地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

事業仕分けとポスドク

2009-11-19 | 昔話
前回の記事で「地形学の将来が明るいことを確信した」と記したが,それは学術的な状況である.社会的な状況は,残念ながら相当異なるようだ.

行政刷新会議が行っている「事業仕分け」に関して,多数の記事がネットに出ている.その中で,今後予想される研究関係の予算の減少がポスドクの雇用を縮小させ,将来の学問を滅ぼすことが懸念されている.僕の分野では,日本地球惑星科学連合の木村会長がブログに記事を書かれている(リンク).事態を踏まえて,近日中に連合が公式なメッセージを出すことが予告されている.

ここ数年,博士の学位を取得した若手研究者が,常勤職につけない状況を目の当たりにしてきた.国際誌に論文を多数書いたり,学振のSPDに選ばれたような人であっても,常勤職をすぐには得られない.そのような状況の中で,ある優秀なポスドクが研究室の机で長時間泣いている姿を見たことがある.忘れられない光景である.

現状での多少の救いは,任期はあるが給与が出るポスドクになれる機会が,以前よりも増えたことである.科研費で研究員を雇用可能になったことや,多様な研究機関がポスドクを戦力として重視していることが背景にある.しかし,研究予算が削減されればポスドクの雇用も確実に減る.そうなると,「多少の救い」さえもが失われてしまう.一方で常勤職が増えることは期待できない.背筋が寒くなる話である.

今思うと,僕の就職は旧制度の最後の遺物であった.1991年に地理学教室の助手として就職した際には,博士の学位がなく,お恥ずかしいことに英語論文や国際学会発表もなかった.それにもかかわらず,得た職には任期がなかった.今とは雲泥の差である.ただし僕も全く苦労しなかったわけではなく,就職の前はD5(=D3の留年2年目)で奨学金が切れていたため,バイトで何とか食いつないでいた.また,就職後には自己の国際化に取り組み,それなりの結果を出したと思う.それでも今の若手は,僕の就職の話を不条理と感じるだろう.「その実績で,任期なしの職を得たのですか?」と.

僕の義務は,今の厳しい時代の中で頑張っている若手のためにできることを考え,それを実行することだと思う.「自分はラッキーだった」で終わらせてはいけない.国政のようなモンスターに比べて個人は非力で,できることがとても少ないとしても.

Try to plant a seed, fulfil the need, to make it grow.
(Foreign Sand / Roger Taylor with Yoshiki)