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エルミタージュ図書館

ただ単なる個人の読書備忘録
た、ま~に更新

『いつかモイカ河の橋の上で』 中野吉宏 著 (第三書館)

2006-06-16 22:53:37 | 
 副題は「会社を休んで59日間 地球一周」とある。

 大学を出てフリーターをしながらお金を貯め小さな会社をつくった30代後半の男。一生懸命働くものの不景気も手伝い気持ちは空回り。ちょっとした出来事がきっかけとなり、突然、仕事を放り出し、大学時代以来2回目の海外旅行に出る。出発は大阪港からフェリーで上海へ。そこから鉄路シベリアを経由しロンドン。さらにアメリカも東海岸から西海岸まで大陸横断鉄道で移動し、成田へ。仕上げは「ムーンライトながら」だ。

 道程も、日々、仕事に追われるサラリーマンにとっては魅力的だが、旅先での多くの人との出会い、特に1982年のレニングラードと2000年のサンクトペテルブルグ・ニューヨークの時間と距離が点から線になる部分ははフィクションではと思わせるくらいドラマチックだ。93章のドラマと93枚の写真がページ見開きで再現される。文章は全章一定の文字数でリズミカルにまとめられている。美しい風景写真も素敵だが、その瞬間だけを見事にとらえた人々の笑顔は、読むものをストーリーの中に引き込んでしまう体感型の本。

 192ページで3150円と価格は高めであるが、読み始めるとそれも納得。非常に良質な紙を使いカラー印刷もしっかりしている。テンポの良い読みやすい文章は、人によっては、物足りなさに感じるかも。この本を読むと「明日はどうにかなるもの」という勇気さえ与えられる。


(個人的評価:★★★★)
(おすすめ度:これから旅に出てみようという人はもちろん、なかなか旅に出られないという人にも)

『流学日記』 岩本悠 著 (文芸社)

2005-08-07 06:59:46 | 

 インターネットでこの本の存在を知った。

 タイトルもなかなか惹かれるネーミング。表紙のデザインも良さそうだ。「ここに書いてあるものはすべてタカラモノようなものです。」と帯にある椎名誠の文句もインパクトがある。原稿を二十数社に持ち込んだもののダメで200万円借金して2000部自費出版したというパワー、インターネット上のレビューでの★5つ連発にも興味をそそられた。

 1万部以上売れているらしいが、1か月以上、いろいろな書店を回ったがなかなか在庫がなかった。 インターネットで本を取り寄せようかと思った矢先、近所の書店で在庫を見つけ購入した。

 自費出版本なので編集という作業はされていないようだ。242ページの本だが、「神の下ではみな平等」「踊るインド人」など一部に読みどころはあったものの、ほかはどうしようもないような文章が続く。きちんと編集すれば、32ページくらいの本にしかならないのではないだろうか? というより、こんなに世界を自由に回って、この程度の内容しか書けないのだろうかと情けなくなってしまうわけだ。(濃厚な旅をしたことが必ずしも文章化につながるとは思わないが、濃厚な旅をしたのなら、こんな文章は書くべきではないと思った)。第一、椎名誠に帯を書いてもらえるようなコネがあったのなら、自費出版する前に、椎名誠に文章を見てもらうべきだったたと思うし、内容が良ければ「情報センター出版局」あたりからでも出版できたただろう。

 作品全体(本文+著者の写真+経歴)を見て、「ドラッグや万引き窃盗に手を染め、自己正当化して生きてきた」著者のことが、たとえ過去の話であっても許せなく思える内容なのだ。さらに不快感に油を注いだのは★5つのレビューに見られる賛辞である。どう考えてオール★5に近い状態は組織票的なもので、もっと★1といった評価があってもまったく不思議でない出来である。


 椎名誠が書いた本書の帯「タカラモノ」は「宝物」ではなく「多空モノ」の諧謔的表現ではないかと、今になって思ってしまうのだ。 それに、880円の本を2000部つくって、どうして200万円もの費用がかかるのだろうか?

(個人的評価:★)
(おすすめ度:著者の笑顔が素敵だと思う人は、まず立ち読みから)


『大黒屋光太夫』(上・下) 吉村昭 著 (新潮文庫版)

2005-08-05 00:13:20 | 
 この物語は、18世紀後半、三重県白子の船乗り大黒屋光太夫たちが嵐に遭いカムチャツカ沖の島に漂着してから、帰国するまでの10年間を描いた実話である。

 私は20年ほど前に井上靖の『おろしや国粋夢譚』を読んだことがあるので、話の流れは知っていた。それでも、2年ほど前に毎日新聞の書評で本書『大黒屋光太夫』が大きく取り上げられているのを見た時に「書店に行かなければ!」と思ったほど、大黒屋光太夫は私の人生において興味のある人物なのである。
 その書評は切り抜いたものの、時間はズルズルと流れてしまった。この2年間、巨大書店では、『大黒屋光太夫』に偶然出会うこともなかった。 しかし、出張先で目を通していた新聞に文庫本の広告が出ていたので、仕事が終わると書店に急行した。店員の話によると、その日、大量に売れたらしく上巻が最後の1冊。下巻は売り切れていた。

 本書を手にした時の第一印象。活字がデカイ。活字がデカイので2巻で600ページだが量も気にならなかった。
 読み始めてからの第一印象は、艶話が目立った。最初、少し抵抗があったが、事実に基づくようなので結果的には楽しめた。機会があれば、本書の参考文献にあたる『極珍書』という書も見てみたいが、こういう思いが湧いてくると、古文の時間に怠けていた自分が悔しい。
 とにかく、井上靖の『おろしや国粋夢譚』とは結末が違うので、それだけでも一読の価値はある。私自身、これを機会に『おろしや国粋譚』を再購入し、読み比べてみようという気になった。

 ロシアのエルミタージュ美術館の奥深くに、大黒屋光太夫が置き土産にしたと思われる「根付」が展示してある。大黒屋光太夫の名前は記されていなかったと思うが「白子」か「津」の地名が記されていた覚えがある。興味のある方はぜひ。(常時公開されていますが、団体旅行では、この展示場所まで足を運ばないと思う)

 ところで、インターネット上のレビューを見ていると、この話を安易に「北朝鮮の拉致問題」と同一視しようとするものや、ロシア人の親切さに懐疑的な見解を投げかけるものを見たが、かわいそうな人たちである。 一度、言葉の通じないところを旅して、人の優しさに触れてみるべきだと思った。


(個人的評価:★★★★)
(おすすめ度:『おろしや国粋夢譚』の結末がイヤだったという人はぜひぜひ)


日本の島ガイド『シマダス』 財団法人 日本離島センター 編 (日本離島センター刊)

2005-07-17 23:22:23 | 

 南西諸島はもちろんのこと、尖閣諸島、竹島、軍艦島、南鳥島(気象庁・海上自衛隊・海上保安庁の職員のみの15人の島)、孀婦岩(見たことないだろ~。私は見たことあるけど)、臥蛇島まで、有人無人、日本にあるすべての島を網羅している書。
 【所在地】【面積】【周囲】【標高】【世帯数】【人口】【年齢比率】【産業】【来島者数】【交通機関】から【窓口】まで。地図の記載も多い。私の所有しているものは1998年版1152ページで2800円(税別)。しばらく改訂版が出ていなかったが、2004年7月、『シマダス第2版』(1327ページ 税込3150円)が出た。
 地図や時刻表で「旅」することのできる人には必携の1冊!


(個人的評価:★★★★★)
(おすすめ度:地図や時刻表を見て、旅することができる人には一生モノです!)