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現代版遠山の金さん イチケイのカラス

2021-05-16 10:54:17 | MUSIC/TV/MOVIE

イチケイのカラス。

以前も書いたが裁判官を主人公にしたドラマだ。これが面白い。

 

原作は浅見理都の漫画。

実写化が最近大流行りだが、これは今に始まったことじゃない。「タイガーマスク」や「巨人の星」だって漫画原作のアニメ化だし、「仮面ライダー」だって漫画原作の実写化だもの。

漫画や小説を実写化すると、原作ファンから必ずと言っていいほど「イメージが違う」とか「この話を何故描かないんだ」とかいろいろ言われる。

最近は「ネタバレ歓迎」って人も多いそうで、そんな人はオリジナル脚本より原作あるものの実写ドラマ化がいいそうだ。どんな結末を迎えるのかわかってからの方が、安心して観れるってのは俺にはちょっと理解できないが、まぁそれも一つの楽しみ方なんだろう。犯人がわかってから推理小説を読むみたいなもんか。そういや「古畑任三郎」はこのパターンだもんな。

 

確かに原作があるとストーリーの大筋やキャラクターなどの設定がつかみやすい。そこらへんが昨今の実写化ブームの背景にあるのかもしれない。(ただスポンサー探しや説明が楽だからってのもありそうだが)

 

実写化にあたって一番原作ファンが戸惑うのが、原作と違ったキャラクター設定にされたり、舞台が変更さたりすることだ。これをされると原作ファンは戸惑ってしまう。

今回の「イチケイのカラス」、ドラマでは竹野内豊が演じてる入間(いるま)みちおが主人公だが、原作の主人公は坂間真平だ。坂間真平は堅物のエリートで面白みの欠片も無い融通の利かないいかにも裁判官ってキャラはそのままだが、今回のドラマで女性に変更され、坂間千鶴として黒木華が演じてる。

この主人公変更とか、キャラ変・性別変更されると、原作ファンは違和感かなり感じ戸惑う。

まぁドラマを観るのは原作を読んでる人だけとは限らんけどね。

 

筒井康隆原作の「富豪刑事」の主人公は男(神戸大助)だが、実写ドラマでは性別変更され、深田恭子が神戸実和子として演じた。アニメ化では性別変更なしだったから、深キョンを主演で起用のするために変更したんだろう。

万城目学原作の「鹿男あをによし」では、原作では男の藤原くん(妻子持ち)が実写ドラマでは、藤原道子と変更され綾瀬はるかが演じてる。まぁ、玉木宏演じる主人公・小川孝信も原作では「おれ」で、本名不明の語り部だけどな。

綾瀬はるかは、同じく万城目学原作「プリンセス・トヨトミ」の実写映画化版でも性別変更(原作:鳥居忠→映画:鳥居忠子)され、出演してる。

木村拓哉の黒歴史とも言える「宇宙戦艦ヤマト」の実写版映画「SPACE BATTLESHIP ヤマト」。原作漫画やアニメでお馴染みの、一升瓶片手に診察する艦内おっさん医者・佐渡先生を実写映画では、性別変更し高島礼子に演じさせるという暴挙。かなり無茶だ。(映画も見事にコケた)

 

これに比べりゃ今回の「イチケイのカラス」、黒木華の性別変更キャラは許容範囲とも言える。

事務的に法律にのっとって事件を処理する、頭の固い融通きかない東大卒のエリート裁判官ってキャラ設定は変わってないもの。その黒木華が竹野内豊演じる破天荒な裁判官に振り回され、その考え方に徐々に感化され本物の裁判官になっていくって話は原作に沿ってるもの。男か女かなんてどうでもいい事だ。

そもそも竹野内豊が演じる入間みちおは、原作漫画ではデブでメガネでお菓子ばっか食ってるイケてないキャラだしね。

しかしドラマで竹野内豊が演じる入間みちおは、かっこいい。この人は「BEACH BOYS」の頃から変わっていない。この人のまわりだけ時間が止まってるのではないか。

髭を生やし、服装はカジュアル(ネルシャツの上から法衣を纏う)、ゆる〜い口調でとぼけた発言する砕けたイメージの裁判官。「BOSS」の時とちょっとかぶってるが、これはこれで良しだろう。

ふるさと納税好きって設定は、HEROのキムタクが通販好きだったってのをオマージュしてるのかな。

普段は飄々としてるが、必要とあらば事件現場現場まで出向き捜査のやり直しまでする。これも検察官が現場検証をし直す「HERO」のリスペクトかな。

 

「そんな裁判官いるわけねぇよ」

なんてのは言いっこなし。そんなこと言ったらほとんどのドラマは成り立たない。

以前も書いたが、裁判官を主人公にしたドラマは初めてだろう。

時代劇には「遠山の金さん」や「大岡越前」など奉行ものがあったけど、現代物じゃこの「イチケイのカラス」が初めてじゃないかな。

 

「遠山の金さん」は、普段は身分を隠して(っていうより元々武士なのに町人暮らししてた人だけど)町の人と触れ合い、事件が起こったところに出くわして、お白州で裁きを下すっていうパターンだ。

下手人(今でいう容疑者)がお白州(今でいう裁判所)にてシラを切る。「はて、なんのことですかねぇ」としらばっくれる悪者。「私にはなんのことかさっぱり」などとすっとぼける黒幕(悪代官や庄屋)。あげくには「金さんとかいう遊び人が・・・」などと逃げ口上を言い出す。

そこで遠山金四郎奉行、満を持して『ヤイヤイ、黙って聞いてりゃいい気になりやがって」と一喝。諸肌脱いで『この桜吹雪が目に入らぬか』ババーンと効果音とともに決めセリフ。悪人どもはへヘェ〜と平伏。『これにて一件落着』。

これが「遠山の金さん」の黄金パターンだ。

決めセリフには『この顔は忘れちまってるようだが、この桜吹雪には見覚えがあるんじゃねぇのかぃ?』ってバリエーションもあるが、基本的に毎回このパターンだ。

 

「イチケイのカラス」でもこの黄金パターンが形成されつつある。

毎回、東京地方裁判所第三支部第1刑事部(通称:イチケイ)に事件が入る。

裁判が始まり、検察(升毅・山崎育三郎)や被告、証人などの言葉から事件に疑問を感じ、掘り下げて審議したいと言い出す刑事裁判官・竹野内豊。

「職権発動します」

裁判所主導で再捜査だ。警察や検察は何してたんだとか言っちゃぁいけない。そもそもこんな事は日常的に行われはしない。基本的に裁判は検察側の起訴状の鵜吞みだ。過去の判例主義や効率最優先の慣習だ。だから起訴されたら99.9%で有罪判決が出るのだ。

これまでのドラマでは寡黙で冷静な法の番人として描かれてきた裁判官だが、竹野内豊は違うのだ。

「職権発動」するのだ。

そんな事やるから「いつまでも処理件数が減らないんだ」と嘆く刑事裁判官・黒木華。渋々言いながらも結局は協力する。

「やりましょう」とにこやかな部総括判事・小日向文世。「毎度のことだ」と諦めながらも協力してくれる書記官たち(中村梅雀・新田真剣佑)。

検察も協力的だ。本来は裁判(起訴事実)をひっくり返されたら不満に思う立場なのだが、升毅も山崎育三郎も協力的だ。なぜかいつも被告側の弁護士(国選だからか?)がやる気がない。

 

そしてラスト、衝撃の事実が明らかになり、公正な判断による正当な判決が下る。これなら再審請求や上告はされないだろう。

毎回基本はこの黄金パターン。

偉大なるワンパターンは見る側が安心できるのだ。

 

「職権発動」は、水戸黄門で言えば印籠だ。

「水戸黄門」の黄金パターンは、毎回縮緬問屋の老人一行が旅先で事件に遭遇。風車の弥七などが調べ、悪者がわかり、アジトに乗り込む一行。「懲らしめてやりなさい」という黄門様の号令で助さん格さんが立ち回り、それでもまだ歯向かう悪者に「この紋所が目に入らぬか!」と印籠登場。

この偉大なるワンパターンでかなりの長寿番組だ。一度印籠出さなかった回があったらしいが大クレームだったらしいぞ。(由美かおるの入浴シーンの無い回も)

 

時代劇は基本的に勧善懲悪が鉄板の黄金パターン。

弱気を助け強きを挫く。町人が事件に巻き込まれそれを助ける。越後屋とか悪徳商人は悪いお代官様と悪だくみをしている。羊羹の箱には小判など金子が入ってる。そこへ正義の主人公たちが現れたら決まり文句「皆のもの出あえ出あえ〜」。用心棒と大立ち回り。「先生、お願いします」と登場した剣客も、最後は切られてめでたしめでたし。

基本はこの黄金パターン。

 

現代劇でも「半沢直樹」や「下町ロケット」にしたって黄金パターンは踏襲してる。

毎回なんか事件が起こり、窮地に追いやられるが、起死回生の一発で逆転。見てる方はスッキリだ。

 

「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」でも黄金パターン。

1,怪獣が暴れる、2,地球防衛軍が戦うが手に負えない、3,ウルトラマン(セブン)が現れ戦う、4,一進一退の攻防が続き、5,カラータイマーが鳴りピンチだ。頑張れ。そして6,必殺技(スペシウム光線とかアイスラッガーとか)が炸裂しやっつける。

ただし、ウルトラマンやセブンでは戦わない回があったり、怪獣が悪者でなかったりするのもある。大人になってDVDで見返してわかったのだが、人の業やエゴが描かれてたりする回もある。子供の頃はそんなこと気にもしちゃいなかった。ただ単に怪獣をヒーローがやっつけてる黄金ワンパターンを楽しんでたのだ。

 

日本はアメリカと違って法廷ものってあんまり受けないからか、裁判所が舞台のものは少ない。

今まで裁判所は警察や弁護士ドラマの法廷シーンで出てくるくらい。そして法廷でのメインは被告人の無罪か有罪かを、弁護士と検察官が論戦を繰り広げる。裁判官はヒートアップしたところで「静粛に」と言うくらいだ。裁判官の他のセリフは「主文、被告を○○に処す」くらいだ。

しかし、この「イチケイのカラス」。裁判官が主人公のドラマだけあって、裁判所とかのセットが見事だ。机や壁紙、調度品から窓まで(裁判所に基本窓はないはずだがそこは無視して)、実に年季の入った重厚感ある雰囲気。奥行きや臨場感が見事に出てる。

美術さんや大道具さん、小道具さん、演出、見事なり。(照明や効果もね)

 

ほとんどの人が裁判所でどんなことが行われてるかは知らない。法廷に立ったことのある人も少ない。犯罪者(被疑者・容疑者)になったか、民事訴訟を起こされでもしない限り縁がないはずだ。証言台に立つこともまぁほんどないだろう。

逮捕から起訴、裁判の流れもよく知らない。

警察が捕まえ、調書をまとめ、検察に送致するかを判断し、検察はその送検書類を元に起訴するかしないかを決める。そして起訴されればようやく裁判所で司法判断が下される。

刑事事件が起訴されて裁判になれば、99.9%有罪判決が下されるのは、一人当たり250件前後の事件を担当する刑事裁判官(民事はまた別)が、迅速かつ効率的に処理をしていくがゆえに、この一連の流れがパターン化・慣習化されてるからだ。

悪く言えば警察は証拠を集められなかったり自白が取れなかったり、検察も送検された案件が裁判でヒックリ返されそうな場合は不起訴にするのだ。

だから刑事事件は起訴されたらほぼ間違いなく有罪判決が下る。だから弁護士も法廷では無罪を主張するよりも、情状酌量とかで減刑や執行猶予狙いをする。

 

今回竹野内豊が演じる主人公の裁判官・入間みちおは、そんな慣習的に行われる事務的に処理される刑事事件を掘り下げて調べていく。元弁護士だがある事件をきっかけに裁判官に転身したのも、冤罪である場合も多いそんな裁判制度に疑問を感じたからなのだ。

だから裁判の最中に法廷でいきなり「職権発動します」なんて言うのだ。

裁判官が「職権発動」する事なんて現実にはまず無い。だいたい、こんな破天荒で型破りの判事もいるわけ無いのだが、そこはドラマだ。大目に見てくれ。

それよりもこの黄金のワンパターンを楽しんで観てほしい。

そして、ちょっとでもこの国の司法制度のことを知ってもらえたら、いいなぁって思う。

 

ところで、ドラマ主題歌「Straight」。アーティスト名が、最初WGBと明記されてた。

正体は「和楽器バンド」だった。

今までの和楽器バンドのサウンドとちょっと違うからわかんなかった。デジタルサウンドがミクスチャーされ、打ち込みも多用されてる。何よりボーカルの歌い方がナチュラルだ。

でも、かっこいいぞ。

ドラマにピッタリな楽曲だ。

 

ところで、すっかり世間の話題にならなくなったが、裁判員制度ってどうなってるのかね。

お呼びがかかるの、ずっと待ってるんだけどなぁ。

 



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