臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

どういうSTを目指すのか⑥

2007年12月30日 | Weblog
医療訴訟の事を話題にすると、話題にしにくいが…

リハビリ、も医療訴訟の対象となる時代、というか、もともとリスクが伴いやすい、と言えるだろう。

STに限らず、だが。

一昔前なら、病気になってはじめて、リハビリを受け、今ほど厳密に日数制限の無い、理想的なリハビリが行われていたのだろう。

今は、ご存知の通り、急性期2週間、回復期~6ヶ月程度、維持期は介護保険で、自宅復帰できる方は自宅へ、というパスで動いている。

また、急性期→維持期施設へ、という流れもある。

CVAなどで急性期施設では経口摂取が困難、と判断されても、徐々に意識レベルなどが回復して、なんとか経口摂取が可能になるケース、というのも経験する。

逆に、発症直後は食べれていても、徐々に食べれなくなる場合もある。

そうした時系列的な判断を出来る事も大切と考える。

決して、胃瘻を否定している訳ではない。

胃瘻は、きちんと活用できれば、よいターミナルケアに繋がる、と感じている。

ただ、胃瘻を行うと、どうしても胃壁と腹壁を縫い合わせるため、胃本来の蠕動運動を阻害してしまう可能性、液体の成分栄養剤では”ころがり抵抗(いわゆるμ)”が低く、どうしても逆流してしまいやすい事、などがある。

また、成分栄養剤を固定してしまうと、微量元素が不足しがちになり、いわゆる低栄養状態になりやすい可能性がある。

体力低下時に胃食道逆流で胃酸などの混じった胃内容物が肺へ誤嚥されると、いわゆる誤嚥性肺炎が容易に生じる事は、想像に難くない。

胃瘻を選択する、ということは、そういうリスクも背負う、ということである。

仕方が無い、ですめばよいが、医療者側のリスクも上昇する。

対応策として、誤嚥性肺炎リスクを軽減出来る口腔ケア、ギャッジアップ常に15度程度、栄養剤の検討、呼吸や姿勢のケア、などを行う必要があるだろう。

誤嚥性肺炎を起こさないために胃瘻にしましょうと言われて胃瘻にしたのに、結局、誤嚥性肺炎になった、どうしてくれる、と言われないように。

どういうSTを目指すのか⑤

2007年12月29日 | Weblog
正月が来る。

温暖化といっても、やはり寒い。

当然暖房が入るので、開口状態の方々には厳しい季節となる。

唾液は1,000~1,500cc/日程度分泌されており、毎日の必要水分量には換算されないが、唾液で口腔、咽頭、喉頭などを湿潤することで、呼吸、嚥下、発声機能などを良好に保っている。

単に水分だけでなく、唾液に含まれるムチンが免疫に良いらしい。

とにかく、開口状態であれば、口渇で唾液が蒸発し、痰が粘り、ただでさえ嚥下しにくいのに、梨状窩などへ滞留し、非常に危険な状態になる。

一言で言えば、痰でおぼれ、窒息しやすくなる。

可能であれば、やはり、口は閉じれるように保ってあげたい。

合う義歯があれば、口唇を支える防波堤として、閉口しやすく出来る筈。

舌骨上筋群も、経口摂取時だけでなく、口腔ケア時に歯列から舌を出させる様に誘導することで、自然に自動運動を促せる。

当然、誤嚥のリスク管理を怠ってはいけないが。

また嚥下の話しになってしまった。

正月は、気が抜けない。

どうしても休みが入るし、正月の”もち”がやはり、怖い。

ぎりぎりの状態の方は、本当はST張り付きでフォローしたいのは、やまやまなのだが。

尿路なので、水分をとらせたいが、認知症などで経口摂取困難です、ST御願いします、といったケースだ。

ムセがあれば、誰でも経口摂取の無理はさせないと思うが、ムセのない場合、しかも、そんなに熱発のない場合に、判断が難しい。

そういう場合は、大抵、脱水なども生じている所見(濃縮尿、腋窩の乾燥、脈が速い、意識レベル低下、急速な体重減少など)が生じていないか、自分の目で確かめなくてはならない。

ドクターと連携して、とりあえず生食、ブドウ糖点滴などで脱水の補正をしつつ、経口で安全にたべてもらって、数日かけて脱水だけでも補正する。

心肺系の負荷を考慮し、一気に補液を行うのは怖い。そこらへんは、ドクターが診て下さるので、STとしては、誤嚥性肺炎防止策などを平行して行う。

冬は暖房での乾燥、夏は暑さでの発熱、と結局、一年中、脱水を気にする必要がある。

つまり、循環動態、呼吸動態は、常に気にしなくてはならない。

内科的な知識が必要になる理由である。

どういうSTを目指すのか④

2007年12月27日 | Weblog
色々と述べてきた。

もう一つ、述べる。

Do no harm、でありたい。

(少なくとも)害をなすな、ということである。

最近は、特に医療関係のテレビ番組やネットなどでの効果なのか、いわゆる医療関係者でない普通の方々でも、驚くほどの知識をもっておられる、と考えなくてはならない。

食べさせたい、で誤嚥し、熱が出たとき、「誤嚥性肺炎ですか?」とStが質問(責任を問われる)される可能性が高い事を考慮したリハビリ、を考えなくてはならない時代である。

実際に、訴訟も存在している。

アメリカの脳外科医か心臓外科医は、様々な科の中でもトップクラスの5,000万の年収をもらう代わりに訴訟に備えて2割くらいの保険料(1,000万)を支払う、という。

日本のSTが、今こういう問題に直面していると言い切れないが、どのような業界でも自己責任主義が原則となりつつある今、必要な備えを怠ってはならないだろう。

そのためには、どうするか。

リスクを考え、もしものときに備えたリスク回避もしくは軽減の方法を出来るようにすること、と考える。

誤嚥時に、どう対応すれば、一番誤嚥物を肺から出せるのか。

誤嚥性肺炎を軽減するためには、何をすれば良いのか。

不顕性誤嚥に、どう対応するのか。

誤嚥性肺炎を避けられない場合に、どのような介入手段がリスク軽減につながるか。

思いつくまま、問題点を挙げてみた。

おそらく、極めて臨床的な問題であろう。

教科書では、なかなか答えが載っていないかもしれない。

自分でも、今も答えを模索している。

どういうSTを目指すのか③

2007年12月25日 | Weblog
自分としては、どういうSTが良いか、というと…

①腕がある

②押し付けがましくない

③いつまでも悩んでくれる

とりあえず、この3点を挙げる。

①は、言うまでも無いだろう。

いくら、後期高齢者だから、基礎疾患や認知症があるから、といっても、専門職でその手当てを給料としてもらっている以上、少なくとも給料分は良く出来なくてはいけないと思う。

自分だけで出来ないのであれば、周囲の職員の方々と共同で継続的に行えるように段取りをしなくてはいけない。

患者さんに対して持てる力を出すのと同じくらい、もしくはそれ以上かもしれないが、周囲の職員の方々への働きかけ、コミュニケーションは大切である。

究極的には、STがいなくても、物事がうまく運べるようになれば、一番良い。

誤嚥性肺炎が十分容認できるレベルに落ち着いて、無理の無い食事介助が継続できて、楽しみながら食べることを続けれる、義歯の調整などで構音障害への対応をする、病前の会話状態を考慮して失語症の方々へ適切な対応を行える、認知症があっても、食べることが楽しめるうちは食べれるように口腔ケアなどの援助を行う、必要や要請に応じて、STの独りよがりでなく、職員さん向けの”すぐに役に立つ”研修会の実施、誤嚥の危険予知が出来る職員さんを増やす…などなど、だろうか。

②は、自分が特にそう思っていることも強く影響している。

リハビリのためのリハビリでは、意味が無い。

また嚥下になってしまうが、どういうモノを食べてきたか、を頭にいれておかなくてはならない。

都会育ちなのか、田舎育ちなのか、海辺なのか、山の中なのか、という事で、食履歴を考慮する。

都会育ちの方なら、比較的、洋風の食事や香辛料などにも抵抗が少ないのかもしれない。

海辺で育った方なら、近海の新鮮な魚を散々食べてこられているだろうから、食事で外国産のよく分からない魚が出ても、食べたくないかもしれない。

こういった事柄を無視して、「食べましょう」「水分をとりましょう」「ムセがあるからトロミを付けましょう」と一律に対応して、それに合わせれる方はまだ良いが、そうで無ければ、なかなか大変であろう。

③は、①とは相反するかもしれないが、ST分野では、目に見えて確認できる、ということが少ないこともあるだろう。

嚥下は、目で見えない。

言語野の神経発火の状態を、リアルタイムで見ることは、光トポグラフィーなどがあれば別だろうが、その装置すら、なかなか無いので、現状では困難である。

つまり、仮説を立てて、それを反応で確認していく事を繰り返すことになる。

腕があれば、喜ばしい結果がより多く出るのだろう。

そうでなければ、当然、悩んで、方向修正することになるのだろう。

患者さんが答えを出して下さる仕事なので…

どういうSTを目指すのか②

2007年12月24日 | Weblog
自然回復以上の介入効果を出せるか、どうか、について述べる。

そもそも、自然回復とは何だろうか。

厚労省のモデル等で、線形でリニアに表現出来る回復、ばかりでは無いように毎日の臨床では感じている。

何らかの病気があり、それからの回復過程、とまず仮定する。

これでは、何をどう考えていいのか分かりづらいので、独自に分類する。

急性疾患(はっきりとした顕性誤嚥による誤嚥性肺炎、発症時間のはっきり分かる脳血管障害、心疾患などなど)と慢性疾患(アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、SCDなどの慢性的な経過をたどる変性疾患、脳血管疾患の後遺症、廃用、基礎疾患などなど)といった疾患側の分類を考える。

また、年齢、性別、血液データ、食事量、体重、排泄、理学所見、家族構成などの患者側の分類項目もある。

さらに、免疫力、体力、食べ物の好み、生活習慣、小腸の吸収力などの数値化しにくい項目もある。

いわゆる後期高齢者では、基礎疾患のオンパレードで、慢性疾患が徐々に増加して、急性疾患がどれだけ注意していても生じる、という印象を受ける。

複数の疾患を持つ高齢者では、複数の薬剤を服用することが多く、つまり、その副作用で唾液量が減少していることがある。

また、DMがあると、嚥下では特に、口腔期に影響がある。

唾液は血液から産生されるので、原料の血液の糖が多ければ、出来上がる唾液も糖分が多くなる。

つまり、口の中に砂糖をまぶしたような状態になる。

当然、歯周病のリスクは上昇する。

また、毛細血管に微小な梗塞を生じやすくなり、歯肉も同様の症状を呈し、炎症を生じやすくなる。つまり、歯周病である。

また嚥下の話になってしまった。また、専門でない歯科の話なので、間違っている箇所もあるだろうが、ご容赦頂きたい。

つまり、ごくごくありふれた(ように思っている)糖尿病でも、例えばST分野に関する影響などを考慮することで、見過ごせない疾患である事を思い返して欲しい。

もともと生理的に筋力低下が生じている後期高齢者では、それらを修飾する因子として様々な疾患、生活習慣などが加わり、一層の廃用が徐々に進んでいる状態と考えられる。

日々、右肩下がり、といった状態だろう。

これに認知症が加わると、事態はもっと深刻になる。

それらを土台とした”自然回復”を、まず知らなくてはならない。

日々右肩下がり、であれば、現状の維持も、それなりに大変な事である。

どういうSTを目指すのか①

2007年12月21日 | Weblog
嚥下の話しばかりになっていたので、少し話題を変える。

どういうSTを目指すべきか?

ずばり、自分や自分の親族などが障害を持ったとき、もしくは持って生まれたときに、こうして欲しい、というSTになるべきではないだろうか。

つまり、自然回復でない介入効果による改善、しかもADLに結びついた”使える”形での改善を導き出せることだろうか。

リハビリのご要望を訴えれるご本人様やご家族であれば、それを受けて、評価し、そのご意向に沿ったリハビリを実施し、対費用効果に見合う介入効果を出すことであろう。

評価して終わり、というのでは、その後の障害の本質、転起を見ないまま、になってしまわないだろうか。

評価をするからには、それなりの結果を出し、つなげていけるかどうかを考えなくてはならない。ただし、状況が非常にシビアな場合もあるので、そういう場合は、リスク管理も考慮する必要がある。

また嚥下になるが、例えば、経口摂取のご意向に対し、どのレベルまで考えた上で実施できるかどうか、STとして考えることが出来るか、真剣に考えておく必要がある。

病院だったら出来るが、在宅では出来ない、では、どうだろうか。


STの存在理由⑥

2007年12月15日 | Weblog
いつまで経口摂取をするのか、をSTは職業柄、質問されることが多いと思う。

軽微な嚥下障害でも適切な対応が難しい場合や、重度な嚥下障害で普通なら胃瘻の場合でも経口摂取できる場合もあるのが現実だろう。

その差は、どこから来るのだろうか。

食べるということは、あまりに当たり前すぎる事である。

呼吸する、歩く、食べる、話す…など人間の根源的な能力である。

散々述べてきたが、人間にいたる過程で、外界からの栄養摂取、つまり経口摂取という行為は、生物として大前提となっている。

しかし、人間はその枠組みを超えた栄養摂取方法を考え出し、いまや胃瘻は、日本国内ならどこでも見られるといっても過言ではないと思う。

ただ、口腔ケアといったときに単にうがいさせてお終い、というレベルから、歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔ケアのレベルまで、さまざまあるように、摂食・嚥下リハビリテーションも、様々なレベルのものが存在すると思う。

更に話を難しくするのは、最近の医療訴訟の動向である。

地方新聞の地方面にも、誤嚥による窒息で相当な額の賠償金を求められる訴訟の記事が載る時代となった。

相当な額の賠償金を支払うことは、誰にでも出来ることではないように思われる。

ST自身での誤嚥、窒息であればまだ、責任の取り様もあろうが、チームアプローチで摂食・嚥下障害に取り組むのが当たり前となった今では、看護師さんや介護士さんに指導するSTの監督責任も問われる事もあるのだろうか。

漫然とリスクを認識するだけでなく、積極的にリスクを回避出来るだけの現状分析能力、指示力、カルテ記載等が必要になると思われる。

STの存在理由⑤

2007年12月10日 | Weblog
正中付近が敏感、ということを述べていた。

つまり、そのあたりを刺激してみる。

口腔内の湿潤、声掛けなど、十分な配慮を行ってから実施したい。

認知症などの場合、吸啜反射が出ることもある。

また、咬反射をうながせば、閉口を促せる。

臼歯のあたり(無歯顎の場合だが)を刺激してみる。そして、そのまま咬まれてみる。

これで、どれくらいの咬合力かを感じることが出来る。

正中への刺激などで、舌が舌尖方向へ突出したり、口蓋方向などへ誘導出来うること、咽頭反射の有無などを確認しておく(窒息の可能性を確認するため)。

そうすれば、舌の自動運動となる。

ただし、注意点がある。

刺激するのは良いのだが、適合した義歯(おそらく総義歯が必要な場合も多いだろう)があることが望ましい。

舌の居場所が無くて(舌房が狭い)、ただでさえ下義歯がぐらぐらしているのに、自動運動などと称して、火に油を注ぐことになっては意味が無い。

特に下義歯を支える顎底がほとんど吸収されているような場合では、すでに舌の付随運動があるかもしれない。

そうなっている場合は、考え方を変えて、毎日自ら口腔体操をしておられる、と考えても良いかも知れない。

個人的な乾燥だが、認知症が存在する場合の摂食・嚥下障害は、とくに中期以降は教科書的な対応のみではなかなか、である。

歯科、栄養、呼吸、誤嚥性肺炎、認知、シーティング、嚥下、バイタル…ときりが無いが、ご本人さまから情報が得られない場合には、こちら側が必要と思われる情報を集め、個人的な対応策を打つ必要がある。

最終的には、いつまで食べるかを考えておく必要もある。