はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第1章 夢がさめてから(3)

2016年05月09日 | 短歌


闇からぬけて  91.1-6


0065 皺よせた鼻先に白く靄のかかればふっと息吹きかける思案

0066 壮年の紳士夜ごとのジョキング 闇深く伴走する死神

0067 右辺左辺イコールにならない親子変換方程式の解

0068 甘すぎたケーキに胃はもたれて子育ての方法誤ったか

0069 四角い部屋を丸く眺めて、天井にしがみついている平和主義者め

0070 傍らの小瓶に僕のハートを入れて、標本観察棚に並べた

0071 空足を踏んでよろけたら一般大衆の眼は白いことがわかった

0072 暗黒の空間に五十億年後の太陽の死を見つめる木枯らし

0073 慢性の気管支炎に苛まされて僕の家庭は空中分解するところです

0074 暗やみのスクリーン固唾を飲んで見ているホラー映画「世紀末
」 
0075 契約に用いた朱肉にまざるサラリーマンの胃袋の血の二三滴

0076 うす紫に咲くすみれの花に吸いよせられる淫乱な眼の行方







闇からぬけて 生き様

0077 賑やかな街に気後れしているので惚けるには早いと背筋を伸ばす

0078 生き様を恥じることもありみずうみの青いそよぎにじっと身をおく

0079 言葉なく並び歩く子の内に締め出されている父の存在

0080 朝焼けに鳴るピアノ半音づれて未だ納まらぬ民族紛争

0081 転がせる土地持たざる人民の武装蜂起をえがく十月二十五日

0082 人身事故あり「いま障害物を撤去しました」と車内放送

0083 壊れたオルガン奏でる"ON THE BEACH"受信して偵察衛星は軌道を離れる

0084 幾億の星はまばたき 人絶えた闇に人工衛星は静止している

0085 銭なくて何が正義とうそぶいて手練手管みがく秋の夜

0086 美しい正義などどなたかにまかせ深夜掠めた金の重さを計る
 



母慕記  91.10
             昭和五十六年十一月十四日死去享年六十八歳。幼い日、あなたのひざにもたれて眠った温もりをいまも忘れることができません。
             あたたかな手のひらでまっかになった私のほほをさすってくれました。もうあの日のことははセピア色の追憶になりました。

0087 耳鳴り鳴りやまず遠い海より呼ばわれる母の声かも

0088 母の顔思い浮かべる水の面に子鴨いく匹母鴨に添う

0089 笑うこと忘れておれば真冬日の光りをうけて白鳥はとぶ

0090 一瞬のこととは言えど人生を違えたごとくドア閉められてゆく

0091 いきりたつ胸の鼓動を覚えればガラス刺し抜く冬の光線







桜の季節に  91.4


0092 人の不幸をどこかで願いながら満開の桜に目をほそめている

0093 夜桜の宴の帰りニュースが伝えるクルド人の凍死のことなど

0094 ソフトスーツ流行り角とれて今日もまた貫けぬ男の意地
   
0095 家持たぬ故哀しまれていて意志持たぬ故に笑われている

0096 優しさということばに縛られていま身動きとれぬ男文字

0097 ゆっくりと座りなさい 雪の降るようにあなたのテラ〈地球〉を抱きしめて


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