臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

STの存在理由④

2007年11月21日 | Weblog
食べれる口作り、について述べる。

嚥下するときのことを思い出してほしい。

舌尖を硬口蓋の歯列近くまで動かして、そこに固定して蠕動運動様に口峡方向へ送り込む。

嚥下のときは、閉口して行うのが効率が良い。

つまり、自動運動で舌尖挙上や閉口が促す事が出来れば、かなり良いと思われる。

人中は、人体の中で一番敏感らしい。

つまり正中線に沿った口腔周囲が、敏感ということになる。

食事介助や口腔ケアを実施するときも、そのことを念頭に置かなくてはいけない。

いきなりスプーンやハブラシなどが、人体で一番敏感な部分に触れれば、かなりの刺激になろうことは想像に難くない。

さて、具体的に何をするか、だが特別な道具は要らない。

せいぜい、指、いつものハブラシ、とかで十分である。

まず、開口を促す。

今の時期、空気が乾燥しているので、開口状態の方は特に口腔内が乾燥していることが多い。

いきなり、口腔内へアプローチをしてしまうと、乾燥した口腔内粘膜を傷つけて出血をしてしまう可能性がある。

水で良いか、湿潤ジェルが良いか、適宜判断して、出血リスクを軽減してから取り掛かる。

先ほどの人中へのアプローチは、気をつけて行う。

出来れば、比較的敏感ではないはずの口角あたりから行うのが良いかもしれない。

STの存在理由③

2007年11月19日 | Weblog
STとしての腕、について述べてきた。

嚥下に関して、特に「食べれる口作り」を考察してきた。

パンドラの箱の話を引用したのは、老婆心のつもりである。

さて、話しを少し元に戻そう。

「食べれる口作り」である。

言葉では簡単であるが、なかなか実践出来るものではないことは、現場のSTの方々は良くご存知のことと思う。

摂食・嚥下リハへの取り組みへ協力的なDrやNsなどが居られる場合もだが、そうでないも場合は、なかなか大変である。

誤嚥性肺炎の最大の要因が、食事時のムセなど顕性誤嚥のみでなく、嚥下反射が低下している睡眠中の唾液誤嚥による不顕性誤嚥であることがあまり知られていない。

そして、誤嚥性肺炎は全身疾患であることを念頭に置かなくてはいけない。

つまり、摂食・嚥下障害のみをリハビリして食べれるようになりました→そのうち誤嚥して肺炎になりました、では困る。

また、誤嚥性肺炎で急性期病院に入院し、経口摂取困難として胃瘻造設となり、そのまま維持期施設へ入所したものの、ご家族は、実は経口摂取を希望されている、といった場合に、リスクをどうするのか、を考えなくてはいけない。

つまり、嚥下の直接訓練を行う事と、その影響がどの程度なのか、継続して直接訓練を行えるのか、のバランスを診なくてはいけない。

そういう場合に、STの腕が問われるのではないだろうか。

単に「食べれる口作り」に長けているだけでなく、全身状態を診て、血液データを診て、フィジカルアセスメントを行い、ご家族のご意向(水羊羹を食べさせたい、自分で食べさせたい、形のあるものを食べさせたい等)への配慮、嚥下機能の把握、直接訓練の実施予定期間(エンドレスなのか、期間限定なのか等)、食形態を上げるべきか下げるべきか、などなど。

いったん口から食べたら、それは誰でも食べたいのだから、それを何らかの理由があるにせよ、中止するのは、とても酷なことである。

だからこそ、エンドレスで続けれる直接訓練をまずは模索しておくべきであろう。

何はともあれ、まずは「食べれる口作り」について、次回からもっと詳細に述べる。

STの存在理由②

2007年11月17日 | Weblog
瞬目反射を利用して、視知覚認知の目途を付けることは述べた。

こう書くと何やら、難しく考えてしまうが、大した事ではない。

顔を近づけたとき避ける動きがあるか、などでさり気無く確認すれば良い。

STはコミュニケーション障害が専門であるので、この確認の際の配慮は怠らないようにしないといけない。

視線、視野を確認して、どのあたりが見えているのかのアタリを付ける。

白内障も案外多いので、カルテもしくは直接眼をみて、白濁しているかどうか等を確認しておく。

認知症で摂食障害となると、かなり身体機能も低下していることが想像されるので、体幹や頸部、筋緊張も診ておく。

適合していない車椅子で長時間すわっていて、座位姿勢が保っていられない場合は、PTさんやOTさんにご相談する。

シーティングや姿勢、上肢機能については、また日を改めて述べる。

視知覚の確認が済み、ある程度は姿勢が保持できたところで、いよいよ「食べれる口作り」を行う。

開口障害の場合は、率直に言って対応しやすいと考えている。

なぜなら、開口が出来れば良いからである。

つまり、なんらかの理由で既に、閉口が出来ている訳なので、それを開口できるようにすれば良い。

もっと言えば、閉じているのを開けばよいのである。

頬内側から咬筋などをマッサージすることで、閉口筋のマッサージを行う。

その際、K-Point周囲にも触れることになるし、歯根膜センサーへの刺激も当然入る。歯列を超えて舌が頬側まで動かせるようであれば、自然と開口を促せる。

当然ながら、自動運動のほうが他動運動より自然である。

逆に、閉口障害の場合、対応が困難である。

理由は、開いているのを閉じるのが難しいからである。

廃用などで一旦獲得してしまったバランスを修正し、開口状態を閉口状態へ再移行させるのは、困難を極める。

こういう場合、恐らく義歯は総義歯でしかも未装着、または不適合の場合が多いのではないだろうか。

そうなると、ただでさえ開口しやすくなっているのに加えて、義歯での口唇保持が不可となり、一層開口部位が大きくなる。

STの存在理由①

2007年11月16日 | Weblog
自分がSTをやっていく上で、大切と考える事について述べる。

①腕

②経験

③知識

以上、3つである。

①腕、とは「自然回復でなく、STが介入して良くする」事を、一言で述べたものである。

嚥下で言えば、例えば脳卒中後、経口摂取を試みたが誤嚥性肺炎を繰り返し、胃瘻となったものの、ご本人様やご家族から「是非経口摂取を」とのご要望に、どうこたえるか?ということになるのだろうか。

こういう場合、低栄養だったり、認知症を伴っていたり、経口摂取介助を行うスタッフが不足していたり、嚥下造影などの精査が実施困難だったり、非常に頭を悩ませる事が多いと思う。

色々な問題が存在する中で、どこから手をつけるのが合理的で効率的で生産的か、スクリーニングの時点で目途をつけて取り掛かる。

当然、リスクやゴールとを、頭の中で天秤に掛ける。

つまり、嚥下障害と経口摂取を天秤にかけて、容認可能な範囲に収めれるか、をシュミレーションする。

パンドラの箱であれば、色々な災難が出た後に希望が出てきて救われる話で済むのだが。

少し話がずれた。

STの腕、という事で考えると、嚥下の場合、「食べれる口を作れるか」ということになるのだろうか。

摂食障害のみなのか、摂食・嚥下障害なのか、それで話が違ってくる。

認知症でよくある摂食障害が中心で、開口障害があるが、いったん口腔内に入れば、ある程度咀嚼から嚥下に移行できる場合では、まず、瞬目反射があるかどうかをみる。

目の前にパッと何かが近づいたとき、目を閉じる反射である。

これがあるのなら、少なくとも開眼状態のとき、目の前は見えているわけである。

認知期が多少とも、確保されていることにもなる。

そうであれば、あとは「食べれる口作り」をすれば、認知期→口腔期→・・・と出来る。


嚥下について⑨

2007年11月13日 | Weblog
続きを述べる。

⑥フィジカル・アセスメント(英語だと難しそうだが、結局、人体を調べて評価を行うこと)→視診、聴診、触診などだが、とりあえず難しく考えないこと。表皮がめくれてカサカサなのは、脂肪欠乏性なのか、微量元素欠乏なのか、脱水なのか、それらの合併なのか、などを考える。
ただし、筋や骨の同定、肺の聴診、腸の触診などとなると正確な解剖の知識が必要となる。目的の構造物がどこにあるのか、体表の目印(鎖骨、胸骨柄、肩峰など)からどの位離れたところにあるのか、聞いている肺の音は本当に肺の音なのか、そもそも、使っている聴診器で聞ける周波数帯に目的の音が入っているのか、など、こだわるとかなり修練を要する。

⑦褥瘡(嚥下障害で生じる低栄養状態では、発生しやすい。仙骨部に好発するのは背臥位姿勢では全体重の44%がかかり、また座位姿勢で日中過ごす時間が増える傾向にあることも影響している。筋肉は、最高のクッションだが、姿勢を自ら変えて除圧出来ない時間が長くなると、ご存知の通り、褥瘡が出来る可能性が高まる)

⑧感染症(肺炎が該当する。肺炎とは、原因菌の出す酸による肺胞の損傷であり、創傷の治癒が必要となる。つまり、手術や外傷、熱傷など観血性でないだけで、創傷治癒には蛋白質などが必要となる。不顕性の誤嚥で体重が減る原因と思われる。いくら食べても、その摂取カロリーを肺炎の創傷治癒へまわすことで結局身にならない。)

とりあえず、一旦この「嚥下について」のシリーズを終了する。

私見及び様々な資料からの見解を述べてきた。嚥下障害と言っても、当然のことながら、教科書的な対応で話がすむことが無い。

そのとき、どうするのか。

その答えを、自分なりに追求して、ここまで述べたようなプロットや思考パターンを形成してきた。

これで効果がでているかどうかは、正直に言って自信が無いが、しかし、確実に言えるのは、知らないでいるよりは知っているほうが引き出しが多くなって、嚥下障害を多面的に診れるような気がしているのは事実である。

嚥下について⑧

2007年11月12日 | Weblog
臨床のSTとして、嚥下障害をみるプロットを述べてきた。

そのプロットのみならず、様々な私見も述べてきた。

理由として、嚥下障害は、例えば認知期、口腔期、咽頭期、食道期のみ診れば良くなる、とは言いにくい気が個人的には、しているからだ。

セラピストではなく、ご本人様が答えを出される、と自分は思っている。

また、良くなればご本人様や周囲のスタッフの皆様のおかげ、悪くなれば自分のせい、と考えている。

そのためには、まず、介入する側の因子として、悪くしないSTリハをするようにしないといけない。

もしくは、悪くしない可能性の高いリハビリテーションを多く行い、悪くする可能性の高いリハビリテーションを少なくする必要がある。

さらに、リハを受けられるご本人様の因子も考慮しないといけない、と思う。

尿路感染症の熱と、肺炎の熱が鑑別できないと、ベッドサイドに行ったとき、氷枕がしてあったとき、どちらに照準をあわせてリハをするのか、が変わっていく。

尿路であれば、水分をとれる方法を模索することになるだろう。たとえば、誤嚥リスクが高い方であれば、STの出番であろう。また、コップに増粘剤を入れてからお茶などをそそげば、ダマになりにくいですよ、といった「一言」も活きてくる。

肺炎であれば、特に誤嚥性肺炎は、経管栄養の場合、特に多いように思うが、いわゆる「寝たきり」と「開口状態」と「口腔乾燥」が組み合わさっている場合が多いような気がする。

寝たきり状態で開口状態が多い訳は、結局、体幹や四肢で必要十分な抗重力肢位を取れない代償と考える。可能な限り、バランスを取るように人間の体は出来ているので、ADLで最後まで残存しやすい口腔・顔面領域で何とか全身のバランスの調整を取ろうとして、という事なのだろう。

もちろん、鼻呼吸が出来にくいから、というもっともな理由もあるだろうが。

また、微熱で37.5度ありました、と言っても、毎日の申し送り等で本当の平熱が分かっているかどうか、確認をする必要もある。元々、平熱が低い場合もあるからである。

脱水があるか、下肢の浮腫があるか(心機能、Alb、利尿剤中止など)、尿の混濁があるか(尿路感染)、体重の急激な増減はあるか(心機能低下による浮腫、食事量低下など)…正直、きりが無いが普段のご様子をきちんと把握し、そこから逸脱している事項(たいてい、申し送りされるはずだが)を自分の目で確認し、STリハにつなげていく。

結局、嚥下をみようとすると、思いつくままでも、以下の項目を診る必要があると思われる。

①栄養(単に摂取量のみでなく、血液データでアルブミンをみるだけでなく、DMがあれば、発症からどのくらいとか、歯がどのくらい残存しているか、とか)

②嚥下(本職なので)

③呼吸(とても大切な評価項目で、これを抜け目無く診れるSTになるのが今の目標)

④姿勢(体幹、四肢、利き手のリーチ、箸やスプーンを操作する上肢、テーブルの高さ、頚部の安定性、後頚部で頭部を支持できるか、など)

⑤口腔(自歯、咬合、舌の可動域、不随意運動の有無、義歯の適合状態など)

嚥下について⑦

2007年11月10日 | Weblog
先行期、つまり認知段階の障害について、慢性期の施設や病院のSTさんなら良くご存知だろうが、認知症のおそらく最重度レベルでは、基本的にこれという対応策がないと思われる。

自分の腕が無いことを棚に上げて、思ったことを述べる。

リハとは再学習、らしい。

そういう定義でいくと、認知症で最重度のほぼ寝たきり状態の方で、食事摂取が全介助、ほぼ閉眼状態、スプーンなどで口唇に触れると強く閉口される、車椅子生活、しているADLが食事のみ、あとは全介助、といった方(嚥下障害がある方は大抵、なんらかの認知的な障害がある場合が、自分の場合、多い)は、本当にグレーゾーンに入ってしまわれる。

摂食・嚥下障害自体が極めて重度でも、それを上回る摂食・嚥下リハが提供できれば、経口摂取が継続できることもある。

また、その逆で、摂食・嚥下障害自体が軽度でも、十分な摂食・嚥下リハが提供できないと、低栄養状態→摂食・嚥下障害悪化→さらに低栄養状態→肺炎など→胃ろう、といった流れがありうる。

ターミナル・ケアと摂食・嚥下障害とは、リンクしていると考えている。

1週間、飲まず食わずでは、人間だれでも死んでしまう。

また、そうとう話がずれた気がする。