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Takの秘密の木

誰にもいえない気持ちは、誰もしらない秘密の木の洞に、こっそり語って蓋をするんだって。@2046

観た映画観る映画

2016-03-21 | ドラマ・映画・舞台の感想
観た映画のざっくり感想。

■オデッセイ
SF、特に近未来モノって世代感が顕著に出ちゃう傾向があるから大丈夫かな・・・と、観る前は少し心配していました。
「ブレードランナー」という作品で革新的なサイバーパンク近未来像を描き出し、SF表現の新世紀を切り開いた立役者であるリドリー・スコット監督ですが、いかんせんもうお歳だし・・・と。
歳の行った監督で、最先端のテクノロジーの潮流やIT系に疎い人だと、途端に作品にリアリティがなくなって全体が陳腐になることってわりとある。監督自身が若かった頃のハイテクやSFのイメージを引き摺りそのまま流用してしまって、現代のストーリーに映像表現がそぐわず説得力がなくなる。すべてを噴飯ものにしてしまうパターン。
最近だと「ブラックハット」のマイケル・マン監督とか「アイアンマン3」のシェーン・ブラック監督も微妙にそんな空気が漂ってた。
だったらハイテクとか近未来的世界には手を出さなければいいのに・・・と思ってしまう。
逆に言えば、ジョン・ファヴロー監督はたぶん最先端ガジェットとかが大好きで、常に新しいものをチェックしてる人なんだろうなー・・・と思う。
SFで一世を風靡しただけに、リドリー監督も過去の栄光を引きずっちゃうかもな・・・と勝手に思っていました。
しかし、リドリー監督は、回顧主義でも過去の栄光に縋るタイプでもありませんでした。
彼のセンスは常にアップデートされていて、感性に衰えを覚えさせない、ある意味相変わらず怖ろしいぐらいの美意識の塊だった。
美しい映像としっかり裏付けを感じさせるリアリティ、古臭さは微塵もなく、しかし作り物作り事ではない人間臭さを賛歌する、すばらしい作品に仕上がっていました。
イギリス人らしい抑制の効いた感動演出はほどよくて、心地よい作品でした。

■シャーロック 忌まわしき花嫁
日本の宣伝では説明不足だったと思うけど、完全にドラマのシーズン3を引き継ぐ内容の作品です。
独立した、この作品だけで完結しているスピンオフではありません。
シーズン1~3、さらには原作も読んでいる人でないと、この作品のおもしろさはちゃんと伝わらないかも知れませんね。
ツイッターで「フ女子狙い」とか書かれているのを何度か見かけましたが、別にこの作品が特にそれを狙っているとは私は思いませんでした。
シャーロック・ホームズ物においては通常営業というか・・・。(苦笑)原作も読んでる昔からのファンならわかると思いますが、ライヘンバッハでのあのワトソンの描かれ方は、ホームズ物が好きな人だったら一度は考えたことがあるのではないでしょうか?
そもそも作者のコナン・ドイルは、「ホームズはライヘンバッハで死んだ」つもりでいた。それを無理に生き返らせたから、落ちたのはモリアーティだけだと後付けにしたのですよね。
無理やりだからご都合主義になるのは当たり前だけど、もしワトソンが助っ人してたら、「モリアーティだけが落ちた」という設定に説得力が出る。
だからああいうシーンを描いたのには、私のようなファンにしてみればニヤニヤするところというか。・・・その可能性は一度は考えるよね、と共感するところとでもいいますか。(笑)
それからライヘンバッハを描くのであれば、その前段である「ポケットの中でピストルを~」のセリフは絶対に出しますよ。(笑)
モリアーティの登場はウケ狙いみたいな感想も散見するんですけど、ライヘンバッハ(『シャーロック』でいえばバーツ屋上でのできごと)を描くのにモリアーティが絡まないとかありえないし。
ホームズ物の映像作品を観ていつも思うのは、年々、原作を読んでいるファンは減ってきているよな・・・と。
だから「原作読んでる前提」がだんだん通じなくなってる雰囲気。
200年も前からあるいわゆるバディ物捜査物ミステリー物の原点といえる作品なんだから、とりあえず読んでおけばいいのに・・・と。
そこで原作未読の人向けにいくつか豆知識を。
マイクロフトは原作では「巨漢」と表現されています。それで動けない(動きたくない?)から「足を使うこと」はシャーロックにやらせている。そして、シャーロック曰く「マイクロフト自身が英国政府みたいな存在」で「自分よりも賢い」と言っています。
多くの映像作品でマイクロフトはシャーロックよりも優秀であるように描かれたり、英国の諜報機関の幹部クラスであったりするのは、原作に出てくる描写を根拠にしているからです。

■ディバイナー 戦禍に光を求めて
(これは個別でじっくり書きたいので別の記事で)

■エヴェレスト 神々の山嶺
ずば抜けてる人の哀しさみたいなものを感じてしまった。
天才は孤独だよね。誰にも理解されない。
だから天才は誰にも期待はしないし、逆に期待するのは酷だと思ってるから突き放す。で、ますます孤独になる。
ずば抜けた身体能力、目的を完遂させるための分析力、誰も彼と同じ視点に立てないのは厳然たる事実なんだと思う。
傲慢とか自己愛とか、そんな見られ方も彼にしてみればもう過去の通過点というか。
孤独を好むわけではなく、周りの人間のためにも孤独にならざるを得ない。岸という男の存在でそれを思い知らされたのかも知れない。
演出も脚本も音楽も映像もぜんぜん好きじゃない。
特に音楽が好きじゃなかった・・・メランコリックなだけでどうも的外れな気がしちゃって。音楽で盛り上がるどころかずっこける場面も結構あった。
脚本も鼻白むセリフが多いし、細やかな感情の動きを描けてるとも思えない。
映像は、せっかくロケしたんだし、お金や機材をもっとかければもっと良かったのかもしれないけど、日本では現時点ではこれが限界なのかな、と。
しかし、それらすべてを差し引いても感じられる原作力というか。・・・
クライマーの世界というのは独特のおもしろさがあるよね、と。
ハインリヒ・ハラーの「チベットの七年」とか読んだことがある人なら、基本的な情報は得られているからおすすめです。
野口さんや栗城さんの話を興味を持って聞いたことがある人にも。
この映画は、ちょっとスピリチュアルな要素が強すぎて引いちゃうところも多々ありますけど、ユニークだと思えれば楽しめるのではないでしょうか。

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2016年03/18:Mr.ホームズ
2016年04/29:キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー
2016年05/28:素敵なサプライズ
2016年05/14:HK
2016年06/01:デッドプール
2016年07/02:フラワーショウ!
2016年08/11:ジャングルブック
2016年10/07:ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ
2016年12/10:ドクター・ストレンジ
2016年12月:海賊とよばれた男

2017年01/27:ドクター・ストレンジ(日本公開)
2017年02/18:ナイスガイズ!
2017年:追憶
2017年05/05:ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー2
2017年06月:ワンダーウーマン
2017年07/07:スパイダーマン/ホームカミング
2017年08/11:スパイダーマン/ホームカミング(日本公開)
2017年秋:関ヶ原
2017年10/06:ブレードランナー2049
2017年11/03:ソー/ラグナロク
2017年11月:ブレードランナー2049(日本公開)

2018年02/16:ブラック・パンサー
2018年05/04:アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
2018年07/06:アントマン・アンド・ザ・ワスプ

2019年03/08:キャプテン・マーベル
2019年05/03:タイトル未定

2020年05/01:タイトル未定
2020年07/10:タイトル未定
2020年11/06:タイトル未定

007スペクター

2016-01-31 | ドラマ・映画・舞台の感想
ダニクレ演じるジェームズ・ボンドの総決算。
今回の大ボス、敵役はクリストフ・ヴァルツということもあり、シリーズ最高傑作という声もあり、期待して観に行ったのですが、私は前作のスカイフォールの方が好きでした。・・・

ダニクレ主演の007シリーズの中で、最もとんでも風味が強いんじゃないかなー・・・と。
「いや、普通しぬだろ?」とか「え?無傷はないだろ」とか「ださいのかいけてるのかわからない装備」とか「いかにもな禍々しい要塞」とか「・・・そこで惹かれちゃうんだ」とか。
でもこれらって、言ってみれば007の王道中の王道パターンなんですよね。
だから古い007ファンほど、今回の作品はお気に召すのかもしれません。
従来の007らしい007ってことで。

トム・フォードのスーツはそもそもがタイトなラインだけど、今作はまた一段とぴっちぴちでしたねぇ~・・・。さすがにもう少しゆるみがあってもいいんじゃないかと。
ダニクレはだいぶ老けた印象だったので、いい身体であることを強調したかったのかも知れないけど、それにしてもぴちぴちのぱんぱん。
ヨーロッパの都市を股にかけた感じはいいけど、なんとなく観光客誘致のにおいがなきにしもあらずで。
スカイフォールで頂点を極めてしまっただけに、そこから変えることなく何某かを加味することでより一層のブラシアップを図ったのかもしれないけど、あざとさとくどさが増しただけでランクアップはしなかったかな、と。・・・
あ、クリストフ・ヴァルツは、まあ彼らしい手堅い仕事、て印象で特に出色という感じでもなかったです。

それにしても最近のハリウッド映画の大作は、拗らせ男子の暴走がすべての原因っていうのが多いよな~・・・SW7もそうだし。アベンジャーズのロキがそのはしりかしら?(苦笑)

と、ここまでかなり辛辣なことを書きましたが、あくまでも個人の感想であり好みの問題なので。
最高傑作と思われる方がいてもおかしくないし、私のようにうー・・・んスカイフォールの方がいいと思う人もいる。
映画は自分の目と感覚で確かめるのが一番でしょう。

スターウォーズ/フォースの覚醒

2016-01-17 | ドラマ・映画・舞台の感想
かなりのスターウォーズオタです。
マーベル作品に関しては「ただのRDJオタ」が基本的なスタンスだけど、スターウォーズは、スターウォーズという作品のファンなので、たぶん一般性はすごく低いことを書くと思います。(苦笑)
ネタバレ避けたい人は読まないようにお願いします。

私がSWを見た順番はエピソードで言うと、6→4→5→1→2→3→7です。
初見の6で嵌ったら、両親が、古本屋で456のノベライズと製作舞台裏ノンフィクション本やムック本を買ってきてくれました。特撮やSFには興味なかったけど、当時剣道をやっていたので、セーバー戦がたまらなかったのも大きかったのかな。
今に至るまでグッズは一つも持ってません。この頃からグッズは買わない主義だった。
ノベライズや関連本は相当古い版のものなので、フォースは力場、ライトセーバーは光剣ってなっていてルビがカタカナで書いてあった。R2にはアートゥってルビがふってあったような・・・。ハンは基本、チューイ呼びだったなぁ。
しかもR2視点でストーリーが描かれてるんです。R2のユニークかつシビアなモノローグが印象的でした。(笑)

円盤についているメイキングやNHKなどが作ったSFXやILMを主題にしたドキュメンタリー、「ザ・ピープルVSジョージ・ルーカス」等も見ています。
JEDI APPRENTICEシリーズのペーパーバック(洋書)全巻も持っていますが、TVで放送されたアニメは数回しか見たことがありません。
旧3部作の世界観が大好きで、プリクエル(EP123)の出来には落胆したので「ザ・ピープルVSジョージ・ルーカス」を見てどうにかこうにか気持ちを納めたクチです。

そんな私ですが、「フォースの覚醒」は充分に楽しめる内容でした。
ルーカス御大が造ったプリクエルよりもJJの方が楽しめたのは皮肉な話だと感じていますが、仕方がない。
監督のJJはスターウォーズオタなので、究極のファンアートなんですよね、この作品。
オタがファンアートが嫌いということは、よっぽど嗜好が合わない方向性でない限り、そうはないと思うんですよ。
ファンのツボをファンが押した。大満足とはいかなくても満足はします。
オープニングの宇宙の彼方に流れて行く黄色い文字と無数の星が瞬く宇宙空間。
これだけで泣きそうになるんです、オタは。
(でも今作、星のまたたきにあまり奥行を感じなかったな・・・最新CGのはずなのになんでだろ?)
そして、巨大戦艦がスケール感一杯に視界を遮る。三角型は帝国側母艦なんですよね。スターデストロイヤーもエクセキューターもそうだった。
帝国側基地の内部装飾が、旧3部作踏襲のデザインになってたのもいい。あの壁の幾何学紋様みたいなの大好きなんですよ。
ファルコンとタイファイターのドッグファイト。これも泣きどころです。
タイファイターが完璧な編隊組んでコーーーーーーンって高めの排気音で飛んでくると打ち震えちゃうんですよ。もはや性癖ともいえる。(苦笑)
辺境の星の変な生物が集まる妖しい酒場。酒場のバンド。うす汚い猥雑さがたまらない。
そして、優雅なセーバー戦。
まあ、今回ジェダイ・マスタークラスがいなかったので所作は荒っぽいですが、プリクエルよりも旧3部作よりの殺陣になってたみたいなので良かったです!
個人的にプリクエルで好きなセーバー戦はダース・モール絡みだけだったので。(主にモールの中のレイ・パークさんが武道にも精通してるプロだったからというのもあるんですが。薙刀っぽいダブル・エンディッド・ライトセーバーもデザイン的にカッコいいし!)
もともとルーカスはオビワン役は三船敏郎にやってもらいたがっていたので、セーバー戦は黒澤映画の侍のような優雅で力強い殺陣にしたいと言っていたんです。
だからこそ、基本、セーバーは諸手持ち。プリクエルみたいに片手で風車みたいに回されると重みと品がなくてつまんない。

まあ、そんなわけで。
オタ的には最高に楽しい作品です。
だからオタ以外のSW初心者にとってはどうなんだろう・・・ってちょっと思ってしまいましたが。(苦笑)
ストーリーは「歴史は繰り返す」という内容です。
スターウォーズはスペースオペラと呼ばれる作品なので、それはそれでアリだと思っていますが。
JJらしい新味のあるところは、帝国側(ストームトルーパーorファーストオーダー)の視点を入れたところかな、と。
これって、オタならピンとくる部分はあるんですよ。
旧3部作を見て、もちろん共和国側の勝利を喜ぶつくりにはなっているんですが、Xウィングよりも先進的でクールなデザインに見えるタイファイターの方にこそ乗ってみたい!、デス・スターで働いて内部をいろいろ見て回りたい!と思った観客って、たぶん大勢いたと思うんですよね。
トルーパーの装具を着てみたい!、とかね。
まあそういうクールなイメージ戦略やプロパガンダで、帝国側(ファーストオーダー)は志願兵を募っているんでしょうけど。(ナチとかが実際にやってた若い男性を引き入れる手口でもある)
そこにまんまと嵌ったのがカイロ・レンともいえるのかな?
そして、その逆のベクトルを取ったのがフィン。
今の世の中、結構含蓄のある部分でもあると思いますが・・・。
「ストームトルーパー視点」というのはなかなかのアイデアなのではないでしょうか?
JJ製SWの一番の褒めどころは、私的にはその辺りかな、と。

あ、知らない人がいるかも知れないので豆知識を。
ダースは、ダーク・ロード・オブ・シス(Dark Lord of Sith)の略です。
日本語では「シスの暗黒卿」と訳されてましたね。この訳、雰囲気があって私は大好きです。

蜩ノ記と如水さん

2015-02-01 | ドラマ・映画・舞台の感想
○蜩ノ記

同じ小泉監督の時代劇なら、「雨あがる」の方が断然好きだった。
ストーリー展開がいまいち釈然としないし、登場人物にあまり感情移入できなかった。
私程度じゃまだ小娘で、役所さん演ずる秋谷の心情に寄り添えないし、受け止められないのかも知れない。
かといって、岡田くん演ずる庄三郎にも共感しきれなかったし。・・・・
なんとなく、納得いかないものが残ってしまった。
これ、昔の黒澤組だったら、三船さんと加山さんが演じたんだろうなー・・・と。赤ひげとか三十郎みたいに。
で、黒澤監督がメガホン取ってたら、すごく入れ込んで観れたかも。
そう考えると、役者さんの比重がだいぶ大きいことになってしまう。
正直、役所さん、もう少し枯れてほしかったかな、と。でなければ、主君への熱い忠義を抱えて、もっと逆にギラギラと燃え尽くすように、赤ひげの時の三船さんみたいな感じにしてほしかった。
役所さんは、最期の清冽で麗涼な心境を演じるには、中途半端に色気が残ってるというか。・・・
肌質や髪ももっと清貧で、すべてを削ぎ落としたような、磨かれた佇まいを漂わせてほしかったな。・・・私が受け止められなかっただけかもしれないけど。
すみません。

岡田くんは、普通というか。
や、脇だし、力演されても鼻に付くと思うので、普通こそが絶妙な塩梅なのかも知れませんね。
居合や殺陣のシーンは、もう言うことなしで天晴。
彼は物腰に、今時の若者風の雰囲気をちらりとも匂わせないところが好きですね。
この作品はエンターテイメント時代劇ではいので、現代が少しでも漂うと途端に白けてしまう。
そういう抜けがまったくない生真面目さが、岡田くんのすばらしいところであり、個性が出にくいところでもあるかも知れませんね。


○軍師官兵衛

おもしろかったです。特に剃髪髭の如水になってからがよかった!
私は総髪の時の若官兵衛よりも好きかもしれない。(笑)顔立ちがはっきりしてるから、坊主でも造詣が際立つし、老け演技にも違和感なくて。
たまに、若手俳優さんが老けメイクして老け演技すると滑稽になってしまうことがあるけど、岡田くんの場合はむしろ若作り演技の方が辛かったな。(笑)
かなりダークサイド入ってる、アンチヒーローとまではいかないけど、公明正大・高潔・無敵のヒーローって造詣ではなくて、ちっちゃい食えないジジイが主人公の大河ってのがおもしろい。
そういう主人の本質をちゃんとわかってる上で、好きで着き従ってる家臣団もいい。
岡田くん自身、ダークサイド官兵衛こそがやりたかったんだろうなー・・・と。なんか生き生きしてたもん。
それから、黒沢和子さんの衣装がいい!
「影武者」の時もそうだったけど、あの陣羽織がめっちゃカッコいいんですよね~・・・。
家臣団もそれぞれ家紋が背中に入った陣羽織を羽織ってるんだけど、あの色合い・デザインが、渋くて、地味派手で、オシャレで素敵で堪らんですな。
女性の着物より、男性の甲冑や衣装ばっかり見入ってしまった。
でも衣装って大事。時代モノは特に。
心づくしの衣装は画面の密度を確実に格上げする。

ジャッジ 裁かれる判事

2015-01-18 | ドラマ・映画・舞台の感想
ネタばれありです。

どこかの評で、「カミング・ホームもの」「法廷サスペンス」という言葉が使われていましたが、まったくその通りだと思います。
そのつもりで行けば、まさにその通りのものが観られる。満足感もちゃんとある。
だけど、それ以上でも以下でもない、と、言えなくもない。
佳作だけど傑作ではなかったかな、と。・・・

欲を言えば、もう少しヒネリが欲しかったし、もう少し、この作品でしか知りえなかった感覚やエピソード、人の心情、みたいなものがあってもよかったのではかいかと。
それをあまりにやり過ぎると、いかにも感動作を狙った作り物感が出過ぎるし、俳優さんたちの演技もいかにも賞を獲るのが目的っぽくて臭くなり過ぎるかもしれない。
だから、そんな新味性やわかりやすい感動を、すべて「ロバート・ダウニー・Jr.の演技」というところに拠りすぎたかな、と。・・・
意外と言ったらおかしいけど、説明セリフがとても少ない。演技や情景で、汲み取ることを求められる感じ。
この作品は、ロバート・ダウニー・Jr.自身が創ったプロダクションが制作しているので、自らそういう風にした、とも言えるのかも知れないけど、やはり作品としての完成度は、俳優の演技や演出だけでは成立しない。
簡単に言ってしまえば、脚本をもうちょっと練り込んでほしかった。

人の微妙な心情を、セリフや映像で詳細に説明して、観客の感動を煽り立てるのは逆に簡単ともいえるんですよね。
だけど、そこを敢えてしていないようにも見える。
何にも考えず、観たままのこをとさらりと受け留め、流すこともできるし、あれはああじゃないかこうじゃないかと、捏ね繰り回して見るのもおもしろい。
人それぞれの受け取り方があっても、いいかも知れないですね。

あ、そうだ。
私が観た回は、客席は8割方埋まっていて、年齢層は高め。夫婦連れが多い感じかな。それに、女子同士、おひとり男子、という感じだった。
私と私の連れの隣に座っていた男性は両方ともかなり泣いてた。(私も泣きましたけど、比じゃない。やっぱり父子ものは男性の方が響くかしら?)
ロバート・デュバルは、ゴッドファーザーでトム・ヘイゲン(ゴッドファーザーのお抱え弁護士)を演じた人ですね。
そういえばコルレオーネ家も、三兄弟でしたね。



以下は、ロバート・ダウニー・Jr.に特化した、熱烈ファンの戯言なので鑑賞済みの同好の士のみどうぞ。





正直、「シティ・オブ・ドッグス」にそっくりだと思った。
というか、話の骨子がほとんどシティ~と同じだな、と。
地元に元カノがいて、元カノに子供が居るところも同じ。
シティ~の時も、生まれ故郷に帰りたくない、父親と軋轢のある成功した息子で、親父は息子に「故郷に帰る」ことを望んでた。
実家に戻った途端に、息子と父親は激しく口論。
ただ今回は、故郷は彼を呪縛はしていない。むしろ、彼を解きほぐす場所だったけど。・・・・
それに、シティ~のディートとジャッジのハンクは似ているけど、真逆のところがある。
ディートは、感情を押し殺し、深く沈めて表面上はなにもないように凪いで見せてしまうタイプ、ハンクは始終イライラして爆発させ、周囲を曲げようとするタイプ。
たぶん両方ともダウニ自身なんだろうなー・・・と。そう、ハンクはデューデートのピーターのキャラにとても近いな、と。傲慢ですぐブチ切れるし。(苦笑)
なんか、巷では、「トニー社長まんまw」とか言ってる人を見かけますけど、私はトニーよりもピーター・ハイマンの方がよっぽど近いと思います。(笑)
それよりもなによりも、やっぱ、ダウニ自身の問題。
これを撮影した頃、ダウニのお母様は入院してたのかな?そして、亡くなってしまってる。
そして、父親との確執。
ダウニーSrとJrの間には、何があったのでしょうねー・・・・。
似たテーマの作品を2度も作るというのは、よっぽど何かあるのかな?と勘ぐってしまうのはしょうがない。
そう観客やファンに思われるだろうことを、たぶんダウニ自身はわかってると思うので、それでも表現したい、普遍的な「父子関係」というのもあるのでしょうけど。
でも、現在は、SrとJrの関係はとても良好そうなんですよね。初の女の子の孫をとても喜んでるSrさんとか、Jrはパパの映画製作活動を支援するような行動も取ってるし。
以前、Srが、幼少期のJrは物静かな子だった、と言っていたのが印象に残ってる。
たぶん、ディートのような子だったんだと思う。
Jrさんの本質は、内省的で表立たず多くを語らないタイプなんだと思うのだけど、俳優をやってる間に、外交的な役柄を演じることも身について行ったのだろうな、と。
そして傲慢な甘えん坊さん。(苦笑)
傲慢だから甘えん坊なのか、甘やかされたから傲慢になったのか。
彼女の胸に抱かれたまま、携帯でしゃべるシーンは笑ってしまった。
あのおっさん、上目使いで可愛くお願いすれば、なんでも通ると思ってやがる・・・・実際、通るんだけど。(苦笑)
ほんと困った人ですね。

ジャージー・ボーイズとRDJ

2014-10-09 | ドラマ・映画・舞台の感想
前の記事で書ききれなかったことを少し補足。

ロバート・ダウニー・Jrが好きで『愛が微笑むとき(原題:HEART AND SOULS)』と『シティ・オブ・ドッグス(原題:A GUIDE TO RECOGNIZING YOUR SAINTS)』を見た人なら、このジャージー・ボーイズはすごく響くところが多いのではないでしょうか。

『愛が~』の面々がみんなで歌う「恋のハリキリ・ボーイ(原題:WALK LIKE A MAN)」、『ジャージー~』のザ・フォーシーズンズの曲なのです。とても楽しいドゥーアップ・ソング。
たぶん、トーマス(RDJ)が生まれた日が時代設定的にあの曲がぴったりだからでしょうね。
(同じくRDJが出演している『アリー・My・ラブ4』の挿入歌に使われている曲もたくさん入ってきます)

そして、『シティ・オブ・ドッグス』。
『ジャージー~』のトミーはアントニオにとても似ているんですよね。・・・
片やニュージャージーのイタリア移民、片やニューヨーク・クイーンズのイタリア移民ですが。
両作品で描かれている、イタリア系移民街の貧困や劣悪な環境の表現は酷似している。
「抜け出すには、軍隊に入るか、ギャングになるか、スターになるしかない」というセリフを聞いた時は驚きました。
『シティ~』の感想に「牢屋に入るか、ギャングになるか、撃ち殺されるか」という一文を書いていたからです。
アントニオとトミーはそっくりだけど、フランキーは肝心なところではトミーの威圧に怯まず自分の意思を押し通した(ゴーディオを雇うところや借金の返済)おかげで、何とか災禍を潜り抜けられたのだと思う。
一方ディートは、そこに父親からの圧力まで加わって、親友も亡くして、もうどうしようもないところまで追いつめられたあげく、結局はすべてを傷つけてしまった。
イタリア人って、やっぱ血は水より濃いを地で行く人たちなのかなー・・・と。
絆だの掟だので雁字搦めになって、ずぶずぶ泥沼の深みにはまって、どんどん身動きが取れなくなる。
フランキーだって酷く傷ついたけど、彼がここぞというところでは決して折れなかったのは、彼が持つ本来の聡明さに拠るのでしょうね。
ディートはナイーブ過ぎたのでしょう。・・・


さて、そんな辛さや脆さも絶妙に演じちゃうRDJですが、最新作「ザ・ジャッジ」、明日10日から全米公開です!
ここ一週間ぐらい、RDJはそのプロモーションでありとあらゆるトーク番組やラジオ、各種メディアに出まくってまして、情報が溢れかえって大量に海の向こうから押し寄せてくるので、ファンはもうなんだか青息吐息に。・・・
嬉しいけど。嬉しいけど多すぎて消化しきれない・・・。いちいち全部かわいいし魅力的だし。
もうなにがなんだかーー。あ、中でもAsk Me Anything!はDon't Miss It!ですわ。

それから。
RDJがカメオでちょろっと出演しているファヴロー監督の『シェフ』の日本公開日が決定しました!

10/10:映画「The Judge」(米国公開)ロバート・ダウニー・Jr
10/23-31:東京国際映画祭・特別招待作品「シェフ」ジャパン・プレミア
2014年12月:TV「エージェント・オブ・シールド」(WOWOW)
2015年01/16:映画「Blackhat」(米国公開)マイケル・マン、クリス・ヘムズワース
2015年01/17:映画「神様はバリにいる」堤真一
2015年01/30:映画「エクソダス」リドリー・スコット
2015年02/28:映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」
2015年新春:映画「ザ・ジャッジ」ロバート・ダウニー・Jr
2015年05/16:映画「駆込み女と駆出し男」堤真一
2015年07/04:映画「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」ロバート・ダウニー・Jr
2016年7月:映画「Nice Guys」ラッセル・クロウ、ライアン・ゴズリング

シャンテ系かな?日本での公開規模はやはり小さそうですが、楽しみです!
米国本国でも小規模公開でしたが、ヒットしてBoxOfficeベスト10内にランク入りしました。一旦終了してから再度拡大公開してロングランするなど、とても人気と評価の高い作品です。

イヴ・サンローランとジャージー・ボーイズ

2014-10-01 | ドラマ・映画・舞台の感想
両作品とも実在の人物(達)を描いた伝記物、ということで、相照らし合わせていろいろ思うところがありました。片やファッション、片や音楽業界ですが。
ネタバレ・・・になるのかな?以下を読む場合はご留意願います。



それが現実だから当然なんですが、この手の業界は特に、"才能の有無"はどうしても無視できない要素となる。
どうも日本では、悪しき平等主義が蔓延り過ぎたせいでそれを認めるのが難しい人、もしくは玉石見分けるのが下手な人が多いように感じるし、またアメリカでは、夢に向かって努力すればどうにかなる的な論調で誤魔化したがる傾向があるようにも思える。
ヨーロッパはそれがあまりない。個人的な趣味嗜好がどうの、なんて各論にもならず、才能の有無は大手を振って語られるべき基準とされているような印象がある。
かく言う私も、そこを最も重要視するタイプで、以前人から「才能至上主義者」だなんて言われたこともあったりします。
努力を否定するわけではないし、努力で一流にまで登りつめている人もたくさんいるのもまた事実。
だけど、超一流にはなれないよな・・・と常々思う。多くの人々を熱狂させたり、金字塔になったり、後世にまで名を残すことを成し遂げられるのは、やっぱり天才だけ。

そして天才の周囲にいる人々、というのを見るのはとてもおもしろいし、不快でもある。
天才だって一人ですべてやれるわけじゃないし、誰の引立てもなく上がってこれるわけじゃない。必ず多くの人々との出会いや繋がりがある。
人間だから、寄生虫のクズもいれば、パトロンで見返りを求めない育ての親もいる、映画のサリエリみたいに"自分こそが一番の天才の理解者だ"と思う人もいれば、ライバルとなる人もいる。
「ジャージー・ボーイズ」のトミーは典型的な寄生虫のクズ。おまけに頭も悪いから本当に始末が悪くて、傍目に見てもイライラさせられる(苦笑)。
でも、こういうタイプって居るんだよなー・・・と。人を利用して金儲けすることだけに目ざとくて、頭が悪いくせに(というか頭が悪いからこそか?)異様に支配欲が強くて、口から出まかせの場渡り的発言で煙に巻いて、本質は怠惰で自分は何もしようとしない。
でも、コネや社交が物を言う業界でもあるから、例えバカで無能で怠惰でも、積極性さえあれば切り拓かれる局面があるのも事実。
しかしそういうタイプって、結局は、本人が望むほどは周りは重用してくれないんだよね・・・。またそういう人程身の程知らずだから、自分が重視されないことに腹を立て、終いには寄生してる宿主を逆恨みし始めて、状況をどんどん悪化させる。
よくある話です。
なぜよくある話なのかといえば、それが現実だから。
そういう意味でとても興味深くてておもしろかったです。俳優さんの演技も含め、リアルさがひしひしと伝わって来て。

一方で、「イヴ・サンローラン」のピエール・ベルジェ。
彼とトミーの違いは、ピエールはとても頭がよかったこと。そして身の程を知っていたこと。動きも軽快で献身的。
でもピエールも支配欲はあるんですよ。その辺りの描き方がすごく面白かった。
「ジャージー・ボーイズ」のフランキーは、情(絆?)のためにトミーを切り捨てられずに苦しんで、自らトミーのしょうもない罪業まで被り清算したけど、イヴは、ピエールが寄生虫ではないことを知っている。
イヴとピエールはむしろ相利共生の関係にある。・・・というか、ピエールが自覚的にそうあろうとしているんですよね。・・・
例えば、イヴの取り巻きを管理しようとするのは、ドラッグや病気といったロクでもないものからイヴを切り離したいという心理と、支配して独占したい心理の両方がある。
イヴ本人に恨まれてでも、イヴのためになることをしようとする気持ちと、イヴに憎まれることで、彼の中心に居座ろうとする気持ちと。
イヴのミューズを寝取るくだりが特に興味深かった。
同性愛者のイヴが結婚したいと思う女性、彼の創作のミューズでもあり、良き友人でもあるヴィクトワール。
ピエールは、もちろんイヴに対する愛憎あってのことだけど、ヴィクトワール個人にも魅かれていないこともないんだと思うんですよ。彼女を相手にデキてしまったことは、ピエール自身驚きでもあったかも知れない。(笑)
彼女がイヴのミューズであることの理由を、ピエールはどこかでわかっていたのか、それともわかってイヴとそれを共有したかったのか、それともただイヴを痛めつけたかったのか・・・そのすべてかも知れないし。
人間って、平気で相反する感情を内包できるし、年月や色々な要素からその配分は刻々と変化するもの。その複雑さや妙味を受け止める文化がフランスにはあるのかも。

天才の傍にいる人間は一歩間違えばすぐに寄生虫になる。
そうはならないという美意識と矜持がピエールにはあって、一方でトミーは、自分は寄生虫の天才だと思ってむしろ自信満々だったんじゃないかな?(苦笑)

作品全体としては・・・「イヴ・サンローラン」はなるべく事実に基づくように造られた正統派の伝記物で、「ジャージー・ボーイズ」はミュージカル作品として既存のものを映画化した形。
前者は、劇中に出てくる衣装は本物(実際にサンローランが作ったもの)で、ロケ地もたぶん本当に現場を使って再現してる。当時のファッション界の描き方(サロンやランウェイの様子)も考証通りでしょう。
後者は、ところどころ舞台っぽい表現もあって、イーストウッド作品にしては軽いトーン。ラストシーンは「スラムドッグ・ミリオネア」かと思いましたよ(笑)。あのクリストファー・ウォーケンは必見ですね。楽曲はもちろん最高なので、オールディーズが好きな人には堪らない。(厳正にはオールディーズの括りには入らないのかも知れないけど、私的にはオールディーズ認識です)

るろうに剣心 伝説の最期編

2014-09-25 | ドラマ・映画・舞台の感想
「イヴ・サンローラン」を先に観たけど感想がなかなかまとまんないのでまずはこっちを。
ネタバレ含まれますので、ご留意願います。

前作、前々作の感想は以下に。
るろうに剣心
るろうに剣心 京都大火編

「死んでもいいや」と思ってる人間より、「生きるのは俺だ」と思ってる人間の方が強い。

これって、原作に描かれていることなのかな?
それとも大友監督の考え?
"死を怖れないから無双になれる"わけではなく、勝ち負けも関係なく"これからも生きるのは自分だ"と思う方が、最後の最後の瞬間でも、こちら側(現世)に踏みとどまることができる、というか。・・・結果として、勝負に勝てる。
シンプルなんだけど、そういう執着って意外と持てないもので、自分を大切にするのは結構難しい。
特に剣心はあまりにも他生を踏み潰してきた罪の意識があるから、いつ自分の生が尽きても当然、その時がいつ来てもいいと思っている節がある。
我が身を省みないで無茶苦茶やれるから、普通の人間には歯が立たないほど強かった。
だけど、そういう視点でいる限りは、結局、自分の方が不幸だ、自分の方が捨て身だ、自分の方が罪業を負っているというラインで競い合うことになって、いずれにしろ終着点はデッドエンドしかない。
(変な話、これってへんたい仮面でヘンタイ度で強さを競ってたのと同じ論理だよね?・笑)
一歩離れてみると、不幸な程強い、罪業を背負ってる程勝てるなんていうのはおかしな論理で。・・・
勝敗すら忘れて、Last Man Standing、最後にそこに立っているのは己だと思い描く方が、実際のところは今生に留まれるのかもしれない。
それは生への執着、というものでもなくて、生きるべき正統性への確信とでもいうのかな。・・・

「るろうに剣心」という作品を通じて、大友監督が本当に描きたかったことはそれなのかなー・・・と。
たぶん、大河の龍馬伝では描ききれずに心残りだったところなんじゃないかな?
「侍たちに敬礼!」も、幕末の志士たちのその後の生き様、江戸が終わり時代が変わる中での侍たちの魂の行方を、描きたかったのかもしれないですね。

最後にNHK出身らしい大友監督の実のあるところが充分に出たところで・・・全体としては、剣劇エンターテイメントを極めてて、質の高い娯楽作品に仕上がっているのではないでしょうか。
役者さんたちもとても美しく映っているし、佐藤健さんにとっては間違いなくはまり役の代表作となったでしょうね。
江口さんがげっそり痩せてるのは、役作りで意識的にそうしたのかな?1作目ではそうでもなかったけど、この2、3作目は原作の絵に似たシャープな雰囲気が醸し出されてて素敵でした。
小澤さんの伊藤博文も、老獪な曲者で従来の博文のイメージとは違う解釈でとてもおもしろかったし、伊勢谷さん、福山さんの殺陣もすばらしかった。
藤原さんのドラマチックな舞台演技、神木さんのリアルな演技は、あの役柄にぴったりでしょう。

前作「京都大火編」は興収50億を超えたとか?
大ヒットしているのにはちゃんと理由があります。
日本の時代劇の新しい1ページは、映画館で観てみて損はないと思います。

大いなる沈黙へ

2014-09-01 | ドラマ・映画・舞台の感想
http://www.ooinaru-chinmoku.jp/
公式HPより:
構想から21年を費やして製作された異色のドキュメンタリー。フランスのアルプス山間にあるグランド・シャルトルーズ修道院は、カトリック教会の中でも厳しい戒律で知られるカルトジオ会の男子修道院。自給自足、藁のベッドとストーブのある小さな房で毎日を過ごし、会話は日曜の昼食後、散歩の時間にだけ許される。


ツイッターで、フェルメールの絵のような美しいワンシーンを見かけ、絶対に観に行こうと決めてました。
公開して間もない時に行った岩波ホールは激混みで、係員のおじさんはテンパってるし、ビルの外まで行列は続いてるし、シスターもちらほらいるわで、なんだか場違い感に駆られて早々に断念し、出直すことに。
公開館が増えてからは、いくらかお客さんが分散したらしく、スムーズに観ることができました。
とはいえ、169分の長丁場。上映回数も少ないので、それなりの覚悟を持って早めの行動を取ることをおススメいたします。

フィリップ・グレーニング監督は1984年に撮影を申し込み、16年後に突然許可が下りたそうです。
礼拝の聖歌以外には、音楽、ナレーションをつけず、照明なしで、6カ月間修道士とともに暮らしての撮影。
映像は素晴らしいです。まさに動くフェルメールの絵画。
そこは期待を裏切られなかった。
私は何の宗教にも帰依していないし、宗教に関する知識も極めて薄いものなので無責任なことは言えません。
ですが、この作品の中で表現されている思想や哲学には正直あまり感心できなかったし、魅力を感じられなかった。
むしろ仏教(大乗仏教)の方が共感できるな、と思いました。
修行という意味では、現生の世俗の中で生き抜く方が、よっぽど過酷で苛烈で苦行だよな、と。
や、それに打ちのめされたからこそ、彼らは修道士になったのかも知れませんが。・・・
晴耕雨読と清貧、ナチュラルでストイックな暮らしには、むしろ羨ましさを覚えるぐらいで・・・。
人間らしく生きる、とはどういうことなんだろう、とずっと考えていました。
現世に生を受けた責任を全うするということは、どういう生き方をすることなんだろう、と。
人の価値観や哲学は千差万別で、こういう生き方を選ぶ人々もいる。
それは別に奇異なことではないし、特殊なことではないし、ある意味、選ぶ自由があるというのは幸せなことなのかも知れないな、と思いました。

るろうに剣心 京都大火編

2014-08-17 | ドラマ・映画・舞台の感想
1作目についての感想はこちら

1作目と同じぐらい、たのしめました。
映画の2作目3作目は、大抵徐々にダメになるパターンが多いものですが、るろ剣に関してはうまく創られているなと思えました。
1作目の感想にも書きましたが、マーベルの映画シリーズにほんと感覚が近くて、コミックの実写化の成功例を意識的に踏襲しているのかな、と。
適度なストーリーの改変と、適度なリアリティの加味、魅力的な役者のキャスティングと、映画的カタルシスの盛り込み方・・・とでも言うのでしょうか。
アイアンマンの後にアベンジャーズを観た時と非常によく似た感覚を覚えました。
私はるろ剣原作未読なので、キャラクターやストーリー詳細についてはなにも知らないのですが、割と群像劇というか。・・・
登場人物たちに均等にスポットを当てて撮ってる感じ。
だから、アベンジャーズでのアイアンマンの扱いに少々物足りなさがあったのと同じく、私には、この続編の剣心の扱いにはちょっと物足りなさを覚えました。
たぶん原作では、それぞれのキャラクターに熱いファンが付いているのでしょうね。
それらすべてを満足させるように、とてもうまく配分はされていると思います。まさにアベンジャーズ。
ま、すぐに3作目も公開されますしね。そちらの方で、剣心がフィーチャーされるのでしょうね。
クライマックスを最大に盛り上げるために、しっかりとした背景を造り込み、足場を組み上げたのが、この京都大火編なのかも知れません。

しかし前作より、すこーーし、大友監督のクドさが出ちゃったかなー・・・とも。
雨の中で号泣、慟哭シーンって多いですよね。あと怒号、ちょっと食傷しそうに。・・・
シシオの非情さを印象付けて展開に必然性を出す上では必要だと思いましたが、何度もリフレインするのはしつこいかな、と。
まあ、俳優さんたちが濃い人ばっかりというのもあるかも知れませんが。(苦笑)
伊勢谷さんにしろ、泯さんにしろ、神木さん、藤原さんにしろ、若干いっちゃってる人ばかり。そこが大好きだし、作品をおもしろくしてる重要な要素だとも思いますけど。
泯さんの立ち回りには、いっそ感動を覚えるほどでしたが。あの方やっぱりオーラがすごい。稀有な人です。
頭おかしい人たち(褒め言葉です)が集まった時の起爆力。魅せていたただきました。

あ、この作品のテーマって、執着、なのかな・・・とも。
剣心への、もしくは、剣心が象徴しているものへの、それぞれの執着。
佐藤健さんがすごいのは、「執着される者の色気」を持ってるとこかな、と。
なぜ皆がそこまで彼に執着するのか、そこに説得力がなければ、すべてが成立しなくなる。
執着を誘引する存在感。
薫だけが彼になにも要求しない。見返りを求めない。
薫は剣心の弱点にもなってしまうけど、彼女がいることで剣心は自分の生に執着することができるのかも。

ゴジラ GODZILLA

2014-08-09 | ドラマ・映画・舞台の感想
るろ剣かガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを観たかったんですけど、時間の都合でゴジラを観ることに。
これまで、「ゴジラ」と名の付く作品をまともに観たことが一度もありません。以前造られたハリウッド版ゴジラの悪評はいろいろなところで目にするし、特撮ファンでもないので、この作品を強いて観る必然性はまったくありませんでした。

しかしただ一点、この俳優さんを観たかった。

アーロン・テイラー=ジョンソン。『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』にクイック・シルバー役で出演します。

アーロンといえば『キック・アス』で有名なようですが、私が彼を観たのは『アンナ・カレーニナ』のヴロンスキー役。ジュード・ロウ演じるカレーニンから、アンナを寝取る美青年将校役です。
・・・あの、二枚目で鳴らしたジュードからですよ。・・・
時の流れというのもありますが、説得力のある美貌でした。
まだ24歳ですが、23歳上の奥さんとの間に4人の子供がいます。
この彼がアベンジャーズに参加すると聞いて、また、同じく姉のスカーレット・ウィッチ役で参加するエリザベス・オルセンと共に、夫婦役でゴジラに出演すると聞いて、とりあえずチェックしたいな、と。
まあ、実質ゴジラが主役だろうし、渡辺謙さんも出てるし、ちょい役かな、と思ってたんです。
そうしたら意外や意外、結構出ずっぱりで、トップクレジットでした。
そうは言っても狂言回し的ポジションで、そんなに出色なキャラクターでもないんですが、ちゃんときっちり主役張ってて、これからスター街道を駆け上って行くのかな、とかなり楽しみになりました。
海兵隊大尉?の役なので、がっつりビルドアップしてて、ヴロンスキーの時の、いかにも繊細な貴族青年といった雰囲気はなかったけど、長ーーい睫毛と細い顎がちょっとナイーブそうで幅広い役ができそう。
しかし・・・マーベルが雇う俳優さんってみんな睫毛すごくない?(笑)
RDJの睫毛ちゃんっぷりは誰もが知るところだし、クリス・エヴァンスもすごい、クリス・ヘムズワースもなかなかの下睫毛だし、ウィンターソルジャー役のセバスチャン・スタンもなにげに来てる。アーロンもかなりの睫毛保持者。
みんな垂れ目+びしばし睫毛じゃね?(笑)少女漫画か?ってぐらい。
役者選択の基準は睫毛?・・・あ、でもガーディアンのクリス・プラットはどうなんだろう・・・。

ま、睫毛の話はこれぐらいにして、映画の内容ですが。
意外とおもしろかった!ゴジラってこういう話なんですね。
そもそも、ゴジラが敵なのか味方なのかも私は知らなかったんですが、いやいや・・・なかなか深いですね。
なんか宮崎駿さんがよく描くテーマのような気がしました。
自然と人間の調和。自然をねじ伏せることは人間にはできない。巨神兵か王蟲みたいな描写もあったし。
なんにも知らないくせに聞いた風なことを書きますが、監督や製作陣のゴジラ愛が漲ってる作品だと思います。
きちんと円谷テイストを踏襲しているけど、チープさはまったく感じられない良い作品に仕上がってるのではないでしょうか?
出演されている渡辺謙さんの尽力もあったのかも知れないですね。
近くに座ってた、中学生ぐらいの男子3人組が、エンドロールが終わると同時に、しみじみと
「・・・ハリウッド、すげー・・・・・」
と呟いていたのが、すべてを物語っているかと。(笑)

私は、「ゴジラってカッコいいんだな」と思うことができました。
それってなかなか凄いことの様な気がします。

最終回諸々

2014-06-08 | ドラマ・映画・舞台の感想
SHERLOCKシーズン3は、まだNHK BSでしか放送されていないので見ていない方も多いと思われます。
ネタばれを避けている方は以下を読まないようにお願いします。



■BORDER
脚本の金城さんは割とオリジナリティにこだわる方だと思うけど、やっぱりSHERLOCKに影響されてるのかな?と思えるシーンが所々あったような気がします。
大森さんと小栗さんの屋上のシーンは、S2E3のモリアーティとシャーロックのシーンに、語られてる論理もキャラクター設定も似てましたね。
で、それで終わりかと思ったら、最後はS3E3展開に。(苦笑)
まさかボーダーラインを越えてしまうとは。SPの方の井上は踏みとどまった(ように見えた)けどねー。・・・
でも実を言うと、私はSHERLOCKよりもむしろ、ヒーロー論はマーベルっぽいな、とも思っていました。
特に、キャプテン・アメリカ。
なんとなくシビル・ウォーのことを考えていました。
正義であることを貫き通すことで、起こる弊害という矛盾。
映画ウィンター・ソルジャーででも、シットウェルに「こんなやり方はあんたらしくない」と言われて、スティーブは、「だからそれは彼女の役割」と言って、ブラックウィドウに彼を屋上から蹴り落とさせるシーンがあるけど、あれって結構酷い話だよね。
自分の手だけ汚さずに、汚れ仕事だからってヨゴレにやらせる。・・・それは正義なのか?
笑えたシーンだし、最初からファルコンに助けさせる段取りになってたとはいえ、少し考えちゃいました。
だから、BORDERでも、あの監察医の子か相棒の青木さんが出てくるのか?と一瞬期待しちゃった。(笑)
バッドエンドだけどどうなのかなー・・・・。
SHERLOCK的クリフハンガーで、次のシーズンでは種明かし、とかになる可能性もあるのかな?

■SHERLOCK
日本語版で見ると、マグヌッセン、シャーロック、ジョンがテラスに出てからのシーンがあんまり緊迫感がないなー・・・と。
ジョンの吹き替えの森川さんの演技が、意外と普段とそんなに変わらない口調なんだもん。
英語で見た時は、ほんと息がつまりそうなほどの空気でしたけど・・・だからこそ何も喋らないシャーロックがほんとに追いつめられてる気配がして怖かった。
アレしか選択がない、というのがひしひしと感じられて。
でも、英語版でも、ジョンは最初の内はどこか、最後はシャーロックがどうにかしてくれる、奥の手を出してどんでん返ししてくれると思ってる節があって。
それでも、沈黙を続けるシャーロックとマグヌッセンの指ぱっちんにどんどん表情がシビアになっていって。・・・・
それを見つめてたシャーロックが、ボーダーを越えるんですよね。・・・
なんかS3の吹き替えに関しては、細かいニュアンスがうまく伝わっていないような気がして全体的にもどかしい感じがしました。
しかし、マイクロフトの「もう一人の兄弟」のところは、私は実は犬のレッドビアードのことだと思っていたんですが、日本語版では明らかに人間のことを指してましたね。(笑)
噂では、トム・ヒドルストンが三男役で出演するのではないかと言われてますが。・・・
原作って三兄弟設定だったっけ?ぜんぜん覚えがないけど。

ビターブラッド#3とBORDER#3,4,5

2014-05-11 | ドラマ・映画・舞台の感想
■ビターブラッド

#2と4を録り損ねて、正直、もういいやって感じに・・・。
なんか小中学生が道徳の時間に書いた作文のような脚本だなって。・・・正直、あんなセリフを言わせられる俳優さん達がかわいそうになってくる。
別に脚本家さんだけが悪いわけじゃないと思うんですよ。
プロットは他の人が考えたのかも知れないし、あの仕上がりでいいと、最終的にOK出した人が当然いるわけだし。
あれでOKだせる人の感覚がどうしようもないな・・・としか思えない。
凋落甚だしいらしいお台場局ですが、そういう内実が、赤裸々に表層化しちゃってんのかな、と。
まあ、健さんは、やっぱりところどころはっとするような表情を見せてくれるんですが、あまりにもストーリーに見るべきところがなくて、視聴し続けるには忍耐力を要するようになってくる。
続けて見たいというモチベーションがちっとも湧いてこない。
ほぼ脱落決定です。

■BORDER

ビターブラッドの#2を録り損ねた時に、ためしに小栗さんの方を見てみようかと思い、録画してみました。
脚本はSPの金城さんだし、小栗さん主演で、特殊能力のある刑事が主人公だから、まあSP別バージョン的なものだろうと思って、実はあまり期待していなかったんです。
それに、#3の登場人物たちは8割がSPで見た顔で、監督は波多野さんだったんで、もう金城組ってのがすでに出来上がってるのかな、と。(苦笑)
でも、ビターブラッドとの対比があったせいか、内容が濃く重く感じられておもしろかったんですよねー・・・。金城さんって、やっぱ才能あるよな、と。
今時、日本人だったらなかなか躊躇するだろうっていうシビアなことを、わりと果敢に切り込んでいく感じで。結構、ダークなんですよね。
#3の村社会的なものとか、#4の動機と社会性の薄い自己完結型の犯人とか・・・リアリティを感じて本気で怖いんですよ。
キャラクターのアンサンブルはSPとほぼ同じ構成だけど、1話完結でちゃんと中身のあるストーリーを描いてくれるんで、次も見てみたいと思わせてくれる。
#5は息抜き回でちょっとおふざけな内容でしたけど、クドカンさんに当て書きなのか、クドカンさんの持ち込みなのか知りませんが、ちょこっとしんみりさせてくれて、それなりにおもしろかったです。
バリエーションとしてこういう回を持ってくる、という発想も気が利いてると思いました。

ビターブラッド#1

2014-04-16 | ドラマ・映画・舞台の感想
佐藤健さんが出演してるので、とりあえず1回目を録画しといて、見てみました。

いつもの刑事物ドラマに、今流行ってる洋ドラ洋画のおいしいところ、ちょこちょこ振りかけました、みたいな。
もう、SHERLOCK的演出はしょうがないっていうか。・・・たぶん、世界中のドラマが、「SHERLOCK以降」でくくれるようなムーブメントになってると思うし。
おそらくラスボスだろう及川みっちーは、モリアーティ+マグネッセン(シーズン3)て感じ。
鞄斜め掛けにしてちゃりんこ乗ってる健ちゃんは「スーツ」のマイクっぽいし、お父さん役の渡部篤郎さんはトニー・スターク(RDJ)かもしくはハワード・スターク(ドミニク・クーパー版)っぽくて、スーツを新調させるくだりは、まさしく「スーツ」そのまんま。
話の筋はあまりにもありきたりで、犯人の造詣も笑っちゃうぐらいステレオ・タイプでリアリティ皆無だけど、お台場らしいっていえばお台場らしいのかな。
陳腐というのがはばかられるぐらい陳腐で、でも、よくわかんないけど、あんまりシビアにすると数字が獲れないのかな?日本のドラマは。
気楽に、楽しく見れることを目指してるのかも知れないから、リアルを求める方が間違ってるんだと思う、たぶん。(苦笑)
ところどころ健さんらしい、きらっと光る演技を見れるところと、いろんなタイプのおっさん達を楽しめば、まあ、いいのかな、と。


あ、そうだ。
軍師官兵衛も、録画でだけど、欠かさず毎回見てますよーん。
脚本とかにいろいろ言いたいことはありますが・・・まあ、出演者は全力でがんばる以外ないですからね。
なにしろ長丁場だから、身体に気を付けて、駆け抜けていただきたいな、と。



さてさて。
今週末はいよいよ「キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー」だよーー!!
ああやっと。やっと観れる。
・・・でも映画館での冷遇具合が酷い。スクリーン小さい。
まあ、アナが予想以上の大ヒット驀進中だから、そのスクリーンを取ることができなかった、というところでしょうかね。・・・同じディズニーだし。
アメスパも始まるから、早めにいかないとほんとすぐ上映終わっちゃいそう。
初日に2回観る予定だけど、3回目の鑑賞が可能かどうかも疑問だな。(泣)

ハルク役のマーク・ラファロによれば、後2,3日もすれば、RDJもアベンジャーズ2の撮影に加わるそうです。
最近、ツイッターを始めたRDJ本人が、現場の様子を少しでもツイートしてくれるといいけど、マーベルの情報統制はものすごく厳しいらしいので、写真は難しいかな、と。
ソー2の時の浅野さんも、衣装もセットもちらとも見せず、ランチぐらいしか写真がなかったもんね。(苦笑)
RDJのフォロワーは既に125万人を超えているので、世界中の人が今、固唾を呑んで彼の動静を見守ってるんじゃないでしょうかね。

あ、クイックシルバー役のアーロン・テイラー=ジョンソンとも顔合せるんだよね、RDJ。
どんな化学反応を見せるのかなー。楽しみだなー。
なにしろ彼は、「アンナ・カレーニナ」でジュード・ロウ演じるカレーニンからアンナを寝取る美青年将校を演じてる人ですからねー・・・。
あのジュード・ロウからだもん。説得力のある美貌じゃなきゃ成立しないわけで。
ふふふ・・・RDJはどういう態度とるのかしら。わくわくするわぁ。

ウォルト・ディズニーの約束

2014-03-30 | ドラマ・映画・舞台の感想
メアリー・ポピンズの原作が好きで、ディズニー映画のメリー・ポピンズを見た時、「・・・なんでこうなっちゃったんだろう・・・」と思ったことがある人は、この作品を観ればすべての違和感や疑問が解決するんじゃないでしょうか?

小学生の頃、P.L.トラヴァースの「メアリー・ポピンズ」は私の愛読書でした。
そこにコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」とヒュー・ロフティングの「ドリトル先生」を合わせた3作品が、私の幼少期のイギリス観の基礎を作ったのではないかと思います。
アメリカ文化よりも早く、イギリス文化に(本を通して)馴染んだみたいなんですよねー・・・。だから、"偏屈・変人・人にあまり好かれない人物が主人公"であることに、何の不自然さも覚えない。
むしろ、ピーターパンにしても、メリー・ポピンズにしても、金髪碧眼の品行方正ホームズと太っちょワトソンが定番になるホームズ物にしても、アメリカナイズされた作品にはいつも違和感を覚えた。

この映画の前半は、P.L.トラヴァースは、いわゆる「孤独で意固地になった扱いにくい英国女性」として揶揄を込めて描かれています。
まあ、ディズニー本人の話をディズニーが作ったんだから、ディズニー側をそんなに悪く描くはずがないのはわかっていたんですけどね。
でも、私からすると、トラヴァースの言ってることの方がむしろ当然というか、なにもおかしなことは言っていないというか。
ディズニー側のクリエイターが、登場人物やセットの細かい設定にうるさいトラヴァースに「そんなことがそんなに大事?!」と混ぜっ返した時には、逆に心底あきれ返りましたよ。
ものをつくる人間の言葉とは思えない。本当にあんなこと言ったんですかね。
この映画を作った人は、ディズニー側に共感させたかったのかも知れないですが、私は観れば見るほどトラヴァースの味方に。(苦笑)

でも、それだけで終わらないところがこの映画のすごいところで。
もしかしたらそれもこれもみんな織り込み済みなのかもしれませんね。
トラヴァースとディズニーの間にはどうしようもなく深い断絶があるわけですが、それでも映画「メリー・ポピンズ」は造られたわけです。
なぜ最後に、トラヴァースはディズニーによる映画化を許可したのか?
できあがった作品をプレミアで観ても、やっぱりトラヴァースは文句を言うんです。原作が好きな人間なら、彼女の感慨はやっぱりもっともなんです。
でも、彼女は許可したことを後悔しているわけではない。ディズニーの手に委ねたことを悔やんではいないんです。
それはなぜなのか?
トラヴァースの過去を振り返りつつ、"メアリー・ポピンズとは何者なのか?"を探るミステリー展開は、『永遠の0』にも似ていますね。

トラヴァースを演じたイギリス人女優エマ・トンプソンの力によるところが大きいと思うけど、想像していたよりはフェアに描かれているという印象が残りました。
そしてラストのラストで「BBC Films」とクレジットされたのを観て心底納得。(笑)


なるべく、原作を読んでから、そしてディズニーの「メリー・ポピンズ」を観てから鑑賞することをおススメします。
ものをつくる人間なら、いろいろ考えさせられることが多いのではないでしょうか。