横たわる飼主サイドに、ゆきが来た。
大体、足元に行ってしまうか或いは
こちらにお尻を、と逆を向いてしまうのだが。
布団を掛け、背中を向ける彼女を
その中で擦って居た。
くっ付いて居ると、どうも勝手が宜しく無い。
飼主右側に居る彼女を右手で撫でるのは
結構、難しい。更に横臥位になり
左手で擦る。
温かかった。
ゆきは本当に暖かかった。。。
思わず後ろから抱きしめる。
生きて居る温もりに、涙が止まらず。
最早、それを瞼の中に仕舞い込む努力はしない。
この暖かさが奪われてしまう刻が、
そう遠くはないであろうその時が
本意でなくも脳裏を過る。
怖くて堪らない。
怖く、恐ろしく、唯々、戦慄の中に身を置く。。。
イヌの前では笑顔で---と良く言われて居る。。。
しかしゆきは全てお見通しだ。
フェイクスマイルも、空元気も、何もかも---
喜怒哀楽の全てを見せる。
誰にも見せない、怒と哀の部分も含め全て。
苛々し、貧乏ゆすりをし、あぁ~もぅ~!!!
と苛々した態度を取ると
そっと部屋から姿を消して居たが
何て事は無い切っ掛けから、ゆきは苛々する
飼主に前脚でトントンする様になる。
ゆきがトントンした瞬間に満面の笑みを浮かべ
かなり高い声を出す。
話し掛ける内容は決まって居らずも
いつもと態度の相違する飼主が
ゆき自身のアクションに因り
嬉しそうだ、楽しそうに変化したぞ、
と認識して貰う為。。。目立つ、妙なスタンドプレイ
に過ぎないが、ゆきの前で怒り悲しみを
表現してしまった懺悔の意味も含め、
彼女の存在感の大きさを、わざとらしく
大袈裟に表現する。
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喘鳴は残るも、規則正しく上下する胸部、
汚いがフカフカな被毛。。。
本当に暖かいゆき。。。
生きて居る、とはこういう事なのだ。。。
この全て;時間も含め;が奪われてしまう恐怖に
言い様の無い慄然とした暗闇が、心を支配する。
ゆき飼主は24時間、ゆき。
ゆきで出来て居る。。。
何もかも、ゆき。。。
解って居る。一生イヌと生活し続ける等
不可能である事。。。
別れは確実に、必ず訪れる事---
普遍的真理。。。
だが、怖い。
今も、動悸がする。膝も手も震える。。。
ゆきは布団から移り、テーブル下に居る。
今、足元に居るこの宝物。。。
---掌中の珠---
外は雨、ゆきの好きであろう散歩へ
行かれない。
本日、10月29日も目を覚ましてくれた事に
感謝をする。。。
そして
無事に過ぎていきます様。。。