たしかに「ある意味で」面白い本だった。これまで見てきた中国での戦争中の写真が本物であるか否か?
しかし、 写真に関しては、ありとあらゆる角度から疑問符を投げかける著者だが、日本軍にとって都合の良い写真や、従軍記者や日本軍大尉などの発言に対しては何の疑問も感じず鵜呑みである。
南京での「合法的処刑」については著者は本書で認めている。ジュネーブ条約やバーグ陸戦法規などを挙げているが、当時の関係者や一歩兵がそういった法を熟知・遵守していたのだろうか? 現在のようにマスコミが発達していてもイラクでは捕虜に対する不適切な行為が行われているのだ。また、そういった戦争法を知っていたなら、第二次世界大戦末期に多くの日本兵や一般人が自決的行為を行わなくても済んだはずである。
埋葬した遺体は15000体であるということも著者は本書で認めている。また、虐殺かどうかは別として、中国での戦闘行為の死者についても否定していないが、他人の土地に上がりこみ武力を行使すると、その正当性・合法性が当時どういったものであろうが禍根を残すことは明白である。
たしかに著者が主張するように、何枚かの写真は、南京大虐殺や日本軍の残虐行為とは無縁のものもあるかもしれない。しかし、中国で日本軍が行ってきたことは、加害者側の告白からもわかるし、虐殺の数の多少はあるかもしれないが、否定できない事実だろう。ちょっと洞察してみればわかることではないか? 治安が良いといわれている今日の日本でも、日々、尋常でない事件・陰湿な事件が起こっている。「スーフリ」のような鬼畜の所業もあるわけだ。鬼畜の所業までは行かなくとも、性欲をコントロールしきれない男は五万とおり、アジア諸国で女を買ったことを自慢するバカもいまだに少なくない。学校ではイジメがあっても中に入って止めることのできる人間は少ない。当時は人権意識も今日ほど高くなく、「チャンコロ」などという蔑称が当たり前に使われていた時代だ。現在でも、近隣諸国の人たちに対する差別意識や偏見・無知は多々存在する。そんなことなどから考えると戦時下の中国で、日本人がそれなりのことをしてきたことは容易に想像がつくはずだ。
もう少し私なりに逆に疑問符を投げかけてみよう。「日本軍は代価を払って鶏を買った」とあるが、日常でも汚い上下関係がある場合、「よこせ!」という奴や、買うといって品物を受け取った後、金を払わない奴も多々いるではないか? また、中国人の臓器試食について、著者は「そんな残酷な行為をする習慣があっただろうか?」と記しているが、戦争末期、撃墜したB29搭乗員らを生体実験し、医者が臓器を自慢げに喰ったというレポートを読んだことがある。
私は、虐殺の数が、30万人だったのか、3万人だったのか、3千人だったのかは、わからない。しかし、30万なら大虐殺で、3千人なら大虐殺でない、なんてことはないはずだ。
「南京事件は歪曲」と簡単に言い切る若者が増えていることは、戦争体験の第三世代への伝承がいかに難しいかを物語っているようで、とても残念だ。
(個人的評価:★★)
(おすすめ度:一読の価値くらいはある)