「しっかりしろ真理ちゃん」
久幸が必死で真理の耳元で囁いている。
結婚式を明日に控えて真理の意識が混濁し始めたのである。
「真理さん、明日よ。明日私達の結婚式よ」
由紀も必死で真理に呼びかける。
「反応はない」
真理が開業する予定だった医院で久幸と由紀は結婚式を挙げるのだ。真理の意識さえしっかりしていれば問題はない。
「その意識が混濁し始めたのだ」
久幸と由紀は絶望感に襲われた。
「だめか」
打ちひしがれて久幸がこういうと、かすかに真理が反応してか細い声でこう囁いたのである。
「大丈夫、結婚式にはでる」
真理も薄れ行く意識の中、必死で病魔と戦っていたのだ。
「ああ真理ちゃん」
久幸と由紀は真理の手をしっかりと握ったのだった。