はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第3章 遠く離れて(1)

2016年05月22日 | 短歌
第三章 遠く離れて






都 会  92.4-5「芸術と自由」163              


0371 いろいろの欲望を満たしてくれる街だからこの街が好き人間は嫌い

0372 さまざまな思惑をもった人の群れを避けて地下鉄はくねくねと走る

0373 信号の度ごとに赤スムーズに進めない、さればされば死に急ぐこともあるまい

0374 コンクリートの地面深く行方不明の男流されていきつくウォーターフロント

0375 革命がロマンとなった日の朝の群衆から遠く離れて歩く

0376 この人混みにまぎれるのをひとつの安堵とする習性に絡まれて歩く



0377 都落ちした影をつれて銀座を歩く、通りの裏と表の落差を歩く

0378 赤光がつくる高層ビルの影にこの都会への未練ひっかかっている

0379 雪深い山小屋の番をする人の昼と夜などを考えていた

0380 誰もあなたのことなど気にしない酔って転んでも所詮あなたはあなたである

0381 自分の事しか言わない年寄りと自分の事しか考えない若者が右と左で暮らしている

0382 足下をくつわ虫がよろけて歩く、地球を背負ってよろよろ歩く

0383 未来につながる朝だと思う、昨日につづく朝だと思う、今日一日の朝だと思う








ピーターパンがいく  92.5「芸術と自由」164



0384 いまがいいのさ夢みるままでいたいから、優しい僕は少年のまま

0385 少年はサバンナの草原が好き、五月の空が好き、深刻ぶった目は嫌い

0386 何ごとも僕が大事なの、友情も冷蔵庫のなかで凍ったキムコになった

0387 スーパーの売り場の棚にならぶ男も女も在庫が豊富、気があえばいいじゃん

0388 覚めた感性が大事、「慎ましく未来を拒絶する」ピーターパンの群れが街を行く




0389 妹のパジャマに遠い異性を思う少年をしなやかにつつむ六月の風

0390 しゃぼんだまの少年になって空を飛ぼうよ、平和な今にかあるくふあふあ

0391 かあるく生きるのが流行よ、男も女も笑う、壁にむかって手をあげながら

0392 朝から犬が吠えている、きっと熟年の顔をした犬に違いない






夏の日の
  92.6-7


0393 頭上の太陽がギラギラと照りつけてこの気弱さをあざけり笑う

0394 金銭登録機は記憶する、その夜更け逃げた男の聞きなれぬ言葉など 

0395 異国への通話記録と死んだ女が残されているアパートの隣部屋

0396 日ざしの照りつける店先にスキーウェアのマネキン、真っ白な顔に汗の流れて

0397 横断歩道に立ち止まる夏服の尼僧喧噪の街に俯かず




0398 鉛り色の空に覆われて自閉症症候群あらわなサラリーマンが行く

0399 この夏の暑さに歪んでゆく夜に父と子の会話とぎれたまま

0400 豊かな老後に一億円が必要と自分の計算が老後を切り捨てる

0401 重みの実態などないから うすら笑いして光る金メッキの金色

0402 コトコトと煮た豆のやわらかく甘ければ ふと金持ちの猜疑心を笑う

0403 饅頭笠の僧が都会の真ん中で読経する、足音がかき消す慈悲慈愛


0404 午前一時を偏頭痛が襲う 東京にまたゴジラが現れる予感

0405 ただ耐えることを自らに強い いま蝉鳴きやんで終わりゆく夏







無愛想な日々  92.3-4「掌」31


0406 それユ得にこそ真夜中に徘徊する腹を空かした野良を愛しむ

0407 青い鳥の冷たくなった羽を撫でながら過労死を恐れる   

0408 羽を毟りとられた青い鳥を人知れず葬るために小さな穴を掘る

0409 雑踏の街のあちこちから吹いてくる風が弱い人間の臑を刺す

0410 冷たい雨は胃袋にしみこんで無愛想な日々の痛みが増幅する




0411 裸木の梢が真夜中に争い事が絶えなくて救いがないと泣きだす

0412 時計の針が刻む音をたよりに文明の尽きる果てを夢見る

0413 風にそよりと生える葦が考えているのは苦しみより逃れる術かもしれない

0414 午前零時の少し前、一日が生まれ変わることを信じて眠りにつく 


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