を除いて遡及払いが一時金で受けられ、年間の追加額も終身受けられます。

最近の報道によると、この「5年の時効」は特例的に取り払う方向のようです。

一般的には、昭和17年から終戦の混乱時代に請求もれ年金がたくさんあるようです。現在の人であれば、転職の多い人や年金に無関心の人、経歴が複雑な人などに請求もれ年金が発生しています。

●典型的な請求もれ年金5つの事例

□ ① 転職


D社の基礎年金番号しか持っていない事例だと、厚生年金15年では受けられないのであきらめてしまう人がいます。

この場合は、職歴を全部洗い出して年金加入記録の確認をすれば、倒産会社でも調べられます。4社別番号の場合もありますが、統合さえすれば問題はありません。

 この事例だと、D社の15年も生き返って合計38年分の年金、おおよそ180万円/年ほどが受けられるようになります。

□ ②制度間渡り歩き
  



こんなに波乱万丈の人生を送る人は現実にはまれですが、ときたま3つほどの年金制度を渡り歩く人はいらっしゃいます。

すべての加入期間を合算して25年以上あれば年金になります。この事例ですと、私学共済だけ私学共済に年金請求し、後は社会保険事務所に年金請求します。

□ ③カラ期間
   



国民年金3号被保険者期間が8年と自分で国民年金を支払った5年で13年しかなく、25年に足りないので年金をあきらめている事例でも、昭和61年3月までの婚姻期間10年がカラ期間として使え、さらに結婚前の厚生年金2年を合算して25年になれば年金になります。ただし、昭和61年3月までの婚姻期間10年は年金額には反映されません。

 カラ期間は、このほかにも沖縄在住・生活保護受給・学生・海外在住等がありますので、くれぐれも勝手解釈はやめ、社会保険事務所等に確認しましょう。

□ ④昔の基金加入
 
  
 

A社の厚生年金加入が見つかり、合わせて厚生年金基金加入も確認され、3年分の基金が厚生年金基金連合会から54,000円/年終身受け取れることになります。昔の基金加入を忘れている人が大勢いらっしゃいます。

 さらに、最近の基金解散や代行返上で請求もれ年金が発生するリスクは増大しています。

 これから年金の人は、年金給付の抑制のほかに年金制度変更のドサクサに約束されている年金も取り上げられてしまう場合もありますので要注意です。「果たすべき約束」が果たされないのが現実です。

□ ⑤海外在住




 海外赴任から現地法人に転籍になった人や海外で事業をしている人など海外在住の長い人は、日本での厚生年金加入が判明し日本国籍であれば、厚生年金5年だけでは年金になりませんが、海外在住が20年以上あれば合わせて25年以上になり、厚生年金5年分の年金(約25万円)が終身受けられます。

 海外在住の人は、はなからあきらめてしまっている人が多いようですし、海外在住のカラ期間が使えることを知らないまま年金を受けていないようです。

 この海外在住を立証するために、パスポートとか在留証明とか戸籍の附表とかが必要になります。出国印のあるパスポートは年金のために宝物になります。永久保管しましょう。
また、海外転居した人も国民年金に任意加入できるので、将来の受給額や障害年金などを考えたら加入しておくべきでしょう。海外からでも、保険料支払いの方法は幾つかあります。

 ドイツやアメリカに短期間赴任してその国の年金に加入した人も日本での年金加入と通算して10年あればその国の年金もうけられるし、25年以上あれば、日本の年金も受けることができます。ただし、アメリカは平成17年秋以降。このような二国間の通産協定は順次進行中です。協定成立後は日本の年金だけ加入します。



 現地法人に転籍の場合、日本の年金制度からは外れるが国民年金に任意加入が可能です。

●「請求もれ年金」発生の背景
 以上のような5つの事例の「請求もれ年金」が発生する背景は、現行の公的年金が被保険者全体の資産を政府が全体管理し、国民一人一人の個別管理になっていないためと総論的に考えられます。すなわち、どんぶり勘定ゆえの弊害と考えられます。

 現実に、「社会保障の夢」はどちらかというと財政に摩り替えられています。もともと厚生年金は戦費調達で始まった制度ですから、戦後復興の産業資本として流用される土壌はあったのです。このような方式の年金であれば、裁量が働く余地があるため、本来、「人様のお金」である年金を国が他の目的に流用したり、政治家が産業資本として流用し使途不明金になったりしても不思議はありません。

実態としては、社会保障のための金が財政目的に使われてしまっているのです。それゆえの年金財政破綻でしょう。ここから、給付抑制の大義名分として国が責任を言い逃れるために「高齢化と少子化」を叫ぶのです。これも、ひとえに裁量が働かない個々人の年金勘定がないためとだけは言えるでしょう。

 こういう中、平成13年(2001年)10月、ひとつの実験が企業年金で始まりました。これまでの厚生年金基金等は資産運用の低迷とか国際会計基準の採用等で財政維持が困難になり、基金解散とか代行返上が続出しています。新しく始まったスキームは「確定拠出年金」といい、加入者自身が資産運用の責任を負う個人勘定です。

 これから年金を受ける人は、公的年金のほかにご自分の個人勘定の確定拠出年金も受けることになりますが、この年金はご自分が資産運用で失敗しない限り、請求もれ年金となることはないでしょう。政府や企業の裁量も働かないでしょう。いろいろ紆余曲折はあるでしょうが、曲がりなりにも「人様のお金」は保全される道筋が示されました。



【出所:「年金生活への第一歩」 平成16年】


誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →28

2010年11月24日 | 厚生年金基金
第7章 確定拠出年金スタート

退職金の①年金化と②外部保全の方途は厚生年金基金に用意されましたが、しかし現実の展開は遅々たるものでした。

退職金原資を厚生年金基金に移管するのは、経営の裁量を狭めることになるので、経営者の消極姿勢を強めました。また、厚生年金基金は厚生年金を代行するという構造でしたので、その積立金の資産運用は規制によって役人が遠隔操作することになり、充分な展開を果たせないまま推移し、資産運用規模(60兆円)の拡大に伴うリスクの増大も足を引っ張ることになりました。

更に、平成11年の厚生省年金局長通知、いわゆる厚生年金基金の「凍結通知」が決定的に作用しました。それらに加えて、退職給与引当金限度額の再々の引き下げ(将来的には廃止)や平成12年の退職給付会計の新ルール(退職給付債務を貸借対照表に退職給付引当金=時価ベースで計上すること)採用で、企業と厚生年金基金は未曾有の事態を迎えました。

ここにきて、日本の年金制度の抜本的見直しが必要という声が高まり、平成13年、確定拠出年金法、平成14年、確定給付企業年金法が相次いで成立しました。

平成14年4月施行の「確定給付企業年金法」により、厚生年金基金は厚生年金保険の代行部分を国に返上し、プラス・アルファ部分のみを確定給付企業年金(代行なし企業年金)へ移行することが可能となりました。

この法律の施行に伴い、大企業厚生年金基金を中心に、一気に660基金の「代行返上」が始まりました。しかし、巨額な積立不足金を抱えた一部総合型厚生年金基金では代行返上も解散もままならず、従前の厚生年金基金にそのまま積立不足金を抱えたまま残っています。

こうして、日本の企業年金は、確定給付型年金(厚生年金基金・規約型企業年金・基金型企業年金)と確定拠出型年金(企業型確定拠出型年金・個人型確定拠出型年金)に整備されることになりました。ここでは、退職金の①年金化と②外部保全は織込み済みとされ、新たに①受給権保護と②受託者責任が規定されました。その中で、厚生年金基金(昭和41年成立)は<代行なし企業年金>の成立(平成14年)をもって、およそ36年間の関係者の切磋琢磨の末にその役目を果たし終えることになりました。

しかし、厚生年金基金は退職金の①年金化と②外部保全を目標に実施・実行された政策であり、60兆円の資産規模で、1200万人が関わって、36年間にわたって、都度の社会状況の変化を受けて政策の点検を新しい方法(時価会計・賃金後払い説退職金・事後監視型行政・パブリック・コメント方式・官僚排除意識・帰納法・英米法・信認・受託者責任・ストック・マネジメント重視の年金社会等)で行いつつ、制度改善をしてきたのです。

これは<初めに理念ありき>の大陸風観念論ではなく、どちらかというと英米法の経験論の方法です。つまり、グランド・デザインは形成されるものなのです。筆者は、先に「戦後日本経済を推進してきたケインズ主義的マクロ政策主導の基本理念であります大陸法の硬直的なシステムに対して、英米法の柔軟さのほうがフレーム・ワーク等の構造を構築するとき、より現実にフィットしたものになるでありましょう。(野義博著「人様のお金」p.16 平成12年)と述べております。つまり、<ドメスティックなものの中のマドリング・スルーな活動>が、次の光明をもたらすということです。

一方、昭和27年以降、中小の企業は税制優遇を受けつつ退職給与引当金を維持し続けたまま年金のない企業が数多くありました。一部に年金化された企業もありましたが、大部分の企業では退職金のままでした。この退職給与引当金の税制優遇も50年の時を経て平成14年に廃止になりました。また、同じように50年の時を経て適格退職年金も平成24年に廃止されようとしています。ここにきて、企業は、税の優遇のない退職金を維持するか、優遇のある確定拠出年金か、または確定給付企業年金かの選択を迫られています。

振り返れば、厚生年金基金に関する一つ一つの改革は、まるで壮大な制度実験だったかのように見えるのです。その間に、社会状況の変化があり、幾つかの混乱と痛みがあり、政治・官僚バッシングと身勝手な経営者と繰られるままの国民を見てきたわけです。

そういうドタバタの中から、①受給権保護と②受託者責任がその実験結果として到来したのです。年金資産(Other people's money)を<人様のお金>に組成する枠組みが、平成13年、確定拠出年金法、平成14年、確定給付企業年金法によって成立したのです。

これから若い人たちが加入する「確定拠出年金」の画期的な点は、日本の年金制度を呪縛してきた<年金数理>が不要な「個人勘定」(自分年金)の仕組みが誕生したということです。
何が画期的かと言えば、老後の生活保全の方策として、厚生年金基金制度下の統制計画経済手法による政治や官僚や企業や業者等に掠め取られない仕組みであるということです。

とは言え、問題を多数抱え込んでいるのも事実です。たとえば、加入者への投資教育、拠出限度額の拡大、各種管理機関や資産運用会社手数料の減額、ポータビリティの整備等々があります。これらの細部は、これからドメスティックなものの中のマドリング・スルーから立ち上がってくるでしょう。

そして何よりも重要になってくるのは、年金の歴史や将来を見据えて、政府や企業や業者に頼ることなく、柔軟に辛抱強く、ご自分の老後生活保全に取り組む、自立した個々人の覚醒した意識・行動・考え方になるでしょう。




誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →27

2010年11月23日 | 厚生年金基金

更に、投資運用技術会社2社等。

⑦Atlantic Financial社
・独立系のフィデリティの関係会社で、株、債権売買仲介、定年退職関連サービス、ベンチャー・キャピタルへの投資などを事業としています。
・アトランテック・ファインナンシャル社は、社員3人だけの企画会社(プレゼンテーションを我々にしたのは30代の社長)で、実務はクリアランスハウス(決済事務代行会社)に委託しています。アメリカにはこの手の専門のクリアランスハウスが多数あるようであります。幾つもの会社のバックオフィスを兼ねているということ。例えば、日本でも各社共通の業務(給与計算・社会保険・労災・安全衛生・納税・採用・資金決済等々)というのはたくさんあるのですから、バックオフィス専門の会社があってもいいのですが。
垂直統合的に社内に抱え込む雇用確保を目的とした会社(?)が多すぎます。
・スピーチワーク社とのパートナーシップにより音声認識テクノロジーも提供。
・定年退職に向けての社員教育や種々の資産管理・形成に関するプランへの参加を促しますようにサポートもしています。
・教育課程において、自動化された電話サービスへのアクセス、資産形成計画や運用結果のチェックなどについて学ぶことができるようになっています。
・日本の401(k)導入に際して、進出できるだけの技術を持っていると自負しています。
その技術とは、<個人ベース>の資産運用計画、資産運用教育、資産運用管理を可能とする技術(Web.音声認識等)であるといいます。
・Web.は<www.atlanticfinancial.com>です。

⑧SpeechWorks社
・1994年創業の社員130名の非公開企業で、インテル等から資金提供を受けて経営されています。
・スピーチワークスのソリューションはMITでの研究をベースに、それをライセンス供給 された形で実現。
・モルガン・スタンレー・ディーンウィッター、シンガポール証券取引所、イー・トレードなどが音声認識テクノロジーを組み込んだ電話での投資サービスを導入しています。
・スピーチワークス社のビジョンは、電話で話すようにコンピューターとしゃべること。
この技術は既に様々な場面(イートレイド、病院、航空等)で使用されているが、401(k)の教育、管理、回答等の場面でも使用されています。
・ベースとなるエンジン(技術)は、初めに女性の肉声を母音・子音のレベルにコンピューター的に分解・蓄積。応答する時に蓄積された母音・子音を会話として合成するという技術であるといいます。
・このような転換の技術の別の場面で、日本のベンチャー・キャピタル:マーケット・メーカーズの服部さんはエクセルの<セル>を使って達成するというのをこの旅行に出る前に聞いたばかりでありましので、女性の肉声を母音・子音のレベルに分解するというア  イデアは非常に面白いと思いました。
・このスピーチワークスの技術は、幅広くハードウェアに対応、数千の電話回線で使用可能、 マルチ言語対応ということで、日本企業向けに可能性が大きいです。金融機関、年金基金、公的機関、サービス業等々で使えるのではありませんか。
・401(k)のコンセプトは、<Individual>(個人)ですから、基盤の哲学は自己の十全の開花を標榜する自由主義であり、それを成就させるためにインセンティブとかテクノロジーが絡まることになるのでしょう。
・Web.は<www.speechworks.com>です。

⑨日本経済新聞社米州編集総局年金担当:越中記者による現地401(k)セミナー
・DB(確定給付型)は過去のものになりつつあるのがアメリカの現実。DBはキャッシュ・バランス・プラン(混合型)に移行しつつあり、DCが隆盛を極めています。そのDCにはストック・オプションやマッチング拠出等のインセンティブが常識になっています。
・キャッシュ・バランス・プランの利率は予定利率を使わず、市場利回りを使用。といいますことは、マーケット・プライスが年金給付を決定するということになります。このことから、高齢従業員の給付引き下げが現実のものになり、訴訟問題も発生しています。逆も当然、あるのでしょうが。
・DBは従業員が定年まで勤務することを前提に設計されているが、最近の労働市場の流動化で実態にそぐわなきているのも、ポータビリティのある混合型が増えている一因でしょうといいます。
・主催者の友人ということでこのセミナーに参加したアメリカ大和證券の大井会長は、入社以来続いている海外勤務(ヨーロッパ・アメリカ)の経験から欧米人のものの考え方が401(k)に典型的に示されているといいます。
・米国では、DB(確定給付型)は既に<死に体>となっているというのが筆者の感想。

   ⑩「プラン・スポンサー」誌
・「プラン・スポンサー」誌は、他に「グローバル カストディアン」誌を出版しているアセットインターナショナル社の年金専門誌であり、中立的な特集記事を中心に編集している月刊誌です。
・主催者がヒルトン・ホテルの1室に用意した会場に、約束していました「プラン・スポンサー」誌のチャールズ・ラツフェル主幹(筆者は東京のセミナーで2度ほどお会いしている)はドタキャンで姿を見せず、替わりに女性編集長のメレディス・ヒューズとTSUNAMI社の松前社長が現われました。
・同誌は、東京で過去に3回、最先端のエキサィティングな年金セミナーを開催し、4回目を開催(6月16日・17日)すべく準備中であり、皆さんを招待するといいます。
・DB並びにキャッシュ・バランスは、DCだけの場合のリスクのブレに対するヘッジとして機能している面もあります。
・DCプラン誕生の事情は、1980年代に大きなDB年金債務が発生、併せてベビーブーマーの出現、労働市場の流動化、小さな政府・企業のコスト削減要請等が生じ、新しいフレーム・ワークがもとめられていました。きっかけは、保険のセールスマンがエリサ等の法規制を読んでいるときに、法規制されていない或る仕組みを発見したことに始まると聞いています。
・ エディケーション・プログラムの中立性を確保するのが大変難しく、訴訟になりやすいということです。
・「プラン・スポンサー」誌の編集方針もアドバイスではなく、中立性確保を目指しています由。この点についてはかなり神経質な対応が多いです。
・<完璧なものは世の中にはありえず、完全な答えは存在せず、常により良いものを目指している活動だけがある>と、松前氏の言。日本の官僚はこういう度量のある考え方はしません。常に決定論です。
・東京で来週開催される「年金セミナー」について松前氏からAGENDAの説明があった。
・「プラン・スポンサー」誌では、近々ウェブ(www.japanpensions.com)で日本の年金スポンサー向けの日本語の情報提供を行う由。


(3)取り敢えずの401(k)論

●401(k)エンジンの仕掛け
このたびのアメリカ旅行で奇妙な印象として残ったことに、「YesではなくOK! 」というのがあります。飛行機の中でもプレゼンテーションでも街中でも、聞こえてくるのは男女を問わず「OK! 」という短い叫びのような言葉。

考えてみるに、日本人は「Yes」とは「はい」ということですと教えられてきました。

しかし、「Yes」と言って立ち上がる人はいないが、「OK! 」は次の行動の予告といいますか、「OK! 」と言う人は、そう言うと同時にもう向こうに行ってしまっています。

スピードがまったく違います。「Yes」の場合は、直ぐに行動が伴いません、あるいは遅れて行動が出てくる、最悪の場合はただ聞き置くだけで一切行動が生まれないこともあるようです。

この違いは、何なのでしょう?

現在の日本で「OK! 」と言う人はいるのでしょうか。1億総「Yes」マンなのではないのか。日本語になっている「イエスマン」はどういう人間か別にして、行動しなくなってしまいました日本人、本来の意味の行動、自己のポリシーで動く人がいなくなってしまったのではないでしょうか。明治の人間、それに戦争直後の経済的混乱期の人間に「OK! 」と言う人がいたのではないでしょうか。

今の日本人は「Yes」と答えて、深く沈潜してしまい、マイナーなものに呪縛されて身動き出来なくなっているのだろうか。そうであっても、マイナーなものはいつの世にも何処にも必ず在るものですが、それを巻き込んでプラス思考をさらに一層拡張・拡大・展開していくのが、「OK! 」という言葉の意味なのではないでしょうか。
立ち止まることを知りません「OK! 」という文化は、マイナーなものをロスカットし置き去りにして、次から次にと切磋琢磨の試行錯誤を繰り返して新規の更に一層ベターなものを創り上げるべく動きまわることになります。これが<アメリカン・スピリッツ>の背景にある個人の十全な開花に神の意志を見る個人主義(Individualism)の神髄ではないのでしょうか。

401(k)プランはこのような土壌のうえに、米国政府の小さな政府を目指す社会保障費削減策とDBの積立不足に苦しんだ企業のリストラ策とが<フレーム・ワークキイタームにして集約されましたフレーム・ワークでしょう。そのうえ、401(k)プランは個人ベースのテクノロジー開発と政府・企業によるインセンティブ付与が相まってプラン発展のエンジンが高速回転することになったようです。

この辺の好循環を『負けない年金』(http://www.nenkin.co.jp)の「日本版401(k)プラン構築に向けて」で、村田純一氏は次のように見事にまとめています。

「トータルベネフィットの中の401(k)プラン」という企業のべ
ネフィット戦略は、課税繰り延べの支援策をうけて、従業員報酬水準
の維持=国際競争力獲得=企業業績向上=マッチングインセンティブ
強化=従業員モラル向上=生産性向上といった、楽しい循環をもたら
しているのではないか。

 おそらく、米国の企業は1980年代のDBの積立不足という苦い経験をしたうえに、資本の効率性の観点でDBのコストが「顔の見えない」コスト、金を注ぎ込む割には従業員が余り承知しない制度であることに対しても苦い経験をしたのでしょう。DBのフレーム・ワークがDCに比してハイコストであることを、ちょうど日本の代行型の年金給付が加算型のそれに比してハイコストを含有していることを経験・認識させられるように、制度そのものが持つ経済効率上の欠陥に気がつくことになったのではないでしょうか。

DBとDCで、同じ「金」の経済効果が明らかに違う場面に遭遇すれば、資本は自然に有利な方に流れていくでありましょう。DBの<顔の見えない>全体資産管理方式では資本は吸い取られるばかりで効果が余り表に出てこないのに対して、DCの<顔の見える>個人勘定というフレーム・ワークは金を入れれば入れただけの見返りがただちに表面化するのです。DCの器であれば、企業のマッチング拠出、ストック・オプション、自社株取得推奨、報酬の市場調達、株式連動報酬、寄贈基金等が、インセンティブ手段として機能することになり、DBのコントリビューション・ホリディによる余資もそれに振り向けることも出来るようになります。

要するに、401(k)プランは<Individual>をキイタームに、インセンティブ付与がダイナモとなり、個人ベースのテクノロジーとエデュケーション(教育・啓蒙の戦略)が相まって高速回転エンジンと化するのです。その結果、経済が活性化されるという循環が成立することになります。



図表41 401(k) プランのエンジン





これが現在アメリカをエキサィティングにしている401(k)プランのエンジンの仕掛けでしょう。

401(k)の金は「資本」となって米国の1万ドル株式市場に活況を提供し、上図の様な経済全般の好循環を作りだしています。

これに対して日本人風にマイナス思考を作動させて、「危惧」を考えれば、株式市場崩壊のときにしたたかさがどれほど組み込まれていますかであるが、それは一にエデュケーション次第であるといいます。

この401(k)エンジンの今一つの凄味は、この仕掛け全般が「民間活力」で行われているということです。官僚の口出しは優遇税制の一点のみであり、他は全て社会全般を巻き込んで民間の智恵・技術・インフラ・民意等によって<民-民の圏内>で達成されているということです。役人嫌いのアメリカ人のアメリカン・スピリッツが十全に開花した仕掛けとなりおおせていると言えるでしょう。

ことによると、「民間活力」という概念は抽象的な役所言葉であって、インセンティブ(誘発、刺激、動機)、誘導策、優遇策・・・・・・・という言葉のほうが的確な現実的概念であるのかも知れません。1週間のアメリカで「インセンティブ」は何10回となく聞きましたが、一度たりとも「民間活力」とは聞かなかったのは、そういうことを意味しているのでありましょう。

●終わりに
百聞は一見に如かずと言いますが、このたびの米国401(k)調査旅行は、文字通り現場の一見により多くのことが背景・事情・哲学等と共に明らかになり、国内の多くの誤報・デッチアゲ・考え違いも明らかになりました。

1週間、非常にエキサィティングに過ごし、啓発・触発されたことが無数にあります。中でもアメリカという国が人に強烈なエネルギーを与える国ですという発見は、まもなく60歳になります筆者を20歳の若者のように感激させました。それらは、未だに唸りを発していて、この旅行記に納めまとめるのに1ケ月も要してしまいました。

筆者にとって、この旅行は、1/4世紀に渡る基金業務の経験、1,000冊になる金融関係読書、年金ビジョンの論理成立等のフィナーレを飾るに相応しい、楽しくエキサィティングなイブェントとなりました。



【出所:「米国401(k)調査記録」 平成11年】




誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →26

2010年11月22日 | 厚生年金基金
(2)訪問先個社マター

さてさて本題に入るため、個社毎に整理してみましょう。初めに年金プラン提供スポンサー(企業)。というのも、アメリカの確定給付型年金(Defined Benefit → DB)は日本のように企業から独立した基金事務所を構えているのではなく、適格年金のように企業内管理されています。従業員福利厚生(Benefits)全体の企画を人事畑、管理を財務・経理が担当しているのが一般的であり、当然、確定拠出型年金(Defined Contribution → DC)も同様です。

プロバイダーのサービス提供業者が多種・多様に発達していて、企業は内省化を嫌い極力アウトソーシングに徹しコスト削減を達成しているようでした。とくに401(k)については、大企業であってもプランニングの担当者が2、3人いるだけで、業務の大半は外部のプロバイダー任せのようでした。

この点を考えると、日本の確定給付型年金である厚生年金基金は、国の年金の一部代行という仕組みのためもあるでしょうが、企業の運営費負担が大きいですということは事実でしょう。ハイコストな戦艦大和風な組織になってしまっています。このような何でも抱え込んでしまう垂直統合型の日本風の管理方法に対して、なるべく身軽に対処しようとしています。経営の合理化・効率化が明解・徹底しているのです。

①JOHNSON & JOHNSON
・ 老後保証は各個人の責任、という政府の社会保障費削減ポリシーにそって、企業として 従業員にインセンティブ(奨励策)を提供。あわせて企業にとって優秀な人材を確保しますため1982年に401(k)を採用。
・401(k)に85%の従業員参加、4万口座。98年度末30億ドルになり、確定給付プランより大きくなりました。
・ インセンティブとしてマッチングを提供。例えば、従業員が401(k)に100$拠出すれば、会社は25$の株式と50$の現金を拠出します。75%のリターンということになります。


図表37 J&J社広報資料

出所:JOHNSON &JOHNSON RETIREMENT INCOM BENEFITS P.15




・ 従業員の401(k)の資産配分は、現在、7種類を提供。

10年前 80% 定期預金のような確定利回りもの
93年 60% 〃
98年 23% 〃
28% 株式
41% J&J株

・従業員へのコミュニケーションは、紙とイントラネット。紙は年1~3回のニューズレター、四半期ごとのA3サイズ両面刷り報告書、他に90ページ程のサマリーを配布している。分厚いのと長いものは駄目。サマリーと資産運用の教育ページがイントラネットで見られます。
・全体資産管理のため従業員から<顔の見えないDB>、個人口座のため従業員から<顔の見えるDC>を併用。プランデザインの明確化・差別化が重要。
ちなみに、筆者は、この旅行に出る前に社内イントラの掲示板に加入員台帳配布の一文を掲載。帰国後、10人ほどから希望が出てきていました。<顔の見えるDB>プランのめの試行錯誤の一手を展開し始めました。
・確定給付型の98年度の時間加重利回りは16~17%。数年来、コントリビューション・ホリデー(拠出中断)で、拠出はしていないとのこと。 M&Aから<顔の見えすぎのDB>、つまりコントリビューション・ホリディが長いとか、積立超過金が大きいとかの場合、M&Aに狙われ易くなるのでDBの縮小というインセンティブが経営者に働くというのも、DC拡大の背景にあるようです。
・制度導入20年でのDC成功の秘訣は、従業員自身の意識が最重要。そのため、教育とインセンティブのプランニングが課題。

②SONY US
・ 日本のソニーとは別に、アメリカのソニーは持株会社で電気・映画・音楽会社を持っていて、各社個別に401(k)を提供しています。
・コンプライアンスの観点で1996年から包括的運営を検討中。
・ 従業員はDBとDCに両方参加できるし参加しなくてもよい。米国のDBは日本のような代行部分がないので強制適用ではありません。DBは全体資産管理方式ですからプランがあることも知らない従業員がいるので参加を呼び掛けているとのこと。一方、DCは米国には退職金制度がないですから進んで参加するようです。
DBはすたれDCが大半を占めています。
・ 優秀な人材確保のため、同業他社との差別化は必須で、数種のプランを多数のオプションで選択できるようにしているとのこと。
・ 従業員からどのように資産配分したらよいですか、とアドバイスを求められるが、個別の資産、個別の運用業者等の紹介は労働省の404(c)で規制されていて出来ないので、一般論としての投資教育に力を注いでいます。特に、若令者に老後資金確保の意識を助成するため対面ミーティングを最高の方法として実施しています。
・従業員自身がリスク許容度を承知出来るように、6つの質問に5点法で回答すると、その合計の点数によって消極運用から積極運用までの5段階に区分されるマトリツクスを提供しています。
・11本のファンド提供。ストック・オプションも提供。
・ソニーのDBはコントリビューション・ホリディの状態ではありません。
・ ソニーではストック・オプションによる経営者・従業員の報酬ということを考えていて将来はバランス・シートに人件費は登場せず、市場調達で済ます方向を検討しています。


③HewlettーPackard Company(HP)
・ HPでは、401(k)の従業員拠出を増やすため、1993年にプロフィット・シェアリングを廃止してマッチング増にまわしました。
・ HPの401(k)の従業員数は58,900人、55億ドル。確定給付は57,000人、37億ドル。

・ HPの年金制度の管理は




・記録管理のフィデリティ社に対して報酬は支払っていません。資産の中で賄っています。
・401(k)は入社即自動加入(98%)で、本人拠出3%、マッチングが3%。
・ コミュニケーションは年金制度概要書と制度変更書、資産運用案内書で行い、エデュケーションは投資とは何ぞや? と、投資の組成のためのモデルツールを提供(教室とWeb.あり)。投資のアドバイスは一切外部業者に委託し会社は関係しません。
・HPのweb上にフィデリティへのリンクがあり、つながります。
・ 投資教育は21時間に及ぶワークショップ・プログラムが外部業者によって用意されています。
・ 教育プロバイダーとして、ルース社(1回5千ドル×年100回として50万ドル)、フィデリティ社(無料)、タワーズ・ペリン社(1回7千ドル×年50回として35万ドル)を使い、HPにカストマイザーさせています。この費用はHP本社が負担するのではなく、各サイトが支払っています。
・ 日本のPLPやライフプランセミナーは、もつと専門的にクオリティを上げなければ、401(k)の教育手法が入ってきたとき生き残れないでしょう。アカデミックさがまったく不足していると思われるのですが。
・ 16ファンドを提供。人気の高いファンドは7大企業株、フィデリティのマゼラン・ファンド、それにHPストック。
・ 株式に高い人気があるのは、持株を以前から推奨していたこと、非課税を強調(老後資金へのマインド変換に成功)していること、2年以上在籍すると2株に1株付けるインセンティブ・プランを実施していることなどによります。中間管理職以上にはストック・オプションもあります。
・ HPの平均年収は5万ドルから5.5万ドル。退職前の60%(3万ドル)を目標に年金制度を組立ています。

401(k) 20%
DB 15%
社会保障 25%
60%

・5万ドル(120円で円換算すると、600万円)で、充分豊かな生活が出来ています。
税金・公共料金・土地の価格・物価等々の低廉がそれを可能にし、10年来賃金上昇を招かず国際競争力を高めています。デルのコンピューターが10万円を切り、本邦メーカーのそれが30万円という現実になっています。
・ 政府と労働組合に口を出させないで、企業と従業員とで自分たちで豊かな生活を作り出しますというコンセンサスが成立しているようです。労働組合員(職種別)は会社の中ではスモーラーで相手にされていません。
・ PBOを下げたいというマイナス指向のモチベーションはありません。むしろ逆に、従業員の老後資金を如何に増大させるかが経営のセンスであり、そういうセンスを持ち合わせない者は淘汰される厳しい現実があります。
・ 日本の経営者に近いゼネラリストが国際会計基準導入に伴う未積立のPBO回避策と厚生年金基金の積立不足解消策として日本版401(k)導入を役員に進言しているとすれば、ゼネラリストは大きな誤りを犯すことになります。経営者も又、不幸な事態を自ら招くことになります。問題の核心が違うのです。

④APL社
・ 社員5000人(内US3000人)の海運業の会社。ホワイトカラーの営業・事務が401(k)適用。ユニオン加盟者(数百人)は非適用。
・社会保障・DB・DCを年金の3本足として位置付けています。
・ コミュニケーションは、入社時に福利厚生全体のメニューを示しましたAPL社製のリーフレットと401(k)の概要を示しましたフィデリティ社製のパンフレット、それに「福利厚生手帖」とでも言う雑誌サイズの45ページもののAPL社製の印刷物によって対面で行われます。
・ 401(k)については、フィデリティのコールセンターにいつでも電話が出来、情報収集が図れます。
・四半期ごとにコミュニケーション印刷物を配布。
・プロバイダー、コンサルタントとしてタワーズ・ペリン、ウィリアム・マーサー等を使用、会社の中にはプランニングと管理の担当部署(5人)があるのみ。ただしボード・コミッティはあります。
・DBは21歳以上が加入、5年で受給権取得、現在フルファンディングの状態にあります。
昨年、キャッシュ・バランスに変更しました。DBは年金、DCは一時金が一般的、その 一時金でリタイアの時、生命保険会社等の年金を買うスタイル。
・キャッシュ・バランスに変更したとき、リスクは会社のリスクであることを説明しました12ページの印刷物を配布して行いました。
・APLの社員のリタイアするときの夫婦単位の目標額は300万ドル(3億円余)。
ミリオネーラはブルーカラーの目標か?
日本では、こういう一時金ベースの目標値は示されず年金額表示ですが、これも<顔の見えない制度>たらしめている理由でしょうか。仮に、日本において年金現価を一時金ベースに換算しても大企業で平均的には7、8000万円でしょうとのこと。例え、PBO を加えてもアメリカのブルーカラーと同程度の金額にしかならず、日本の労働者は低コストで使われているということです。しかも、物価等が逆なのですから尚更。
・1日中、401(k)のウェブ使用の社員がいたら、フィデリティからのアクセス報告により不当労働行為として処分するとのこと。
・401(k)採用10年経過して、ポータビリティが人材の流動性を高めたということはなく、それは単なる背景であって、アメリカの平均勤続年数は2、3年の由。10年も勤め たらベテラン扱い。
・我々にプレゼンテーションをしてくれました40代半ばのマネージャー・カレン女史は転職者で、前職でも年金の仕事をしており、キャリアアップの一環でAPL社に移ったとのこと。日本で、他企業の基金事務所へ転職するというのは余り聞いたことがないですが、アメリカではそういう労働市場が成立しているようでした。

次に、従業員教育の情報技術企業。

⑤Scudder University
・スカダー社は1919年にボストンに誕生した非公開の独立系資産運用会社。
・「スカダー・ユニバシティ」は何処かにキャンパスがあるのとは違い、投資教育のミッションをユニバシティと呼称しているだけであるとのこと。
・「スカダー・ユニバシティ」は、プレス、テクノロジー、ワークショップの3つのミッションを持ち、より良い退職後生活へのガイダンスを提供することを使命としています。
・「スカダー・ユニバシティ」のスタッフは、企業と接触する者が9人(1人10~15社程度担当)、アイデアマンが10人。
・リタイァーするとき、退職前収入の70%あったらハッピィ!
・マーケティングの現場主義を貫き、ビジネスが何処にあるか、客先でその戦略を立案する こととしているとのこと。
・ エディケーションのフィーはバンドルで企業負担。
・ アセットの組み方の具体的なアドバイスは規制されているので、事例として示すだけにしている。
・投資の選択は7~8種類、いつでも変更可能としたほうが長期的な安定が得られます。
・ 一般の投資教育を①スペンダー(浪費家)、②セイバー(貯蓄家)、③インベスター(投資家)に区分し、各々のレベルに最適なツール(印刷物・ウェブサイト・ワークショップ)を提供、浪費家を投資家にまで育成していくことを戦略としています。


図表38 浪費家、貯蓄家、投資家

出所:Scudder University Curriculum For Employees P.2



・ バンドル・フィーの平均は社員一人に対して年間最大$25(3000円ほど)で、0の場合もあります。
・ 帰国してから、Web.を開いてみたところ、出てくるは出てきます。A4百枚ほど出しましたが……・。これでは「大学」と称しても恥ずかしくはありません。(ちなみに、アドレスを幾つか、www.scudder.com 、http://working4u.scudder.com 、http://plannet.scudder.com 、http://dcs.scudder.com )

⑥Fidelity Investments
・フィデリティを従業員教育の情報技術企業とだけ括るのは無理があります。ピーター・リ ンチのマゼラン・ファンドも持っている全米最大の投資信託(ミューチャル・ファンド)の資産運用会社であり、M&A等も手掛けている1946年来の総合金融会社です。
・753万億ドルを運用、顧客資産は1.1兆ドル、社員28,738人、営業拠点18ケ国。
・DB、DC、IRA、キーオプラン等のリタイアメント・ビジネスは568万億ドル。
・401(k)の資産運用の投資対象商品として各種のミューチャル・ファンドを提供しますと同時に、そのレコード・キーピング、その問合せにコールセンターを運営、併せて資運用の相談にものっています。
・ アメリカでも年寄りの面倒をみるのは1900年代当初には「家族」の義務で行っていました。それが1930年頃から1980年頃迄の50年間ほどは「政府と企業」が制度を作って面倒をみてきました。それが1980年以降「個人」の自己責任で行われるようになってきました。

図表39 老後生活の推移

   出所:Fidelity Retirement Services Overview June 9,1999 P.9



・401(k)の資産運用も、当初のSaving(安全運用)から投資のInvestingに変わるにつれて、運用商品も複雑多岐になってきているし、投資教育も不可欠ですし、Web.等ツールの精度・スピードも一層向上してきています。
・401(k)の成功の秘訣は

①従業員の教育と対話
②総合サービス
③明解な制度設計
④複雑な仕組みに多様な解決法
⑤経営者と従業員への税のインセンティブ

・401(k)は、従業員の自助努力制度であって、

①税引き前給与から天引き
②企業も拠出
③運用責任は従業員(企業が運用プランを用意)
④税制の取扱いに特典

・401(k)プランのこれからの課題は、運用リスクのマネジメント(76%が株式)と多い現金持出し(IRA等に入れない)といいます。
・ ライフサイクル・ファンドのアイデアは401(k)プランの最適なモデルでしょう。

図表40 ライフサイクル・ファンド

出所:Fidelity Asset Allocation:Helping Savers Invest for Retirement June 9,1999 P.30



・市場が崩れ出した際の集中的な解約請求に対してコールセンターの異常な程の整備によって、逆に市場パニックを増強しないかという筆者の質問に対しては、何度かの経験とシミュレーションにより楽観視しているようでした。
・越中記者も報じているが、フィデリティでもDBとDCの混合型(キャッシュ・バランス・プラン)がブームになっているといいます。
・200人ほどのコールセンターと50人ほどのコンピューター室を見学。同様な施設がアメリカに他に3ケ所あるとのこと。元託銀のツアー参加者がマール・ボローのコンピューター室を見て本邦都市銀行と同程度の規模(器としては)との感想、ということはフィデリティ1社で本邦都市銀行4行分のインフラを保持しているということ。
・401(k)の発展にとって、アメリカン・スピリッツという背景も重要ですが、何よりも推進力を発揮したのは<個人ベース>のテクノロジー(web、電話、レコードキービング等)を開発したことでしょう。
・コールセンターのプレゼンテーションで、パワーポイント画面のフィナーレを若い女性が 誇らしげに画面いっぱいに「TECHNOLOGY」と大書して終えた意味、更にボストン早朝の散歩のときに見ましたフィデリティの営業店のポスターに「TECHNOLーOGY」と大書してあった意味は、<個人ベース>のニーズ(=アメリカン・スピリッツ)に対応出来る手段を保持していると、宣言していましたのでしょう。
・コンピューター室を見学するため入室したところ、4人の日本人先客が説明を聞いておりました。同行者曰く、4省(大蔵・厚生・通産・労働各省)の課長補佐程度の超エリでしょうとのこと。このあと、ボストンの街中でとサンフランシスコの飛行場で見かけました。お忍びの旅行らしく視線をあわせない陰気な連中でした。


誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →25

2010年11月21日 | 厚生年金基金
第6章 401(k)の百聞は一見に如かず

(1)401(k)一見
①視察団
平成11年6月6日から13日にかけて、民間研究所の企画・主催で「米国401(k)プラン視察ツアー」が行われ、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコを廻り、10ケ所の企業視察、事業視察、そして大学生協視察(?)に参加してきました。
視察団一行のメンバーは、厚生年金基金の理事長・常務理事・事務長等5名のDB(Defined Benefit)組と、他に大手企業の企画・人事畑の30歳台若手5名のDC(Defined Contribution)組、それに主催者・通訳の3名、加えて13名の小集団でした。

ホテルが筆者と同室になった方は大手基金の常務理事で同じ昭和16年生まれ。就任されて3ケ月目、片や筆者の方は1/4世紀。片や財務畑のゼネラリスト、片や基金のベテラン? もしくはスペシャリスト? 片や公費、片や自費。とは言え、理事長の理解を得て年休使用で事務所だけは休ませていただきました。基金連合会の10年来続いていた恒例の海外調査でさえ、応募者がなく中止になっている状況でありますから、これもまた象徴的であるにすぎません。

筆者にとってはこの度は2度目の海外調査となりました。最初は平成2年の上記基金連合会の調査旅行で、UK、オランダ、ベルギー、スイス、ドイツ、フランス、ギリシャの15日間の公費資産運用調査でありました。このヨーロッパの資産運用調査では金融機関や年金基金の資産運用の伝統というか歴史の違いを認識させられた旅行でした。その後、UKで訪問した金融機関はそろって日本進出を果たし、グローバルな金融再編劇のすえに社名の消えてしまった金融機関もあります。幸いそのときの報告書の担当先は、今もエキセントリックな活動を展開している「ドイツ銀行」でありました。

②3大都市の印象
この度の401(k)調査のアメリカ旅行で、廻ってきた3大都市の各々2日間の印象は、「3つのE」でまとめることが出来ます。すなわち、ニューヨークは<エネルギッシュ>、ボストンは<エレガント>、サンフランシスコは<エフィシェント>(効率の良い)でありました。

 <エネルギッシュ>というのは、ウォール街目指してヒルトン・ホテルからタクシーを飛ばしたところ、N.Y.の事務所の一斉の引け時にぶつかり、溢れ出た車の渋滞で身動き出来ず、Uターンして次のスケジュールのためにお上りさんの<ウォール街詣で>がはたせなかったことによります。

 <エレガント>というのは、双発の超小型プロペラ機で、日が雲海の遥か彼方に沈んだばかりの午後8時半の薄暮の中、視野一面に街の明かりが木々の合間にさんざめき散在するボストン市街から新宿程度の高層ビルの一角目指して、高度をグイグイ下げてプロペラ機特有の身体に直に感じられる飛行体験をしつつ、川をまたいだと思ったら横揺れ・落下・浮遊・失速しつつ飛行場に滑り込んでいました。そこは、まさにフットライトの降り注ぐ<ステージ>そのもの。小さな感動が走りました。何のステージ? 人、様々でしょうが、筆者にとっては何やら<死後の目>のポジション成立か。この度の旅行全体を自分が<飛天>になって飛び回ったような気がする。少々、禿げてきました、太り気味の、落下しそうな<飛天>ではありますが。

 最後に<エフィシェント>というのは、市電のターンに機械を使わず、2人の赤髭の大男の人力で方向転換することに代表されているように、街全体が人間的なレベルで企画されていることを指しています。あえて言えば、人生の過ごし方の点で街全体が効率市場を形成しているようでした。きらびやかな人生の華とでも言うべき。そう言えば、街の中心のユニオン・スクエア(ビルの谷間の一角の小公園、我々のホテルは対面のセントフランシス)には、偶々画家たちの絵がたくさん展覧されていました。その公園には、エーゲ海のように湿気のまったくない陽光が燦々と降り注ぎ、人に容赦のない風そのものとも言うべき湿気のまったくない風が吹いていました。見回っているうちにオーク樹を描いた大きなエッチングが目に止まりしばし佇みました。傍らに同じ絵の絵葉書カードを見つけたので、ドル紙幣をポケットから引っ張り出したところ、“Oho,No No! ”と言われ、片腕を引っ張られ公園のエリアを出て歩道まで案内されてしまいました。そこで商い成立。そこで始めて了解成立。公園内で商いはご法度になっているのでした。

③ツアー企画の背景
さて、このツアー企画の背景には以下のような「ネンキン・タイタニック」な状況があると主催者からお聞きしました。

日本経済の10年に及ぶ超低金利のもと、確定給付型の厚生年金基金の積立不足、国際会計基準の導入等に伴う企業負担の増大を背景に規制緩和・公的年金等の改善の議論が沸き起こっていました。平成9年3月の自民党行革本部を端初に、平成10年3月規制緩和推進計画が閣議決定され、以後、自民党労働部会・勤労者拠出型年金等小委員会、年金審議会、自民党年金制度調査会・私的年金等小委員会、税制調査会等の審議を経て平成11年1月の関係4省(大蔵、厚生、通産および労働)による「確定拠出型年金制度準備会議」の設置を受け、この6月には具体的な制度設計が示されることになっていました。

偶々、ボストンに移動するためのジョン・F・ケネディ空港に向かうバスの中で、6月9日付けの読売新聞国際版の自民党年金制度調査会・私的年金等小委員会(8日開催)において示された政府・自民党案「確定拠出型年金制度案」の記事のコピーが配られました。

この間、民間でも平成10年9月の経団連「確定拠出型企業年金制度の導入を求める」というレポートが出て、確定給付型、公的年金を含めて多方面に議論が巻き起こり、マスコミにも取り上げられセミナーも多数開催され、関係書籍も多数出版されていました。情報過多のような状況でしたが、マイナス思考の考え方が圧倒的に多く、日本にいては視野が限定されていて今一つ分からない部分があり、<現場に行こう>ということになったとのことでありました。

④訪問先
そこで、ピックアップされたのが、米国企業の年金プラン・スポンサー4社、従業員教育の情報技術企業2社、投資運用技術会社2社、それに日本で4回目の年金セミナーを開催しようとしている「プラン・スポンサー」誌、日本経済新聞社米州編集総局の年金担当記者による現地401(k)セミナー等10ケ所の今もっともヴイヴイッドな訪問先となりました。

事前に主催者が質問を準備して、プラン・スポンサーには18項目(プランの説明の中には投資教育も含まれますか。楽しく、簡単でプレッシャーを感じさせない教育プログラムにするために大切なことは何ですか。ライフスタイルファンドは各世代にどのようなファンドを提供していますか、また、年齢別のリスク許容度は何を基準にしていますか等々)、プロバイダーには3項目(貴社が提供しました加入者コミュニケーションおよび教育プログラム(バンドル、アンバンドルどちらでも可)で加入率向上にもっとも効果があった事例についてご紹介下さい等)のクエッションを投げ付けたこともあって活発な議論・質疑が遣り取りされ、時間が足りないぐらいでした。

JOHNSON & JOHNSONの自社株投資、SONY USのマッチング、HewlettーPackard Companyのストック・オプション奨励策、APL社のミリオネーラ等のプラン・スポンサーの自信に溢れた役員・マネージャー達、Scudder University の従業員教育コミュニケーションのアカデミックな専門家、Fidelity Investments のコールセンターの役員、コミュニケーションマネージャー達、それにマール・ボローの丘の林の中に隔離されたコンピュターセンターの気象・地震のウォッチャー達、Atlantic Financial 社、Speech Works社等のMITやハーバード大学出たてのベンチャー・エンジニアー達、それに「プラン・スポンサー」誌の若き女性編集長と日本での「プラン・スポンサー」誌の年金セミナーをコーディネートした松前氏(このあとお二人には帰国後の6月16日、17日に開催されましたアーバンネット大手町ビルでの年金セミナーですぐ再会しました。また、編集長とは、帰国した翌日、Eメールで海を越えて挨拶状の交換もしました。)、加えてアメリカの年金事情を日本に発信している日本経済新聞社の越中記者、大和證券USの大井会長からはヨーロッパ・アメリカの最先端金融事情をお聞き出来ました。

寡黙な日本人からすれば自己主張の強いアメリカ人の意見陳述は時にはうっとうしい場合もありましたが、多民族共存の競争社会でこその一時も気をゆるめられない緊張感が心地良かった場合もあり、彼等に自信に溢れた熱意のある懇切丁寧なプレゼンテーションをして頂き、ツアー参加者の熱心な質問も数多く出て、さらにJTBの高橋氏の臨機応変な切れの良い名通訳も双方のコミュニケーションの実を上げ、401(k)を介在に日米の文化の溝を越えてディスカッションが盛り上がりました。
  
⑤幾つかのトピックス
シリコンバレーでは、スタンフォード大学校内の広大な敷地の中の生協に立ち寄りましたが、「スタンフォード・ブックストア」の金融関係の棚で驚愕! その書籍数の多いこと、アメリカの奥の深さ・ふところの広大さを思い知らされました。2冊購入し、その一冊が “THE 401(k) MILLIONAIRE”。


図表36 現地入手401(k) 本




 校庭を歩きながら主催者とは、

「30歳若かったら、スタンフォード大学に入って勉強し直したいですねェ」
「高野さん、それよりも経済学の本書いて、教授で来ればいいじゃない」
「とんでもない! でも、経済学の本ねェ? ・・・・・・・経済学ねェ!」

と、冗談とも本気ともつかない言葉を交わすほど我々のテンションは高まりました。更に、米国最後の日の団長主催の晩餐会では、DC組の若い人達に大企業を去って起業しようと余計なことまで申し上げてしまいました。

そう言えば、もう一つエピソードを思いだしました。それはボストン最後の晩、ギリシャ人の経営するロブスターのレストランを出て、店の前でタクシーを待っているとき、我々の会話を聞き付け振り向いて日本語で話しかけてきた細身の長身の黒人青年がいました。彼によると、明日ハーバードの卒業式があり、今晩は両親を招いて会食をした由、卒業式が済んだら日本に行って会社を起こすのだそうです。皆、唖然として二の句が継げないうちに、三人はタクシーに身を屈めて乗り込んでいってしまいました。日本の大学ではサラリーマンをせっせと作りだしていますが、アメリカでは経営者なのです!
更にもう一つ、このことに関係することを帰国便のユナイテッドの機内誌に発見。「シリコンバレーに見る日本産業復活の鍵」という藤井清孝氏の一文、

<90年代前半まで、コンピューターに代表されるエレクトロニクス企業は、
開発、設計、製造、販売をすべて抱え込む垂直統合型の経営が主流でした。その
後、製造を外部に委託するいわゆるファブレス企業、製造のみを行うファンドリ
ー、マイクロソフトのようにソフトウェアに特化する企業、デルのように販売方
法で差別化する企業が出現し、世界的規模で水平分業が進展し、新しい業界、企
業が生まれてきました。>

<イノベーションはシリコンバレーの鍵です。これを可能にしているのはアメ
リカン・ドリーム(富)の実現欲、産学協同、ベンチャー・キャピタル等ですが、
ベンチャー・キャピタルを徹底した実力主義と人材の多様性にあると感じています。>

<シリコンバレーではほとんどの従業員が、ストック・オプションを持っています
がゆえに自社の株価に敏感です。また、多くの企業が銀行借入ではなく、株式資
本によって資金調達をしているので、経営者としては株価対策が大変重要な課題
です。>

<またトップはすでにかなり富裕な人が多いゆえに、サラリーマンとは違った
大胆な決断ができる環境にあると言えるでしょう。
エクイティー・メンタリティーとは直訳すると、「株主のメンタリティー」で
すが、「会社のオーナー(所有者)としての振る舞い」と言ったほうが良いかと思
います。>

<即ち、株式資本が主体か、銀行融資が主体かによって企業の経営スタイルに
大きな違いが出てきます。前者では将来へのメッセージ、良いリスクテイキング、
経営陣のビジョン、そして業績が大事なのに対し、日本企業の多い後者では、積
極的にリスクをとりイノベーションを推進していくことは困難になりがちです。>

要するに、アメリカでは<アメリカン・スピリッツ>の成就に向けて、社会的インフラを<エフィシェント>に組成するためにあらゆる場面でインセンティブが仕掛けられている(たとえば、米国で買ったタバコの銘柄名でもあるアメリカン・スピリッツというタバコは4ドル25セント、凡そ510円、日本人からすればべらぼうな値段です。これも禁煙促進策の仕掛け?)ということでしょう。

少々理屈っぽくなりますが、ここに言う<アメリカン・スピリッツ>とは、アテネのソクラテスから始まる西欧の個性の自由な発展という思考様式の伝統のうえに華開きました、キリスト教の神の意志の展開である人間一人一人の<自己の十全な開花>を義とする「自由」の概念のアメリカ版でしょう。社会を形成する国民一人一人の個人能力の最大限の発揮、即ちそこに、神の意志があるという宗教的コンセンサスが国民一般の慣習として確立しているのでしょう。

というのも、今を去ること140年前の1859年、イギリスでは、中世から連綿と続く血塗れの専制的な宗教の軛を脱して、ジョン・スチュアート・ミルが『自由論』を論述している英国古典派経済学(1776年A.スミス『諸国民の富』、1816年D.リカード『経済的にして安全な通貨のための諸提案』、1848年J.S.ミル『経済学原理』等)の伝統が、アメリカ社会の背景に連綿としてあるからです。

さてまた、このような文脈のうえで、日本の多くのゼネラリスト、ならびにサラリーマン経営者は次のようなミルの文章をどう読むのでしょうか。


 自分の生活の計画を[自ら選ばず]、世間または自分の属する世間の一部に選んでもらう者は、
猿のような模倣の能力以外にはいかなる能力も必要としない。自分の計画を自ら選択する者こそ、
彼のすべての能力を活用するのである。

              ジョン・スチュアート・ミル『自由論』
幸福の諸要素の一つとしての個性について


ことによると、ミルは140年後の日本の状況を予言していたのか、そんなことはありませんでしょう。ただ単に当時、教会の専制(ツアーリズム)のもとに窒息していたロンドンっ子に向けての発言でしたのですから。それは別にしても、現代の日本の文脈の上でこれを読むと示唆するところ大ではないでしょうか。

日本の戦後社会は、「猿のような模倣の能力」しか産み出してこなかったのではないのか?「彼のすべての能力」を活用するどころか、統制・計画経済下、撲殺してきたのではないのか? 敗戦の痛手は易きに流れ、リスクに挑む心を失ってしまったのではないのか? 自分なりのスタイルを確立することを、反社会的行為と考え違いしてきたのではないのか? 思考停止ばかりで、時代時代で真っ当に哲学をしてきたのでしょうか?

我々日本人は何処かでいつの間にかボタンの掛け違いを仕出かしてしまったのでしょう。

生き方の点で、<一億総猿化>の状況をもたらしてしまったのです。それが窒息状態の閉塞感をもたらし、人々から行動を奪い人々を金縛りにして、厭世的マイナス思考を処世訓、生きざまの智恵ですと考え違いさせてしまい、人物の矮小化を実現してしまったのでしょう。

ばかなことを言わせません、突飛なことが許されません、夢をしゃべらさない、大言壮語を忌み嫌う等々、ちまちましました神経のか細い国民にしてしまったのです。全てルールに取りおさえられてしまっているのです。

ともかく、非常に悩ましい一文ではあります。今こそ、現代日本独特の或る種のツアーリズム(何と命名したらよいのか)を打破していくために<哲学する>ことが求められているのでしょう。とっかかりは、ジョン・スチュアート・ミル『自由論』あたりからか。或いはアテネのソクラテスを訪ねるか、弥陀の本願を考究するか・・・・・・。




誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →24

2010年11月20日 | 厚生年金基金
2.基金解散と代行返上の真因

●年金が一時金に化ける
Q 66歳で厚生年金請求、基金解散となり私の年金ライフプランが破綻した! (厚生年金43年、うち基金23年の昭和13年2月生まれの女性)

Q こんにちは。
A お待たせいたしました。お座りください。256番さんですね。
Q はい、これ受付票。
A ありがとうございます。66歳ですか? それで、どのようなご相談でしょう?
Q 実は、年金請求をしてないのですけど、どうなりますか。それに、基金が解散するとか、言うんですが・・・・・・・
A えっ、待ってください! 66歳になりましたよねぇ。年金証書、無いんですか?
Q 年金手帳は有りますけど。
A 年金請求書類の提出はしてないんですね。60歳になったとき、出してないんですか?
Q 出すんだったの? ずっと働いていたので、退職したら出そうと思っていましたの。
A そうですか。年金手帳を拝見します。年金加入記録を調べますので。
Q 何か、不都合なことがあります?
A 5年の時効というのがあるんですよ。66歳ですと、60歳で年金受給権発生して、5年経過した1年分が時効となり、年金が受けられなくなります。でも、ちょっと、待ってください。60歳のとき、給料は高かったですか?
Q さて、どうだったでしょう。・・・・・・・そういえば、60歳から下げられたわ。
A そうですねぇ。この記録ですと、50万円が22万円に変更されています。そうすると、5年を経過した60歳の時点で、在職老齢年金が一部受けられたのですが、それは時効で消滅します。
Q 受けられないの? それはもらえないの。ふぅ~ん、なんだか、おかしな話ねぇ。
A 現行の厚生年金保険法は、請求主義の方式を取っていますので、ご本人の請求がない限り年金裁定をしません。法体系構築上、請求主義をとっていれば、時効という方式が内包されることになります。このことは、官僚の責任回避の方策とも、個人の意思尊重とも言えて、なかなか難しい問題ですよねぇ。「知らなかった」では、時効回避はできませんから、よくよく年金制度をご承知いただかなければならないのですが、では、行政サイドは「知らしめている」か、と言えばそれも限界があります。とすると、防衛的に国民サイドの意識が高いことが必要になります。もはや、日本でも依存的心情は通じなくなってきているのですねぇ。年金も、自分の年金は自分で作る時代になっていますので。
Q  よきに計らえ、の時代ではないということね。
A ええ、同じ、厚生年金の老齢年金でも、一人一人中身が違うんですよ。その中身を作るのは、ご自身なんです。提供されているフレーム・ワークをどのように組み合わせ、ご自分の年金を作るかということです。
Q 「提供されているフレーム・ワーク」っていうのが分からないのよね。
A そうですねぇ、年金制度が複雑多岐になってしまいましたから。例えば、年金支給開始年齢、失業保険、在職老齢年金、繰り上げ・繰り下げ、加給年金、振替加算、厚生年金基金、基金解散・代行返上、確定拠出年金、高年齢雇用継続給付金、遺族年金、障害年金、国民年金、寡婦年金、共済年金・・・・・・・等々、ここの窓口でもすべてを説明できる人はいないほどですから。
Q じゃあ、どうやりますの、相談を。
A 年金手帳を見せていただいて、まず、コンピューターで年金制度の加入状況を確認・把握してその方に「提供されているフレーム・ワーク」をご案内することになっています。
Q そお。私自身の年金受給条件を示してもらえるの?
A そういうことです。それで、今しばらく働かれるのですか。
Q この2月で退職します。
A そうですか。そうすると、60歳の時点は時効ですが、61歳から65歳までの4年間の在職老齢年金が清算されます。
Q まとめてもらえるのね。
A ええ、それに65歳から請求時までの在職老齢年金と基礎年金が過去分として支払われます。
Q それじゃあ、5年分がまとめて払われるということ。
A ええ、5年を経過した1年だけ時効になりますが、5年分は一時金で振り込まれます。
Q まとまったお金ねぇ。
A ええ、60歳で退職していた人などでは1千万円くらい受けられる人もいます。
Q そお。
A それで、退職は2月末ですか?
Q 29日の末日退職。
A そうでしたら、3月分は在老(在職老齢年金.のまま払われますが、4月以降は退職改定が行われ、将来分は偶数月15日に終身給付が始まります。
Q 大体、分かりましたけど、厚生年金は私が死ぬまで「年金」でもらえますよね。
A はい、「終身年金」です。死亡月までです。
Q 会社の年金は、そうとは限らないみたいなので!
A ええ、はじめから確定年金で15年とか10年とかに決まっているのもありますねぇ。
Q 突然、一時金になってしまうのもあるんでしょう。
A 会社の年金、企業年金はいままでは「適格退職年金」と「厚生年金基金」でした。適格退職年金は一般的には有期で10年とか15年で終了しますが、厚生年金基金は終身が原則です。ところが、最近の基金解散や代行返上に際して終身の原則が崩れてきています。代行返上の場合は、厚生年金で終身給付されますが、基金解散の場合、終身であった加算部分とプラス・アルファ部分は一時金に化けてしまうことが一般的です。基金によっては有期年金になるところもありますが。
Q 私の会社では厚生年金基金なんですけど、解散することになって年金じゃなく一時金になるみたい! 年金で老後を考えていたのが、それが出来なくなるみたい。
A 基金解散ですねぇ!
Q 年金を一時金にするって、会社の勝手に出来ますの?
A 勝手には出来ませんが、・・・・・・・その前に、会社の厚生年金基金は「代行型」でしょうか「加算型」ですか?
Q さあ、どうでしょう?
A この記録(被保険者記録回答票)ですと、基金番号●○●番の基金ですねえ。ちょっと、お待ちください。・・・・・・・この名簿ですと「単独・加算・Ⅱ型」のようですねぇ。退職金の一部が年金化されていますか?
Q そういえば、50%とか言っていたみたい・・・・・・・。
A そうですか、それでしたら、加算部分は一時金でも、基金の代行部分は「企業年金連合会」(http://www.pfa.or.jp/)から終身給付されますよ。
Q 連合会から?
A ええ。
Q 連合会って?
A 厚生年金基金を中脱退した人の年金を支払っている団体です。
Q 何処にありますの、それって。
A 平成16年3月に移転予定で、東京港区の芝公園(TEL03ー5401ー8711)です。
Q そお、ということはその代行部分というのは終身なんですね。支払者が変わるだけなの?
A とも言い切れないんですが・・・・・・・、連合会の支給基準によって支払われるようになるんで、従来の基金設立メリットというのは無くなり、細かいところで相違が出ます。
Q それでも、終身給付なのね!
A そうですねぇ。
Q 聞きに来てよかったぁ。助かるわ。女ひとりの老後計画のし直しかと思っていたので。
A ご主人は?
Q 独身なの。
A そうですか、老後が心配になりますよねぇ。定期的に終身受けられる年金があれば、まずは安心ですからねぇ。よろしかったですねえ。でも、加算部分は一時金ですか?
Q まだ、解散の案内が来ていないの。どうなるのか、わからないわ!
A 年金か一時金か、の選択肢があると思いますので・・・・・・・。新企業年金になるのかな・・・・・・・。
Q 年金にするわよ。
A それがいいですねぇ。よくよくあなたのところの基金にお聞きになって確かめた方がいいですよ。基金により、まちまちですから。これ(<解散とはなにか>)をご覧になってください。ある基金の事例ですけど・・・・・・・
Q いただけますか?
A どうぞ。それに、これ(プラス・アルファ部分の清算)は代行返上基金の事例ですが、プラス・アルファ部分の清算がわかりやすいのでご覧ください。3つの選択肢がここの基金はあるようです。
Q それって何なの?
A プラス・アルファというのは、基金設立のとき、代行部分にその基金独自の全額会社負担による上乗せ給付をしないと、基金設立が認可されなかったもので、すべての基金にこれが付いています。


図表35 プラス・アルファ分の行方





Q それも、一時金なの?
A ここの基金は、終身年金と5年有期年金と一時金の3つの選択肢ですねぇ。
Q 私の基金は、どうなるのかしら? 基金に確認してください。
Q ええ、すぐしてみるわ! でも、年金で払うと約束していたものをどうして一時金にしてしまうのかしら? そんなに簡単なものなの?
A 日本のインフラは虚弱体質なんですねえ。年金の受給権保護については確立していないのが実態で、受託者責任も曖昧なままですから。日本では、ようやっと問題として浮上してきた段階なんです。これからも、数多くの愚行を繰り返しつつ、少しずつ展開していくのでしょう。その意味では、新企業年金に期待したいものですが、まだまだ多くの紆余曲折があるんでしょう。
Q 私の人生が終わっちゃうわ!
A ほんとに、そうですねぇ。
Q でも、全部が一時金ではないのね。少しは安心したわ。しっかり基金に聞いて見ます。
  どうも、ありがとう。
A よい、老後をお過ごしください。
Q ハッピィ、ハッピィに行くわ!

●多額な不足金発生
Q 厚生年金基金の決算報告書に多額な不足金が計上されているのだが、どうしたことだろう。確か、今まで不足金ではなく、剰余金だったが。
Q おはようございます! 今日も混んでいますねぇ。
A ええ、おかげさまで商売繁盛! です。
Q ところで、今年も基金から決算報告の広報誌が届いたのだが、今年、突然、不足金が計上されているのだが・・・・・・・。
A う~ん、突然ですか?
Q そお、ちょっと前までは剰余金だったのに。突然、大きな不足金に変わったんだが。
A 会計方式について、基金から連絡はありませんでしたか。
Q さて、知らないねぇ。
A そうですか。ここの窓口では、基金の決算についてはご案内できませんけど、オフレコで私の知る限りのことでよろしかったらお話させていただきます。
Q それでいいですよ。
A さて、う~ん、どこから話しますかねぇ。
Q 簡単でいいよ。
A といわれても、・・・・・・・。そお、バランス・シートってご存知ですか?
Q 会社の決算で使っているやつかな。
A ええ、貸借・損益計算書です。基金の決算も、制度発足以来そのバランス・シートで決算をしています。
Q そうでないところもあるんだ!
A はい、国の厚生年金などの決算はバランス・シート方式ではありません。単式簿記のこずかい帳決算です。
Q ふう~ん? それで、どんな問題があるのかな。
A 単式簿記と複式簿記、さらに簿価主義と時価主義の違いということになります。
Q そお。
A 単式簿記と複式簿記の違いは役所経理と会社経理の違いですねぇ。バランス・シートが有るか無いかの違いなんですが、ものの見方、ものの考え方の違い、世界観が違うんですねぇ。
Q そお。
A さらに簿価主義と時価主義の違いは、多少図式的な説明になりますけど、会社経理と基金経理の違いということになりますねぇ。
Q そお。
A たとえば、以前に買った不動産の経理処理で、簿価主義は購入当時の金額のまま計上します。値上がりした部分は含み益という考え方です。時価主義であれば、現在値に修正されて計上され、含み益という考え方はとりません。
  すると、簿価主義では資産のバブルが発生します。時価主義であれば、バブルは基本的にありえません。
Q なるほど。
A バブルという意味では、役所経理の単式簿記も同様です。次年度以降の収入を大前提にしていますので、常にバブルを内包しています。
Q そお。
A つまり、日本の企業会計インフラと行政会計インフラは、右肩上がりの経済を前提にしてバブルを生み出し、先送りが許容されるシステムになっているわけです。都合がいいんですよ、彼らには。使い勝手がいい経理になっているのです。
Q そお。
A それで、今回、基金が不足金を発生させた件は、複式簿記の簿価主義であった基金経理に企業会計より一足先に時価主義(平成9年)が採用されたので、突然、債務が巨額化したというわけです。
Q そお。
A そうなると、政府から預かっている「代行分」は企業にとってお荷物以外の何物でもなくなってきたのです。「代行分」の資産運用で稼ぐノウハウは日本企業には無いですから。日本株式会社は製造業ですから。
Q それで、いっせいにどこの会社でも代行返上に雪崩込んでいるんだ。
A 図式的には、大まかにそう言えると思います。
Q そうなんだ、これで大分すっきりしましたよ。もやもやが晴れてきました。どうも、ありがとうでした。
A どういたしまして。

●時価会計採用でどうなるのか
Q 厚生年金基金の決算で時価会計採用と聞いたが、どのような問題が発生するのだろう。

Q もう、終わりですか?
A どうぞ、機械を使わない問題でしたら、かまいませんですけど。
Q 年金の請求は済んでいるんだが、ちょっと、聞きたいことがあってきたんだけど・・・。
A お座りになってください。どういうことでしょうか?
Q 実は、会社で営業の役員をやっていたのだが、年金とか、会計とか、厚生年金基金についてまったく知らないんだ。いまさら会社に聞くのは気が引けるので、ここへ聞きにきたわけ。
A そうですか、この窓口は公的年金の年金請求や年金受給が中心の年金相談ですから、年金制度の会計とか財政の話になりますと、一般論程度しかお話できませんけど。
Q それで、結構。
A で、どういうことですか?
Q 基金で時価会計を採用するとか聞いたが、会社ではまだだったよね。
A 会社はまだですね。でも、近々そういうことになるようですねぇ。
Q それで、基金はもう時価会計になったのかな。
A ええ、なっていますよ。
Q そうすると、どういうことになるのだろう。
A はい、時価会計ということは、保有資産の評価をその時点の時価で評価するということですから、その評価額が直接決算計上されることになります。
Q 時価って言うと・・・・・・・。
A はい、会社経理で簿価というのがありますよねぇ。
Q 買ったときの値段というやつだね。
A ええ、それを現時点で評価して決算計上することを時価会計といいます。
Q そお。評価の方法って決まっているのかな。
A いえ、いろいろ問題が有りまして定まっていないのもありますね。不動産、株式、債券、投資信託、外株、ヘッジファンドなどいろいろありますから。基金の資産運用も多岐にわたってきています。
Q そお。基金でそんな運用もしているんだ。
A ええ、資産配分とか分散投資とかリスク管理とかを科学的に計画して、グローバルな運用環境に基金スタッフは立ち向かっています。その点、基金に蓄積された資産運用ノウハウは、日本経済にとって初めてのことでもあるし、貴重なものだと思います。
Q そお。
A ええ、ですから、こういう場面で時価評価になると、いっそう保有資産のリスク管理を徹底しなければならないと思います。
Q なるほど。リスク管理?
A 基金でも、始まったばかりで試行錯誤の最中です。
Q そお。基金の仕事って面倒なんだねえ。
A そうですけど、皆さんの大切な老後資金ですから、誰かがやらなければならないですよね。フットライトはあたりませんけどね。
Q がんばってもらわなければならないねぇ。
A そういうことになります。
ただ、現在の基金会計のフレーム・ワークでは、資産の保全は基金全体の
勘定として経理されます。
Q ということは?
A 個人資産のセキュリティの面では不十分なんです。実は、会社役員等の恣意が入りやすい点がクリアーされていません。
Q というと、現実にそういうことが行われているというのかな。経理とか人事の役員だろう。
A ええ。会社都合という美名に隠れて粛々と行われています。年金というものに対する認識に欠ける役員が多いというより、そういう認識がまだ日本では形成されていないといったほうが正しいのかも知れません。
Q そう。
A 基金の年金も、まだ個人勘定になっていませんので、どんぶり勘定になりやすいんです。つまり、資産保全の点では、欠けるところがあるわけです。
Q そう。時価会計ですべて解決というわけではないのか。
A ええ、ようやっと、スタート台に立ったところです。基金がフロント・ランナーになって日本経済の実験が始まったところです。
Q そう、大分理解できました。
A 少しは、お分かりいただけたでしょうか。
Q 早速、本を読んで勉強してみるよ。
A それがよろしいですねぇ。
Q ありがとう。ちょっと、遅くなってごめんなさいよ。
A どういたしまして。



【出所:「Q&A年金の行方(基金解散と代行返上)」 平成15年】



誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →23

2010年11月19日 | 厚生年金基金
●代行返上の仕組み
Q 会社から代行返上すると言ってきたんだが、私の基金の年金はどうなるんだろう?(厚生年金40年加入・うち基金30年加入の昭和16年5月生まれの年金受給者)

A こんにちは、どうぞ。もう、年金は受けていらっしゃるのですね。
Q そお、ようやっと年金生活が落ち着いてきたところなのに・・・・・・・。「代行返上」すると言ってきたんだが。どうしてくれるんだろう。いったい、何を考えているんだろうねぇ! 
A その苦情は基金さんに言ってくださいよ。この窓口では、代行返上の仕組みとその後の年金についてはお話できますが、皆さんの心配の責任は取れませんので。むしろ、代行返上によって、またひとつ行政サイドは仕事が増えるわけですから歓迎していないのが実状です。できれば、基金にがんばってもらって代行返上をしないでほしいわけですよ。
Q 役所とはしてはそうだろうねぇ。でも、年金受けている者にとっちゃ、どこへ怒りをぶつけたらいいんだい。
A それは、まず、第一に基金でしょうかねぇ。次に、会社ですか。労働組合も。それに、3分の2の同意をした人たちでしょうか。とは言っても、本当は組織が問題ではなく、日本経済の低迷とか、時価会計の導入とかが事の背後にありますよねぇ。政官財の日本的経営手法が改めて問われ始めたということでしようか?
Q そうなってくると、ぶつけようがないねえ。
A 単に怒りをぶつけてどうなるものでもないですよねぇ。むしろ、事の理路を見極めなければならない問題だと思います。冷徹な観察眼が必要で、週刊誌的な空騒ぎはかえって問題を感情的にしてしまいます。
Q そういうことかもね。・・・・・・・。それでも、グリーンピアの不始末とか、いろいろあるでしょう。
A ありますねぇ。ここの窓口に怒鳴り込んでくる人もいますけどね。ここは、苦情処理センターじゃないですからねぇ、対応の仕様がないんですよ。・・・・・・・とは言っても、日本の組織風土では欧米風な裁判で決着を付けるというのは馴染まないようですねえ。
Q そう。それで、代行返上ってどうなっているの?
A その前に、「代行」ってご理解いただいておりますでしょうか?
Q そうねぇ、なんでも国の年金の一部を会社が支払うとかいうんじゃなかったかな!
A そういうことですよねぇ。厚生年金の報酬比例部分を厚生年金基金が代行して年金支払をするっていうことなんですけど・・・・・・・、そもそも厚生年金基金の制度発足の意味ご存知でしょうか?
Q さて、なんだろう?
A 昭和30年代後半に発生した厚生年金と退職一時金制度の調整問題解決のために厚生年金基金制度が発足したのです。つまり、年金と一時金の調整としての厚生年金基金ができたわけなんです。以来30年ほど経過して「退職金の年金化」は一応の社会的認知は得られたと思います。さらに、基金設立後の経過期間が30年にもなり厚生年金の半分ほどは民間で支払われるまでの実績が生み出されてきました。
Q そお、それがどうしたこと。ここにきて、代行返上だなんて!
A ご承知かと思いますが、「三種の神器」の日本的経営が立ち行かなくなり日本経済の低迷を招いてしまい、その結果、基金の資産運用が思わしくなくなり、ここ10年位積立不足が常態化していましたよねぇ。
Q そうらしいねぇ。
A 追い討ちをかけるように、平成12年度には基金の会計に時価会計が採用されて、各基金に突然巨額な債務が発生したんですよ。
Q ふぅ~ん!
A 会社はその損の穴埋めに耐えられなくなって、代行部分を国に返還して債務を軽くしようと考えたわけです。
Q そうなんだ。それで自分たちの年金はどうなるのかな?
A これ(参考図)をご覧ください。


図表33 代行返上前後の年金支払い




基金から支払われることになっていた代行部分は、国に代行返上されて国から給付されることになります。
Q 国って?
A 厚生年金です。もっと言うと、厚生年金の報酬比例部分です。
Q そおぉ。
A 残った上乗せ部分と加算部分は代行返上後、会社の新企業年金から支払われます。
Q そうすると、代行部分だけが支払い者が変わるわけだ。
A まあ、そういうことです。
Q 年金が減るようなことはないんだろうねぇ。
A 原則ありません。ただし、代行分は、基金は基金の支給基準で支払い、国は国の支給基準で支払いますので若干の相違が発生します。
Q 若干だね。
A ええ、ほんの若干です。基金の年金は平均給与を求めるとき再評価率を適用しませんし、物価スライドも適用しません。それに年金計算過程での端数処理も違いますのでドンピシャッとはいきません。
Q そのなの。
A 物価スライドの取り扱いが分かりやすいと思うのですけど、基金の年金は物価スライドが適用されませんから、平成15年4月の0.991%減額は基金の分も含めて国の年金で減額されました。そのため、基金の年金は変更ありませんでした。今までは、逆に物価が上がって国の年金が増額になっても、基金の年金は変わりませんでした。というより、基金の年金は一度年金額が決定されると生涯変更がないのです。増減は国の年金で行われるのです。
Q そうだったのかぁ!
A それに、基金の基準というのは基金ごとにさまざまで、ドンピシャッと合わせるにはその基金の基準を承知しないとできませんので・・・・・・・。行政サイドからチェックするのは難しいです。むしろ、基金サイドからチェックするほうが適当かと考えられます。
Q 詳しくは基金のほうに聞いたほうがベターだというわけだ。
A そうですね。国の基準は一つなのですが、基金の基準は無数にあると言ってもいいでしょうねぇ。
Q 事情が分かりましたよ。なかなかだねぇ。
A 制度が複雑になり、精度が劣化しましたねぇ。
Q どうも、ありがとう。外の人にもよく説明してあげてくださいよ。
A ええ、それがここの窓口の仕事ですので。
Q じゃ。
A 失礼します。

●代行返上後の年金の行方
Q 代行返上後の年金はどうなるのだろう? (厚生年金19年、うちA基金3年、B基金11年、C基金4年、さらに国民年金3年の昭和21年7月生まれの男性)

A お待ちどうさまでした。
Q こんにちは! 混んでいますねぇ。
A そうですねぇ。今日は、ちょっと多いですねぇ。47人待ちですか。
Q いつもこうですか? 
A いいえ、ここの社会保険事務所は、2、30人待ちが普通ですねぇ。窓口は10人おりますから1時間待ち位でしょうか。昼休みも交替でとり、続けてやっているんですけど。
Q そうなんだ。でも、これからは、私みたいな「団塊の世代」が押し寄せるんでしょ。ますます混み合うねえ。
A よく、ご承知ですねぇ。それに、お一人お一人の相談内容が複雑になり、事務所では頭を痛めているところですし、相談員に対するノルマも増える一方です。
Q ノルマがあるんだ!
A ええ、一人当たり25人ほどやらないと、皆さん全員に対応できないんですけど、私みたいなロートルはせいぜい16・7人になってしまうんですよ。
Q そうなんですか。それじゃ、さっそく本題に入りましょうか。
A ええ。
Q C基金が代行返上すると言ってきたんだけど、どうなっちゃうんでしょう?
A 代行返上であれば、国の厚生年金から支払われますので、大丈夫ですよ。まず、加入記録の確認をしますので、年金手帳、ありますか?
Q これしかないんだけど。
A 厚生年金被保険者証ですねえ。結構ですよ。被保険者証でも年金手帳でも基礎年金番号通知書でも、どれでもいいですよ。ちょっと、お待ちください。
A この記録(被保険者記録照会回答票)ですと、厚生年金は230月ですから19年ほど加入されているんですねぇ。この「5」という数字は厚生年金基金男子加入員ということで、こっちの「5H」というのは代行返上という意味です。で、今何歳ですかねぇ?
Q 57歳になるところだけど。
A 年金の加入はこれだけでしょうか? 57歳で19年しかないのは変ですねえ。ほかに別番号で働いていたとか、国民年金の加入はないんでしょうか? あるいは共済だとか・・・・・・・。
Q 昭和50年ごろ、一時国民年金に加入していた時期があったが。
A その番号は分からないんですね。
Q そうねえ。
A じゃ、お名前と生年月日で調べましょう。お待ちください。名前が変わったことはないですよねぇ?
Q ないねぇ。
A 大宮に住んでいたことありますか。国民年金の記録が出てきましたけど。
Q 大宮の●●にいたことがあるけど。
A 住所が合致しますので間違いないでしょう。3年ありますねぇ。それに、厚生年金の別の会社が一つありますよ。昭和43年3月から49年12月まで会社で働いていませんでしたか。
Q えっ、その会社は倒産したんだよ。○○って言ったと思うけど。
A ○○ですねぇ。82ヶ月出てきました。倒産でも破産でも、当時厚生年金保険料の納付がある場合、記録は残っています。これで、年間20万円以上の年金がオンされ終身給付されます。
Q 倒産でも出てくるんだ。
A 立派な会社だったんですよ。従業員に対する責任はきちんと果たされているんですから。
Q そお、ありがとう。ここに来た甲斐がありましたねぇ。
A それに、先ほどの19年の厚生年金の加入記録の中には、基金が三つありますねぇ。A基金が3年、B基金11年、C基金は4年、これが代行返上! う~ん、こりゃあ、大変だ!
Q ど、どうして?
A 年金受け取るのが複雑なんですよ! まず、厚生年金と国民年金の請求書を60歳のときに社会保険事務所に提出します。60歳から厚生年金の報酬比例分の支給が始まり、あなたの生年月日ですと63歳から定額分と加給年金が出て、65歳になると国民年金(老齢基礎年金)が始まります。
Q 国の年金だね。
A ええ。それに、60歳になったらA基金分は厚生年金基金連合会へ、B基金の11年分(待機期間者→待期者)はB基金へ請求します。C基金4年分の代行分は代行返上で国から支給されますが、C基金の上乗せ分はC社の新企業年金へ請求ということになります。
  つまり、請求先が①社会保険事務所(国民年金と厚生年金)、②厚生年金基金連合会(A基金とC基金分)、③B基金、④C社の新企業年金と四つになるんですねぇ。ということは、四ヶ所から年金が振り込まれることになります。
Q 四ヶ所から年金がもらえるんだ。すごいねぇ。
A というか、「細切れ年金」になるってことでもありますよ。請求手続きも四ヶ所だし、現況届なども毎年四ヶ所に出すようになります。
Q 面倒なんだ!
A 面倒って言えば、C社の新企業年金は新しいメニューですよね。
Q そうそう、それを聞きに来たんだった!
A C社の新企業年金は何型ですかねぇ?
C 何型って?
A いろいろあるんですよね。5種類だったと思いますけど。・・・・・・・。
これ(年金制度の選択肢の拡大)をご覧ください。


図表34 年金制度の選択肢の拡大




  いままでの企業年金は選択肢が2つに限定されていましたけど、今後は5つの選択肢に拡大されるんです。企業が財政責任を持つ確定給付型として、今までの「厚生年金基金」、それに代行なし基金としての「基金型企業年金」、適格年金廃止の受け皿として「規約型企業年金」。新たに、社員が財政負担を求められる「確定拠出年金」。さらに、確定給付と確定拠出の混合型として「キャッシュ・バランス型」もOKになりました。それぞれ一長一短ありますけど、個人が任意に選択できるのではなく、企業が選択・提供することになります。
Q こんなにあるんだ! 目がくらむね。
A でも、本人にとっては、どれかひとつですからねぇ。それさえ分かればそう難しいことじゃないと思いますよ。
Q どうして、こんなにメニューが増えたんですか? 
A そうですねぇ。日本経済の護送船団方式をグローバル・スタンダードにシフトしていかなければならない状況で、企業の年功序列とか、終身雇用が立ち行かなくなりつつありますよね。雇用の形態も多様化していますし、退職金制度も再度見直しが始まりましたよね。つまり、いままでの政官財一体の拡大・成長志向という統一された考え方が否認され、多様な価値観の試行錯誤が始まったということでしょうか。
Q そうですか。・・・・・・・。うちの社はどれなんだろう。
A 「基金型企業年金」か「確定拠出年金」でしょうかねぇ。
Q 会社に聞いてみよう。
A そうですね、それがよろしいでしょう。「確定拠出年金」であれば、ご自分で資産運用もするようになりますからねえ。
Q 何だかそんなようなことも言っていたなぁ・・・・・・・。
A それでしたら、よく会社に聞いたほうがいいですよ。猛烈な勉強が必要になりますから。
Q そうなんだ。株なんかもやるのかな?
A そうなるかもしれません。
Q そお、そりゃあ、おおごとだ! 4ヶ所に年金請求するんだったよね。
いやぁ、長々とありがとう。
A どういたしまして。


誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →22

2010年11月18日 | 厚生年金基金
第5章 Q&A年金の行方(基金解散と代行返上)

はじめに

厚生年金基金制度がスタート(昭和41年<1966年>10月)して35年余が経過した現在、厚生年金加入者は3,158万人(平成14年3月末現在),うち厚生年金基金加入者は1,038万人(平成15年3月末現在)で、厚生年金加入者の3人に一人は厚生年金基金加入員です。

実際の年金支払の場面では、制度開始から35年ほど経過したので厚生年金(老齢年金)の報酬比例部分の大半は厚生年金基金の代行分から民間の手によって支払われています。つまり、厚生年金基金加入員の老齢年金(国が支払う)のほぼ半分は民間の厚生年金基金から支払われています。

このように厚生年金基金制度が成熟した中、平成15年<2003年>10月、厚生年金基金の将来分代行返上が認められ、一気に660基金の「代行返上」が始まりました。そのほかに確定給付企業年金に移行した基金(30基金)や「基金解散」も急拡大し、全国にそれまで1800余基金あったのが1000基金になろうとしています。要するに、多くの厚生年金基金(企業年金)が「基金解散」や「代行返上」に雪崩をうって走り始めたところです。それは、まるで巨艦から脱出するネズミの大群の如しという事態になっています。

この背景には、いったい何が考えられるでしょうか?

厚生年金基金財政の積立て不足でしょうか? 因果の連鎖をたどって見ればそれは結果でしかないでしょう。低利回り・非効率な資産運用環境、運用機関にも基金にもプロのいない資産運用、新規加入員減少に伴う数理計画の破綻、事前積立方式ではあっても政府の年金勘定と同様どんぶり勘定である基金会計の限界等々。しかし、何よりも大きな影響力を発揮したのはジャパニーズ・スタンダードの放棄を迫る時価会計の採用でしょう。退職給付債務の計上が突然巨額な負債を出現させたのです。

世界はすでにグローバル化していて、唯我独尊の鎖国状態のまま日本が生きていくことはできなくなっているのです。ましてや、資源のない製造業の輸出事業振興をメインにした経済活動がなければならないのですから、時価会計を拒むようなアナクロニズムは「死に至る病」となるのです。

否認された「三種の神器」(終身雇用・年功序列・企業内組合)は、厚生年金基金の経験を経路にして、新たに生まれ変わることになるのでしよう。

このような混迷のとき、社会保険事務所の年金相談コーナーには、お尋ねの人が大挙して押し寄せています。現在、窓口はプレ団塊世代の大勢の相談者も含めて溢れかえっています。ところによっては、50人待ち、2・3時間待ちが常態になっている社会保険事務所もあります。加えて、厚生年金の過払いや未払等の行政サイドのミスに対する問いただし、新聞・TV・週刊誌等の「カラ報道」による問い合わせ等の風あたりが強くなっています。それに加えて、世の中にリストラによる40代・50代の失業者が溢れかえっているのに、社会保険事務所での年金見込額の計算は、現在58歳以上でなければ資料提供をしていません。遅ればせながら、今後55歳、または50歳から資料提供をしようという予定はあるようです。二-ズはあるのですが、対応が追いついていない状態です。こうして現在の年金相談窓口は、何かと、問題含みで、平安な日々がないありさまでストレスが高まっています。

「厚生年金基金」についての相談に対する行政サイドの対応もどちらかというと消極的で後手、後手に回っています。社会保険事務所の年金相談窓口では、基金制度について制度の基本的な仕組みや加入状況、代行返上後の年金見込額等は回答しますが、基金一般についてはほとんど承知していないというのが実態です。しかも、「基金解散」や「代行返上」について詳細・細部の相談は個別基金ごとに給付内容が異なるので、年金相談窓口からすればやむを得ず「それは基金に聞いてください」ということになります。門前払いを食わされた多くの相談者は不満を抱えたまま退散することになっています。

このように基金解散と代行返上について、厚生年金基金からの説明不足と行政サイドの消極姿勢の狭間で宙に浮いている加入員等が大勢おられるのが現実となっています。そこで、筆者の厚生年金基金25年の実務経験と年金窓口相談2年余の現場経験をもとに、年金相談者と回答者の窓口風景として基金解散・代行返上についての幾つかの問題点を説明してみようと考えます。

ただし、この「Q&A年金の行方」は、あくまでも筆者(民間人の年金相談窓口アルバイタ-)の個人的発言であり、役所の公式な発言ではないことを重々ご承知おきください。

筆者の窓口での「年金相談」は窓口混雑のため相談件数を上げなければならないのですが、どちらかというと「人生相談」になってしまい、一人当たりの相談時間が長くなりがちです。反面、アカデミックな説明はおろそかになりがちです。そのためここでは、極力詳細に、しかもQ&Aの範囲内で、分かりやすく説明したいと考えます。年金相談一般に絡めて基金解散・代行返上を説明しますので全体をお読みいただければ、年金の概要がご理解いただけるようになると思います。

さらに、詳細をお知りになりたい方、疑問をお持ちになった方等は、直接社会保険事務所の年金相談窓口にお出かけください。年金は個別事案ですので、人情としての勝手解釈や一般論では大きな間違いとなることもありますので、個別に確認されることが非常に重要です。


1.基金解散と代行返上に伴う年金の行方

●厚生年金基金の仕組み
Q 定年で会社を退職するのだが、年金はいくら受けられるのだろうか?(厚生年金39年加入・厚生年金基金20年加入・国民年金6ヶ月加入の昭和18年5月生まれの男性・妻あり)

A はじめに、加入期間の確認をしますから年金手帳を見せてください。
Q 被保険者証しかないが・・・・・・・
A それで結構ですよ。年金手帳でも基礎年金番号通知書でもおなじことですから。コンピューター(社会保険庁・業務センター「社会保険オンラインシステム」)で確認しますからちょっとお待ちください。
A この記録(被保険者記録照合回答票・参考)ですと、昭和40年4月が最初の厚生年金加入になっていますが、それ以前に働いたことはないですか?
Q 学生中にアルバイトはしたけど、年金はなかったと思うけど・・・・・・・。
A ちょっと、待ってください。・・・・・・・。生年月日とお名前では出てこないですね。その会社名は分かりますか?
Q ●●だったかなぁ。
A ああ、ありましたよ。●●株式会社ですね。別番号ですねぇ。6ヶ月ですから、年間18,000円くらい追加され、終身給付されます。
Q ええ、ほんと! すごいねぇ。すぐ分かるんだ。
A 昭和17年以降の厚生年金保険料納付記録を社会保険庁は保管・管理しています。倒産や解散など関係なく。お名前と生年月日、それに会社名などが分かれば調べられます。
Q そおですか。・・・・・・・。そうすると、全期間では474ヶ月になるんですね。
A 年金見込み計算をしますから・・・・・・・。
A お待ちどうさまでした。18年5月生まれですと、報酬比例分が60歳からで、定額分と加給年金分が62歳からですねぇ。
Q 報酬比例分って?
A その方の厚生年金加入から退職までの全期間(38年)の平均給与で計算する部分です。生涯給与が高い低いで年金額が違ってきます。ここの昭和40年ごろの標準報酬月額(給与)は12,000円ですけど、平均給与を計算するときこのままは使わず、現状に近い額に見直しをして計算します。再評価率というのを乗じて求めます。
Q 昔の給与も今風に見直すんだ。
A ええ。
Q ところで、定額分というのは
A 生年月日により決まっている単価があり、それに加入月数を掛けて求めます。ただし、あなたの場合、444ヶ月の上限を超えていますので、444ヶ月として計算されます。
Q それ以上は増えないわけ?
A ええ、65歳とか、70歳まで厚生年金に加入しても定額分は打ち止めです。増えるのは報酬比例分だけです。
Q そうなのか。妻の分も出るのかな?
A それが加給年金です。ご主人が受給権取得のときに年収850万円以下の戸籍上の妻がいらっしゃる方につきます。事実婚の場合も受けることができる場合もあります。これも、ご主人の生年月日により単価が決まっています。通常、これは奥さんが65歳になるまでの間、付きます。ただし、奥さん自身が厚生年金等で20年とか15年の特例で年金を受けられる場合はその時までです。
Q ややこしや、ややこしやだね。
A ええ、まだ序の口ですよ。日本の年金は制度の成熟とともにぶざまなほど複雑になってしまいました。このため、年金を受ける方と支払者双方に混乱が生じていますので、ここの年金相談みたいな仲介者が必要になるのでしょう。
Q で、60歳のときは幾らなの?
A 474ヶ月加入(制度共通年金見込額照会回答票)で、年額503,200円となっています。普通、40年ほど加入の人の報酬比例分は100万とか120万とかになるのですが、ご主人の場合は、厚生年金基金が20年ありますので、その基金の代行分を合算しないと正当な報酬比例分にはなりません。
Q 基金って、会社でやってる企業年金?
A そうです。
Q 国の年金とは別に請求するの?
A ええ、忘れているというか、知らない人が結構多いですよ。60歳になったら厚生年金基金から案内があると思いますが・・・・・・・昔の恩給と違って、国の年金も基金の年金も請求主義ですから、本人の請求がなければ年金は支払われません。
Q そうなんだ。それで、厚生年金基金って何なの?
A そうですねぇ・・・・・・・これ(図表9.厚生年金基金の仕組み)をご覧ください。国の厚生年金(老齢年金)は先ほども言いましたように報酬比例分と定額分と加給年金で構成されていますが、厚生年金基金はこの報酬比例分の一部を国に替わって代行して厚生年金基金から年金を支払います。加えて、基金は、代行分のほかにその企業独自の上乗せ分(退職金の一部または全部が含まれる方式もある)を合算して支払います。このため、厚生年金からは代行分がマイナスされて支払われます。
Q ややこしやだねぇ。
A 病、何とかですねえ。
Q ほんとに!
A ご主人の場合はまだシンプルですよ。転職を繰り返したような人は、厚生年金基金が幾つもあり、みんな10年以下の勤務だとすると、その年金原資は厚生年金基金連合会に移管されていて、そこへ年金請求することになります。基金では1ヶ月以上の加入はすべて終身年金になります。短期しか勤めなかった基金の分でも、いくつかを取りまとめて厚生年金基金連合会から終身給付があります。
Q そうなんだ! 知らなかったなぁ。忘れずに厚生年金基金や厚生年金基金連合会に請求しなければ駄目なんだ。誰もやってくれるわけじゃないんだ。自分でやるんだ。
A そうですね、自分の年金は自分で作るんですよねぇ。日本の年金制度は複雑・多岐になっていますので、その中で「自分年金」をビルディングするのはあなたご自身です。
Q ふぅ~ん・・・・・・・。ところで、62歳からは幾らになるんだろうか?
A 報酬比例分に定額分と加給年金分が支給開始になり、合算して1,830,600円です。月当たり152,550円ですね。
Q えっ、月15万円なの?
A そうです。でも、厚生年金基金があること忘れないでください。厚生年金基金が70万ぐらいはあると思いますよ。それに65歳になったら、国民年金の6ヶ月分、年1万円ぐらい増えますでしょうか。
Q こんなものなの。
A ええ、世代間で大分差がありますけど、平成15年の今、60歳になる人の年金の水準は、厚生年金40年加入の妻ありの人で月額20万円ぐらいです。
Q そうなんだ。これじゃ、都会地じゃ暮らせないねぇ。田舎へ行くか、物価の安い外国へ行くか・・・・・・・う~ん、こりゃあ、深刻だねぇ!!
A そうですねぇ。60歳以降、働くところもないまま、突然の病気や借金に立ち向かわなければならないし、「予測不能な闇」と対面することになるんですねえ。
Q まったくそうだねぇ。よく分かりましたよ。現実は、超、厳しいねえ。しっかり考えないといけないなぁ。・・・・・・・どうも、ありがとう。
A どう致しまして。奥様にもよくお話ください。

●基金解散後の年金
Q 基金が解散するとか言うんだが、私の年金、どうなっちゃうんだろう?(厚生年金29年加入、うちA基金1ヶ月・B基金12年・C基金解散の昭和26年生まれの人)

A 解散ですか。厚生年金基金からお知らせとかありましたか? 
Q いや。社内のうわさなんですけどね。皆がいろいろ言っているもんで、・・・・・・・。
A そうですか。厚生年金基金を解散するには事前の準備が大変で、なかなかすぐにはできないのが実態のようですねぇ。
Q 時間がかかるんだ! 
A そうですねぇ。はじめに、厚生年金基金を解散しようと考えるにはあなたのところの基金は年金原資の積立不足があるんだと思われます。その積立不足のお金の捻出をどうするか、会社は頭を痛めていると思います。
Q どうしてそうなったのかねぇ。
A いろいろありますけど、日本経済のバブル崩壊後の低金利、内外株式市場の低迷、新規加入員の減少、それに特に大きな影響は時価会計の採用による突然の巨額債務の出現でしょう。大部分はこのような個別基金の努力の範囲外の要因のせいでしょうねぇ。
Q そりゃあ、大変だねぇ。
A そうですねぇ、日本の従来の政官財のやり方は改めざるを得ない状況になってきました。
Q そういう激動の時代に自分たちは年金生活に入っていこうとしているわけだ。
A ええ。次に大変なのが、一人一人の年金加入記録の突合(とつごう)という事務局の作業があります。基金全員の加入記録が厚生年金の加入記録と合致しなければ解散できないわけです。厚生年金基金の名前はなんと言いますか? 窓口常備ではないんですが、私専用の名簿(厚生年金基金連合会発行:厚生年金基金役職員名簿)で見ましょう。
Q XYです。
A XY、XY・・・・・・・単独・加算・Ⅱ型ですねぇ。こりゃあ、おおごとだ。時間がかかりますねぇ。業務委託がⅡ型じゃあ、さぞかし、事務局は泣いていますよ。それに、解散の同意を3分の2以上集めなければなりませんから。そんなこんなで、事務局は大変なわけですし、時間もかかるということになります。おそらく、分けの分からない役員が早く、早くと、騒ぎ立てているんじゃないですか。
Q 会社の清算と同じようなことになるわけだ。
A そうですねぇ。
Q それはそれとして、私の年金はどうなっちゃうの?
A 手帳を見せてください。記録を見ますから。・・・・・・・。
A この記録(被保険者記録紹介回答票)ですと、厚生年金基金が3つありますねぇ。
Q 3つ?
A この会社のときですけど、1ヶ月だけですね。
Q 1ヶ月? 憶えがないなあ。
A 1ヶ月厚生年金基金に加入していますよ。これは将来60歳になったら厚生年金基金連合会(電話03ー3377ー3111・ホームページhttp;//www.pfa.or.jp/)から終身給付されます。
Q そぉ、1ヶ月でも終身払ってくれるんだ。すごいことやっているんだねぇ、その連合会というのは。
A ここの基金は、・・・・・・・12年あるじゃないですか。これは、ここの会社の厚生年金基金から支払われます。通常、10年以上厚生年金基金加入の場合は、その厚生年金基金から支払われ、10年未満だと、厚生年金基金連合会に年金原資が移管され、厚生年金基金連合会から支払われることになっています。
Q そぉなっているんだ。
A 在職中のこの厚生年金基金は5年ほどですか?
Q そおね。解散するとか言われているんだけどね。前のふたつは分かったけど、この年金はどうなるのかな。
A どう説明したらいいでしょうかねぇ。言葉だけだと分りづらいんですよねぇ、抽象的になってしまい。代行部分は厚生年金基金連合会から終身給付されますが、基金が存続していたときには基金が支給する年金には支給停止を行わない規約になっていても、基金解散後は国が支給している老齢厚生年金と同様に扱われるため、在職中や雇用保険(失業給付等)との調整により、老齢厚生年金が支給停止されることにより、代行相当部分の年金であっても、年金額が減額または支給停止となる場合があります。
Q 支給条件がきびしくなるんだ。
A そうなりますねぇ。それに、上乗せ部分は各基金独自のものですけど、この部分の年金はなくなります。これは、残余財産として解散基金加入員に一時金で分配されます。一時金のかわりに連合会に申し出れば、連合会から代行加算年金として受けることもできます。この一時金は、基金によっては、15年とか10年とかの年金で支払うところもあります。
Q 上乗せ部分の(D)と(E)は清算されるんだ?
A 基金解散というのは、年金が清算されることですよね。代行部分は支払者が変わりますけど・・・・・・・。
Q そうなんだ。
A この連合会資料(基金の解散について)は参考までに、後で見といてください。
Q ありがとう。うぅ~ん、解散って言うのは、将来の年金額が減額になるってことだねぇ。
A なんだかんだ言っても、そういうことです。年金受給権が一部そがれるということですよね。
Q 以前の保証はしないし、できないってことなんだ。
A そうなりますね。
Q 今までが出来すぎだったんだ。
A 終身雇用も年功序列も維持できないという現実が基金解散ということになって噴き出してきているんですねぇ。
Q そういうことなのかねぇ。われわれはどこへ行くのかなぁ。
A 日本人は、それを見つけ出さなけりゃならないところへ追い込まれたのでしょうねぇ。
Q そういうことみたいだねぇ。・・・・・・・。いやいや、ありがとう。よく考えてみますよ。
A プラス思考でいきたいですね。

●代行返上の仕組み

誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →21

2010年11月17日 | 厚生年金基金

4.未曾有な事態

日本の厚生年金基金制度は、後世、発足から20年経過しました昭和時代から平成時代へ移行した頃、日本経済の凋落と共に<未曾有な事態>を迎えて大きく変貌したと、必ず言われるようになるでしょう。それまでのファンド形成期から年金給付が本格化し資産運用がままならず積立不足基金が続出し財政悪化が急激に高まった時代でしたと。

あの頃から10年が経過し、基金の積立不足金が危険水域に達して、更に一層変貌の度合いは高まっています。規制緩和も護送船団方式ではあるがゆっくり大きくタ-ンをし始めています。基金の資産運用能力も急激に立ち上がりつつあるし、運用体制、運用インフラも整いつつあり、運用議論も多方面から為されるようになってきています。

一方で万策付き果てました基金が解散に追いやられ、中には給付の削減を図るという安易な手法を取り入れた基金も発生してきました。安易な手法と申しますのも、確定給付型基金の本質(制度を採用した企業と社員の契約)を軽々に判断し、事前に為されるべきであるフレーム・ワークの変更、戦略的絞り込みによる基金経営、資産運用の最大限の効率化、行政の規制を完全撤廃、母体企業財務の財務体質改善を図る等々の懸命な努力が充分に行われているとは見えませんからです。そのような努力が実を結ばず解散するのはやむを得ませんが、受託者責任の観点から切磋琢磨(並大抵の努力ではないと考えられる、プロになる必要があるのですから)だけは避けて通れない道でしょう。それが出来ないなら、さっさと基金の世界から去るべきなのでしょう。その点で、受給権保護を恣意のままにさせない立法化が緊急の課題になっています。とはいえ、そのような努力を怠る基金は、どちらにしても資本の論理の強権力により市場から追放されるのは時間の問題です。

さて、年金基金は制度創設から30年が経過してファンドの形成が済み、いよいよ制度本来の使命である年金給付が本格化し、制度の成熟期を迎えています。それなのに、積立不足等財政の悪化は<未曾有の事態>を改善できぬまま、問題だけが百出しています。今、任意にこれらの問題点を拾いだしてみますと以下のような事柄があると考えられます。


1.政治は国民の老後生活についてビジョンを呈示していますか。
(社会情勢の変化を吸収しえているか)
2.法制・税制・行政・教育・金融等のグロ-バル化の対応は進んでいますか。
3.統制経済手法の官庁単式簿記は破棄されましたか。
4.負の遺産である国民総ゼネラリストのスペシャリスト化による資本の生産性は向上していますか。
5.年金基金のビジョンは確立されましたか。
6.基金は行政の延長上の事業でしょうか。(社会保険から金融事業へ)
7.受給権保護は確立しましたか。
8.代行制度の民間活力は機能していますか。
9.確定給付型の数理基準は妥当ですか。
10.給付削減か、運用効率引上げか、それとも解散か。
11.基金の事業費は、掛金、運用収益のみなのですか。
12.基金を取り巻くアウトソ-シング業界は育成されていますか。
13.基金は金融子会社足りえますか、資産運用能力の点で。
14.確定拠出型年金も選択肢の一つ?
15.退職給付は労働の対価ではなく「功労金」なのか。退職金の年金化はどの程度進捗しましたか。特に、会計制度の点で。
16.隠れ年金債務は認識され、対応策が打たれましたか。



実にこれらの任意に抽出された問題の根は深いようです。年金の歴史から始まって日本経済の構造改革、国民の高齢化と経済のグロ-バル化、統制経済から民営化への移行、1200兆円の個人資産の汗水を如何に国民資産として保全するか等々をカバ-するような大きなテ-マです。ここでは当面の基金制度の目的-<加入員の老後生活保障>を如何に確保するか、基金の現場で試行錯誤されていることについて述べてみます。

<未曾有な事態>の基金財政の悪化の原因を探っていくと、多岐に渡る複雑に絡み合った事項が取りだされます。まず始めになんと言っても戦後日本経済の凋落・破綻。日本的経済システムの機能不全、共産主義経済以上の統制経済の蔓延、ビリッケツに集約する護送船団方式の甘えの構造、Other People's Money (人様の金)に巧妙な構造的なカラクリを用いて手をつける政治家・官僚・企業人の詐欺集団、本邦金融インフラの後進国性の露呈、日本経済全体を被う総合職の責任回避システム=暗黙のカルテル体制(小西龍治)、優しさと厳しさを混同して低落した日本人の倫理感覚、そうして、未だにグランド・デザイン、ビジョンを示しえない政府の無能・・・・・・・等々。
それに加えて、国民の超高齢化と少子化に伴う社会保障の危機が出現しています。

 このような状況・背景下、国の情報開示・情報発信の点では革命的な前進を示した厚生省の『年金白書』が発行されました。しかし、このたび厚生省の「5つの選択肢」で示されましたように、厚生省は未だ<国の能力=統制経済>への過信を改めるのに充分ではなく、国が<果たすべき約束>(M.N.カーター & W.G.シップマン著『Promises To Keep』副題:社会保障の夢を救う)-を見出せずにいるようです。

制度発足30年を経過して基金制度は成熟段階に到達していますが、代行部分を抱える厚生年金基金制度は、統制経済と民間経済との混合体という危うい体質を持っているために厚生年金本体と同じように基金が<果たすべき約束>も揺らぎはじめています。
基金財政悪化の具体的な原因を拾い出せば、業種・業界の退場・リストラによる加入員減も制度の成熟に伴う年金給付費の急増も原因としては二番手でしょう、なんと言っても<資産運用の非効率性>が最大の原因ですと断定できましょう。

それは、30年も続いた5.3.3.2資産運用規制、簿価会計、日本一局集中投資、経営観念の希薄な基金事務局、民営化の遅々たる進捗等の弊害が複雑に絡み合って累積されたものです。しかし、なんと言っても5.3.3.2の運用規制の下、日本一局集中投資で行われてきました基金の資産運用は、政府の政策(銀行の不良債権救済の超低金利政策)が全面的なリスクとなり財政悪化をもたらしたということをまず認識すべきでしょう。

その上、国際会計基準の時価導入が数年先に迫ってきて、現行の積立不足金など遥かに凌駕する膨大な「隠れ年金債務」が徐々に明らかになりつつあり、日本経済を更に濡れ真綿で締め付ける事態になってきています。

このような認識が無いため、政策のミスマッチングの責任を政府に対して求めるのではなく、ましてや企業に負担させるなど考えもせず加入員に求めて、給付の削減にすり替えるなどという基金に無知な総合職の渡り鳥があちこちに飛び廻っています。
会社が、基金が、約束を果たすために、最初にやるべきことがあるということです。例えば、母体企業の財務体質改善(退職手当引当金の年金化、適格年金の特別法人税回避、退職金の前払い等)、過剰人員・設備のスリム化、社員個々の能力増強、そして戦略の絞り込みによる基金の資産運用能力アップ(10%稼ぎ続ければ大抵のことは解決する)等々。これらのことを実施した上で、給付削減というのであれば理解も得られるのでしょう。

現実に、平成8年度、平成9年度には5.3.3.2規制下で、適用除外を申請してリスク資産配分と言われている日本株・外株・外債の配分を60~70%に高めて、好成績(生保資産を含めました全体資産の修正総合利回り10~8%)を上げた基金も出てきています。

無能基金と優秀基金の利回り格差は7~8%に広がってきています。現況で3~4%しか稼げない基金の常務理事・運用執行理事はレッドカ-ドを与えられて当然でありましょう。複雑な込み入った事情、金融知識欠如、金融インフラ未整備等、条件は個々の基金ごとに多様ですが、それらを全体的にマネージするのが職責であり、そのマネージの結果が年々の利回りに反映されるのです。結果を出してこそ職責を果たしたことになり、受託者責任にはこのことも含まれているのでしょうし、結果も出さず、給付削減を断行しますなどモラルハザ-ドも極まったということではないでしょうか。厚生省の受託者責任のガイドラインでは、経過責任だけで結果責任は問われませんが、実際の訴訟の際にはそんな程度で放免されることはまずないでありましょう。引退後、年金生活者になってから過去の結果責任を問われて財産没収・差押えが現実になるでありましょう。そのため、関西の或る基金では、役所の了解を得て裁判に備えて裁判費用のため賠償責任保険を契約したとのことです。

さて、基金の財政悪化を前にして、基金の世界で一般的に何時とは無く誰とは無く言われ始めましたのが、基金の出来る対応策は次ぎの3つだと言われています。


①給付削減
②資産運用効率化
③基金解散


①の<給付削減>は、諸般の事情が重なりあって掛金負担に耐えられなくなった結果、聖域である給付の圧縮を図りましょうと言うものです。②の<資産運用効率化>は、資産運用規制が撤廃されつつある中で、基金の努力次第では効率的運用も可能になってきたことを受けて、一部の基金ではじまった対応です。③の<基金解散>は、文字通り最後に残された選択肢です。

①の<給付削減>を仕掛ける背景には、退職給付を「功労金」と考える経営者が未だに発言権を持っているという現実があることを明らかにしていると考えられます。そうではなく、退職給付は純然たる「労働の対価」であって後払い賃金であり、人を雇用した経営者には租税負担同様に付いて回る債務です。緊急に今、加入員の受給権(特に加算部分)の法制化を含めて如何に確保・保全するかが問われているということです。

②は、超低金利の政策責任(5兆円?)を基金として政府・官僚に求めるだけではなく、基金自らが受託者責任を果たすために所与の条件の戦略的絞り込みを図って最良執行を行うべき性質の問題です。<資産運用効率化>を達成するために為されなければならないことはたくさんあります。 例えば、金単(英単をなぞって金融関係用語)2万語という人もいます。「運用のプロになるためには、2年間の集中学習、10年間の実務経験、2万語の用語の理解が必要」(村田純一)。筆者であれば、金融関係読書500冊、程度としか言えませんが。

どちらにしても、基金の資産運用について基金事務局自体が資産運用のプロフェッショナルにならなければ、誰がそれを行うのか。とは言え、日々の基金業務執行の場面で、総合職の渡り鳥(経営者・理事長・常務理事・運用執行理事・事務長等)、つまり金融の知識・経験のないアマチュアが、「上がり感覚」で切磋琢磨の猛烈な学習もしないまま恣意的な判断を繰り返しているのも惨めな現実ではあります。この点は、基金の世界だけではなく、日本全体において、日本人は金融の知識・経験のないアマチュアであるのですが、このことが国家的な損失につながる段階にあり、早急にキャッチ・アップが求められています。

③の<基金解散>は、現実にそうなった基金とそうなりつつある基金が数多いのですが、「代行返上論」とか「年金民営化論」とか「年金法」で議論されるようになってきました。最近、紡績業基金裁判の判決が出て、基金は現行の法制解釈から「公共組合」とされ、一部の業務執行行為(解散)が国家賠償法の「公権力の行使」という判断が示されました。結果、厚生省による代行分の積立不足金補填の道(平成10年7月20日日本経済新聞トップ記事:厚年基金の積み立て不足・公的年金で一部補てん)が担保(対国民、対大蔵省等に対して)されてしまいました。「公権力の行使」という隠れ蓑に、又もや時代に逆行してモラルハザ-ドの温存(総合基金救済)、ハイコスト体質の維持(切磋琢磨不要論)、お上への依存(自己責任の放棄)が白昼堂々とまかり通ることになってしまいました。

 つまり、ここから類推すると、現行の日本の法制体系は自己責任にインセンティブを与えるのに逆行するシステムになっているということでしょう。とは言え、資産運用等の「私経済作用」は「公権力の行使」から除外され民法適用でありますから、この点では理事長・常務理事等の責任回避は難しいのでしょう。

どちらにしましても、以上申してきました厚生年金基金の「未曾有な事態」は現象論であるに過ぎないでしょう。根本的には戦後日本経済の破綻(平成9年と想定する)を機会に、日本の社会・経済構造の改革を視野にグランド・デザインから議論・考究されるべき性質のものでしょう。要するに、問題はミクロではなく、マクロの時代なのでしょう。



【出所:{厚生年金基金事務長奮闘記} 平成12年】





誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →20

2010年11月16日 | 厚生年金基金
3.<人様のお金>が変える日本のインフラストラクチャー

●日本型資本主義の組成
軍国国家主義で戦った第二次世界大戦で、全面降伏させられ海外への拡張路線を断たれました日本が、再び徳川300年の鎖国状態と同じ様な場面に引き籠もらざるを得なかったのは幸いでしたと考えるのは50年余の時の経過の然らしめるところでしょぅか。

ポツダム宣言により戦犯裁判、軍隊解体、財閥解体、集中排除法、戦時賠償等と共に民主体制の確立を要請された日本でしたが、新しい日本のインフラストラクチャーを構築すべき政財界の主要な人材は追放され、御用学者は言わずもがな、わずかに満州経験者の大陸浪人たる官僚が残されているだけでした。

時の世界的な政治情勢は、戦後の長期支配体制に膨張しつつあった米ソ冷戦構造の厳然たる現実でした。連合国体制、なかんずくアメリカにとって、日本は共産主義勢力に対する封じ込め戦略の地形上再重要な国と同時に、経済的な復興や民主体制確立も必要不可欠不可避な国でもありました。

占領政策実施の時、呼び出されたのは大陸浪人の一団であり、彼らは、占領軍から示された勧告、フレーム・ワーク等を日本に土着化させるに際して、背景、根拠としたのが満州帝国管理の統制手法でした。

それは、欧州大陸法のような始めに理念有りきの大上段の構えを特徴とする思考方法でした。外枠を押さえられた中での、内側で大陸浪人達は知恵を出し、しのぎを削ることになりました。占領軍に頭を押さえられているので、法律事項は総論のみで構成し、実務・細部は裁量のままとする裁量行政の手法をこうして徐々に形成し確立していったものと考えられます。

この背景には、占領軍の暗黙の了解として日本に対する監視型政治の内側の裁量を許容する戦略が透けて見えていました。そこに憲法の空洞化を許容せざるを得なかった現実政治のパワーポリティックが介在したことも事実としてあったのでしょう。


ごく最近までアメリカの制度は、部分的で断続的かつ間接的な政府介入を受けながら、民間企業が信用を創造し、取引するものだった。一方で日本の制度は、管理された市場から民間の利害がしだいに利益機会を得られるようになったとはいえ、国家が信用創造と信用の価格を管理する統制制度だった。

S.ストレンジ『マッド・マネー』
-世紀末のカジノ資本主義



一夜にして成るものは子種の仕込み位いのもので、結果論的見地から見ると強固堅固な仕組みもその形成過程においては、「もっとも、現実とはこんなものかも知れません。何らかの偶然の積み重ねで、まるで設えたかのような堅固な制度・構造が出来上がる、ということです。」(JMM2000/04/19配信・北野一)

50年余を経て裁量行政に凝縮しました日本の官僚の手法もその拠って立つ基盤が始めに理念として確立していたのではないのでしょう。様々な条件が、例えば連合国の要請、満州の経験、ファシズムを脱した人々の軽やかな心情等々が複雑に絡み合って、都度の成果がおもむろに組成して成ったものでしょう。同様に、日本型と言われる資本主義の特殊なインフラを作り上げた戦後日本経済も、官民共同による統制経済システムを都度の問題クリアーの積み重ねの延長線の上に結果しましたものでしょう。

しかし、戦後50年余の統制経済実験はソ連型の政府が直接関わる直接統制も日本の官民ぐるみの間接統制も共に失敗に終ったということは動かしがたいことです。ただ、日本型の間接統制はソ連のストックもフローも崩壊した事例と異なり、ストックだけは積み上げるのに成功しています。

何れにしても、人心の荒廃という点では統制経済の実験は失敗と断罪できるでありましょう。人心の荒廃という点では不幸なほどに日本人にその意識も認識もない点が不気味です。

それでは、この国民の不気味さ、生身の人間のドメスティックな声の圧殺、大義(会社主義)への順応等は、戦後どのように形成されてきたのでしょうか。

国民の声は戦後圧殺されたばかりではなく、前史として背景として土壌として戦前の皇軍国家主義の右傾化、ファッシズムにその起源をもつのでしょう。沈黙が知恵であったファッショの時代から沈黙が美徳になった戦後の経済体制では官民ぐるみで経済復興の美名を掲げてきたのです。

日本型資本主義のフレーム・ワークを形成する数々のインフラは、政府による信用創造、信用配分、与信拒否等の統制管理経済指向に始まり、銀行による間接金融奨励、業態間規制、産業資本配備、護送船団方式、PKO、中央集権装置等として徐々に形を与えられ、局面の国際環境、ヘゲモンを詐称する官僚のケイジアン的管理指向、民間の官依存体質等々によって50年余かけて組成されてきたのです。

かたや、財閥を解体され経営と資本の分離を強要された日本企業は、相互に株式持ち合いを促進し、株式の流動性を抑圧して資本の効率性を次善策とし株主の力を空洞化するという方法で略奪し、そのようにして企業防衛を図ると共に、土地本位制をベースにした法人資本主義を形成したのです。

こうして形成された日本型資本主義は、株主議決権の制限、キャピタルゲイン指向の低配当政策、身内監査、専門経営者を排除する身内の成り上がり経営者とそれをバッファーするゼネラリスト集団等々、資本を資本家から掠めとり、法人・会社の<自分たちの金>にしてしまう巧妙な仕掛けを、含み益会計操作、負債性資本(引当金)依存経営、過少自己資本経営、三種の神器の組合せによる低コスト賃金、費用認識の飛ばし等々の多様な詐欺的インフラを駆使して強固磐石なシステムに作り上げたのです。

そうして、終に法人主義、会社主義の制覇によって「人間が法人の一器官と化して法人に隷属する」(岩井克人)という逆転を招き、法人という抽象観念のファッショがブラックホールのように生身の人間のドメスティックな声を飲み込んだのです。息詰まるような窒息感が日本の企業を被っているのはここに人間疎外が極まったということでしょう。

とは言え、これは当初、戦後のドサクサに政治家や官僚や民僚の理念として存在していたのではなく、局面での対応の結果、組成されてきたのです。その場面での、当事者や一般国民の資質に民意度が低く依存体質が強く統制に都合のよい土壌であったということだけは言えるでありましょう。

この間、日本の<人様のお金>の命運は、基金事務所の片隅に据え置かれたまま顧みられることもなく営々と積立てられているばかりでした。偶々企業サイドの目に触れる別途積立金が基金の資産に生じた折には、企業人は全面的に<自分たちの金>であることをつゆ疑わず企業サイドへの一方的な略奪・還流を旨としたのです。というのも株主の資本さえ<自分たちの金>扱いする日本型資本主義の法人資本主義の世界ではそれは当然の論理展開でしたし成り行きではありました。

また、平成に入ってからの政府の低金利政策によって積立不足が発生してきた折には経団連を始めとする大企業が不謹慎にも身勝手な代行返上を主張する体たらく、ルール無視・義務の放棄・権利の乱用という傲慢の極みを何も意識・認識することなく無知をさらけ出して発言するに至ったのです。これが端なくも、日本型資本主義の内実の暴露となってしまったのです。

これだけのことではなく、本邦金融界の政府・官僚・財界を巻き込んだ金融パニック、金融不祥事、特に大蔵省がらみのそれは、本来<人様のお金>であるものを傲慢にも<自分たちの金>として各々が各々の領分で裁量した結果、発生したのです。

政治家は選挙資金とし、官僚は統制的産業資本配備金とし、企業人は資本家の金を略奪してほしいままにローコストの設備投資資金としたのです。末村篤をして「「エリサ」はおろか「ペコラ」も飛ばしたままでは心もとないこと甚だしいです。」(「証券」 2000.3 「人本主義」から「資本主義」へ )と言わしめる所以です。


強い個人と、柔らかな国家と企業の組合せが、しなやかで相対的に安定した社会への王道といきなり言われても、企業に隷属することで安寧を得てきた日本人が直ちに「はい、そうですか」といくわけもない。・・・・・・・気の遠くなるような作業も必要になるだろう。

末村 篤:「人本主義」から「資本主義」へ
「証券アナリスト・ジャーナル」 2000.3




金融恐慌まがいの日本型資本主義の様々な末期症状がここ10年ほど繰り広げられましたが、この間の逸失利益を別にして幸いなことに関係者の懸命な努力で基金資産の元本だけは保全されたと言えるでしょう。新しく導入されました非継続基準等による積立水準をクリアー出来ていない積立不足基金も数多くあるとはいえ、事前積立方式で積み上がった年金資産は50兆円時代となり、個々の基金でも母体企業の株主資本を上回り、或いは上回るほどになってきました。このことは、基金事務所の片隅に捨て置かれていました基金資産が日本経済に対して、或いは個別企業に対して物申す時代に変わってきたということです。積立不足は即、日本経済・個別企業への負の要因となり、無視しえないインパクトを政治・官僚・経営に与えるようになってきたのです。

マネーのパワーは従来型のインフラストラクチャー、政・官・財のフレーム・ワークにドスを突き付け始めたのです。無血革命が静かに始まっているのです。

日本人は、ここに戦前の皇軍国家主義のファッシズムと戦後の日本型資本主義=会社主義の実験・経験を踏まえて、<国家-企業-個人>の経路を求めていくことになるのでしょう。心もとない民意度の状態ですが。

それでも、2000年4月に日本型資本主義に対する退職給付債務の<PBO爆弾>が投下されました。<自分たちの金>から<人様のお金>へ、代理人契約から信認契約へ、大陸法から英米法へ、法人から個人へ、時代は急激に動きだしたところです。


●インフラストラクチャーの再構築
ストックの積み上げである年金マネーの膨張は、単なる国内問題に留まらず一国の壁を軽々と瞬時に飛び越えて活動する場面を創りだし、それが『国家の退場』(S.ストレンジ)という無国家時代の到来を招き、国際政治までも左右する程になってきたというのが現実です。

地球規模の観点からのシステムとそのインフラストラクチャーの構築が問題になりつつあるということでしょう。

そのような視野の下、当面日本の<人様のお金>を担保するインフラは、日本型資本主義の破綻ということ、即ち従来型の官僚統制インフラの機能不全と官僚統制にマッチングして創出された株式持合い構造による擬似資本主義の破綻が明らかになったところで、どのような形のものになるのでしょうか。右に倣うというマイナス思考ではなく、せめてキャッチ・アップのプラス思考だけは不可避でしょう。

国民の金(税金)並びに株主資本を<自分たちの金>にしていた日本型資本主義下のインフラ、つまり統制的な政府による信用創造、業際障壁による与信の配分、産業資金配分のための間接金融システム、銀行の株式保有・生保の政策運用等による株式市場のPKO、企業の株式持合い構造による経営の保身、政府の統制に対する協力の一環である米国債投資、証券会社の推奨販売等による反市場行動等々は、市場操作のPKOに最も象徴的に現象していると考えられます。つまり、本来<人様のお金>であるものを全て<自分たちの金>にすり替える操作、オペレーション、管理を主眼としましたケイジアン的手法でした。


数分後、修正ずみの標準契約書式、つまり、最小限に簡略化された信認契約書を手にしてもどってきた。契約書は三ページにわたるものでその条文の大半が、依頼人は、自分の金に何が起ころうと、信認代理人に対して決して償還請求を行わないことに同意する、という定めにあてられている。また、こうした厳粛な誓約があるにもかかわらず、やぼな依頼人が代理人にたいして法的訴訟を起こそうとするときには、チューリッヒ州の裁判所のみがその争いに関する裁判権を有する旨もうたわれている。もっとも、そうした不満を抱いた依頼人が勝訴した例は、チューリッヒ州の歴史始まって以来一度もない、といった事実にはこの契約書は触れていない。

P.アードマン『無法投機』
(原題:The Set-Up )




それは、経験を度外視した<始めに理念有りき>の思考スタイルをベースにした手法であり、英米法理(エクィティ裁判)ではなく、ドイツ風大陸法理、帰納論ではなく演繹論です。具象でもなく抽象です。ドメスティックなものの管理、つまりドメスティックなものの統制・支配を旨とする思考スタイルです。

ソ連の崩壊に続いた日本の破綻は、共に統制経済の機能不全という点では同列の事象であって、このことは併せてドメスティックなものの統制・支配を旨とする思考スタイルそのものの敗北を意味しているということになりましょう。つまり、<人様のお金>のパワーエンジンが点火されたということです。

ということは、新たなインフラストラクチャーはドメスティックなものの試行錯誤な切磋琢磨によってしか構築し得ないのでしょう。ドメスティックなもののバイタリティに負託することになりましょう。

日本型資本主義における<自分たちの金>の世界でメイン・インフラとなっていたのは、大陸法理をバックとした自己責任を強く要請する契約概念でした。

そうではありましたが、日本型資本主義は法人化(組織)という手法で巧妙にこれをすり替えてしまい、誰も責任をとらなくてよい構造を組成し、野村、住専、山一、大和銀行等の事件で明らかになりましたように、関係した官民共に責任感も倫理も地に堕ちてしまい、結果的に組織的な詐欺集団となりおおせてしまいました。

性悪説に基づく自己防衛を基本理念とする<契約概念>は、本来厳しい自己規律が求められるところですが、これらの事件が自分に甘くなってしまえばどうにも打つ手のなくなるひ弱なインフラであることを図らずも明らかにしてしまったのです。

つまり、日本の法理における契約概念には、法理としての厳密さが欠け、勝手な解釈を許容する曖昧さが含有されているうえに、互いに互いの善意にもたれ合う相互依存によって形成されていたのです。

島国の同一文化圏に生活する者の<和をもって尊しとする>心情が個別事項の確認を羞恥・逡巡させ、性善説への依存によって曖昧なまま放置するのです。本来、契約概念は性悪説で構成・構造化されるところを性善説の日本人の契約概念には論理性、合理性等の観念が希薄だったと言えるでしょう。

一方、一般事業会社においても、株式持合い、含み益経営、三種の神器による低コスト化等々のアンフェアな契約に反する得手勝手な法人行動で、本来株主の金や従業員の金である<人様のお金>を<自分たちの金>に勝手に読み変えて契約を反故にして無法状態を作り出してきたのです。
とは言え、契約が当事者間の自立した自己責任で文字通り構成されているのであれば、裁判とか賠償とかということになるのでしょうが、日本型資本主義の世界ではそれをさえ巧妙に法人組織の構造にすり替えてしまっているので、契約本来の機能が完全に不全状態にされているのです。「法すらない日本」ということでしょう。


二十世紀が「国家の世紀」「組織の世紀」だったとすれば、二十一世紀は「個人の世紀」になるというのが一般に共通した見方だ。もたれ合い型ではなく、多元的な価値観にもとづく自立した「個」による自己決定・自己責任型の経済社会である。

芹川洋一:21世紀へ憲法改革を
日本経済新聞 2000/5/3 朝刊




つまり、日本は官僚と法人がつるんで契約も無い法理も無視の無法状態を組成した統制統治国家となってしまったのです。民間人が法人という蓑を被って、中央統制の統治を目論む官僚に迎合している不様な国民国家に成り下がってしまったのです。実に、明治は遠くになりきです。

ここに日本型資本主義は個の完全な隠蔽を成就したのです。その手法は、官僚・法人の文脈への強制的ないざないと村八分、そのために強制されるドメスティックなもののひたかくし、つまり遮蔽の一事につきるでしょう。その結果、押さえ込まれ窒息した個が奔流となって想像もし得ない社会的事件・社会現象を引き起こしていると言えるでしょう。

このような無法状態の中で、<人様のお金>をどう保全し、どう効率運用したらよいのか。うかうかしていると、又いつ何時<自分たちの金>にすり替えられるかもしれないのです。こういうのを年金資産運用保全の本当のリスクというのでしょう。これほど大掛かりな一網打尽に仕掛けられるリスクは他に余り例が無いでしょう。カントリーリスクとか政治リスクもこれに比べれば一過性のリスク、テクニックレベルのリスクに過ぎやしません。

幸いなことに、このような日本型資本主義の敗北が明らかになったころ、嫌々ながらの応諾ではありますが、国際会計基準に添うことが本決まりになりました。新たに時価会計、連結決算、キャッシュ・フロー計算書、退職給付債務等々のインフラが採用されることになり、アンシャンレジームの断罪と編成変えが強要されることになってきました。



アメリカ人は、一人ひとりが、英語でいう principle(プリンシプル)をもっている。主張、主義、あるいは生活信条、いろいろ訳すことはできるが、とにかく芯がある。グニャッとしていてつかみどころがなく、大勢に身をまかすという人はほとんどいない。individualistic あるいは individualism 。そんな彼らの習癖を、個人主義的あるいは個人主義思想と難しく考えるよりも、生れながらにして「自分は自分」という考え方があると考えたほうがいい。

寺澤芳男『ウォール・ストリートの風』





要するに、日本型資本主義のインフラの下での<人様のお金>は、一定のストックの積み上げを果たし福祉国家の達成という官僚の野望を曲がりなりにも実現したのは事実ですが、「積立不足の凍結」という結果に終ったと断罪して、おおよそ間違いのないところでありましょう。

逆に言えば、<人様のお金>を担保するには日本型資本主義の統制的なインフラとは別個の市場型インフラが必要ということでしょう。そのインフラ足りえるのではないかと考えられるのが、このたびの国際会計基準が引き連れてきた上記の時価会計、連結決算、キャッシュ・フロー計算書、退職給債務等々のインフラです。

更に、先にも触れましたように官僚の産業社会育成と福祉国家達成のための統制経済故に官の民への介入が正統化され、それが結果的に日本における法理不全・法律無視、<契約概念>の機能不全という事態を招いてしまいました。

そこで、この場面を打開するために要請されるのが、<人様のお金>の無言のプレッシャーがもたらす「決まる」という事態を促進するために憲法記念日の日経記事のように憲法25条等を見直し憲法上に官僚介入の排除を担保することを明記することも不可避と考えられます。

ここで重要なことは、契約概念に付けくわえられるべきは英国のエクィティの伝統により培われたトラスティ、またはフィデュシャリーから派生した<信認概念>のインフラです。<人様のお金>を担保するインフラとして契約概念に欠けるところを補うには最適の理念でありましょう。その一つが愈々日本でも展開の始まりました<受託者責任>という考え方です。


第一は、官をうしろに退けるため、経済的な自由をきちんと保障するよう制度化することだ。それにはまず二十五条の生存権について考える必要がある。この条文を根拠に「社会国家」「福祉国家」を実現するためには、経済活動の規制をはじめ、官による民への介入は許されるという考え方が官主導を許してきたからだ・・・・・。
規制行政についても、自由な競争秩序を守るための規制は許されるが、競争制限的な規制は原則として認められないことを憲法に明示することが考えられる。・・・・・・。
官を後方に回すもうひとつの方法は政治を使うものだ。チェック機関としての国会の機能強化がそれである。

芹川洋一:21世紀へ憲法改革を
日本経済新聞 2000/5/3 朝刊




<人様のお金>を担保するこの<信認概念>を根本理念として、日本の経済・社会を取り囲む様々なインフラストラクチャーが見直され、点検を受け、再構築されることになりましょう。最終的には、<人様のお金>はこれら国際会計基準、効率市場、受託者責任等々のインフラによって守られるようになるでしょう。

ということは、<人様のお金>が上記のようなインフラを持つことによって、従来のような統制経済、官僚の民間介入、<自分たちの金>、PKO、株式持ち合い、銀行の株式保有、生保の大蔵迎合、証券の反市場行動等々を見逃さなくなっていくでしょう。それらのアンシャンレジームが旧態依然のままであれば、<人様のお金>は、それらから一斉に引き上げることになります。

さらに、「引き上げる」などという受動的対応から、積極的に投資拒否に至るのはほんの一歩です。<人様のお金>の選別が始まるのです。そのことが厚生年金基金の資産運用機関選択・戦略アセット・ミックス等ですでに動き出しています。


(アメリカン・カフェ・チェーン創始者ロバート・)ジアモにとっての直感とは、「似たような状況において蓄積された経験であり、いわば内面から湧きあがってくる推測のようなもの」であった。そして「直感そのものは内なるロジックをもっているが、そのロジックは言葉で表現できるものではない。それは内在している数多くの情報であり、その人の中にある何かによって、その内的情報が互いに結びつけられて経験へと変換していく。その経験とは、問題解決に向けての分析の統合でもある。」と説明してくれた。

R.B.タッカー『価値革命への挑戦』
-価値イノベータのマーケティング戦略




つまり、<人様のお金>のパワーは、ヘッジファンドがイングランド銀行を叩きのめしたような力を獲得しつつあるということ、日本に『見えざる革命』を強要する現実を生みだしているということ、日本型資本主義の統制経済に引導をわたしたということ、と同時に、将来に向けて<人様のお金>が日本のインフラストラクチュアーを創り出していく最も重要な概念となってきたということでしょう。



【出所:「人様のお金-厚生年金基金は何になるのか」 平成12年】

誰も知らない厚生年金基金-代行返上前のドキュメント →19

2010年11月15日 | 厚生年金基金
第4章 厚生年金基金を問う

1.厚生年金基金は死に体!

●凍結通知
厚生省は、平成11年9月30日付局長通知「厚生年金基金の財政運営等の特例について」という前代未聞の文書を都道府県知事に通知、その写しが都道府県知事から各基金に通知されました。

この通知で、厚生年金本体保険料率の変更されるまで、基金財政は平成11年9月30日で凍結の事態となり、ということは俗に言う<基金は死に体>であることを一方的に宣言(?)しました、というより、万策尽きお手上げの敗北宣言、或いはモラトリアムで執行猶予を宣したということでしょうか。



かっての『ゆりかごから墓場まで』の理念は、いま「最小限のセーフティ・ネット(安全網)」に変わっている。働く人の割合が減っているのですから、自分で自分の安全網を作らないといけないのです。

ロンドン大学年金研究所D.ブレーク所長
朝日新聞「社会保障が変わる」1999.11.7








基金サイドにとっては平成9年12月25日付の資産運用5.3.3.2規制撤廃に次ぐ、相反する意味で驚愕させられる文書となりました。この度の文書は代行制度故に基金は代行の金縛りにあっている事態を図らずも改めて明らかにしました。このように、基金は、一方的に宣言されてしまうのですから、30年余も経過していて、未だ独立法人の態をなし得ていないわけです。

とは言え、この事態をプラス思考で考えれば、執行猶予中に、代行を切り離してもいい時期になってきているのではないでしょうか。

●凍結した死に体
厚生省は、この通知で厚生年金保険料が改定されまでの間、免除保険料率の改定が行えないので基金の財政逼迫の度合いが増すのを回避するため、基金を9月30日付けで当面の対策として冷凍庫入りにしたのです。それでなくても、政府のゼロ金利政策や5.5%の頑なな政策に拠り財政悪化を招いて既に<死に体>と化している基金を、凍結するということはミイラ化させようという魂胆なのでしょうか。まさか、そこまで頑なではありますまい。

しかし、このミイラには幸い5.3.3.2規制撤廃というカンフル剤が既に打たれているので、人の手を借りずとも自ら冷凍庫を蹴破って再生するかも知れないのです。
それには当然、リスクをとって果敢に挑む人と効率市場が組成されていなければという前提条件はつきますが。

それでは、<厚生年金基金のミイラ化>という事態は、何を象徴しているのでしょうか。行政サイドからと企業サイドから考えて見ましょう。
一口で断言すれば、それは日本の社会全般にわたる戦後方式の機能不全ということ、それを証明しているのが超低金利でしょう。



図表31 日本の年金資産積立金





行政サイドにすれば、政治を巻き込んでの戦後官僚体制、つまり統制・計画経済の手法が手詰まりになったということ。企業サイドでは培われてきた日本型資本主義(本来の株主がいない資本主義の作り出した数々のインフラストラクチャーの束、持ち合い、含み益経営、ゼネラリストの法人代表、三種の神器等)の統治能力が効かなくなってしまったということ。

この両者に共通している考え方のスタイルは演繹的思考法式、ちなみにマルクスやケインズのよう、あるいは欧州大陸的な、と言うか、始めに理念有りき、という思考スタイルです。

いずれにしろ、嵌まり込んだこのドロ沼から抜け出すのは大変なことです。その大変さは、全面的な解決策、官僚の好きな「抜本策」、ゼネラリトの改善計画、天才のひらめき等々では効果が期待出来ない点にあります。それは、持ち合いではないですが、<持ち寄る>ということでしか達成されないような<或るもの>なのです。

小手先の改善に留まり、従前を引きズルか、まったく新しいものとして再生するのか、今後の興論・議論に待つところが大きいと考えられますが、財政運営の弾力化、給付設計の弾力化もさることながら、基金の独立法人としての地位を確立・担保したいものです。

厚生省と厚生年金基金連合会と基金と内外金融機関等との協力のもとに基金に蓄積された、蓄積されつつある基金制度のインフラ(財政診断手法、受託者責任、受給権保護、時価評価基準、支払保証制度、数理無用論、資産運用ノウハウ等々)は、問題含みの経過的な成果とは言え日本に唯一確立されたものであり、今後の日本の年金文化、資産運用文化の中心足りえるものと考えられるし、現行法体系の歪を組み替えるときの基盤足りえるものでしょう。

この基盤のうえに、政府の金融ビッグバンの指針を生かし「公的年金はスリム化していかなければなりません。これは大方のコンセンサスですし、日本の置かれた状況を見るとその方向しかありません。」(厚生年金基金連合会発行「企業年金」2000/2月号-インタビュー矢野朝水厚生省年金局長に聞く)のかもしれません。日本人の老後生活も、アメフィディリテ<家族→制度→個人>(フィデリティのプレゼンテーション)という方向へ動き出しているのでしょうか。


2.基金問題のインパクト

●<人様のお金>が要請する効率市場
厚生年金基金に積み上がった年金資産(Other people's money)の実態は<人様のお金>だが、これを効率的に運用したいという基金の希望はシンプルです。不幸なことにこのシンプルさを達成することが従来拒まれていたのです。そこで、基金が要請するというより、<人様のお金>が要請する効率市場をどう確保・確立して行くかが問われることになりましょう。

始めに、過去に何度か行われた市場操作(PKO)に代表される大蔵省・通産省の産業資本移転は日本経済にとって無用になっているという認識が必要、今になっては余計なお世話ですし機能しなくなっているということは白日の下に晒されています。

次に、企業サイドには日本独特の資本主義(本来の株主がいない法人資本主義)の改造が必要、とはいえこれは現在、<平成の黒船>である国際会計基準への対応で海外から強要されてはいますが。

この対応である含み益経営のキャッシュ・フロー経営化、株式持ち合いの解消、退職金の後払い賃金説の導入、EVA等の企業評価指標による株式価値算定等々の大波が各企業を襲っていますが、これは逆に言えば、これらの種々な手法の逆の手法で大幅な市場操作(PKO)を産業資本配分の大義で政治・司法を巻き込んで大蔵省・通産省は行ってきたということです。

これが日本の統制・計画経済、日本型資本主義の実態であったのでしょう。そこには、資本の論理を全面的に制御・懐柔しようというマルクス主義的なロジックが仕掛けられていたということでしょう。

ここでは、<人様のお金>という個人の金は国家目的に、更に日本独特な企業経営の文脈(For the Kaisha)に没収されていたのです。この意味では、日本は崩壊したソ連以上に成功した(?)共産主義国であったのでしょう。国の復興、礎の確立をなし得て、世界一の債権国、つまりストックの積み上げを果たしたのですから世界で唯一共産主義の成功例ということです。その点では、中国にすら勝っているでありましょう。しかし、成功した共産主義とは言え、孤立したこの世界は現実に立ち行かなくなっているのです。



欠陥制度の退職給与引当金制度を支えたものは、高度経済成長によるネズミ講システムが有効だったことと、企業に株式と土地の含み資産を蓄積する会計と税制の歪みであった。
労働債務の“簿外債務”(含み損)を株式と土地の“簿外資産”(含み益)でバランスさせる、巧まざるサーカス経営、これが日本的経営の本質だった。

末村 篤:年金が企業経営を変える~年金から見た日本資本主義論~
㈱日本投資信託制度研究所「FUND MANAGEMENT」 '97.夏季号





次に、行政サイドの規制の網、特に5.3.3.2規制に代表される資産運用に対するそれは失われた損失を考えると気の遠くなる程であります。幸い、最近これはほとんど撤廃されました。

さらに、資産運用機関にはお上の方を向くことなくエンド・ユーザーに向いた質の高いサービスの提供を負託されるでありましょう。敵対的な「契約」的経営から負託に応じる「信認」的経営への移行を期待したいものです。

そこでは、一定限度以上の株式取得により持ち合い株を滞留させ流動性を阻害するなどということは考えられません。基金は、そういう手段になる恐れのある資金を信託銀行や生命保険会社へ資産運用とは言え提供してはなりません。基金は、委託先が無くなってしまうなどと言うぬるま湯感覚を脱却し新しい運用機関を探すことになりましょう。お任せ運用の無責任体質はこういうところに本質的な問題を秘匿しているのです。

それこそ、基金の受託者責任を果たせなくなるのではないでしょうか。そういう運用機関が残存するのであれば、それこそ議決権行使の対象でしょう、あるいはそういう運用機関は使うに足りないということでありましょう。

そのような運用機関の解約、撤退、シェアの削減、限定使用等々、基金の選別が始まっています。つまり、効率市場を阻害する運用機関に資産運用を委託するなどということは考えられなくなってきているのです。そのような運用機関をターゲットにした基金の戦略(筆者は、事務所で「資産運用機関の勝手格付け」というのを試みています)というのが現実に動き始めていますが、個々の基金の力は未だ運用機関にとっては脅威とまでは認識されていないようです。



機能的金融(対立概念は制度的金融)は、金融商品を媒介にして世界の中でのリスクの最適配分をするだけでなく、その最適性が十分でないときには新しい商品の発生や制度の変更を促す。これを不完備制度の完備化プロセスとみる。ベンチャー企業の資本市場である「マザーズ」「日本ナスダック」創設などもこのプロセスの例であると見る。

刈屋武昭『金融工学とは何か』-「リスク」から考える





要するに、<人様のお金>が市場の流動性を確保しつつ効率市場を達成するという至難なことを日本市場へ強制することになります。政府も行政も市場も<人様のお金>をエンド・ユーザーとした高品質のサービスの提供が求められるということです。それをなし得ないのであれば、<人様のお金>のパワーが政府・行政・市場にレッド・カードを突き付けることになりましょう。

●受託者責任が再構築する
受託者責任の理念が<人様のお金>のパワーを担保するインフラストラクチャーとして、時間がかかるかも知れませんが行政手法や市場整備や金融機関経営にインパクトを与え、強いては日本の経済・社会インフラストラクチャーの再構築を推進するエンジンとなるでしょう。

<人様のお金>は、過去30年にわたって日本独特の資本主義によって日の目を見ることもなく、企業から島流しにされた厚生年金基金事務所にひっそりと積立不足を抱えながら蓄積されてきました。おいおい積み上がってきたその資産は、再々企業からは<自分たちの金>扱いされてきましたし、それに抵抗する基金関係者の意識を会社人間は異端視してきたのが現実です。この間の基金関係者の状況を何と言ったらよいのでしょう。

これに関して、基金業務ⅠA型の運営についてではありますが、或る大企業基金の事務長が最近Eメールで次のように書いてきました。実務経験者として筆者もまったく同感です。

「10年間孤独状態の中で情報の収集を行い正確な事業運営を行い
加入員・受給者に対して生活の「安心」をバックアップすること
の困難さは経験した者以外は分かりません。」

「孤独」というのか、企業と基金の世界観の違い、<自分たちの金>と<人様のお金>の対立の背景に、共産主義と自由主義のそれ、大陸法と英米法のそれなどという総論的なフレーム・ワークは別にしても、圧倒的な企業論理席巻の戦後日本の土壌で基金関係者が押し込められた事実は最近まで続いてきました。 統制・計画的共産主義と化した戦後の日本資本主義には<人様のお金>の存在できる領域はなく、わずかに企業とは別世界の基金事務所で様々なリスクに晒されつつ細々と生きながらえるしか出来なかったのです。

しかし、時代は動くもの。強固な形態を誇ってきました日本の資本主義も一応の達成を果たしたところで、内部から崩壊するに至ったのです。それは、この度の国際会計基準により決定的になり、崩壊の度合いを一層早めている段階にあると言えるでしょう。

その典型的な現象が、2000年3月期、積立不足が60兆円と言われる退職給付債務計上のために赤字決算会社の続出という事態を招いていることに現れています。(平成12年3月22日・日経金融新聞・スクランブル・磯山友幸)
 
これらの背後にある時代の趨勢は、「フロー成長重視の産業社会からストック・マネジメント重視の年金社会への移行」(井手正介)という時代の大きな変化の波でしょう。そこでのキイワードは下記のように図式化出来るでありましょう。



図表32 時代の変遷項目





とはいえ、これらは完全に二分したものとして考えるべきではなく、融合競合した状態として考えるべきものでしょうし、時代の要請はその中にこそ次の時代を切り開くエネルギーを創り出そうとするのです。一方のみの力学の場合、それは、例えば裁量行政で示されました視野狭窄の直線論理のようなものであり、経験不足な童子のような振る舞いであるということになりましょう。

時代の状況は、価値の多様化に伴い、様々なムーブメントが複雑に乱れ飛び、2、3年で配置転換するゼネラリストには対応出来ない様態、つまり、なかなか落着しないアメーバー状の動乱なのです。当面の効率は求めようもなく、短期の評価は成立しえません。切磋琢磨の試行錯誤が時代の要請であり、むしろ効率というものは本来じっくり総合的に発揮されてこそその本質を明らかにするのでしょう。

このような多様・多面的な編成替えの時代になって、<人様のお金>を担保するインフラストラクチャーとして「受託者責任」の概念が大きな力となるでしょうし、それが日本社会のフレーム・ワークを再構築することになることを先に述べましたが、これを更に担保するのが、法理概念としての「契約」から「契約-信認」をベースとする法理への変更だと主張する論者(T.フランケル、岩井克人、樋口範雄等)が現れてきています。この日本において、新しい市民社会の構築に向けて議論が始まったばかりなのです。



ある人間関係が、現実の社会において、自己責任原理ではなく、社会的にみて有益な依存関係として把握した方がよいとの法制策的判断が行われると、従来は契約法理で規律していた関係が信認法に服するようになる。

樋口範雄『フィデュシャリー[信認]の時代』




●基金問題のインパクト
少子高齢化を迎えましたストック経済時代の要請は、積み上がった蓄えの効率化を最大の目標とすることになりましょう。

基金自体に30年余かけて営々と積み上がりました<人様のお金>は、積立不足があり積立水準をクリアーしていないという問題を抱えてはいますが、資産額としては企業資産に追いつき、追い抜く場面を迎えており、愈々ドラッカーの言う「見えざる革命」が日本においても現実のことになりつつあります。積み上がりました<人様のお金>が各方面に与えるインパクトは量り知れず、日本の経済・社会の編成替え、再構築を強要し始めています。


「身分契約へ」ではなく「身分契約と信認へ」─情報資本主義の下、私たちは、契約と信認という二つの異質な人間関係を軸とする、新たな市民社会像を構築する必要に迫られている。それは同時に、国家なるものに対して、個人の自由な活動の場の保障という消極的な役割だけではなく、信認関係の法的な規制という積極的な役割を与えることでもある。

岩井克人『二十一世紀の資本主義』
「契約と信認」-市民社会の再定義





 その展開をさらに一層促進するのが2000年度の国際会計基準採用に伴う退職給付債務(PBO)の企業会計への計上です。 そこから、政府においても財政の面からも国民の意識の面からも肥大は許されず<小さい政府>が求められ、企業活動もEVA等の評価指標で量られ費用対効果の最大化を要求されるでしょうし、運用機関はローコスト・ハイリターンな高資質サービスを負託され、基金には受託社責任を全うした一層卓越した経営が求められるようになるでありましょう。

これら各種の要請が相俟って、ストック経済時代の社会保障スリム化というシナリオを成就させることになるのでありましょう。

このような世の中一般の編成替えの時に、厚生年金基金制度も当然変貌していくことになりましょう。変貌もままならぬと言うことであれば、確定拠出型年金に席を譲って<退場>するしかないでしょう。それも一つの選択肢ではありますが。



金融技術や情報技術は、資本の効率性を促進し、グローバル化した世界の資本市場において資本の最適リスク配分を可能にする。実際、この二つの技術は、金融の機能(ファンクション)や資本市場の機能を高め、業態を中心とした金融システムからリスク配分機能を中心とした金融システムへの移行を促している。

刈屋武昭『金融工学とは何か』-「リスク」から考える






そうではないとすれば、雇用の流動化にどう対応するのか、制度のフレキシビリティをどのように確立していくのか。社会保障スリム化にどう貢献できるのか、国際会計基準下の日本企業に効率的な社員老後資金システムを提供できるのか。<顔の見える基金>にどう変貌するのか。資産運用文化形成にどう貢献できるのか、……確定給付型年金は正念場を迎えているということでしょう。


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