不思議活性

月刊近文と私 5



 1988年度 詩誌『月刊近文』より紹介です。

 『鏡の中のふたり』 岸 まや子

あの日
わたしたちが見ていた
わたしたちの鏡像
鏡の中のふたりの肌が
あかるく光つながれて 照り返してくる

思い出は
まばゆい真珠色の肌
ルーベンスの絵のように奥びかりする皮膚

あの人の両腕は
もうひとりのわたしの背にまわされ
もうひとりのわたしの両手は
あの人の腰のあたりを囲み
首だけひねって ふたり
鏡の中から見ていた

姿見に埋めこまれたあなたをあの人と呼び
わたしをもうひとりのわたしと呼ぶ
あなたの体温は忘れても
忘れないのは 鏡の中の微熱世界だ

あなたの身振りひとつで
世界の果てまでついてゆこう
そんな見境の無い情熱から
どれほど経ったのだろうか

鏡の中のふたりに
さよならは言わなかったふたりだが
鏡の外では
熱もゆるみ 柔かい抱擁もとけた

また めぐってくるあなたの誕生日
わたしは 火照りがちのもうひとりのわたしの指を折って
あなたの年齢を数えている
生まれなかった子供の年の数を数えるように


 『鏡の道』 梅崎義晴

工場から出ると
雨のなか
堤の道を
自転車を走らせた
躰のなかまで雨水が入ってくる
工場からのバスが
水をけり
追い抜いていった
ちくしょうと声が出る
バスのなかの人々は見ただろうか
たぶん見もしなかっただろう
ちくしょう!
私は急スピードで
堤の道をはずれた
溝に落ちた
仰向けに自転車をかかえ
雨を受けていた
その上を一台の自転車が
光のように
駆け抜けていった


 『泡』 庭垣ユキ子

少女の夢の様に
憧れに夢をのせた日々のこと
帰らざるとき
グラスばりの
ソーダー水の
泡の向こう側から
いつでも貴方を見ていた
晴れた午后
甘く儚い想い
いつも貴方の事ばかり考えて
苦しい想い
ソーダの泡の
ひとつぶの中に
貴方への想いをつめ込んだ
ひとりきりの午后


 『よのなかでいちばん』 鍵谷 芳

よのなかでいちばんいいもの
それは
ちいさいおとこの子のおチンチン
あっけからんと
なんにもしらない
ひとりぼっちの王様

どんなにしても
わたしにはないもの
かみさまのちからのような
純粋な精神のような
どんなにしても
わたしにはないもの

よのなかでいちばんいいもの
こんなふうにいきられたら
だれもがなんにもほしくなくなる


 『抱きしめて』 ほりいよりこ

木を抱きしめて
土のあたたかさを感じ
今を生きようと思う

光を抱きしめて
果実の甘さを感じ
明日も生きられるかともと思う

犬を抱きしめて
その舌のぬめりを感じ
同じ時を生きていると思う

抱きしめて
命の中のほとばしる力を知る

わたしを抱きしめて
命を感じ
生きていると思う人が
いるだろうか

・続きは次回に・・・・。 



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