竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

革新的からほど遠い「革新的エネルギー・環境戦略」

2012年09月18日 | 政治
政府によるエネルギー基本計画見直し作業の最終結論ともいえる「革新的エネルギー・環境戦略」は9月14日のエネルギー環境会議(閣僚のみ)で示された。その大きな柱は2030年代に脱原発をめざすという方針だが、核燃料再処理や高速増殖炉もんじゅは継続するという、「決められない政治」の典型的ブレブレ戦略となっている。とは言うものの、はじめて政府が脱原発を打ち出したという点では画期的でもある。これを「竹村流」で読み解いてみよう。
ちなみに、本日、環境エネルギー政策研究所も、この戦略に対するプレスリリースを出しているので、そちらもぜひご参考に。
http://www.isep.or.jp/library/3665

脱原発を掲げさせたのは市民の力

政府が2030年代中という遅い設定ではあるが「原発ゼロ」を打ち出さざるを得なかったのは、この間の「パブコメ」ではっきり現れた市民の声の力である。各地の意見聴取会では、意見表明する市民の大半が原発ゼロ。中には9割という会場もあった。最終的に集まったパブコメは8万9千件で、その87%が原発ゼロの意見だった。
意図的な設問を設定したマスコミ世論調査ではゼロと15%が拮抗していたが、パブコメではゼロが圧倒した。総理官邸をとりまく官邸デモの人の波は20万人にもなった。政府としては、マスコミの方が平均的国民だと強弁して15%シナリオに強引に持ちこむこともあり得たが、総選挙近しという切迫感から「本当の有権者の声」と思われる「ゼロ」を選択せざるを得なかったのだろう。市民の力なくして、この方向性は出て来なかった。
ではこの政府戦略に則して書いてあることを見て行こう。
まえがきによると、大きな柱は三つだという。
1、 原発に依存しない社会の1日も早い実現。
2、 グリーンエネルギー革命の実現。
3、 エネルギー安定供給の確保。
その3つを実現するために不可欠なものが電力システムの改革。そして、この改革が実現し「グリーンエネルギー革命」が実現すれば、地球温暖化対策もバッチリだと。
「安定供給」というのは、これまで原子力ムラの呪文だったので、若干の曇りはあるが、このまえがきはおおむね良くできている。

核燃料サイクル堅持は決断力の欠如

しかし、「原発に依存しない社会の1日も早い実現」という項目の中に、なんと核燃料サイクルの堅持があるのだ。なんだこりゃ?と普通は思う。
論理はどうもこうだ。
原発に依存しない社会を1日も早く実現するためには、その道筋を示さねばならぬ。そこには避けて通れないバックエンドの問題がある。バックエンドとは原発のトイレだ。原発が「トイレなきマンション」といわれて久しいが、いまだにトイレはできていない。廃棄物の処分は脱原発後も大きな課題として残る。ここまではその通りだ。
問題は次。バックエンドには核燃料サイクルも含まれる。その核燃料サイクルを引き受けてくれた「青森県の協力があったという事実にむきあうところから始める」必要がある。だから核燃料再処理堅持なのだそうだ。
翻訳すると、青森県に使用済核燃料や低レベル、高レベル廃棄物などを受け入れてもらっているのは核燃料サイクルという方針を前提としている。核燃料サイクルつまり使用済核燃料の再処理、高レベルガラス固化体の製造をやらないのであれば、使用済核燃料や核廃棄物を持って帰ってくれということになるから、とりあえず再処理は続けると言っておこうということ。
再処理など今もできていいないし、今後もできない。さっそく運転開始時期は来年に繰延された。でもやめると言ったら青森県が怒るからなあ・・。何のことはない、「決められない政治」の典型だ。本当は、「もうやめよう」ということで青森県と協議に入るべきなのだ。

◆ちなみに再処理の堅持は次のように折り込まれている。
「原発に依存しない社会の1日も早い実現」のための3つの原則と5つの政策。その5つの政策の筆頭に上げられている。(以下の5つ)
1) 核燃料サイクル政策
2) 人材や技術の維持・強化
3) 国際社会との連携
4) 立地地域対策
5) 原子力事業の体制と原子力損害賠償制度
この1)で「青森県の協力を重く受けとめ核燃料サイクルは中長期的にぶれずに推進」と書かれている。5つの政策とは「原発をやめるための政策」ではなく続けるための政策とも見える。

画期的な原発新増設の停止

「原発に依存しない社会の1日も早い実現」のための3つの原則とは、1)40年運転制限、2)再稼動は原子力規制委員会の安全確認が前提、3)新増設は認めない、という三つだ。
これはこれでいろいろ問題もあるが、新増設なしを決めたことは高く評価できることだ。枝野経産大臣がさっそく3つの原発(大間、東通1号、島根3号)は建設を認めて、2030年代に原発ゼロと矛盾すると指摘されているが、大きな流れとしては原発は続かなくなった。
40年運転制限の判断も再稼働判断も原子力規制委員会に委ねた形になっているので、原子力ムラの中心にいた田中俊一委員長が、実際のところどのような進め方をするのかにかかっている。
福島県内の深刻な放射能汚染に対して、被曝は怖くないという広報役を担い、除染して福島に人々を戻すのだと強調するような人物である。被曝をできるだけ防ぐという観点からは、もっとも安全確保にふさわしくない人が安全基準を作ったら、どんな判断となるのだろうか。
あまり期待はできないどころか、真逆の結果が出る恐れがあるので多くの人が反対をしているわけである。そんなとんでもない原子力規制委員会人事を押し進めている政府が原発新増設を止めるという。
新増設というのは、まだ設置許可が下りていない原発ということだそうで、設置許可が出ている三基は認め、それ以外は認めないという。これでギリギリ建設が止まったのが、中国電力の上関原発である。海水面が埋め立てられようとしていた昨年2月、祝島の人たちを中心にした身体を張っての抗議行動で、かろうじて埋立てが阻止できた。もし埋められていたら、この決定も悲しいものになっただろう。

グリーンエネルギー革命とグリーン政策大綱

いろいろ問題の多い戦略ではあるが、この戦略の作成者がもっとも強調したかったのはここかもしれない。「グリーンエネルギーを主要な電源にしようという明確な意志をもってグリーンエネルギー革命を推し進める」。これが加速すれば、原発依存からの脱却も前倒し実現できると。
そして(1)節電・省エネルギーと(2)再生可能エネルギーにについての具体的政策が並べられている。
ただし目標は、2030年までに節電で10%、省エネ全体(節電を含む)で20%と低い。今どきもっと可能だと思われるが非常に慎重だ。具体的には家電の省エネ性能向上とか、家庭用燃料電池の普及、新築住宅やビルへの省エネ基準義務化など地味。熱の利用やスマートメータ、コンパクトシティなど、言葉を悪く言えばお題目の羅列だ。でも、言わないより良いとも言える。
LED導入に関しては2030年までに100%としているし、家庭用燃料電池は2030年に530万台目標とか。2010年には1万台なので、すごい目標だ。どうして風力ではこんな目標が掲げられないのだろう。
再生可能エネルギーでは2010年の発電電力量1100億kWhから2030年に3000億kWhという目標。2010年の数字にはかなりの巨大水力が入っているので、それを除くと2010年の250億kWhから2030年の1900億kWhなのだとか。
設備容量では900万kWから10,800kWと10倍以上にするという目標。意欲的な数字ではある。
この具体策を示すものとして、政府は「グリーン政策大綱」を今年の12月までに策定するのだという。

違和感の大きいエネルギー安定供給の戦略

「安定供給」は、それ自体は大事なことであり否定するものではないが、原子力ムラの定番「推進用語」だった。この戦略の中で「安定供給」を考えるのであれば、供給側ではなく需要側の状況を把握し、供給遮断が許されない需要家と融通の効く需要家を分別するとか、どういう時間帯にどういう業種でピークが発生するかなどを分析し、供給側の対策を考えるというものであるべきだ。
ところが書かれていることはまったく違う。LNGと石炭の活用ということだ。ここを書いた人間の意識は、従来型の巨大集中型の発電供給モデルしかない。それしか安定供給はできないと頑迷に凝り固まっているのだ。スペインでは風力発電がベース電源で、ときに需要の60%まで風力が電力供給しているなど耳をふさいで聞かない人だろう。
申しわけ程度に「熱の高度利用」があり、次世代エネルギーにメタンハイドレードと水素が上がっている。項目だけだ。このままであれば、基本的にこの項目は戦略から全削除しても構わないもので、どうやら再生可能エネルギー利用を中心に書かれていた原案に、原子力ムラがねじ込んで石炭や天然ガスを書き込ませたような宙の浮き方である。
石炭や天然ガスへの道を大きくすれば、再生可能エネルギーへのインフラ整備=電力システム改革を遅らせることになるからだ。メタンハイドレードや水素という「数十年以上先のエネルギー」を持ち出すのも同じ理由だ。

電力システム改革と地球温暖化対策

その電力システム改革だが、残念ながら言葉は美辞麗句だが、本気度が低いように感じる。「分散ネットワーク型システム」に向かうという大方針はその通りだが、送配電部門の中立化や広域化では「機能分離」と「法的分離」しか上げられていない。電力システム改革専門委員会での結論がここまでだからしようがないが、所有分離まで徹底しないと中立化はうまく行かないだろう。
地球温暖化対策もグリーンエネルギー革命が実現できれば前倒し達成可能とされているが、具体策は書かれていない。第四次環境基本計画(平成24年4月27日閣議決定)では、2050年までに80%削減とされているとの紹介があり、これを堅持するとの決意が書かれている。
ただし2030年度に温室効果ガスを1990年度比20%削減という目標になっており、鳩山元総理が打ち出した2020年25%削減はどこかに消されたようだ。2020年には5%から9%削減という、小さな目標になってしまった。

さて市民はどう受けとめたら良いのか

この宝石と毒の球が入り混じったような「革新的エネルギー・環境戦略」を、私たちはどう受けとめるべきなのか。普通なら「アホー」といって突っぱねれば良いのだが、次期総選挙で旧勢力(=自民党など)が復活したりすると、この「革新的エネルギー・環境戦略」すら吹っ飛ばされ、もっと悪い内容に変えられる可能性がある。
ただ反発するだけではなく、この戦略に書かれている「良い部分」はできるだけ早くに具体的な政策に落とし込む必要がある。閣議決定された「グリーン政策大綱」や「電力システム改革戦略」など不可逆的な段階まで結実させておく必要があるということだ。
「核燃料サイクル堅持」が入っているから全部ダメ!と言うようなレベルではない「狡猾な対処」が市民側に求められる。ウーム難しいかな。



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