方向音痴はつらいよ

　「もしもし　お母さん?　私ケメコです。

みんな元気?　お陰様で私達も元気。ウン。

　あのさぁ、今日　教会に行ってみたの。

そしたら　牧師先生が冊子を下さって、

結構分厚くて　冊子と言うより、本って感じ。

　帰って来て　パラッと見たら、ちょうど

お葬式の項目のところで、

『通夜とか告別式に出席したときには、

立ち上がり

『邪教徒達よ。この行いは間違いである。

目覚めよ。悔改めよ!』と言わなければならない』って

書いてあるのよ。

　もう、ビックリしちゃって…

　キリスト教の学校に通っていたけど、

日曜学校にも行ったけど、そんな事

言われた事ないよねぇ…」

「だって修学旅行で奈良も京都も行ったじゃん。

その時　お寺にも神社にも行ったでしょう。」

「あら本当だ。春日大社にも清水寺にも行ったわ…」

「お通夜とか告別式は　亡くなった人のためにやるんでしょう。

ケメコちゃんが急に変な事を言い出したら、困るわぁ。

　そんな事を言うために　来てほしくないね。」

「そうだよねぇ…」

「『だいたいキリスト教は、人の奥さんに

子供を産ませるんだから、ふてぇやつだ!』って

お祖父ちゃんが言ってたよ。」

「アレマ!マリア様のこと？お祖父ちゃんがそんな事を?

　…じゃぁ、何で私をキリスト教の学校に入れたのよ。」

「幼稚園の先生に勧められたのよ。」

「何で幼稚園の先生は私に　私立の学校を勧めたんだろう?

私に何かスピリチュアルな何かを感じたのかなぁハハハ。」

「ううん。ウチ、年収が人と違うから。」

「へ?」

「お父さん独占企業に勤めてたし、アパートもあるし。

普通の収入の人には　勧められないでしょう。私立。」

「…へぇぇ…じゃぁ推薦で入学出来たんだ…」

「いいえぇ。入学テスト受けたのよ。」

「…全然　覚えてない…」

「ハハハ　その入学テスト落ちてさぁ…」

「ヘッ！？入学テスト落ちた???」

「不合格通知が届いてさぁ。

届いたその日、ケメコちゃんの手を引いて

学校に行ったのよ。『これはどういう事ですか?』って。」

「…」

「教頭先生が応対して下さったのかな?

紫のフクサに包んだ金一封をテーブルの上に置いたの。

そしたら先生が『献金を主の御前に捧げます』って

受け取って下さって。

　それから何日かしたら合格通知が届いたのよ。」

「…それって…裏口入学…一体いくら包んだの?」

「百万円。その頃の百万円だからね。

今の百万円とは違うよ。」

「………」

　　　　

　　　　　　キリスト教について話す資格も無いのに…

　　　　　　ヨブ記について熱く語ってしまった…

　　　　　　

　　　　　　誠に誠に申し訳ありません。m(_ _)m

　　　　　　　

　　　「山羊の歌」　　　中原中也

　汚れちまつた悲しみに

　今日も小雪の降りかかる

　汚れちまつた悲しみに

　今日も風さえ吹きすぎる

　汚れちまつた悲しみは

　たとえば狐の革裘

　汚れちまつた悲しみは

　小雪のかかつてちぢこまる

　汚れちまつた悲しみは

　なにのぞむなくねがふなく

　汚れちまつた悲しみは

　倦怠のうちに死を夢む

　汚れちまつた悲しみに

　いたいたしくも怖気づき

　汚れちまつた悲しみに

　なすところもなく日は暮れる………

　　　　　　　(;´д｀)ﾄﾎﾎ…