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空腹に伴い味覚を調節する神経ネットワークの発見

2019-10-16 | 食・レシピ
 生理学研究所の中島健一朗准教授・傅欧研究員は、同研究所の吉村由美子教授の研究グループ、東京大学大学院農学生命科学研究科の三坂巧准教授の研究グループ、同研究科東原和成教授の研究グループとの共同研究により、マウスにおいて空腹に伴い味覚を調節する神経ネットワークを発見した。本研究結果は、「Nature Communications」誌(日本時間2019年10月8日)に掲載された。
 摂食行動はヒトを含む動物にとって最も重要な行動の1つである。このうち、味覚は、その基本的な役割として、栄養豊富な好ましい食物を積極的に摂取し、有害な成分を忌避するなど、食物の価値決定に関与する。
 しかし、この判断基準は常に一定ではなく、空腹のときには味の感じ方や好みが普段とは異なることが知られている。このような現象はヒトに限らず、マウスやショウジョウバエなど異なる種の生物でも観察される。しかし、その原因はよくわかっていなかった。
 近年、多くの研究により、脳基底部の視床下部弓状核に存在するアグーチ関連ペプチド産生神経(AgRPニューロン)が空腹時に活性化することで食欲が生み出されることが明らかになってきた。また、このニューロンは様々な脳部位とネットワークを形成しており、これらの部位の活動を抑制することが知られている。
 本研究ではマウスをモデルに、”AgRPニューロン”が空腹時の味覚の変化に寄与するかを検証した。
 空腹にしたマウスの味覚をリック評価試験により測定したところ、通常飼育時と比べて、比較的低濃度の甘味溶液でもリック(舐める)回数が増大した。一方で苦味溶液については、通常はリック回数が大きく低下する濃度でもリック回数が高い状態が維持された。この結果から甘味など好ましい味はより嗜好するのに対し、苦味や酸味など不快な味に鈍くなることが分かった。
 そこで、オプトジェネティクスにより、”AgRPニューロン”を活性化させマウスの脳内を人工的に空腹状態にして評価したところ、興味深いことにマウスを絶食させた時と同様の味覚の変化が生じた。また、この変化は、外側視床下部に接続する(投射する)”AgRPニューロン”を活性化した場合にのみ生じ、他の脳部位に投射する”AgRPニューロン”では誘導されなかった。
 次に、外側視床下部のニューロンは興奮性と抑制性の2つに大別されることから、どちらのニューロンが味覚を調節するかを調べた。”AgRPニューロン”が投射先のニューロンの活動を抑制することに注目し、DREADD法を用いて、両グループの活動を人工的に抑制して味覚を評価したところ、興奮性ニューロンの活動が低下すると空腹時と同じように甘味や苦味の嗜好性に変化が起こった。対照的に抑制性ニューロンにはこのような効果はなかった。
 外側視床下部の興奮性ニューロンも”AgRPニューロン”と同様、様々な脳部位に投射していることに注目し、各投射経路の活動をDREADDにより1つずつ人為的に抑制することで味覚調節部位をさらに調べた。その結果、不安中枢の1つである外側中隔核へ投射するニューロンを抑制すると、空腹時と同様に甘味への嗜好性が高まったが、苦味に関してはリック行動に変化がなかった。一方、嫌悪情報の応答部位である外側手綱核に投射するニューロンを抑制すると、苦味に対して感度が低下したが、甘味に関してはリック行動に大きな変化がなかった。これらの結果から、甘味と苦味は別々の経路で、それぞれの情報が伝えられていることが明らかになった。実際、外側中隔核の活動は甘味摂取により抑制されるが、空腹時に甘味を摂取すると、その抑制がさらに強まる。一方、外側手綱核は苦味摂取により活性化するが、空腹時に苦味を摂取した場合には活性化の程度が抑えられることも判明した。
 以上、一連の結果から、空腹に伴って生じる味覚の変化は視床下部”AgRPニューロン”を起点とした神経ネットワークにより調節されることが分かった。また、外側視床下部の興奮性神経が中継点として働き、好きな味と嫌いな味とで別経路を介して制御されることが分かった。
 視床下部”AgRPニューロン”を起点とした味覚調節システムの元来の役割は、飢餓が身近な野生環境において、糖など栄養価の高い食物を普段以上に好むように嗜好を変化させ、多少悪くなった食物でも妥協して食べるようにすることと思われる。このような味覚の調節は、少しでも効率的にエネルギーを摂取して生き延びるために存在していると推定される。
 また、この神経ネットワークが不安・嫌悪など感情に関わる脳部位の活動を制御することを考慮すると、摂食時の生理状態(空腹・満腹など)により味の感じ方(美味しさ・まずさ)が変化するという現象の神経基盤であると考えられる。
 ◆用語説明
 〇味覚
 ヒトでは甘味・うま味・酸味・塩味・苦味の基本5味から構成される。マウスなど、げっ歯類もこれらの味を識別することが出来る。
 〇視床下部弓状核
 摂食を調節する脳部位。食欲を高めるニューロン(AgRPニューロン)とその反対に抑制するニューロンの2種類から構成される。
 〇リック評価試験
 マウスに味のついた溶液を提示し、そのリック(舐める)回数を測定することで、味に対する好き・嫌いを判断する方法。
 〇オプトジェネティクス
 光応答性のイオンチャネルを用いる事で神経細胞の活動を光刺激によってコントロールする手法。
 〇DREADD法
 人工薬剤にのみ反応する受容体を用い神経細胞の活動をコントロールする手法。神経活動を興奮させるタイプと抑制させるタイプの2種類が存在する。

 今日の天気は、朝から快晴。朝晩は冷え込み、最高気温は18℃ほど。日毎に秋から冬へと季節は移る。
 朝早く、畑に出かけたら、空にお月様。10月14日(体育の日)は満月だった・・見えた。

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