臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

どうれだけ代償を支払ったか④

2008年02月27日 | Weblog
手の感覚を、鋭敏にする必要がある。

何の筋肉なのか、骨なのか、靭帯なのか、血管なのか、触診出来ると良い。

最近になって、やっと大まかな解剖学的なランドマークを意識することが出来るようになった。

アトラスをみて、実際にさわって、またアトラスをみて、もしくは触診の本などをみて、ということを繰り返していくことしかないだろう。

なかなか、実際の筋や骨をみる機会は、無いのだから。

自分の頭の中に、人体に関するイメージを構築する。

それと、目の前の方との差を確認する。

頚部、顔面、口腔、呼吸、嚥下、姿勢、聴診、打診等で、さまざまな機能解剖を比較・評価する。

そして、嚥下は、上位消化管から始まっていることを考え、胃や腸などの消化管機能にも気をつけよう。

摂食・嚥下障害で胃ろうになったとき、下痢や便秘になっている方は居ないだろうか。

腹満があると、どのようなリスクが考えられるだろうか。

消化管の消化能を、一目で判断出来るだろうか。

なぜ、このような事を言うのか。

低栄養があると、当然、嚥下筋の動きも悪くなり、更に低栄養が進むからである。

取れるオプションの多い場合、適切な選択肢を選ぶことが出来れば、良い予後が期待できるからである。

どれだけ、目の前の方から、判断材料を手に入れられるか、が勝負である。

どれだけ代償を支払ったか③

2008年02月24日 | Weblog
頭頚部は、「やぐら」の上にあるようなもので、その土台となる体幹や四肢自体の関節可動域や柔軟性、筋緊張の度合い、姿勢反射の程度などに大きな影響を受ける。

STが、PTさんやOTさんのように、職種専門的な徒手的リハビリを行うことを求めている訳ではないが、せめて視診程度はルーチンに行いたい。

ただし、頚部は本当に色々な重要な解剖学的な構造物が集積しているので、十分、頭に解剖を叩き込んで、自信をもって触診できるようになってからでも遅くないと思う。

嚥下や発声に必要な喉頭周囲のアプローチについても、少し側方にいくと、胸鎖乳突筋がある。

その内側には、たいてい内頸動脈がある。

不用意に乳突筋をマッサージすることは、内頸動脈を刺激することになる。

その場合、以下のような危険性を考慮すべきと考える。

内頸動脈には、血圧を調整すうための圧受容器がある。

これは、血圧や血流量の上昇で血管壁が伸展すると、その圧に反応して求心性刺激を送り、迷走神経や舌咽神経を経て、循環中枢に届く。

つまり、乳突筋のマッサージで急激な血圧の変動が起こりうる、ということだ。

嚥下や発声のために、不用意に行った喉頭周囲のリハビリで、急に意識喪失、といったことを引き起こしかねない。

もう一つのリスクとして、アテロームがある。

内頸動脈内のアテロームを、マッサージで剥がしてしまうことを懸念する。

つまり、マッサージで内頸動脈内に付着していたアテロームが剥離し、そのまま血流に乗って、脳梗塞を招く事を懸念する。

とにかく、知らないまま、良かれと思ってやる、というのは止めよう。

こういうブログを検索しておられる方々は、おそらくそういう意識が高い方々だと想像する。

解剖学的な知識、運動学に基づいて、STリハビリを行おう。

そうしないと、コミュニケーション障害がある方々をみるのが基本の我々では、なかなか、調子の悪い箇所を聞くことが難しい場合もあり、そうなると、危険な箇所を、こちらが把握して、避けていかなくてはならない。

自分で自分を守ろう。

解剖のアトラス、触診術の本などでまずは、基本的な解剖をおさえよう。

その上で、色々な研修会などで、まずは健常人同士で、解剖学的なランドマークをおさえる練習をしよう。

ここまでくれば、多分、普段の手技がどの筋に作用して、とかが分かるようになるだろう。

付随して、脳神経なども再度、確認しておこう。

なんでもない手技を、リスクを最低限にして、メリットを最大限にする努力を継続して提供できること、が臨床家には必要だろう。

どれだけ代償を支払ったか②

2008年02月23日 | Weblog
自分の実施したリハビリに、責任が持てるだろうか。

医師の指示でしているだけ、で済めばよいが、今は自己責任が原則である。

病院や施設で保険に入っている、といっても、実際に、自分を守ってくれるだろうか。

最近の医療訴訟のニュースが、大変気になる。

そして、リハビリがテレビの番組として取り上げられる事も多くなった。

良い面、そうでない面、さまざまあるだろう。

ただ一つ確認しておきたいのは、リハビリをして(自然回復も含めて)良くなる、という場合だけではないことも説明しているかどうか、である。

土台の無いところに家を建てるのは、非常に困難である。

むしろ、建てないほうが良いだろう。

ひるがえって、リハビリはどうだろうか。

自戒したい。

良くなる可能性の高い状態の場合は良いかもしれない。

そうでない場合のリハビリを、どのように実施するか、説明するか、危険性を予知出来るか、どこまで責任を持てるか、である。

入院期間が終われば、もう関係ない、だろうか。

大腿骨骨折の地域連携パスに続き、CVAパスなども稼動し始めている。

横文字だとカッコいいかもしれない「シームレス」なリハビリだが、「ここまでやったので、あとは宜しく」となりはしないだろうか。

その前に、各機関での調整が必要だが。

次の場所のリハビリを知った上で、ここまでは御願い出来る、といった事を把握したい。

いい加減に、社会資源の無駄使いは止めて、持続可能なリハビリを提供しないと、次の改定でバッサリ、なんてことに成らなければ良いが…。

どれだけ代償を払ったか①

2008年02月15日 | Weblog
No pain,No gainである。

今までで、散々述べてきたことであるが、代償を支払っていないSTでは、困ってしまう。

どのような代償か。

金銭であり、汗であり、時間、死、信頼、色々あるだろう。

一年前のリハと同じことをしていないだろうか。

これだけネット等が発達し、ST分野でも色々な文献が出版されており、それらを吟味しようとする努力をしているだろうか。

PubMed等を使いこなせ、とまでは言わないが、せめて、いま行っている手技のEBMがどのような推奨レベルなのか、とか、EBMと言っても、実は…と反論出来るだろうか。

丁度、医療保険改定が近づき、様々な情報が出回り始めた。

何年かごとに、猫の目のように変わる事柄を、追いかけるのではなく、どうなっても、つぶしが効く様にしたいものだ。

どうするのか。

日本であれば、厚労省が管轄する項目であり、彼らの動向を気にしていくことも有益と思われる。

彼らの考えを知る機会と言うのは、探してみれば案外、あるものである。

ネットや協会情報以外に、直接の情報源を持とう。

そうすれば、自分の臨床現場と彼らの考え方の解離を、どう埋めればよいか、どう行動するべきか、10年後はどうしたいのか、などが分かるかもしれない。

個人的には、そうした情報源をブレーンとして持てるようにしたい。

ただし、こうした策略をとるためには、それ相応の代償が必要になる。

こうした策略を取り続けることで、しかも口外せず、生き残っていきたい。

ST合格率から考えて、厚労省の考えるSTの人数は、おそらく天井に近づいているのだろう。

こうした現状を考えるに、やはり、EBMで数字を示していく努力が必要だろう。

現実と理想とST⑥

2008年02月10日 | Weblog
認知症があり、いわゆるリハ適応を考えると、難しい場合に、摂食・嚥下障害がある場合、の話しについて。

おそらく、食事介助が行われているものと考えられる。

STだけで全ての食事介助に介入出来ている病院や施設が、日本にあるかどうか、分からないが、大抵は、看護師さんや介護士さんなどが中心となっているのではないだろうか。

むせる、など顕性で誤嚥性の熱が出る、などといった症状があれば、まだ、STへの依頼が出やすいと思う。

しかし、認知症があると、特に、進行してADL全介助で、食事を食べるのが唯一のADL、といった状態だと、介助者のペースで食べれるかどうか、に依存することになる。

そうした状態だと、咽頭などの知覚もそれ相応に低下していて、咽頭反射が減弱していることが多い。よくある、いつまでも咀嚼していたり、なかなか嚥下しない状態、で、咽頭期が厳しい状態である。

また、口腔の不随意運動も、セットになっていることも多い。

更に、総義歯であったりして、口腔期も厳しかったりする。

その状態で、無理をして食べれば、誤嚥や窒息は、簡単に起こる。

ただし、閉口で食事介助出来ない場合でなければ、開口されて、食事介助をどんどん行うことが多い。

食事介助者のペースについていける場合は良いが、その時の調子や姿勢などで微妙に対応できない場合、また、急変が生じた場合(胃食道逆流、呼吸状態の低下、嚥下性無呼吸に対応出来ない場合など)に、窒息の可能性がある。

窒息を考えたとき、リターンとリスクを考える必要がある。

リターンは、経口摂取できること、である。

リスクは、窒息や誤嚥性肺炎である。

死んでもいいから食べたい、と言える場合はまだしも、言えない場合、どうするべきだろうか。

誰が判断するべきなのだろうか。

Drだろうか。

胃ろうを併用して経口摂取を楽しみレベルで続ける、と良く言われるが、その状態を、例えば5年継続出来ると言い切れる根拠はあるのだろうか。

胃ろう+楽しみの経口摂取で、結局、熱が出たりして経口摂取を止めて胃ろうだけに戻したまま、経口摂取の再開無いまま、廃用で本当に食べられない、という場合が多いような気がする。

少しでも食べれたから良い、のだろうか。

熱が出たので、やっぱり駄目ですね、では、あんまりでは無いだろうか。

夢を見させて、後から嘘です、は、ひどい気がする。

例えば5年間、胃ろう+楽しみの経口摂取を継続出来る仕組み、リハビリのやり方を作ってから、取り掛かれないだろうか。

こうしたストック&フローの考え方でないと、結局、継続的なリハビリとならず、単に、一時的なものとなってしまう。

一時的な障害であれば、それで良いのかもしれないが、CVAであれば、現在の医療水準では、完全な回復は困難なことが多く、永続的な視点での介入が必要であろう。

嚥下障害であれば、健側で嚥下、といっても、結局、一つの管を使うしか無い訳で、嚥下障害の存在を認めたうえで、現実的にどうするか、が問題である。

ところで、話しがもどって、重度認知症への介入だが、リハ介入が困難なので、環境への介入を選択したい。

箸が使えれば、それで食事摂取の時間をかせぐ。

スプーンなら、小さいものに変える。

テレビが見える環境なら、見てもらって、食事から気をそらしてもらい、食事摂取のペースをゆっくりにする。

しかし、体重やムセなどの臨床所見を常におさえておき、そろそろ限界か、と判断したばあいは、躊躇することなく経管栄養を考えなくてはならない。

経口摂取にこだわり、窒息死させては、本末転倒である。

特に、今は冬なので、呼吸器系の機能低下を起こしやすい。

咳の最初で、中枢気道の貯留物を出せないと、その後のピークフローは下がる一方だから、なかなか健常者のようには喀出出来ない、と考えなくてはいけない。

食べさせる判断を下す職種である以上は、その結果として生じうる誤嚥や窒息のリスクに対して、最低限のフォローが出来なくては、無責任である。

例えば、BLSだったり、呼吸介助手技だったり、ということだろう。

STとしての責務を果たせるように、努力しよう。

現実と理想とST⑤

2008年02月02日 | Weblog
時間は限られている。

まだ学校卒業したての、1年目という方は、もう2年目になる。

学生の頃と比べて、どこか変わっているだろうか。

臨床実習のときのリハビリテーションを、機械の様に淡々と行っていないだろうか。

失語症だから絵カード、構音障害だからブローイング、嚥下障害だからVF…。

それを全て否定する気は毛頭ない。

要は、その人のためになっているか、だ。

「リハビリをして欲しいorしてほしくない」とSTに伝えれる人は、少なくとも、なんらかのコミュニケーション障害があっても、ある程度は、自分の意思を伝えれる訳である。

そのような場合と、そうでない場合を混同して、画一的にリハビリを行うのは避けたい。

ただし、個人的には「リハビリ漬け」にするのは辛い気がする。

特に「リハビリをして欲しい」場合に多いかもしれないが、あれもしましょう、これもしましょう、は良いが、例えば、65歳程度のCVA後の方は、おそらく20年前後の病後の生活があるものと思われる。

その20年間、ずっと選択できるリハビリテーションなのか、を考えたい。

「○○病院では、△△をずっとしてもらっていた」といった類の話しは、どうしようもない、で片付けばよいが、受けるほうは、対応に困ってしまう。

なんでもやれば良い時代は、20世紀に終わっていると思う。

経済諮問会議などの提言を受け、昨今のリハ情勢は、ご存知の通り、変わっている。

自分の領域を守るので精一杯、だろうが、お客様の利益を忘れた業界というのは、必ずしっぺ返しを受けているのではないだろうか。

リハをしてもらって有難い時代が、当然に、そして、なぜこのリハなの?という風に、変化している。

患者様のご家族が、そういうリハの知識を、セラピスト以上に持っていたりする時代である。

コミュニケーション障害が専門のSTなので、ご家族や同僚との意思疎通は、大丈夫だろうが…。

そして、そうした意思疎通が出来ない方々への対応、リハビリテーションも重要である。

リハ適応無し、で済まない場合、どうするか?である。

認知症などで、摂食ペースが速いものの、自ら摂取されており、介助すると却ってムセたりする場合である。

おそらく食形態は、下げてあるだろうから、その上、どう介入するか、である。

こうした場合、大抵、低栄養で、誤嚥性肺炎の疑いが常にあり、嗄声や微熱、体重減少、また尿路感染症も合併して、皮膚がカサカサだったりする。

そうした人については、大抵、管理栄養士さんも介入しておられたりするので、血液データや栄養評価、体重の変化などを聞いて、誤嚥及び不顕性誤嚥に対する余力を考慮しておこう。

また、このような場合、大抵、義歯は無かったりするので、ほぼ丸飲みだったりする。

そして、長年の廃用や義歯が無いことで、舌の運動が限定的になっていたりする。

また、声掛けして指示が入らないから、うなずき嚥下で、とかThink swallowとかは出来ない場合が多い。

どう介入すべきだろうか?