■PETの壺 SUV値と悪性度の関連
埼玉医科大学 国際医療センター 核医学科
久慈 一英 先生
従来のCT、MRI、USなど形態画像診断では、原発性縦隔腫瘍の位置、大きさ、形態、周辺臓器への浸潤の有無、転移の有無、造影様態といった観点で腫瘍の種類や悪性度を判断していた。しかし、最も多い胸腺腫では、浸潤が進行しない限り、浸潤性と非浸潤性の画像診断は困難である。
縦隔腫瘍に限ると、FDG集積度と悪性度はかなり相関が高い。このため、集積度によって、縦隔腫瘍の悪性度に迫れる。さらに、形態情報と合わせて考えると、診断が深まる。私の鑑別法のポイントを、以下に紹介する。
1.手術しない病変
胸腺嚢胞や気管支嚢胞など嚢胞性腫瘤、成熟奇形腫などがあげられる。造影CTやMRIで十分診断できる。FDGは、通常ほとんど集積がない。FDG集積がほとんどない病変に関しては、良性の可能性が高いので、半年か1年後のCTやMRIの経過観察で十分と思われる。
2.待機手術
比較的小さな非浸潤性胸腺腫があげられる。FDG-PETでは、集積の弱いもの、つまりSUVmaxが3前後の腫瘍である(図1)。SUVmaxが3以下ではほとんどが非浸潤性の胸腺腫、つまりWHO病理分類でA、ABに相当する予後の良いグループである。
写真はオリジナルのサイトに表示
図1.非浸潤性胸腺腫(WHO病理分類AB)。腫瘍は比較的大きいが、FDG集積は乏しい(矢印)。SUVmaxは3.0
3.急いで治療
有症状の場合や腫瘍の大きいもの、浸潤の明らかな腫瘍は悪性度の高い可能性がある。転移があれば、悪性である。形態上の悪性所見に乏しくても、SUVmax値で4を越えるものは要注意である。5を越えたら、臨床的に悪性を念頭に治療すべきである。実際に、SUVmaxが高くなるにつれて、WHO分類でB1、B2、B3と非浸潤性の胸腺腫(図2)となり、さらに胸腺癌(図3)や悪性リンパ腫(図4)、胚細胞性腫瘍、神経原性悪性腫瘍などが含まれる。重症筋無力症を起こす胸腺腫は、WHO分類で、浸潤傾向の高い胸腺腫や胸腺癌が多いとされる。
写真はオリジナルのサイトに表示
図2. 浸潤性胸腺腫(WHO病理分類B3)。FDG集積は不均一に強い部分がある(矢印)。SUVmaxは8.7。
図3.胸腺癌(扁平上皮癌)。原発腫瘍は大きくないが、FDG集積は強い(矢印)。SUVmaxは、7.1。胸膜播種と胸椎転移があった。
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図4.非ホジキン悪性リンパ腫(DLBCL)。非常に強いFDG集積がある(矢印)。SUVmaxは、13.6。
胸腺腫以外の悪性腫瘍を疑う場合は、SUVmax値が非常に高い場合である。7を越えると胸腺癌の確率が高くなる。さらに、10を越えると悪性リンパ腫の確率が高い。15を越すと、悪性胚細胞性腫瘍など未分化癌の可能性が高まる。胸腺原発の悪性リンパ腫は、DLBCL(びまん性大細胞性B細胞リンパ腫)かホジキンリンパ腫が多いので、通常FDG集積は非常に高い。悪性リンパ腫や悪性胚細胞性腫瘍では、腫瘍マーカーが役立つ。胸腺癌では、胸膜播種など転移がFDG-PETで明らかになる場合もしばしばある。比較的若年の患者で集積の強い縦隔腫瘍を見たときは、胸腺癌や悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍の可能性が高い。
ピットホール
集積が高い腫瘍は悪性と短絡してはいけない場合がある。縦隔褐色細胞腫(神経節細胞腫)では、良性でもFDG集積が非常に高い場合があり、必ずしも悪性とは限らない。リンパ節転移病変の場合は、原発腫瘍の性質により、集積程度に幅があると思われる。
http://medical.nikkeibp.co.jp/mem/pub/special/PET/TU/TU13.html
【日経メディカル】より
埼玉医科大学 国際医療センター 核医学科
久慈 一英 先生
従来のCT、MRI、USなど形態画像診断では、原発性縦隔腫瘍の位置、大きさ、形態、周辺臓器への浸潤の有無、転移の有無、造影様態といった観点で腫瘍の種類や悪性度を判断していた。しかし、最も多い胸腺腫では、浸潤が進行しない限り、浸潤性と非浸潤性の画像診断は困難である。
縦隔腫瘍に限ると、FDG集積度と悪性度はかなり相関が高い。このため、集積度によって、縦隔腫瘍の悪性度に迫れる。さらに、形態情報と合わせて考えると、診断が深まる。私の鑑別法のポイントを、以下に紹介する。
1.手術しない病変
胸腺嚢胞や気管支嚢胞など嚢胞性腫瘤、成熟奇形腫などがあげられる。造影CTやMRIで十分診断できる。FDGは、通常ほとんど集積がない。FDG集積がほとんどない病変に関しては、良性の可能性が高いので、半年か1年後のCTやMRIの経過観察で十分と思われる。
2.待機手術
比較的小さな非浸潤性胸腺腫があげられる。FDG-PETでは、集積の弱いもの、つまりSUVmaxが3前後の腫瘍である(図1)。SUVmaxが3以下ではほとんどが非浸潤性の胸腺腫、つまりWHO病理分類でA、ABに相当する予後の良いグループである。
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図1.非浸潤性胸腺腫(WHO病理分類AB)。腫瘍は比較的大きいが、FDG集積は乏しい(矢印)。SUVmaxは3.0
3.急いで治療
有症状の場合や腫瘍の大きいもの、浸潤の明らかな腫瘍は悪性度の高い可能性がある。転移があれば、悪性である。形態上の悪性所見に乏しくても、SUVmax値で4を越えるものは要注意である。5を越えたら、臨床的に悪性を念頭に治療すべきである。実際に、SUVmaxが高くなるにつれて、WHO分類でB1、B2、B3と非浸潤性の胸腺腫(図2)となり、さらに胸腺癌(図3)や悪性リンパ腫(図4)、胚細胞性腫瘍、神経原性悪性腫瘍などが含まれる。重症筋無力症を起こす胸腺腫は、WHO分類で、浸潤傾向の高い胸腺腫や胸腺癌が多いとされる。
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図2. 浸潤性胸腺腫(WHO病理分類B3)。FDG集積は不均一に強い部分がある(矢印)。SUVmaxは8.7。
図3.胸腺癌(扁平上皮癌)。原発腫瘍は大きくないが、FDG集積は強い(矢印)。SUVmaxは、7.1。胸膜播種と胸椎転移があった。
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図4.非ホジキン悪性リンパ腫(DLBCL)。非常に強いFDG集積がある(矢印)。SUVmaxは、13.6。
胸腺腫以外の悪性腫瘍を疑う場合は、SUVmax値が非常に高い場合である。7を越えると胸腺癌の確率が高くなる。さらに、10を越えると悪性リンパ腫の確率が高い。15を越すと、悪性胚細胞性腫瘍など未分化癌の可能性が高まる。胸腺原発の悪性リンパ腫は、DLBCL(びまん性大細胞性B細胞リンパ腫)かホジキンリンパ腫が多いので、通常FDG集積は非常に高い。悪性リンパ腫や悪性胚細胞性腫瘍では、腫瘍マーカーが役立つ。胸腺癌では、胸膜播種など転移がFDG-PETで明らかになる場合もしばしばある。比較的若年の患者で集積の強い縦隔腫瘍を見たときは、胸腺癌や悪性リンパ腫、胚細胞性腫瘍の可能性が高い。
ピットホール
集積が高い腫瘍は悪性と短絡してはいけない場合がある。縦隔褐色細胞腫(神経節細胞腫)では、良性でもFDG集積が非常に高い場合があり、必ずしも悪性とは限らない。リンパ節転移病変の場合は、原発腫瘍の性質により、集積程度に幅があると思われる。
http://medical.nikkeibp.co.jp/mem/pub/special/PET/TU/TU13.html
【日経メディカル】より