「東の番頭さん」、クマちゃんの特徴は、黒毛の胸に小さな三角、高い声でよく喋り、よく鳴き、人にアピールしてご飯をねだること、そして、とても食いしん坊なことでした。料理長は時々、残り物として処分する魚の切れ端をあげていたようですし、副料理長は尻尾の付け根を撫でながら「こうして撫でられて喜んで鳴くのは、クマだけ!!」と可愛がってくださいました。
私にも同じように付き回り、鳴き回り、常に高級カリカリをねだっていました。
とはいえ、仲間の猫ちゃん達にはかなりウンザリされていましたし、もっと言えば嫌われていたかもしれません。たとえ自分の取り分が残っていても、クマは他の猫の頭を自分の頭でグリグリと押しのけながら、すごい剣幕で新しく置いたカリカリに飛びつきました。みんなが引いてしまいます・・・ロロちゃんが「はぁ~」っとため息をついたような顔をして、シラ~っと離れていくのを何度も見ました。
ロロちゃんは運動神経抜群! 木登り・蝉取りが得意。小鳥まで捕獲したことがあります!
そうまでしても食べ方も不器用、わざわざ離れた場所までくわえてもって行って独占を確かめてから食べようとする。一見一人占めのようでも、結局食べる量が少なくなる・・・馬鹿だなぁ、どうしてこんなにいじましいのか・・・自分勝手で性格の悪い、協調性のない、欲張りで意地汚い子だなぁと思ってました。寒さもピークを迎え、見た目もかなり汚く変わってしまいました。
2021年を迎える年末年始、平たく言えば、料理長や副料理長のように「可愛いクマちゃん」と思うことは、私には一切なかったんです。。。それもこれも今から思えば、クマちゃんなりの「命に関わる大変な理由」があったんですね。
たぶん・・・2020年秋、妊娠出産に失敗したクマちゃん、後産がきちんと出ず滞留し腐っていったのだと思います。傷ついた身体は元に戻らず、日に日に汚い様相になっていったのでしょう。ご承知の通り、外飼い猫のお腹の中には回虫や条虫もいますし、ノミ、ダニ、シラミも隙あらば表皮に寄生します。
クマちゃんは病気や寄生虫と戦いながら生きるために、必死だったんだと思います。だから、時には他の猫を押しのけて食べなければなりませんでした。そのためには、人へのお愛想も、仲間への嫌がらせも辞さない・・・クマちゃんは、生き抜くことに貪欲だったんです。
私が「この子はちょっとおかしい?」と思い始めた理由は二つ。
一つ目はブラッシングの時でした。私は猫ちゃん達の健康のために、できるだけブラッシングするようにしているのですが、クマちゃんの毛はスカスカで地肌が見えそうでした。また、クマちゃんはいつも、張のないヘナヘナのアンダーコート(下毛)を口から蜘蛛の巣のようにぶら下げていました。毛づくろいの仕方も、毛質も「尋常ではない」と思ったんです。
二つ目はシラミとシラミの殻が多かったこと。私がお世話になっている獣医さんは、元々大型動物の専門医でした。先生から以前、牛のシラミの話を聞いたことがありました。「シラミは動物グループの中で一番弱い個体一頭だけに、目立って寄生する。シラミを見つけた牛のほとんどが死にました」・・・クマちゃんだけが毛質が悪化し、黒毛色が茶色に変わるほど多く白いフケのようなシラミを背中に持っていて、毎回ブラッシングしてもしても、なかなかとれなかったのです。
紅葉の美しい晩秋の観光ハウス花月
クマちゃんなんだか切ないですね。
流産やシラミ、野生の厳しさとはいえ、目の当たりにするといても立っても居られなくなると思います。
一生懸命生きてきたクマちゃん、クマちゃんだけじゃないけど、愛しさが増します。