通信機器の発達や通信環境の整備が進むにつれ、喫茶店や電車などでノートパソコン(PC)を使う人々の光景は日常のものとなっているが、最近では路上でPCを使う「ストリートコンピューティング(SC)」が広がりつつあるという。急を要してPCを路上で使うことはあるが、“ふつう”にPCを使うとは…。どうやって、そしてなぜ、彼らはそこまでして路上でPCを使うのだろうか。(織田淳嗣)
システム開発も路上で…
オフィス街のあるJR東京駅周辺を歩いてみると、休憩用の手すりにPCを置いたり、道路の脇に座り込んだりして、SCを行うビジネスマンの姿が…。男性の1人に用途を聴こうと声を掛けたが「忙しいので」と断られてしまった。別の30代の男性は、「会社専用のPCでないと、やりとりできない情報があるので」と教えてくれた。
しかしネットには、SCを行うことを目的に集まる人々がいた。
昨年開催されたオフ会「天下一ストリートコンピューティング大会」。参加した元会社員の男性(31)によると、秋葉原の路上でSCを通じて知り合った人々の仲間が増え、新しくSCを始めたいという初心者の要望もあって開催されたという。
秋葉原をはじめ、遊園地や皇居前、電車などあらゆる場所で、SCにいそしむ彼らの姿は「路上パソコン族」として雑誌や民放で紹介された。
プログラミングが趣味という男性は、「常にPCを持ち歩いているので、外に出るたびにSCを行っている」。ウェブの閲覧やチャットなどの基本的な作業から、ウェブサービスの開発など本格的なものまで、あらゆる活動を自宅と同じように行っているという。「外に出ている時間も、ネットやコンピューターと切り離されることが耐え難いので」とその心境を語り、「冬場は防寒のために厚着をしたりカイロを持ったりすることが推奨です」と教えてくれた。
ナゾの「小池スタイル」とは?
民放のバラエティーで紹介され、感嘆(?)の声を集めたのが、中腰で太ももの上にPCを置いてタイピングをする「小池スタイル」だ。歩きながら小池スタイルを行う人々の姿に、「通行人の邪魔だ」「器用すぎる」などと大きな反響があった。
このスタイルを生み出したのは、口座番号をウェブにさらして現金を振り込んでもらうプラットホーム「金くれ」の管理人で、シナリオライターの小池隆さん(23)。かつて路上で仕事を思いだし、近くにカフェなどがなかったので、「必要にかられて」あのスタイルになったという。その姿を見た知人によって命名された。
SCについては、「仕事や趣味として文章やプログラムを書くことが多いのですが、携帯端末では機能的に不足があることが多く、フルスペックのコンピューターが必要になることが多々あります」と語る。さらに、「普段室内など決まった場所で行う作業を、室外など刺激の多い場所で行うことで、刺激を得て作業や発想を活発化させようという意図もあります」とメリットを教えてくれた。「小池スタイル」は時代の先端を行く、クリエーティブなスタイルなのかもしれない。
電源確保が課題
実際に自らやってみた。手のひらの下の部分でPCを押さえつけながら、キーボードをたたくわけだが、かなり手のひらに負担がかかる。じっとりと汗が出てきた。ひざをしっかり閉じ、つま先を内側に向けるとより安定するようだ。
SCの最大の課題は、電源の確保である。このため、電源の使える喫茶店を特集したウェブサイトも登場している。
喫茶店のルノアール(東京)では、都内の約90店舗すべてで電源の貸し出しを行っている。足りない場合は延長ケーブルを用意する徹底ぶりだ。同社営業部では「PCを使用されるお客さまが増え、4年ほど前から全社を挙げて協力するようにしました」という。今やSCに優しい環境が整いつつあるといえよう。
寒風のためか、今週末の秋葉原では、SCにいそしむ人々を見ることができなかった。だが立春を過ぎ、暖かくなれば、街のあちこちで「小池スタイル」が見られるかもしれない。
(MSN産経ニュース、http://sankei.jp.msn.com/life/trend/100131/trd1001310701002-n1.htm)