臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

嚥下について 先行期が障害された場合の口腔機能評価について

2009年01月31日 | Weblog
先行期が障害されている場合、どのように口腔機能を評価すべきだろうか。

アルツハイマー、脳血管性、どちらにしても、相当の認知症がある場合、対応に大変苦慮している場合が多いのではないだろうか。

当然、言語による口頭指示従命、随意的な咳などは無理だろうし、リクライニング車いすで、なんとか仙骨すわりで、食事介助を受けている、といった様子だろうか。

こうした場合の、口腔機能評価方法は、自分が知る限り、いわゆる教科書的な本には無い様に思う。

というか、教科書的には、対応出来ないだろう。

一人一人、違うわけだし、ST側の技量も異なる。

では、どうするか?

自分は、原始反射の有無を診る。

吸啜、咬、口唇、などだ。

単に嚥下圧を上げることを考えれば、口唇閉鎖が出来る事は、有利である。

吸啜反射があれば、閉口できるわけだから、まず開口させ、咬反射をつかって閉口させ、咀嚼を下顎タッピングなどで誘導し、そのまま嚥下を確認する。

ついでに、吸啜をSTの指で確認して、口腔前庭まで舌が十分に動いているか、クリアランスがどうか、舌がシンプルな動きのみなら、今の食形態との相性はどうか、などを、リアルタイムで評価する。

せいぜい、硬口蓋につくのがやっとであれば、刻み食では、どうだろうか?などと考え、栄養士さんなどに連携する。

これが、食べれる口の作り方の一例である。

残存機能を診て、それで、嚥下を求めるなら、それに必要な要素を本人が使えないなら、STが使えるように誘導することが出来れば、いい。

STの存在意義とは、嚥下に関しては、まず、食べれる口を作れるかどうか、なのだ。

残存機能で、どこまで、いつまで出来るのか、診れているだろうか?

嚥下について 消化器について

2009年01月21日 | Weblog
GERDを、知っているだろうか?

GERD→ARDS(というか誤嚥性肺炎?)→…というループで、状態が悪化することが多くないだろうか。

誤嚥性肺炎です、でSTが「見て」、○○嚥下で介助を御願いします、で再発して、とか、いい加減に無責任なことは辞めよう。

そもそも、食べていて、身になっているのかどうか、診ているだろうか。

100%の喫食率です、前は普通食でした、と申し送りされていても、実際に食べれない様子の人は、いくらでもいる。

どこを診ているのか、単に見ていただけなのか、良く分からないが、消化管も筋で出来ているので、当然、廃用する。

消化管が廃用すれば、栄養素がいくら入っても吸収出来ない。

更にBTも起こりやすくなる。

括約機能も低下するだろうから、更にGERDが増える。

というか、普通に高齢者の場合、GERDがあるので、嘔吐のリスクを織り込んで、食事を診ないと、意味が無い。

食べないと栄養が取れないが、食べると誤嚥、窒息、嘔吐のリスクがある。

そうした厳しい状態でも、本当に経口摂取をすすめるべきであろうか?

もしくは、誤嚥しても、100%蘇生させることが可能なのだろうか?

自分だったら、安全最優先で対応すべきグループがまず、分からなくてはならないが、そのグループには、最大限、安全を優先した対応を取る。

そうしたリスク要因を、まず見つけられないと、単に、対象者と自分を、危険にさらすだけになる。

嚥下について 姿勢について

2009年01月18日 | Weblog
嚥下と姿勢は、切っても切り離せない。

健常人が嚥下出来るのも、きちんと嚥下筋が働ける姿勢を一定の時間、保てているからだ。

また、姿勢が保持しにくくなっても、他の筋などで代償する予備能も十分にあるから、疲れたりすれば、肘をついたり、座りなおしたりしている。

中脳レベルで筋緊張を適切に保てない場合でも、廃用などで筋力的に抗重力肢位を保てない場合でも、誤嚥のリスクは、飛躍的に高まる。

頸部の筋群は、タダでさえ重い頭部を支えつつ、安定させ、喉頭を挙上させるために安定した舌骨上下筋群の土台として、かつ、1秒にも満たない嚥下に対応できるような、安定的な姿勢保持と俊敏な動きに対応する、矛盾するような筋活動を求められている。

体幹が正中に保持できなかったり、定頸しにくい場合、安全に嚥下出来る可能性が、時系列的には低下せざるを得ない、と判断せざるを得ない理由である。

よって、必要に応じて、シーティング、ポジショニングが必要になる。

STは、こうした分野が弱い。というか、学校では習わない。

きちんと姿勢を正すことが出来れば、とりあえず、リスクを減らせれる可能性がある。

ぐったりしている姿勢のまま、食べれないから口腔マッサージ、食事形態の変更、などなど闇雲にアプローチするまえに、ちょっと考えて、姿勢も診てみたい。

嚥下について 食事介助について

2009年01月13日 | Weblog
食事介助は、色々と議論があるだろうが、本当に難しい。

重度な認知症などがあって、いわゆる寝たきりの場合で、起きているのが食事のときのみ、といった場合、本当に対応に苦慮している。

閉眼のまま、単に食事を押し込まれて、反射的に気道を守るために嚥下、というのは、完全に、運を天に任せているようなものだろう。

臨床的な印象では、中等度以上の認知症があると、先行期への働きかけが困難であり、まず、姿勢設定などから入ることも多い。

食べれる口を作るのがSTの仕事ではあるが、食物認知がうまくいかない場合に、良かれと思って、もし食べれるように出来ても、それで窒息されたら、元も子もない。

STが専門的に提供しうる食事介助と、色々とお忙しい職員さんの食事介助の解離を、考えておかないといけない。

嚥下について 血液データについて

2009年01月12日 | Weblog
嚥下と血液データについて。

NaとかKとか、いわゆる電解質の数字があまりに正常値から離れていては、筋も動けないだろう。

つまり、嚥下筋も、嚥下筋がスムーズにリラックスして動けるように支える頚部や体幹、四肢の筋群も、筋緊張が高すぎたり、低すぎると、当然、誤嚥につながりやすいだろう。

ただ、高齢者などの場合、廃用や低栄養状態、脱水で何年も過ごしている場合には、それが普通になっている場合があるので、普段の状態、データがどうなのか、を知ったうえで、血液データを読まなくてはならない。

脱水が大抵あるだろうし、腎や心機能もある程度、低下しているのを念頭において、脱水による数字の変動や、理学所見との解離をまず診る。

立位と座位でも、Albは違う。

採血時の姿勢までは、なかなか気にしないかもしれないが、小数点以下の変動の要因になりうる。

脱水があれば、相対的に数値は上がるし、浮腫があれば、逆に下がるだろう。

例えば、心疾患があり、下肢等に浮腫があれば、利尿剤などが処方されているかどうかみておいて、適正な排尿があって、浮腫がどうなったか、と組み合わせて数字を診よう。

逆に、皮膚や口腔が乾燥しているのに、例えばAlbが高すぎる印象の時には、CRPがAlbと同じと判定されて、水増しされている事もありうる。臨床所見と血液データの解離に気付き、あれ?おかしい、と思わなくてはならない。

臨床所見というか、理学所見と、血液データの数字をあわせて考えて、病態とあっているか、まず考える。

STは、医者ではないので、診断出来ないが、病態を把握し、正確な評価やリハビリに活用することは出来る。

体重が増えたとぬか喜びするまえに、浮腫がどうか、Htがどうなっているのか、といった事もみておこう。

逆に、脱水気味で何年も生活していて、急に水分を取るようになって、水中毒ということもありうる。急激な補正は、高齢者の場合、大変なことになる場合もある。

たかが数字ではあるが、臨床所見、理学所見とあわせて評価を行うことで、よりよいSTリハに貢献できるはずである。

嚥下について 咳について

2009年01月10日 | Weblog
誤嚥したときに、どうすればいいのかを考えておくことは、非常に臨床的に大切である。

誤嚥しないように、最大限配慮するのは、STとしてもちろんなのだが、基本的に誤嚥のリスクが避けられない以上、リスクに備えて、どれくらい自己喀出が出来るのかを評価しておきたい。

咳が出来るかどうか、診ておきたい。

咽頭反射は、指診で。

呼吸については、まず随意的な発声が出来るかどうか。ある程度、声門閉鎖が出来るかどうかを中心に。

十分な吸気が咳には必要だが、そのまえに、十分な呼気が出来る必要がある。ただし、高齢者の場合、特に肺疾患などが無くても大抵、COPD様と考えなくてはならない。つまり、十分な吸気、呼気が難しい可能性がある、とみておくべきであろう。

喉頭のコントロールが出来ているかどうか、発声、呼吸、嚥下などをスクリーニングしながら、動きを診ておく。

姿勢も大切である。体幹がやや前傾し、頚部が軽度屈曲できると当然、ベストだが、大抵そうでないだろうから、シーティングなどで、補正がどれくらい出来るか、何分くらい良肢位が保てるか、などをPTさん、OTさんなどにも御願いしてみておくべき。

姿勢につながるが、いわゆる抗重力筋群は、咳のときにも使うので、良肢位がとりにくかったり、低ADLの場合、咳がしにくく、ひいては誤嚥や窒息のリスク要因となりうる。

そこを考慮して、総合的に判断するべきであろう。

次は、血液データについて。

嚥下について つづき

2009年01月04日 | Weblog
STで循環を診るのは、やりすぎだろうか?

個人的には、全くそうは思わない。

嚥下のときには、一時的に呼吸が停止する。

嚥下反射の惹起遅延があれば、当然呼吸停止時間も延長する。循環器にも負荷がかかる。そうなれば、いざという時に咳が出来ない。その前に、心停止していることもありえるだろう。STとして、嚥下障害で、窒息・誤嚥のリスクを考え、ここまでやっておきたい。訴訟が多くなっているので。

一口量にかかる時間×摂食動作に必要な時間(回数)で、食事(介助)時間が分かる。

健常人のように1秒未満で嚥下が正常に終了すれば、話ながら楽しく食べられるが、1回の嚥下に例えば5秒かかるとすれば、その間ずっと、呼吸できていない可能性がある。

当然、咽頭や喉頭に食物などがあるときに、吸気が開始すれば顕性もしくは不顕性誤嚥へつながるだろう。

直接訓練であれば、逆説的では有るが、呼吸や循環の指標を補助的に使うべきだろう。

口頭指示に従命出来る場合は、ある程度のリスクを伴うかもしれないが、食事中に話しかけて、湿性嗄声の有無を診る。認知症の程度も合わせて確認できる。

咽頭反射の有無も、診ておかなくてはならない。

いざ窒息、誤嚥したときに、誤嚥物を出すためには、普通、咳を行わなくてはならないからだ。

咽頭反射で、嘔吐反射の鋭敏さを確認しておく。

高齢者は、大抵低下していたりするので、義歯の調子とも合わせて評価し、食形態をどうするか、を判断したりしている。

咽頭反射減弱≒咽頭知覚低下≒嚥下反射惹起減弱≒誤嚥時の咳、嘔吐反射減弱≒窒息、誤嚥時のリスク↑↑、と最大限のリスク評価を行い、周知徹底を図らなくてはならない。

咳については、次回述べる。

嚥下について

2009年01月02日 | Weblog
嚥下といっても、STが主に気にするであろう咽頭期とかは、このシリーズではあまり、述べないことにする。

先行期、であるが、これは、認知症などが影響している、と教科書などには記載してあると思う。

当然、そうなのだが、あと、いわゆる低Na血症、脱水、特にはっきりとしない脱水、口腔疾患、義歯の不適合、姿勢といったことが関連していることがある。

一つずつ、見解を述べる。

低Na血症などでは、やはり筋が動きにくくなる。当然だが、筋なども細胞で出来ており、ナトリウムチャンネルなどを介さなくては、動けないことを、生理学の教科書で復習しておこう。血液検査の結果などで、とりあえず気にしておく。ただ、次に述べる脱水が存在しているかどうかで、数字の解釈が異なることを念頭に。

脱水は、どちらかといえば、基本的に高齢者には存在すると考えておくべきでは有るが、ある程度以上の脱水は、やはり弊害が出る。つまり、急に煮詰まっているのか、徐々にそうなってきたのか、といった急性もしくは慢性の脱水なのかを、ちょっと見極めたい。尿とか発熱、あと急に暑くなっての発汗などが原因か、日頃から水分摂取量が少なく、尿量も少ないのか、といった日頃のバイタルも気にする。それと、実際に触診をしてみて、肌がカサカサしているかどうか、評価をする。高齢者は、たいがい脂肪分が抜けてカサカサしているが、入浴時に石鹸などを使いすぎていないか、職員さんなどに聴いてみると良い。元気な高齢者にもたくさん触って、こういう感じが元気な高齢者の皮膚の触感だ、と基準を作っておくと、脱水している高齢者に触ったとき、あれ?と気付ける。あと、脱水がある時の血液データは、高くなるので、Albとかをみるときにも気をつけなくてはならない。Albが高くなって良くなった、と判断するのは勝手だが、単に脱水でAlbが見かけ上、高くなるということは、いくらでもある。HtとかHbもみて、その評価が正しいのか、確認する癖をつけること。

口腔は、口腔期で述べるべきかもしれないが、例えば総義歯で不適合の場合、そもそも開口しにくいことがある。上義歯が不適で、落ちてく場合、舌で支えていたりする。そうなると、落ちてくる上義歯を舌で支えつつ、食物を口腔内に取り込んで、口蓋と上義歯の間に入る食物もケアしながら、という状況になりうる。当然、食べにくい。あと、残歯がとがっていたりして、歯茎にあたる場合も、開口したくないだろう。

姿勢は、呼吸とも関連するが、嚥下自体にも関連するし、摂食動作にも関連するし、食物認知にも関連する。結局、かなりの領域に影響を及ぼすので、考えないわけにはいかない、という感じである。とりあえず、食事する時間のあいだ、ある程度、嚥下を優先できないといけない。呼吸、循環、食物認知、摂食動作といった基本となる要素を30分程度、維持できる抗重力肢位をとれるかどうか、みておく必要がある。なぜかといえば、結局、呼吸も嚥下も頚部可動域も、たとえば広背筋や胸鎖乳突筋といった後頚部筋群、舌骨上筋群、舌骨下筋群などからなる前頚部筋群にかなり依存しており、例えば後頚部筋群が廃用した場合、かわりになるのは、前頚部筋群しかないわけで、そうなると、頚部過伸展位で前頚部筋群のみでは補正しにくいことが分かるだろう。可能であれば、ヘッドサポートなどが必要になる訳である。姿勢については、かなり深く知る必要がある。

嚥下の先行期に影響を与えると考える要因について、臨床的な私見を述べた。