臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

嚥下について 聴診器について 私見として

2009年02月28日 | Weblog
聴診器について、述べておく。

STがよく使う聴診器は、多分、小児用のもので、頚部聴診を行うためだろうか。

これはこれで、良いと思う。

テレビや換気扇、人声などがしている環境で、あまり繊細な呼吸音を聞き分けようとしても、まず無理である。

こうした聴診器では、ある程度の呼吸音が聞こえるわけで、つまり、ある程度の環境音しか聞こえない。つまり、ある程度の情報量であり、聞き分ける耳が無い場合、こうした限られた情報の中から、自分が欲しい音を選んで聞き分ける訓練も兼ねている。

1から10まで全てでなく、5から8までで、とりあえず耳を作るイメージだ。

これが出来ないと、いくら良い聴診器を買っても、単なる宝の持ち腐れである。

聞き分けれる耳、これは作るしかない。

過去の記事に載せていると思うが、まずは自分の頚部聴診からで良いので、呼吸音の吸気、呼気を聞き分ける。

自分が被検者なら、呼吸のタイミングも分かるので、音が少し反響してやりにくいかもしれないが、耳を作っていってほしい。

そのあと、肺門部、末梢も聴いてみて欲しい。

慣れてくると、末梢の音が、聞こえにくいことに気付くだろう。

なぜなら、小児用では、なかなか末梢の微細な呼吸音をピンポイントで聴診するのは、本当に難しいからだ。

健常な自分での聴診なら、換気量を上げれば、まだ聴診可能かもしれないが、高齢者で寝たきり、低換気量となると、おそらくお手上げだろう。

そこまで行けば、次の段階として、より良い聴診器を購入してもよいだろう。

なぜなら、末梢の音が必要な臨床を行っているということ、末梢でここで聴診出来るという解剖学的な知識があるというレベルであれば、より良い聴診器で、より良い評価が出来る可能性が高いからだ。

中枢気道の痰だけでなく、末梢レベルからも出しておきたい、とか、無気肺とか下側肺障害が気になる、とか、カリナの偏移と喉頭挙上が気になる、とか、少し細かく診ていくと、さらに色々聴診も必要になっていく。

そうした時に、電子聴診器でなくても良いとは思うが、それ相応の聴診器は、欠かせない右腕となり、貴方に必要な情報や警告を与えてくれるだろう。

嚥下について 聴診器について 特に呼吸に関して

2009年02月15日 | Weblog
前回の記事で、聴診器について述べたので、もう少し、特に呼吸に関して述べる。

今、嚥下を診る際に、かなり呼吸も診ている。

使い古された表現だが、呼吸と嚥下は、それぞれの通路が咽頭で交差している。

どちらかが悪くなれば、同様に悪くなる可能性がある。

延髄でのそれぞれの中枢もそれぞれに連絡しており、嚥下性無呼吸などを引き合いに出すまでもなく、お互いに作用しあっている。

ただ、呼吸は、嚥下と比較して、生体にとって優先度が高い、と考えている。

1分呼吸を止めると酸素化が少し下がってしんどいが、1分嚥下を止めても即、栄養不足でしんどい、という事は、普通、無い。

裏を返せば、呼吸が基礎になって、嚥下が成立している、とも言える。

呼吸といっても、STでは普通、発声訓練とか、せいぜい、PTさんのされる呼吸訓練の真似事、で終わりかもしれないが、本当は、もっと知っておきたいところだ。

認定言語聴覚士(摂食・嚥下障害)講習会でも、呼吸評価の講義があるように、STはもっと、この分野を知らなくてはならない。

といっても、STが独学で呼吸を学ぶのは、正直難しい。

自分も、最初は、途方に暮れた。

ただ、周りに呼吸に関心のある方が、たまたま居たので、そこから色々と情報や研修会情報などを頂き、徐々に学んでいった。

今は、ネットなどで、情報収集も出来る訳だし、ちょっとがんばって、調べてみてほしい。

三千円程度で、十分に入門編として活用出来る成書(呼吸理学療法などで検索)もあるので、まず、何か手にとってみてはどうだろうか。

呼吸と聴診器、だが、前回も述べたが、解剖と聴診器の使い方に慣れることが必要だ。

呼吸音を聴診出来る箇所が、解剖学的に決まっているので、そういう箇所から聴診を始める。聴診出来ない箇所を、いくら聴診しても、時間が無駄である。

呼吸音といっても、所詮、人間の耳に聞こえる範囲の音しか分からないので、肺の中で生じる音が、胸郭を経て、人間の耳に届く領域を、覚えることが必要だ。

難しく思われるかもしれないが、理屈で覚えるほうが、良い。

まず、肺胞レベルの音は、聴こえない。

別に、文句を言うつもりではないのだが、肺胞音、といった表現があるが、肺胞レベルでは、拡散が生じるレベルでの空気の出入りであり、こうした極めてミクロなレベルでの気流、というか拡散だが、これで生じる気流音は、胸郭を介したうえでは、人間の耳では、当然聴取出来ない。

だから、ある程度、細気管支が合流したレベルで生じる気流音を聴取することになる。

つまり、ある程度、大きな気管支が、体表からみて、どのあたりにあるのかが分かれば、そこを聴診すれば良い。

大きな気管支がどこにあるか、胸郭前面では、胸郭後面では、となってくる。

つまり、解剖であり、フィジカルアセスメントである。

あと、聴診器の扱い方も、なかなか難しい。

自分のような慢性期では、低体重で肋間がくぼんでいることが多く、聴診器の膜面が、全て接することは無い。たいがい、接していない箇所があり、それだけ効きとりにくい。というか、そもそも、肺活量が低下しており、呼吸音が聴取しにくい。よって、呼吸介助手技と併用したり、可能なら長座位などにして、少しでも、換気量を上げて、呼吸音を出すようにする。また、微細な音を聞き取りやすくするために、換気扇とかテレビを切り、ドアを閉める。標準的な解剖学的ランドマークに沿って、聴診するが、気管が偏移しているのは当たり前なので、基本は守りつつ、臨床では臨機応変に対応できることが望ましい。痩せている場合、すこし、皮膚を寄せたり、あえて半分程度接することで、なんとか聴診を成立させることも多い。そこまでしなくても、すこし呼吸介助手技をすれば、喘鳴が出たりすることもあるので、それだけで、下側肺障害かな、と当たりをつけれるのだが。

嚥下について 聴診器について

2009年02月14日 | Weblog
聴診器は、非常に大切である。

頚部聴診だけ、というのでは、もったいない。

せっかくなので、その少し下も聴診してほしい。

ただ、前回説明したが、呼吸音、とくに微細な末梢気管支の音は、かなり小さく、それなりの聴診器でないと、そもそも、聴こえない。

1,000円程度の血圧測定用の聴診器で、そのような微細な音は、聴こえない。

いや、聴こえる、というのであれば、空耳か、勘違いだろう。

というか、使っている聴診器で、どれくらい診ているか、分かる。

普通のSTなら、せいぜい、1万円前後の成人用もしくは小児用の聴診器1つだろうか。

頚部聴診と、主気管分岐部くらいなら、それでも良いかもしれない。

解剖がしっかりと頭に入るまでは、これで、耳を鍛えるのが、良いだろう。

胸骨角のすぐ横が第二肋骨で、とかがまず、分かっていないと、肺野の聴診は、まずモノにならないので、いきなり良い聴診器でなくても、とりあえずの聴診器で良い。

それに、これくらいの聴診器なら、あまり音が入らないので、ある程度、うるさい環境でも、騒音に惑わされにくいメリットもある。

しっかりと耳を鍛えよう。

ある程度、経験をつみ、症例を重ねていくと、もっと詳細な聴診が必要になる。

そのときに、もう少し良い聴診器を購入しよう。

聴診器で聴こえる音は、値段に正比例するので、財布と相談しながら、決めよう。

ただし、一旦、良い聴診器を使いこなせるようになると、もう、聴こえない聴診器は、使わなくなってしまう。

まぁ、それ位まで聴診出来るようになれば、肺の状態が、手に取るようにわかるだろうし、誤嚥の評価も、リアルタイムに、より細かく出来るだろう。

もっといえば、ここに空気が入っていないから、少し入れようか、姿勢を調整しようか、とか、フードテストとの聴診併用での誤嚥評価、なんてこともサッと出来る。

STの腕、とは、こういう診察(評価)技術を指す。

嚥下について STに必要なフィジカルアセスメントとは

2009年02月11日 | Weblog
フィジカルアセスメント、というと難しそうだが、五感で取れる所見のことである。

画像診断、機器による評価が全盛の現在、意味があるのだろうか、と考えてしまうかもしれないが、口腔機能を診る、というのは、口腔のフィジカルアセスメントに他ならない。

それを、もっと色々な領域に応用しよう。

循環、呼吸などである。

嚥下だけ診ればいい場合、こういうことは知らないでSTリハをするのだろう。

誤嚥性肺炎での訴訟が多いのに、摂食・嚥下リハにおいて指導的な役割を果たす職種であるSTが、厳密にリスク要因を評価しない、なんて、それこそ、本当のハイリスクである。

ステージは関係なく、リスク評価の引き出しは、多いほうが良い。

食事前のわずかな時間で、かなりの情報が得られる。

慣れれば、視診だけでも、かなり分かるはずだ。

循環、呼吸を診て、嚥下がどれくらい、安全に遂行できるのか、フィジカルアセスメントを用いて、確認する。

更に、頚部聴診などを追加すれば、不顕性誤嚥も検出可能のはず。

ただし、小児用聴診器は当たり前として、ある程度、良い聴診器も用意しよう。

嚥下が問題になる場合、ADLがかなり低下している場合が多く、肺活量が低下している、もしくは、無気肺が存在している可能性もあるので、聴診がしにくい場合が多い。

さらに、食事場面だと、テレビがついていたり、デイルームとかだと、話し声や物音もあり、聴診器の性能がsる程度ないと、音が聴こえないことも多い。

だから、ある程度、良い聴診器が必要になる。

呼吸をやっているPTさん、呼吸器Drなどに、おすすめの聴診器を聴いてみよう。あと、実際の聴診器で確かめてみることが大切。

聴診器の性能は、値段に正比例する。

あと、当然だが、聴診出来る耳、解剖が必要だ。

自信が無ければ、耳を作る、解剖を覚えるしかない。

つまり、解剖の知識と場数と良い聴診器で、聞き分けられる耳を作るのだ。

かけがえの無い財産、右腕となってくれるだろう。

そのためなら、惜しくない投資金額だと思う。

自分は、まず呼吸から入って、色々とやり、そろそろ、循環も診れるように、少しやり始めたところである。

嚥下について 経口摂取再開に必要なこととは

2009年02月03日 | Weblog
胃瘻などで、一旦、経口摂取を中止した場合、再開できるかどうか、どう判断するべきだろうか。

VF、VEなどがあれば、助けになるのだろうか。

無論、無いよりはいいだろう。

しかし、VFを行う前に、やっておくべきことがたくさんある。

いままで述べてきたような、臨床的所見の積み上げ、評価である。

嚥下だけ良ければ、良い、のなら話は別だが、そんな場合は、ありえるのだろうか。少なくとも、自分は無い。

食べました、窒息しました、死にました、では、あまりに無責任だ。

食べました、誤嚥しました、肺炎です、も同様だ。

誤嚥や窒息のリスクが十分に高いからこそ、胃瘻になっているわけで、百も承知で危険な橋を渡らせることが、STの仕事だろうか。

そうじゃない、安全なケースばかり見れる職場がうらやましい。

うらやましいと言っても、そうした設備が無くても、ある程度は、出来る。

フィジカルアセスメントや、義歯、認知症、姿勢、呼吸などの評価を組み合わせても、相当の判断が出来る。

ただし、かなりの知識、技量を要するので、一朝一夕には身に付けにくい。

しかし、教科書的には積極的に推奨されないであろうこの技術は、本当は、一番の訴訟対策でもある。

あれ、おかしい…と思えれば、どうして?となり、聴診なり打診なり、カルテなどの確認など、原因を追究できるからだ。当然、無理も出来ない。

STだから嚥下、嚥下だから食事介助、10割摂取でご苦労さん、さようなら、であれば、STでなくても、別に誰でも良いのではないだろうか。

貴方は本当に、診ようと、しているだろうか。

嚥下について いつまで食べるべきか?

2009年02月01日 | Weblog
自分のように、いわゆる慢性期施設勤務のSTの場合、嚥下が中心となり、さらに、いつまで食べるのかどうか、が鍵となっている。

ムセがあれば、当然無理は出来ないのだが、不顕性誤嚥と思われるというか、大抵がそうであり、多少の顕性、不顕性誤嚥はあるものだと考えることが必要となる。

まだ、ムセがあれば、良いほうだと考える。

つまり、基本的にハイリスク群を対象にしている。

認知症や肺疾患などで、誤嚥時に有効な咳が出来ない、とSTが診た場合、安全性が担保出来ないという意味において、経口摂取をどうするのか、考えなくてはならない。

胃瘻でいいじゃないか、と思われるかもしれないが、そうは行かないことも多い。

リスクをどう考え、どう食事介助をするか、といったことは、各施設によって状態が異なるし、一律には解決出来ないように思う。

昨日の記事のように、単に嚥下さえ出来れば良い、食物が口に入れば良い、という立場にこだわって、結局窒息してしまう、のは誰にとっても、厳しい。

しかし、実際には、ぎりぎりの所で、ぎりぎりの食事をしている場合が、ほとんどである。

そうした場合、誰かが声をあげて、ある程度、納得のいく栄養摂取手段を、いくつか提示し、ご家族などに選択していただくといった仕組みを、各施設で作らなくてはならない。

良かれと思って、経口摂取を行い、窒息死した、という例は、後を絶たない。

ネットで、医療訴訟関連、誤嚥・窒息関連の内容を調べれば、誤嚥性肺炎や窒息死で訴訟を起こされて、何千万の支払いを命じられた、なんて事実は、数限りなく見つけれるだろう。

せめて、日本ST協会に入って、金銭面の基本補償だけでもカバーできるように、自らを守るべきだ。

属している組織、上司が、裁判になって、かわりになることは、出来ない。

自分の身は、自分で守ろう。

でないと、他人様を良くすることなんて、到底出来ない。