臨床現場の言語聴覚士(ST)

臨床現場の言語聴覚士(ST)のブログ、です。
摂食・嚥下障害や高次脳機能障害などについて考察します。

嚥下について⑥

2007年10月31日 | Weblog
純粋な嚥下障害からは、かなり逸脱しているが、臨床のSTが嚥下障害をみる場合に考える事、ということでご容赦願いたい。

さて、体幹の保持ということでシーティングも考えていく。

今の若い人を中心とした健常人は、普通、座位で経口摂取することが多いだろう。

この延長線上で考えれば、車椅子での座位、ということになるのかも知れない。

しかし、病院などで良く見かける普通型車椅子というのは、より良い座位姿勢を目指すシーティングではお勧めしないようだ。

普通型車椅子に色々とクッション等で手を加えて、という場合が多いのかもしれないが、理想的には、シーティングなどでよく用いられるモジュール型車椅子などをきちんと調整して、テーブルなどの高さも調整し、摂食動作まで配慮出来れば、最高なのだが。

目の前の摂食場面の現実は、普通型車椅子、高すぎる大きいテーブル、円背、膝関節屈曲拘縮、足底接地不可、体幹保持機能低下による体幹の傾き、そして何より認知症などなど、様々な要因がありすぎる。

ある程度は修正し、ある程度は眼をつぶる取捨選択を行う必要がある。

そうした検証を1日3回、365日繰り返すことになる。

本来なら、STがそうした嚥下障害のリスクを持つ方々全てに関わることが出来ればよいのだが、マンパワー的にも厳しいのが実情である。

摂食・嚥下というのが、リハビリでもあるものの、日常生活なので、STのみでは到底まかないきれず、看護師さんや介護士さんなどのお力をお借りすることになる。

摂食・嚥下障害を診ようとすると、かならずチームで診ることになる理由である。

STだからと言って、必ず嚥下障害をみるわけでもないらしいが、自分は、診ている。

シーティングから、また話がずれた。

みて分かるところをまず、みる、という話だったはずだ。

姿勢を整えることをまず考え、無理なら、シーティングなど代償的方法を試みる、という段階、まで来た。

まずは、ボトムアップ的な方法から、である。

理由として、先行期へのアプローチの定石が無いことにある。


嚥下について⑤

2007年10月27日 | Weblog
人間以外の嚥下について、考察してきた。

人間の嚥下について述べる。

頭蓋底と咽頭の角度は、また述べる。

頚部のコントロールについて述べる。

小児嚥下から、成人嚥下へ切り替わる時期が、1歳前後ということになる。

つまり、前の記事で述べたが、体幹や頚部の安定性、歯の萌出、舌の巧緻性、呼吸系の安定化等といった条件がそろって、小児嚥下から成人嚥下に切り替えたほうが、生き残れたので、そういうDNA設計の種族、つまり、我々ホモ・サピエンスだが、それらが多いのだろう。

少し話がずれたようだ。

頚部のコントロール、といってもなかなかSTの知識だけでは、対応しにくいように感じている。

結局、頚部といっても、頚部へ枕をかうことや、ギャッジアップの角度調整などだけで摂食・嚥下障害への対応が終了、なら良いのだが、大抵は、そう上手くいかない。

なぜか?

自分なりに、原因を解析するプロットを述べる。

まずは、みえる所から。

まず、姿勢である。

STだと、どうしても肩から上をみてしまうかもしれないが、体幹や四肢のみで抗重力肢位をとれているかどうか、をまず診ないといけないと考えている。

1Gを、体幹や四肢のみで支えられるか?それが無理な場合、代償法が適切だろうか。

横向き嚥下やうなずき嚥下のように、嚥下障害の代償的な方法があるように、抗重力肢位を適切に保てない場合には、いわゆるシーティングなどが必要になると考える。

嚥下について④

2007年10月21日 | Weblog
順番からいくと、魚類の次なので両生類、爬虫類の嚥下についてだが、資料が無い。

よって、残念ながら、説明は省かせて頂く。

どなたか、詳しい方が解説して下さることを期待する事とする。

次は、哺乳類の嚥下について、だ。

まずは、頭蓋底と咽頭の角度から考える。

PTさんやOTさん、整形外科医さんではないので、正直、不確かなこともあるかもしれないが、姿勢について述べる。

魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、人間と考えたとき、徐々に抗重力肢位を獲得して人間で直立している、と言えるのではないだろうか。

つまり、魚類から哺乳類の四足動物くらいまでは、おそらく直立姿勢を保持できる骨や筋を持っていない。つまり、それら骨・筋群からなる体幹と頭頸部のなす角度が、頭蓋底と咽頭の角度、なのだが、魚類から哺乳類の四足動物、下等な有袋類くらいまでは、ほぼ一直線と考えられる。

それが、成人の人間でやっとほぼ直角となる。

つまり、サルでは言葉を話せない理由がここにある。言葉やシンボルを上肢で操作するのは可能かも知れないが、口腔器官を人間のように高速に構音することは無理と考える。

もう少し、述べる。

人間の赤ちゃんが1歳くらいで話し始めるのには、色々な条件が満たされたから、と考える。

首がすわり、お座りができ、立位がとれるように体幹や四肢が発達していく。

呼吸系が安定してくるのも8ヶ月くらいから、らしい。

離乳し、そろそろ歯がはえているころである。


嚥下について③

2007年10月21日 | Weblog
嚥下について、魚類の続きから。

魚類で一番下等な無顎類の話は、一応済んだことにして、それより少し進化した軟骨魚類について。

サメなどが該当するようだ。

下顎が存在する。

そして、ご存知の通り、歯も存在している。

「口腔」からスタートしている嚥下シリーズなので、歯の発生も触れたいところだが、知識不足なので、割愛させて頂く。

下顎骨に注目してみる。

話がそれるかもしれないことを承知で、嚥下器官の発生の概要について。

骨に関して、メッケル軟骨から下顎骨が生じる。

下顎骨が存在するということは、つまり、有顎類であり、また、下顎骨を動かす筋群が存在して、随意的な運動を行うことができるようになる、ということになる。

つまり、ヤツメウナギのように、なんとか獲物に吸い付いて、腸管の蠕動運動の延長線上の不随意的な嚥下ではなく、有顎類では、あくまで随意的に下顎を動かすことが出来るようになったのだろう。

このように咀嚼し、嚥下することが可能になった原因として、鰓弓と咽頭嚢に関して、鰓弓軟骨の周囲に存在する特殊横紋筋がある。

もともとは腸管であり、平滑筋でつまり、不随意であったものが、この下顎骨の発生により、特殊横紋筋となり、随意的な運動、つまり、咀嚼や嚥下などを可能にした、と考えられる。

この特殊横紋筋には、眼輪筋、鼻の筋肉、耳の筋肉、口輪筋、咀嚼筋、そのほか嚥下に関連する筋が含まれるようだ。

嚥下が反射的な運動をかなり含んでいるのも、もっともな話である。

もともとは、腸管の一部なのだから。

話がそれたついでに、抗重力肢位についても考えてみる。

魚類は、浮力の効いた(=1G以下の)水の中にいる動物である。

よって、陸上生活し、1Gに最適化された骨格構造を有する(=抗重力肢位を必要とする)動物類とは、かなり違う骨格を持っている。

骨盤が無い。

まぁ、この件については、日を改めて。

嚥下について②

2007年10月18日 | Weblog
嚥下について、引き続き考察を加える。

前回の続きで、口腔について考えたい。

脊椎動物の魚類から人間へ、と話を進めよう。

魚類の一番下等に位置する無顎類(例:ヤツメウナギ)では、文字通り、顎がない。

この場合、口腔というより、口裂という感じがする。

下顎骨が無いので、咀嚼というわけにはいかないので、吸い付く、という感じだろう。

口の周囲に、歯に似た構造物があり、それを魚などに吸着させて、体液などを吸い込むらしい。

また、体全体をみると、エラ、臓器、筋、皮膚、生殖器と単純な構造である。

DNAの乗り物としては、この上無くシンプルである。

しかし、これが、栄養を取り込み、次世代を残す生物本来の姿なのかも知れない。

下顎骨がなく、口唇閉鎖が出来ないという条件で、舌もかなり粗大な運動のみと考えられるが、それで生命を維持し、DNAを残せるカロリーを取れるのだから、種の維持という意味では、満足できる嚥下システムなのかもしれない。

嚥下について①

2007年10月15日 | Weblog
ここでは、生物にとって、嚥下がどういう意味をもつのかを考察してみたい。

あくまで、個人的な感想とさせて頂く。

生物の生きる本来の理由を考えると、栄養を取り、次世代へDNAを残す事と言えるだろう。

言語聴覚士である以上、人間の嚥下リハビリについて知っているつもりだが、嚥下の動物間の比較形態学、比較解剖学については、最近まで知らなかった。

進化の系統樹は、多分、高校の生物以来だろうが、そういう概念も必要になってくる。

なぜなら、進化の過程と嚥下の仕組みは、表裏一体だからだ。もっと言えば、個体発生は系統発生を繰り返す、からである。

嚥下に関係が深い「口腔」から考えてみる。