19世紀、ロンドン。
フリート街で理髪店を営むベンジャミン・バーカーは
愛する妻と娘と共に幸せに暮らしていた。
しかし、美しい妻に恋をしたターピン判事の陰謀で、
バーカーは無実の罪を着せられ、投獄されてしまう。
15年後、妻と娘を奪われたバーカーは
スウィーニー・トッドと名前を変え、フリート街に戻って来た。
理髪店を構え、パイ店の店主、ミセス・ラペットの協力を得て、
ターピン判事への復讐を始める。
とにかくこんなお話がミュージカル風に仕立てられていることが
一番怖い。 かつて 『シザーハンズ』 で、異形の者の悲しみを
見事に描き出したバートンとデップですが、今回はどの登場人物
にも感情移入できませんでした。
悪徳判事に妻子を奪われ無実の罪で15年も流刑になっていた
理髪師が、スウィーニー・トッドと名前を変えて故郷に戻り
復讐を始めるというのが大きな流れですが、無実の罪が
何だったのか? ミセス・ラヴェットが 「愚かさゆえ」 と
歌うも描かれず、心理描写も薄いので、確かにひどい目に
合わされて復讐を誓うのは判らなくもないけれど、本命の判事を
殺すまで、全く無関係の人々を鳥を締めるより簡単に
ザックザックと切り殺すのは理解出来ません。
それは復讐ではなく単なる殺人。 復讐に凝り固まって
周囲が見えなくなっているというところも伝わらず、
歌いながら殺す、殺す、殺す。 復讐を果たすまでの葛藤や、
果たした後の心理状態も描かれず、見境がなくなるばかり。
トッドは最初から一貫して復讐に燃えているので、
ほかの感情が見えないし、なぜ娘を自ら助けに行かないのか?
などの基本的な欠落もあり、よく判らないキャラクターに
なってしまっています。 誰でも殺す!だけ。
トッドの元大家で彼が戻ってからの 「仕事」 の共犯となる
ミセス・ラヴェットは道徳心のかけらもありませんが、
それでもまだ若干人間らしい心を見せています。
それが仇になって身を滅ぼすも、自業自得であり、
これもまた共感できないキャラクター。
ラヴェットの店、「ミンサー」から押し出される「肉」、
等々不潔さとグロテスクサのオンパレードで、
これまでのバートンワールドとは逸脱した雰囲気も。
ジョニーデップの貫禄でどうにか見れるものの、
後味は正直最悪でした。