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エルミタージュ図書館

ただ単なる個人の読書備忘録
た、ま~に更新

『さよならを教えて』 藤岡亜弥 著 (発行:ビジュアルアーツ 発売:リコシェ)

2005-08-23 00:37:38 | 写真集

 本とは意外な出会い方をするものである。

 この本とは仕事の帰りの新幹線の中で出会った。

 新幹線の中で発売していたわけではない。隣の座席の人が読んでいたわけでもない。
 実は、隣の人が読んでいた「朝日新聞」の日曜の書評に掲載されていたのだ。
 書名はかの有名なフランソワーズ・アルディのシャンソンと同一である。 私は目が悪いので、隣の人の書評を読むなんてことはできない。しかし、書評に載っている鮮明ではない白黒写真は、なぜか強く私を呼ぶのである。

  駅で降りるとすぐに、書評を読むために朝日新聞を購入してみた。まず、「えっ」と思ったのは、日曜日の書評欄の書評なのにもかかわらず作品の問い合わせ電話番号が掲載されているのである。実は、この写真集、自費出版のようだ。(リコシェという販売会社を経由しているので書店でも購入できる)。落ち着いて書評に目を通してみるが、読者の購買心理をくすぐるような絶妙な文章なのだ。

  私はすぐに注文した!

 本は、いかにもアートといった装丁である。1枚1枚の写真そのもののレベルは、あまり高いものには思えないが、処理やレイアウトすると、写真集として不思議なトーンを放つものに仕上がっている。今でもたまに本棚から取り出してページをめくってみることがある。感動系でも、癒し系でもない。やはり不思議なトーンを放ち続けている。

 不思議な出会いをした1冊だったが、これだけでは終わらなかった。

 朝日新聞の日曜日の書評に掲載されるということは、著作者にとっても発行元出版社にとっても一種のステータスである。
 現に本著は朝日新聞の書評のおかげでそれなりに売れているようである。 しかし、インターネットで検索してみると、著者以外に2人の名前がクレジットされていたのである。(本書奥付にも2人の名前はたしかにクレジットされている)。その中の1人が実は、朝日の書評を書いた評者なのである。

 これって反則じゃないかな? 朝日新聞さん!

(個人的評価:★★★)
(おすすめ度:写真というものとアートというものの違いを知ることのできる1冊)


『流学日記』 岩本悠 著 (文芸社)

2005-08-07 06:59:46 | 

 インターネットでこの本の存在を知った。

 タイトルもなかなか惹かれるネーミング。表紙のデザインも良さそうだ。「ここに書いてあるものはすべてタカラモノようなものです。」と帯にある椎名誠の文句もインパクトがある。原稿を二十数社に持ち込んだもののダメで200万円借金して2000部自費出版したというパワー、インターネット上のレビューでの★5つ連発にも興味をそそられた。

 1万部以上売れているらしいが、1か月以上、いろいろな書店を回ったがなかなか在庫がなかった。 インターネットで本を取り寄せようかと思った矢先、近所の書店で在庫を見つけ購入した。

 自費出版本なので編集という作業はされていないようだ。242ページの本だが、「神の下ではみな平等」「踊るインド人」など一部に読みどころはあったものの、ほかはどうしようもないような文章が続く。きちんと編集すれば、32ページくらいの本にしかならないのではないだろうか? というより、こんなに世界を自由に回って、この程度の内容しか書けないのだろうかと情けなくなってしまうわけだ。(濃厚な旅をしたことが必ずしも文章化につながるとは思わないが、濃厚な旅をしたのなら、こんな文章は書くべきではないと思った)。第一、椎名誠に帯を書いてもらえるようなコネがあったのなら、自費出版する前に、椎名誠に文章を見てもらうべきだったたと思うし、内容が良ければ「情報センター出版局」あたりからでも出版できたただろう。

 作品全体(本文+著者の写真+経歴)を見て、「ドラッグや万引き窃盗に手を染め、自己正当化して生きてきた」著者のことが、たとえ過去の話であっても許せなく思える内容なのだ。さらに不快感に油を注いだのは★5つのレビューに見られる賛辞である。どう考えてオール★5に近い状態は組織票的なもので、もっと★1といった評価があってもまったく不思議でない出来である。


 椎名誠が書いた本書の帯「タカラモノ」は「宝物」ではなく「多空モノ」の諧謔的表現ではないかと、今になって思ってしまうのだ。 それに、880円の本を2000部つくって、どうして200万円もの費用がかかるのだろうか?

(個人的評価:★)
(おすすめ度:著者の笑顔が素敵だと思う人は、まず立ち読みから)


『大黒屋光太夫』(上・下) 吉村昭 著 (新潮文庫版)

2005-08-05 00:13:20 | 
 この物語は、18世紀後半、三重県白子の船乗り大黒屋光太夫たちが嵐に遭いカムチャツカ沖の島に漂着してから、帰国するまでの10年間を描いた実話である。

 私は20年ほど前に井上靖の『おろしや国粋夢譚』を読んだことがあるので、話の流れは知っていた。それでも、2年ほど前に毎日新聞の書評で本書『大黒屋光太夫』が大きく取り上げられているのを見た時に「書店に行かなければ!」と思ったほど、大黒屋光太夫は私の人生において興味のある人物なのである。
 その書評は切り抜いたものの、時間はズルズルと流れてしまった。この2年間、巨大書店では、『大黒屋光太夫』に偶然出会うこともなかった。 しかし、出張先で目を通していた新聞に文庫本の広告が出ていたので、仕事が終わると書店に急行した。店員の話によると、その日、大量に売れたらしく上巻が最後の1冊。下巻は売り切れていた。

 本書を手にした時の第一印象。活字がデカイ。活字がデカイので2巻で600ページだが量も気にならなかった。
 読み始めてからの第一印象は、艶話が目立った。最初、少し抵抗があったが、事実に基づくようなので結果的には楽しめた。機会があれば、本書の参考文献にあたる『極珍書』という書も見てみたいが、こういう思いが湧いてくると、古文の時間に怠けていた自分が悔しい。
 とにかく、井上靖の『おろしや国粋夢譚』とは結末が違うので、それだけでも一読の価値はある。私自身、これを機会に『おろしや国粋譚』を再購入し、読み比べてみようという気になった。

 ロシアのエルミタージュ美術館の奥深くに、大黒屋光太夫が置き土産にしたと思われる「根付」が展示してある。大黒屋光太夫の名前は記されていなかったと思うが「白子」か「津」の地名が記されていた覚えがある。興味のある方はぜひ。(常時公開されていますが、団体旅行では、この展示場所まで足を運ばないと思う)

 ところで、インターネット上のレビューを見ていると、この話を安易に「北朝鮮の拉致問題」と同一視しようとするものや、ロシア人の親切さに懐疑的な見解を投げかけるものを見たが、かわいそうな人たちである。 一度、言葉の通じないところを旅して、人の優しさに触れてみるべきだと思った。


(個人的評価:★★★★)
(おすすめ度:『おろしや国粋夢譚』の結末がイヤだったという人はぜひぜひ)