Entrance for Studies in Finance

Case Study: Kirin キリンビール

キリンビールのM&A戦略
 キリンを始めとして、ビール各社は国内ビール市場の縮小傾向(2010年も前年比減 6年連続で前年割れ続く 国内ビール市場は前年比2-3%減少続く また一つの背景は需要・嗜好の多様化)を踏まえ、今後の成長のために、国内・海外での買収提携戦略を加速させている。
 キリンは国内では2007年に協和発酵を買収。2008年10月には協和発酵がキリンファーマを完全子会社化して、協和発酵キリンとするとともに協和発酵を子会社化するなど、すでに進出していた医薬品事業を強化。しかし2008年にはとくに対オーストラリアの企業買収戦略の加速に目立つものがあった。その後2009年から2010年にかけては、サントリーとの経営統合に取り組むものの2010年2月に破談。そしてこの破談後は再び内外で買収提携戦略を活発に展開している。
 国内酒類の減収傾向を医薬品の販売や海外(豪州やブラジルなど)の増収で補う戦略である。

国内では医薬品事業、清涼飲料事業に軸足
 キリンはもともと医薬品事業を抱えていたが2007年7月の持ち株会社(キリンHL)移行時にこの事業をキリンファーマとして独立させた。その後、キリンHLは、2007年10月、友好的TOBで協和発酵株28.49%を取得。2008年4月、協和発酵がキリンファーマを完全子会社化、同時に協和発酵へのキリンHLの持ち分は50.77%となった(連結子会社化)。2008年10月、協和発酵を存続会社として協和発酵キリンが発足した。
このようにキリンは、国内では、医薬品事業に力を入れ始めているほか、キリンビバレッジを通じたノンアルコール(清涼飲料)事業の育成を進めている(飲酒運転の厳罰化 健康志向などからビール系市場は縮小。他方、ノンアルコール飲料「キリンフリー」「午後の紅茶」などの販売ではヒットが生まれている。)。

生き残りのカギとなる海外、対中国では華潤集団と提携へ
 しかし国内市場の縮小傾向を踏まえれば生き残りのカギは海外にあり、とくに中国戦略を欠かすことはできない。2011年1月24日、キリンと中国の華潤集団とは、それぞれ提携を明らかにした。華潤集団は傘下に、1994年に南アフリカのSABの資本を受け入れて以来、急速な成長を続けて、2008年にはブランド別の販売量で世界1になった中国ビール最大手の華潤雪花を抱える。(日経2009年8月23日によると、2008年の中国のビールのシェアは華潤雪花17.8% 青島13.2% 燕京10.3% 金星4.5% 重慶4.3%。このうち燕京は北京で圧倒的シェア。華潤雪花は2006年に青島と中国ビール首位を交代した最大手)
 なお、キリンに比べ国際化で遅れをとったとされるアサヒは2010年10月に末に中国食品最大手の頂新集団(本部は台湾台北)に伊藤忠商事とともに出資。2009年の青島ビールへの出資に続き、現地の有力企業と出資・提携することで、販路を拡大し・生産を効率化する戦略では中国市場で先行している。
 2011年1月24日、キリンと中国の華潤集団とは、それぞれ提携を明らかにした。華潤集団は傘下に、1994年に南アフリカのSABの資本を受け入れて以来、急速な成長を続け、2008年にはブランド別の販売量で世界1になった中国ビール最大手の華潤雪花を抱える(華潤は買収を通じて拡大したメーカーで上海でサントリーとシェアを争う)。提携によりキリンは華潤の営業網(約3000店のスーパーを展開)を使って販売を伸ばし、華潤はキリンの工場で華潤ビールの増産を図るとのこと。また提携には清涼飲料についての提携も含むとのこと。
 背景には中国市場で自前主義にこだわったことで、ペプシコとの提携で中国全土で事業展開するサントリーに遅れをとった反省があるとも。

内外で提携買収を競うキリンとアサヒ
アサヒは中国事業では1994年に杭州ビールに出資。しかし中国事業は長く赤字で、かつキリンあるいはサントリーに比べても国際化に遅れたとされる。2000年代に入りその姿勢を転換。とくに2009年4月に中国2位の青島ビールに20%出資。これにより工場と販路の活用が実現。赤字だった、中国でのビール事業をようやく軌道に乗せたとされる。キリンの華潤との提携はこのアサヒの経験から、中国市場攻略には、中国の有力企業と提携することが重要であることを学んだことの結果との指摘がある。
 アサヒは中国食品最大手の頂新グループ(集団)(本部は台湾台北 2009年に伊藤忠が20%出資)と2004年に合弁事業「康師傳(カンシーフ)食品」を設立、清涼飲料事業を進めていたが、2010年10月末に中国食品最大手の頂新グループと全面的な事業提携に踏み切っている(出資額5億2000万ドル438億円 6.54%取得)。これは頂新、伊藤忠、アサヒ3社提携といえ、中国事業で先手を打った形。キリンによる華潤との提携は、まさにこのアサヒに対する、キリンの答えといえる。
 韓国では清涼飲料事業で首位のロッテ(シェア50%近い ロッテとは2004年にビール販売の合弁設立 2005年より販売開始)と提携(子会社の韓国3位ヘテ飲料を売却の方針 ヘテには2000年20%出資 2004年連結子会社化)。キリンが強いオーストラリアでも、2008年4月に飲料2位のシュウエップス・オーストラリアを買収したことに続き、2010年11月に飲料3位のP&Nを買収(なお結果としてP&Nの一部事業を翌年買収)。オーストラリアの清涼飲料業界で、かつてキリンが買収しようとした首位のコカコーラ・アマテイル(CCA)に迫る2位グループを形成しようとしている。
 キリンとアサヒが、中国そしてオーストラリアで、それぞれ事業を拡大して互いに競っていることは興味深い。アサヒによる近年の活発な買収提携戦略は、海外売上高比率が低く(2010年前期6月期 アサヒ5% キリン25%)国際化に遅れをとった危機感と、攻勢に出れる財務内容の良さ(自己資本比率 アサヒ42% キリン36%)とが背景になっている。

キリンの投資の中心としてのオーストラリア
 キリンの投資額では海外投資額が国内投資額より巨額。なかでも近年、投資額が大きいのはオーストラリア向けである。
 2007年11月にキリンは、豪州乳業最大手ナショナルフーズNational Foods(乳製品 果汁飲料など)を傘下に収めた(買収金額2940億円)。
 2008年8月下旬にオーストラリア乳業2位のデアリーファーマーズ買収で合意した。買収額は8.84億オーストラリアドル(買収金額840億円)。独占禁止法に抵触しないようにデアリー社の事業の一部を売却する見通しだが、オーストラリアでの乳製品のシェアでキリンはトップに立った。
 このほかキリンはオーストラリアではすでにビール大手(2位)のライオンネイサンに1998年に出資済み(46%)。Lion Nathanはオーストラリアで2位のシェアをもつTooheys Newを作っているところで、もともとはニュージーランドの醸造・食品業者(したがってニュージーランドでの同社のシェアは高い)。その後2009年4月にはライオンネイサンに2200億円を投資して完全子会社化で合意している。
 なお参考までに。オ-スラリアのビール第1位はVBの愛称で知られている。この醸造元の現在の名称はFosters Groupだが、同社はかつてCarlton & United Breweries or Beveragesなどと呼ばれた会社と同一である。

ただ買収当時は意識されなかったが、その後 豪州で高価格帯ビールが販売が好調となる半面、酒類に比べて利益率の低い乳製品事業の立て直しが経営課題として浮上する(買収した工場は分散して立地。設備も老朽化していたことが足かせとなった。2013年に老朽工場の閉鎖。存続工場への集中投資を表明している)。2011年に買収で進出したブラジルも増収(2013年に生産能力の増強投資を急ぐ方針を明らかにしている)。
 キリンの2012年12月期の海外売上高は5793億円。うち豪州の比率が約7割で現状は豪州に売上が偏っている。

キリンによるCCA買収は実現せず 2008年冬-2009年
 さらに2008年11月には、キリンがオーストラリアの清涼飲料最大手コカコーラ・アマティル(CCA)に買収提案を行い経営陣との合意を目指していることが明らかになった。提案は80億オーストラリアドル(約4880億円 このほか76億豪ドルという数字もみた)。CCA側、それに筆頭株主の米コカコーラは、買収金額に不満を表明。11月中の決着にはならなかった。これは実現すれば国内食品会社による海外企業買収として最大規模のものになるものだった。しかし2009年2月9日 価格面でおりあえなかったとして豪州キリンが断念を表明して終わっている。
このときキリンとしては、円高の進行で円での買収金額が小さくなるという計算があったようだ。デアリーの買収では8月から11月への間に円建て金額は840から570億円と3割も安くなった。デアリー買収の目的はオーストラリアでの乳製品市場での優位性の確保。オーストラリア乳製品市場でのキリン系のシェアは3割前後から6割前後に高まる。その上で成長著しい東南アジア市場への乳製品輸出拡大を目指している。
 加えてコカコーラ・アマティ(CCA)買収は実現すれば、さらにオーストラリアでの食品産業全体で、大きなシェアを占めるとともに、キリンGの売上高における食品事業の位置を3割以上に押し上げる効果もあった。つまりグループの業務内容を多角化・国際化に向け、急展開させる可能性を秘めていた。企業財務的にはこのような巨額買収の連続は、負債比率の急上昇を伴う。CCA買収は、金額的には、社内で予定していた今後5年ほどの買収資金枠を使いきっての決定だった。しかもデアリー買収の段階で2006年期に0.2台にあったDEレシオが2008年中に0.7近くまでの上昇が見込まれていたことを考えると、CCA買収にまで踏み込むとすれば財務的にもかなり大胆であった(一時的ではあるが妥当ラインとされる0.5を突破する)。キリンは成長のための負債拡大戦略という、かなり大胆な財務戦略に入ろうとしていた。
 しかし既述のように米コカコーラ側の拒否でこの巨大買収は実現しなかった。

 その後、キリンは2009年5月末までにはフィリピンの最大手サンミゲルビールに1300億円を投資して48.3%の株式を取得(持ち分法適用会社) 2009/2/20に基本合意発表 サンミゲルは電力などインフラ事業にシフトする)。2012年に入ってこのサンミゲルの販売網を使った市場開拓計画を東南アジア各地(香港 タイ 今後はベトナムやインドネシアでも)で進める姿勢を明確にしている(2013年10月からサンミゲルのタイ工場を使って「一番搾り」を生産するとのこと)。
 米国ではビール最大手アンハイムブッシュ(AB)インベブに生産・販売とも委託。今後はキリンの現地法人の
営業とマーケッテイング支援強化の方針

 国内ビール事業の伸び悩み傾向への強い危機感に2007年の純粋持ち株会社移行が重なり、このような企業買収戦略が進んでいる。しかしLion Nathanに対しては捕鯨問題と絡めた不買運動の存在が知られる。このような現地社会の反発を考慮すると、キリンのオーストラリア進出拡大については、現地で歓迎されるような細やかな心配りが不可欠だろう。キリンは2015年までに海外比率を18%(2004)から30%まで高める方針。
 

同業他社の買収戦略を誘発
 なおキリンの動きは同業他社の動きを刺激した。2008年10月にはサントリーがニュージランドの栄養飲料メーカー、フルコア社をフランスのダノンから700億円強での買収を決めた。(フルコア)についてはキリンやアサヒも競ったとされる)。さらに2008年12月にはアサヒビール(中国での合弁事業が拡大している 杭州ビール55% 北京ビール47%20%などに加え 中国2位の青島ビールに09年4月末までに20%出資:2009/1決定 なお青島ビールとはすでにアサヒビール中国子会社の事業を合弁化するなど関係が深い で5拠点)が英キャドバリーの豪州飲料事業(シュウエップスなど)を09年4月末までに買収すると発表した。
 国内市場が少子高齢化が市場が縮小しているのに対して、オセアニア地域は人口の伸びが続き市場の拡大が見込める。飲料市場の寡占化が進み利益率が高いことも魅力である。さらに東南アジア進出の橋頭堡となる。

サントリーとの経営統合問題で提携・買収戦略は一時中断 2009年ー20010年春
 そして、2009年7月に表面化したサントリーHDとの経営統合問題にキリンHDは一時かかりきりになる。この大型再編が2010年2月に破談。キリンは再びM&A戦略に戻ろうとしている。

2010年夏以降 内外で提携・買収戦略を再開したキリン  
 2010年7月つぎの一手が内外が出された。国内では江崎グリコと清涼飲料事業で提携すること。キリンビバレッジが扱うチルド飲料の販売流通を江崎グリコの子会社グリコ乳業に移管するというもの(従来はキリンビバの子会社小岩井乳業に委託。しかし小岩井に西日本が手薄など弱点があったとのこと この移管により小岩井は乳製品の販売に特化)。

F&N(シンガポール)株の取得(2010年7月)
 海外ではシンガポール(人口500万人)の飲料大手フレイザーアンドニ―ブ(F&N マレーシア シンガポールで清涼飲料トップ 傘下にAPB:Asia Pacific Breweries)に846億円超を投じて第二位株主(14.7%)になるとした(2010年7月26日)。

F&N(シンガポール)をめぐるTOB合戦 F&Nからの撤退(2013年2月)
2012年7月タイビバレッジ(タイでチャーンビールを展開 チャーン:象)がF&Nの20%強の株式をシンガポールの金融機関OCBCから取得、持ち分を30%強としたうえでF&NにTOBを仕掛けることが明らかになった。この動きはF&Nが40%取得するAPB:Asia Pacific Breweries(Tiger Beer)取得に本当の狙いがあるとされ、すでにAPBに42%出資しているハイネケン(ベルギー)がTOBをする動きとなった。大変興味深いことに、タイビバレッジはこのあと、ハイネケンによるTOB(51億シンガポールドル 約3200億円)を歓迎する声明をだし、APBの株主総会もこのTOB案を了承した。
 結果としてAPBを失ったF&Nについての買収が残された状況で、今度はインドネシアの不動産会社OUE:Overseas Union EnterpriseがTOBに参戦。キリンはOUEと共同でF&NをTOB買収(TOBに応じて1250億円で持ち株処分)。その後、飲料事業を1750億円で買収することでOUEとは話し合いがついたとされている(2012年11月)。
 しかし2013年1月にタイビバがTOB価格を引き上げたことから、OUEは買収を断念。キリンはF&N株売却に追い込まれた。売却額は約1500億円(株価上昇による特別利益約470億円)。これは再投資に使えるものの、キリンの東南アジア戦略は見直しを迫られることになった。

特定保健用食品の炭酸飲料メッツコーラ(脂肪の吸収を抑える)2012年4月発売がヒット
 類似したものに伊藤園のスタイリースパークリング(2012年7月発売)、ペプシスペシャル(2012年11月発売)など。
 先行商品に花王のヘルシアズパークリング(2006年)。トクホ炭酸飲料とよばれキリンのメッツコーラで
 人気に火が付いた。
 2011年ブラジルの大手ビールスキンカリオールを3000億円で買収(完全子会社化ブラジルキリンに社名変更 シェア15% ブラジルのtopはアンハイザー・ブッシュ・インベブ傘下のアンベブの60%)。ブラジルはビールの市場規模が日本の2.4倍(2012年の生産量)で世界第3位の巨大市場。3%程度の安定成長が見込めるため、非アジア開拓のカギとして重視。今後は生産増強に努める方針。
 なお2012年の世界最大のビール市場は中国 2位はアメリカ 3位がブラジル 4位がロシア 5位がドイツ 6位がメキシコ 7位が日本
 消費量は各 4420, 2418, 1280, 1056, 863, 689, 554万klで世界全体では1%増。東南アジアや中南米の需要拡大が見込まれている。
 日本の市場規模は中国の8分の1。アメリカの5分の1に過ぎない。

疑問がある多額買収の成果
 なおIFRSを導入していないビール会社の場合 企業買収はのれん代(買収金額の上乗せ分)の償却という形で
収益の押し下げ要因になる。IFRSではのれん代は償却せず、収益悪化などで大きく減価した時に減損損失を
計上する。キリンは多年度にわたる買収資金調達で財務が悪化した。今後は有利子負債削減を急ぐ早期に負債資本比率を1倍以内に戻す方針。
 また海外事業が売上の3割 海外事業の比重が高まった結果 海外事業の巧拙が事業に与える影響も高くなっている
 その中心はビールで4割のシェアを握る豪州と3000億円買収のブラジル・スキンカリオール
 2012年12月期 連結営業利益は前期比5%増の1500億円程度の見通し(2012年12月)

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originally appeared in Nov.22, 2008
corrected and reposted in February 15, 2014

Case Study: Asahi Breweries アサヒビール
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