方向音痴はつらいよ

　きっかけは　いつも　ささやか。

　玄関出て右に梅の木を植えた。

きっと　植えてくれた植木屋さんに

「朝夕水をやって下さい。

まだ　根が付いていませんから」と

言われたのだろう。

　父が朝夕水やりを始めた。

　梅の木の後ろには　私達の自転車が停めてある。

　毎日朝夕水を掛けられては堪らない。

自転車をこよなく合いする　自転車小僧の夫は　父に頼んだ。

「自転車に水を掛けないで下さい。

庭の水場からホースを伸ばして、

自転車を背に水やりをすれば良いですよ。」

　父は激怒。

　たかが35歳の若蔵!　一部上場も出来ない、中小企業の平社員が、元は国営企業だった大企業の次長まで勤め上げたオレに向かって意見するとは、許せん!

　父は　事ある毎に「寄らば大樹の陰」と呪文の様に唱えていた。

　正に父は重症の「大企業病」に掛かっていた。

　悔しいのは、父は梅も桜も、薔薇もチュウリップも　見分けさえ出来ない、植物音痴。植木になんの興味もない人で、

　この梅の水やりも　こに時だけ。長続きせず。

　私達が追い出された後、さぞや大切にするかと思いきや、直ぐに切ってしまったと言う事だ。

　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ