少女は交差点で信号が変わるのを待ちながら、
じっと立っていた。
多くの自動車が少女の目の前を走り、
多くの歩行者が歩道を歩き、
そして少女の近くには、
信号待ちの人たちが数多く立っていた。
少女は街の風景を見ながら、
同時に別のものを凝視していた。
脳の中の残像。
道に倒れている男。そして母親と男の子。
少女は最近、寝不足だった。
眠ってしまうと夢でうなされてしまうので、
眠るのを避けていた。
それでも毎晩数時間は眠ってしまう。
そうすると、いつも同じような夢を見てしまう。
倒れてぐったり動かない男や、
号泣する親子の夢を。
日中もそれらの残像が、
脳に焼き付いて離れない。
信号待ちの少女の目の前が、
急に光に包まれた。
周囲の風景はすべて一瞬で消え、
一面、目も眩むような光だけになった。
獅子髪の男が、そこにいた。
(気にするな)
獅子髪の男は少女に話しかけた。
(君にはもっと大事なことがある)
獅子髪の男は強い光を発していた。
声が、まるで引き込まれるかのように響く。
(あなたは・・・誰?)
少女は獅子髪の男に、
思い切って話しかけてみた。
(私は、導きを役割とする者だ)
(導き?)
(そうだ、人類を明るい光へと導く者だ)
(人類?)
(そうだ、己の欲望に囚われた未熟な人類を・・・)
(・・・・・・)
(破壊と再生を通じて導かなくてはならない)
(・・・・・・)
(君も同じ意志を持つ同士だ、私はそれを知っている)
(・・・・・・)
(そうだろう?)
(は・・・い・・・)
(私には、いや我々には多くの同士がいる)
(・・・・・・)
(長い年月をかけて世界を救うための努力をしてきた)
(・・・・・・)
(闇に沈んでいる人類を光へと導くための努力だ)
(・・・・・・)
(しかし、その定められていたはずの導きへの道が・・・)
(・・・・・・)
(近年、大きく揺らいでいる)
(・・・・・・)
(我々を妨害する邪悪な愚か者の集団がいるのだ)
(・・・・・・)
(すでに多くの同士が倒され・・・)
(・・・・・・)
(世界を救うための大きな手立てを奪われてしまった)
(・・・・・・)
(このままでは約束された計画が崩れてしまう)
(・・・・・・)
(君の力をぜひ借りたい)
(え?)
(我々同士には君の力が必要だ)
(私が?)
(そうだ、君はまだ自分の力の大きさに気付いていない)
(・・・・・・)
(君には信じられないような大きな力が秘められている)
(・・・・・・)
(君の中に眠っている大きな力を目覚めさせ・・・)
(・・・・・・)
(愚か者共に奪われた手立ての代わりとしたい)
(・・・・・・)
(予定通りに世界が救われるかどうかは・・・)
(・・・・・・)
(これからの君にかかっている)
(そ、そんな・・・)
(本当だ、私を信じてほしい)
(・・・・・・)
(私と一緒に人類を真実の光へと導こう)
(・・・・・・)
(私を信じるんだ)
獅子髪の男は消えた。一面の光も消えた。
街の風景が戻った。
信号が変わった。
少女は軽快な足取りで横断歩道を渡り始めた。