夢の続き

癒し空間 ~ 裏ブログ

ガストン・ルルー 『 オペラ座の怪人 』

2005年03月18日 | オペラ座の怪人

『 オペラ座の怪人 』 という作品は、1910年、今から約100年前に
刊行された ” 怪奇ロマン ” です。 著者は、1868年パリで生まれ、
1927年に59歳の若さで亡くなった、ガストン・ルルー。
『 オペラ座の怪人 』 は、これまでにも複数の映画や舞台で演じられ、
日本でも複数の訳者による翻訳本が出版されていますが、
写真の角川文庫・長吉良三氏翻訳による 『 オペラ座の怪人 』 は、
21世紀に入ってから出版された最も新しいもので、
” 大変読みやすい ” という定評を得ています。
とは言え、約450ページに渡る物語は読み応えもあり、
時に読み手側も神経衰弱に陥ってしまうほど、ファントムを取り囲む人々や、
ファントム自身の苦悩が強く伝わってきます。
また物語には、3人の主人公の生い立ちや、「 オペラ座 」 という
巨大建造物の詳細な造りが語られているので、
「 地下室 」 への迷路や、暗く光の届かない、冷たく孤独な空間を、
よりリアルに感じられます。

原作で最も印象的な点は、ファントムが、「 エリック 」 という
実在の人物であるということと、幽霊の仕業と思われた数々の事件や
仕掛けは、彼のトリックであったということ。 そしてそのトリックを
見破ったエリックの親しい人物として、<謎のペルシャ人>が登場する 
のですが、これは、ミュージカルとの最も大きな相違点なんだとか。
ミュージカルでは、「 ペルシャ服を着た猿のオルゴール 」 として
偶像化されているらしく、映画でも大きな役割を果たしていた
「 ペルシャ服を着た猿のオルゴール 」 は、ミュージカル版を
取り入れていたのだと初めて知りました。
原作で登場する謎のペルシャ人は、当時を良く知る
警察長官(ダガロ)で、奇怪な事件から30年を経て、
歴史家である著者に当時の取材を受け、曖昧にされてしまった
事件の真相とその後を、語り伝えるという設定になっています。

映画化された作品は、それ以外にも登場人物や、
様々な出来事など、原作を忠実に再現したものとは異なりますが、
「オペラ座」を取り巻く様々な登場人物の気持ちを
より掘り下げるという意味では、原作本を改めて読んでみるというのも、
また1つの楽しみ方かもしれません。

原作を読み終わった後、何とも言えぬ切なさや哀しさを感じましたが、
エリック自身は、きっと幸せな死を迎えたのだと思います。
だけど、正直なところ、私が安易に彼らの気持ちを代弁できるほど、
近づいてはいないとも感じています。
「愛」の強さ、切なさ、恐さ、尊さ、苦しさ … 「愛」から生まれ、
「愛」が動かしているこの物語が、実話にもとづいているということが、
最大の驚きであり、ロマンティックであり、そして、あまりにも哀しい …。