第五十六首
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな
和泉式部 (生没年不詳) 小式部内侍の母。親王や公卿らとの恋を『和泉式部日記』に記す。中古三十六歌仙の一人。
部位 恋 出典 後拾遺集
主題
来世への思い出にもう一度逢いたいという恋心
歌意
私の命はもうすぐ尽きてしまうでしょう。せめて、あの世への大切な思い出として、私の命が尽きる前にもう一度だけ、あなたにお逢いしたいものです。
病気が重くなって、もはや死を覚悟していたころ、病床から恋する人に贈った歌。多感奔放な女性であったといわれる式部の歌としては、比較的におとなしい作で、そのひたむきな純情の恋心はうかがわれるものの、素朴であわれ深い歌である。
「あらざらむ」は「この世」にかかり、死んでいなくなるであろう現世の意。
『拾遺集』以下に二百三十八首入集。中古三十六歌仙の一。