都内の有名高校で地理を教えられている田代先生から,このブログに時々コメントをいただいています.
6/16に記したように,室戸の海岸段丘の解説を帝国書院の資料に書きました.その中にある「海岸段丘は海成段丘とも呼ばれる」という記述について,田代先生からメールをいただきました.高校の教材では,以前は海岸段丘の語のみが使われていたが,最近は海成段丘も使われる.しかし,河岸段丘や海岸平野を,河成段丘や海成平野と記した教材はない.用語の使い方は統一した方が良いのでは,という内容でした.
実は僕の最初の原稿では,海岸段丘の語のみを使っていましたが,帝国書院の担当の方から,海成段丘を使う例もあるので併記してほしいと言われました.確かにそうだと思い,併記しました.
この件を少し考えてみました.まず,海岸ではなく海成を使うと,位置ではなく成因による定義になります.これには妥当な面があり,たとえば標高数百メートルの場所にある海成(海岸)段丘は,比高からみて海岸とは呼べません.上の画像はGoogle Earthによる奥尻島の鳥瞰図で,矢印で示した最高位の段丘面は標高500m台です.
同様の状況は,河成(河岸)段丘についても生じますが,河成段丘の語は,なぜかあまり使われません.ネット上での言葉の登場頻度をGoogleで調べると,次のようになります.
海岸段丘=15300件,海成段丘=26400件,比率約3:5
河岸段丘=55900件,河成段丘=6090件,比率約9:1
また,地形学の論文や学会発表では,扇状地,河岸段丘,沖積平野といった河川が作る地形の総称として,河成地形の語がしばしば使われます.しかし,海成地形という語はほとんど使われません.耳で聞いたら,海底地形と間違えそうです.
結局,専門用語であっても,論理性や一貫性を考慮して使われるとは言えないようです.海成段丘の語は,単に相対的な使用頻度が高いので,高校教育にも入ってきたと考えるべきでしょう.
教育現場を混乱させてしまうのは,地形学の研究者として申し訳なく思いますが,この種の問題を意識的にコントロールするのは,とても難しいと思います.
余談になりますが,昔,「火星の河成地形」という学会発表をやりました.ウケたので喜んでいましたが,今思うと,火山も取り上げて「火星の河成・火成地形」とすべきでした.
The reality that will bring us all together.
Oh, have you heard the word?
(Have You Heard the Word / Fut)
6/16に記したように,室戸の海岸段丘の解説を帝国書院の資料に書きました.その中にある「海岸段丘は海成段丘とも呼ばれる」という記述について,田代先生からメールをいただきました.高校の教材では,以前は海岸段丘の語のみが使われていたが,最近は海成段丘も使われる.しかし,河岸段丘や海岸平野を,河成段丘や海成平野と記した教材はない.用語の使い方は統一した方が良いのでは,という内容でした.
実は僕の最初の原稿では,海岸段丘の語のみを使っていましたが,帝国書院の担当の方から,海成段丘を使う例もあるので併記してほしいと言われました.確かにそうだと思い,併記しました.
この件を少し考えてみました.まず,海岸ではなく海成を使うと,位置ではなく成因による定義になります.これには妥当な面があり,たとえば標高数百メートルの場所にある海成(海岸)段丘は,比高からみて海岸とは呼べません.上の画像はGoogle Earthによる奥尻島の鳥瞰図で,矢印で示した最高位の段丘面は標高500m台です.
同様の状況は,河成(河岸)段丘についても生じますが,河成段丘の語は,なぜかあまり使われません.ネット上での言葉の登場頻度をGoogleで調べると,次のようになります.
海岸段丘=15300件,海成段丘=26400件,比率約3:5
河岸段丘=55900件,河成段丘=6090件,比率約9:1
また,地形学の論文や学会発表では,扇状地,河岸段丘,沖積平野といった河川が作る地形の総称として,河成地形の語がしばしば使われます.しかし,海成地形という語はほとんど使われません.耳で聞いたら,海底地形と間違えそうです.
結局,専門用語であっても,論理性や一貫性を考慮して使われるとは言えないようです.海成段丘の語は,単に相対的な使用頻度が高いので,高校教育にも入ってきたと考えるべきでしょう.
教育現場を混乱させてしまうのは,地形学の研究者として申し訳なく思いますが,この種の問題を意識的にコントロールするのは,とても難しいと思います.
余談になりますが,昔,「火星の河成地形」という学会発表をやりました.ウケたので喜んでいましたが,今思うと,火山も取り上げて「火星の河成・火成地形」とすべきでした.
The reality that will bring us all together.
Oh, have you heard the word?
(Have You Heard the Word / Fut)
話題にして下さって有り難うございました。現在、前期末考査目前のため、問題作成に追われています(段丘地形も範囲です(^_^;))。一段落してから書かせていただきたいと思います。
先日は気温の逓減率を「気温減率」と書いた論文を見て、少々ショックでした。気候、気象の分野では「気温減率」はよく使われているのでしょうか。まあ、逓という字は難しいし、「低減率」という誤記・誤変換を見かけることもありますので、「減率」で意味が通じるならそれでよいのかもしれないですね。
お疲れ様です.気象用語は知識がないですが,僕もかつて「気温(の)逓減率」と習いました.しかし今は,「気温減率」の方が主流なようですね.検索をしてわかりました.本件,気象・気候の方にフォローしていただけると良いです.
なお,上の記事にある言葉の登場頻度を訂正しました.Googleは気まぐれらしく,同じ言葉で検索しても,件数の表示が大きく異なることがあるようです.「海成段丘」は頻出だが,「河成段丘」はそうではないのが,より明確になりました.
CiNiiでは,
海岸段丘=99件,海成段丘=192件,比率約1:2
河岸段丘=153件,河成段丘=126件,比率約1:0.8
GEOLISでは
海岸段丘=52件,海成段丘=209件,比率約1:4
河岸段丘=86件,河成段丘=160件,比率約1:2
となっています.GEOLISに収録されているのは,より地学的な雑誌ですので,地学系の研究者は,河,海とも「岸」よりも「成」の方をよく使っているようです.研究者→教科書あるいは大学での講義→一般という経路で学術用語が広がっていくのであれば,河岸段丘も徐々に河成段丘に変わっていくのではないかと思います.経時変化をおっていくとおもしろいかもしれません.
我々のような理屈っぽい研究者は,「岸にあるとは限らない」ということで,「成」を使うのだと思います.ただ個人的には,昔,「河岸段丘の上で屈んだ」というダジャレを考えたので,言葉が消えゆくのは寂しいです.
ところでCiNiiは「さいにー」と読むのですね.「しにー」だと思っていました.Cinemaのように,次に"n"が来たら「し」と読むのが普通だと思います.縁起悪そうな響きになっちゃいますが.
ところで,古い記憶が戻ってきました.上の河岸段丘のダジャレは,院生時代に先輩の渡辺マンキュー(満久)氏と東北のフィールドにいたときに生まれました.オリジナルは「河岸段丘の上で屈んだマンキュー」.調査中ならあり得る光景です.
なお,「河成段丘の上で稼いだ」もOKですね.段丘の上では高価なものも作れます.山形のサクランボとか.
Q 河成段丘はどのくらいかかってできるのですか?
A すぐですよ。いっきかせい!
こういう誤ったギャグができてしまうので、やはり河成段丘という用語は困りますね(^_^;)。そもそもATOKでは変換されません(今、登録しました)。
でも、もくだいさん(はじめまして)がお書きになったように、「成」が主流に成っていくのでしょうね(^_^;)。
でも僕は,会話中にギャグを瞬時に語るセンスはありません.少し考える時間が必要なので,ブログだけでやっています.
「一気呵成にできる河成段丘」は,ほとんどの場合は誤りですが,例外的に正しいこともあります.シラス台地の段丘が一例です.後日記事にしようと思います(またネタをいただきました).