不思議活性

月刊近文と私 7



 1990年度 詩誌『月刊近文』より紹介です。

 『油絵』 池上治

叔父にその絵具を貰うことで、油絵をやったことがある。
独習だったが、しばらくして入門書を読んでみると、色に
深みをもたせるために、最初は原色を使用するとあった。
それも実際とはかけ離れた色を。例えば空は黄。土は赤。
樹は青。しかし私は色を置くたびに困ってしまう。私が思
った色から一時でも退くことに。このような色から抜け出
し、自分が望んだ色を得ることが出来るのかと。
 やっとの思いで私はその樹海の森から抜け出る。稚拙な
線で構成された教会の、濡れた緑壁に肩を預け私は黒いた
め息をつく。叔父は「何事も勉強、若い頃の苦労は買って
でもしろ」と言っていたが、私はいつも抱いている疑問を
投げかけずにいられない。このような技巧的生活から抜け
出し自分本来の姿を、それ以上の物を獲得することが出来
るのかと。


 『未亡人』 太田康直

「未来」を“いまだ来ず”
と読むことぐらいは簡単ですね
では「未亡人」は何と訓読します?
“いまだ亡びざる人”なんです

夫が死んでも後を追わずに
のうのうと生き残っている
まことにふてぶてしい女
という差別感のあらわな語です

うちのかみさんに聞かせたら
腹を抱えて笑いこけるでしょう
でもそのほうが健全なんです

第一あとおいでもされた日には
冥土とやらへ行ってからまで
頭があがりっこないですものね


 『風船』 平原比呂子

白いシャツの少年が
自転車にまたがり
長い前髪をなびかせて
はにかみながら少女の中を通り過ぎていった

むせかえる草いきれに包まれ
おかっぱ頭の少女の髪を撫でた
同じ手を額の横で軽くふり
さいなら
と五月の風に背中を押され
風よりも早く人生をかけぬけた

置き去りにされた少女は
足許の春紫苑をひきぬきひきちぎった
花びらが高く低く少年を追った
白いシャツは風を孕み
ふうせんになった
もうとどかない


 『純粋』 小林重樹

ひかりのなかの青色を大気に拡散して
波長の長い赤いひかりだけが届く と
燃えるような夕焼けがおこる

太陽がインド洋の真上に来る季節
それはもっと強くなる という

その頃
ふるさとでは
山ぐみが小さいランプのように
ふくらんで色づいている

純粋な赤い色のみなもとから
はるかに遠く


 『私は「き」』 徳沢愛子

私は一本の樹
風と気が合い
小鳥に気を散らせ
光に気が晴れ
雨に気を鎮め
小虫に気を抜き
寄りかかる人間に気をもみ
あちら立てこちら気を引く
血気盛ん
一気に一日を天に向い
陰陽の気
五行の気
スッタモンダ

恥し気もなく
気だるい顔も見せぬ
習気(じっけ) 何のその
勇気リンリン 葉広げる樹
見えない触手 香気のように
天地の気息 ひと息に吐く
心は 眉上げて
天こがれる一本の樹
終日 天を気にしている

・続きは次回に・・・・。



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