不思議活性

月刊近文と私 6

 

1989年度 詩誌『月刊近文』より紹介です。

 『見たいものは』 小田悦子

青い空
青い空
目の中の虫
青い空
青い空
目のなかの虫 虫
青い空を見ようとすらば
目の中に虫がはい回る
好き通って 形もなくて
見つめようとすれば逃げて行く
手に届くものを見ていれば 気付くこともないのに
青い空
青い空
目の中の虫
なんで
自分のことばかり 気になるんだろう
なんで
見つめればわからなくなるんだろう
僕が見たいのは 青い空
虫が泳ぐ水晶体や硝子体なんか通さないで
僕が見ても 見ていなくても
何の変わりもなくそこにある
青い空を僕は見たい


 『ヒマラヤを越える鶴の群れ』 今井安次郎

標高八八四八メートルの
エベレストを頂点にして
西域の北の空に
雲表を抜いて
世界の屋根を
象(かたど)る
ヒマラヤの諸連峰

清浄と氷雪きらめく
連嶺を
人は
神々の居ます聖座と呼ぶ

その 空の高みを

インドの湿原で
越冬した
鶴が
群れ連なって
シベリヤへ帰って行く

季節の上昇気流に乗り

氷点下の激しい寒冷を
凌(しの)ぎ
高層の息苦しい
酸素の希薄さに耐え

いのちの翼を張って
ヒマラヤを越える
鶴の群れは

次第に

空と連嶺との
間(あわい)に
点描となって消えて行った


 『雨あがり』 山下俊子

生きとし生けるものたちよ
ありったけのエネルギーを燃焼させ
今日の空の青に溶けこめ
みじんこやアメーバーのように
限りない命を継ぎとめてきた細胞を奪い立たせ
原始の生命の誕生の喜びをもう一度
尊い歌にして叫び伝えよう

隣人の垣根の卯の花を盛りあげ
ひとびとを振り返らせ
小鳥は開かれた天の宮殿へ競って飛び立つ
つゆの晴間の乱反射をうけ
街は母のような海の色に包まれて動めく

人々よ
しばし争うことを止め
生まれ出るものの声に耳を傾け
どこからともやってくる地球の仲間たちを
希望に満ちた瞳でむかえ
この一瞬の小さなキラメキを
生きとし生ける万物たちよ
深い洞察力で確かめよう


 『森の向こう側』 中森 聖

その向こうに永遠のいのちがあるという
古き人々の言い伝えさえ
忘れ去られて久しい森の向こうに何があるのか
わからないものを探して歩き続ける
どこまでもひろがり
どこまでも深く静かな空間
時はここで眠っている
一本一本の木々のそれぞれは
ひとつひとつの星のように
いのちを内に秘めている
虫たちや鳥たちは
宇宙の静寂のなかで
ちいさな夢を追いかけ
さまよっている
森の向こうに何があるか
どこまでもひろがる空間の中では
ひとりの歩く姿など
在りもしない
だが導くものがどこかにいて
森の向こうに止まることなく
歩き続けることをおしえる
それが森に足を踏み入れた時からの
最初からの約束だったように
そして古き人々の言い伝えさえ
忘れ去られて久しい


 『冬の日々―帰宅恐怖症候群』 原 淳

朝あけのなか
新聞配達の少年が各家をまわる時間に
わたしは道ばたでねていた
だが わたしはねていないのだ

犬はおきない
なぜ おきないのか
恐家家族にふるえて
おきないのだろう?

帰宅を忘れてしまった
お父さんたち
駅のベンチや道ばたで
自分の場所を
ここがおれのいる場所だと
呼んではいけない

熱いみそ汁にあたたかい飯に
生たまごが目玉焼きが
目の前にちらついても
逃げているお父さんたち
が増えつづけている
のだそうです

「出世が遅いのね」
「安月給のくせのんだくれて!」
妻の言葉にうんざりして
お父さんたちはますます「うつ」になる
妻は子供たちを
高価な陶器のように大事にするのだが・・・・・・


ある日 妻や子供たちが変身する
「お父さん身体が万事よ がんばってね」
「行ってらっしゃい」「お父さん凄い!」
父の権利を認めてくれたんだ
父親は父親らしく
大きな姿勢でいてください

・続きは次回に・・・・。


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