2月9日、米国連邦準備制度理事会(FRB)は抜本的な金融規制監督法である「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)(以下“DFA”という)」第619条いわゆる「ボルカー・ルール」規定につき金融機関の遵守期限の概要予定表に関する連邦金融行政規則「レギュレーションY」の最終規則(final rule)を公布した。本規則は2011年4月1日施行され、速やかに連邦官報に載る予定である。(筆者注1)(筆者注2)
本ブログは、従来から予告しているとおり“DFA”の内容についての詳細な解説を意図しているが何せ大部(2,316頁)な法律である。
なお、米国の金融監督機関で共通的に見られることであるが規則案の小出しが頻繁である。FDIC、FRB等が個々に規則制定権にもとづく策定作業を行っているせいもあり、本ブログでも紹介しているとおり、DFA対応作業につき全体的に鳥瞰できるサイトは今のところ皆無のようである。
1.「レギュレーションY」の意義と内容等
今回のFRBが公布した規則とは、具体的にいうと金融規制監督に関する「連邦行政規則(CFR)」のうち「レギュレーションY」の追加にかかるものである。
(1)「レギュレーションY」とは、銀行持株会社の企業活動および一定の範囲の州法設立銀行の活動を監督する規則である。また、銀持株会社がFRBの認可を得て行う次の取引について定める
①持株会社が別の持株会社から銀行を買収、合併する場合
②銀行持株会社が直接または子会社を通じノンバンクの企業活動を行う場合
③個人(個人のグループを含む)が持株会社または商業銀行のうち各州銀行法免許の州法銀行(State Member Bank)の経営権を取得する場合
④経営困難に陥った銀行持株会社または州法銀行が上級経営者または役員を選任する場合
(2)「レギュレーションY」が統治する問題は、銀行持株会社における最低資本準備金(資産準備率)の確保、一定の銀行持株会社の取引、銀行持株会社のノンバンク取引、州法銀行および米国内で営業する外国銀行の定義である。
(3) 「レギュレーションY」の銀行持株会社への適用手順については、例えばサンフランシスコ連銀のサイト等で詳しく解説している。
(4) 「レギュレーションY」の改定経緯
FRBのサイト(12 CFR 224)で詳しく解説している。
2.「ボルカー・ルール」の概要と意義
DFAの第619条「ボルカー・ルール」について以前に本ブログで紹介したアメリカ銀行協会(American Bankers Association:ABA)のDFAの専門サイト「ドッド・フランク法の本格実施に向けた銀行員のための重要テーマに関する施策」が金融機関にとっての実務対応面から問題を整理し、また政策立案事項を一覧形式でかつタイムテーブルに即してまとめている。
(1)「ボルカー・ルール」の内容 (筆者注3)
銀行(預金保険対象金融機関、銀行持株会社およびこうした機関の子会社)が、自己勘定取引(proprietary trading)を行うこと、ヘッジファンド(hedge funds)やプライベート・エクイティー・ファンド(private equity funds)に出資等することを禁止する。
ただし、例外として銀行の出資額等が当該銀行のTier 1 資本の3%以内であり、かつ、ファンドの総出資額の3%以内である場合には、ヘッジファンド等への出資を行ったり維持したりすることができる。
連銀の監督下にある非銀行金融会社が自己勘定取引やヘッジファンド等への出資等を行う場合には、通常の規制に追加する形での資本規制および自己勘定取引や出資に関する量的制限を受ける。
DFAの成立後6か月以内に連邦財務省内の金融安定化監督委員会(FSOC)はボルカー・ルールの適用に関して研究し提言を行い、FSOCの研究後9か月以内に、関連する規制当局(連邦銀行監督当局、米証券取引委員会(SEC)、米商品先物取引委員会(CFTC))は所要の規制を策定することが決定されていた。
(2010年8月24日付、財団法人 国際金融情報センター「金融規制改革法(ドッド・フランク法)の成立」から抜粋の上、筆者の責任で追加・補筆した)。
(2) 「ボルカー・ルール」に関する法実務的な解説サイト
「ボルカー・ルール」そのものについて米国でも金融規制面から詳細な解説はそう多くない。その中で世界的に展開している「Chadbourne & Parke 法律事務所」の解説(12頁)が正確でわかりやすく感じたので紹介しておく。
********************************************************************************
(筆者注1)アメリカ銀行協会がDFAに関する連邦の各金融規制監督機関の政策立案動向を追跡していると述べたが、今回のFRBの最終規則案についても2月10日付、追跡専門サイト(ABA Dodd-Frank Tracker)で次のとおり紹介している(FRBの解説内容と異なる部分もあるのであえて追加する)。
「ボルカー・ルールは、財務省内に設置した金融安定化監督委員会(FSOC)が規則の詳細を定める時期または2012年7月21日のいずれか早い時期後、12ヵ月後に施行する。今回定めた最終規則はボルカー・ルールが施行される日付後、2年間の遵守期間を置く。FSOCが指定するFRBの監視下に置かれるノンバンクについては監視が指定された後2年間はFRBの認定専用窓口で対応する。また、FRBは、一定条件の下ではさらに3年の遵守期限の延長することができる。」
(筆者注2) 2月9日のFRBの最終規則については例えば米国メディア“Bloomberg”の記事が翻訳されて紹介されている。しかし、筆者が斜め読みしただけでも次のような誤訳や説明不足な点があった。翻訳者(笠原文彦氏)に確認する時間がもったいないので、ここで筆者だったらこのように原稿を書くという見本を挙げておく。
原文の説明自体が内容的に問題なのであるが、少なくとも経済・金融関係の翻訳を請け負う以上、米国の金融機関監督法や行政規則の内容、種類、意義等について日頃勉強しておいて適宜補足するなど意欲を見せて欲しい。
「米国連邦準備制度理事会(FRB)は9日、預金保険対象金融機関、銀行持株会社および同金融機関の関連会社や子会社について自己勘定取引、ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティー・ファンドに出資等することを原則禁止するいわゆる「ボルカー・ルール」の適用につき、原則2年間の遵守期限を設ける行政規則を承認した。
FRBは9日のリリースで「ボルカー・ルール」の適用に関するFRBとしての行政規則(レギュレーションY)の改正を承認したものであり、その内容は2010年11月にFRBが公布しコメントを求めた改正内容とほぼ同一であると説明した。
昨年7月に成立した米国金融規制監督法(ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法:ドッド・フランク法)には、その第619条でポール・ボルカー元FRB議長の名前にちなんだ同ルールが盛り込まれた。第619条は「1956年銀行持株会社法(Bank Holding Company Act of 1956)」に第13条を新規に追加するものである。このルールは銀行等が自己資本に影響を負わせるようなリスクの高い投資を行ったり、預金保険の対象となる預金をリスクにさらしたりすることを制限することに狙いがある。
なお、『レギュレーションY』は本年4月1日施行される。」
(筆者注3) わが国向けに米国の法律事務所がまとめた「ボルカー・ルール」の解説例を見ておく。
「ボルカー・ルールは、銀行及びその関連会社に対し、自己勘定による取引を行うこと、又はヘッジファンドもしくはプライベート・エクィティ・ファンドのスポンサーとなることもしくはそれらに投資することを一般的に禁止しています。また、金融システム上重要な(systemically important)ノンバンク金融会社(たとえば、規模の大きい保険会社や証券会社等)に対し、自己資本規制や、上記の活動に対するその他の定量的な制限(禁止ではありません)について遵守することを義務付けています。ボルカー・ルールは、制定時から2年後に発効し、その時点から2年間の経過期間が開始することになっています。」
(筆者注4)「自己勘定取引」とは 基金を集め、それにより企業を買収し、収益力を向上させ、その後その企業を転売し、売却益を基金出資者に配当すること。
***********************************************************************************:
Copyright © 2006-2011 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.