1999

~外れた予言~

忍者の少女封印(8)

2007-03-10 07:10:23 | Weblog

忍者は自宅で風呂に入っていた。
湯船に漬かっているときに交信が入った。

ん・・・誰だろう?
監督や草薙だとイヤだな・・・
魔女あたりなら面白いんだけどな・・・

忍者は目を瞑って集中してみた。


(そっちの調子はどうだ?)

調子? 何の調子だよ・・・

(俺の方は準備がだいたい済んだ)

準備? 何の準備なんだ・・・

(そろそろ一斉に仕掛けるつもりだ)

ん? 中将か?

(一応、忍者にも一言いっておこうと思ってな)

中将だ・・・間違いない・・・


忍者の脳内に中将から交信が繋がれることは、
かなり珍しい。
これは忍者と中将の仲の疎遠さの現れでもある。

いや、
疎遠さというよりも仲の悪さというべきか。


(もうすぐ200人を動かして少女を抑える)

(・・・・・・)

(そういうことだ、じゃあな)

(待て、中将よ)

(・・・・・・)

(俺がとばっちりを絶対に食わない保証はないんで・・・)

(・・・・・・)

(俺にだけこっそり仕掛けの方法を教えてくれないか)

(・・・・・・)

忍者は、少女の近くには、
霊体も含めてまったく近寄らずにいたので、
実際には巻き添えになる危険は皆無といっていいのだが、
忍者には、
あの強力な少女に対しどのように力攻めが可能なのか、
純粋に興味があった。


(・・・・・・)

(おいっ)

(・・・・・・)

(中将、ちょっとくらいいいだろう?)

忍者は湯船の湯を両手ですくって、
顔を洗った。そしてタメ息をついた。
中将のケチンボめ・・・と。


(じゃあ、ちょっとだけな)

(ああ、頼むよ)

(忍者、その前にひとつだけ意見を聞きたい)

(ん? 何だ?)

(少女の能力はオートだと思うか?)

(中将、そのことについてはだな・・・)


オート・・・
一般に異能者の能力行使に関しては、
本人が意識的に操作しているか無意識に行っているか、
区別することができる。
意識的に能力操作することをマニュアルといい、
無意識のうちに済ませてしまうことをオートという。

例えばオートカウンターといえば、
誰かから遠隔攻撃があった際に、
それを無意識に跳ね返して敵にそのまま返すことをいう。

オートカウンター式の防御シールドを、
天然の防御能として元々備えている者もいるし、
意図的にオートカウンター式に張る異能者も多い。


中将は忍者に、
少女がやっていることはオートなのかと聞いた。
つまり、
少女のディメンジョン・アタックが、
本人の意識とは無関係に天然の攻撃能として行われているのか、
という意味で質問したのである。


(草薙の受け売りになってしまうんだが・・・)

(・・・・・・)

(中将よ、少女の力はすべてオートらしい)

(そうか、よかった)

中将はオートと聞いて喜んだ。
通常、相手の出方に細かく対応するには、
マニュアルの方が有利だからだ。
例外的に、
オートで柔軟な対応をこなしてしまう異能者もいるが。


(あの化け物のような少女を・・・)

(・・・・・・)

(一体どうやって正面から崩すんだ?)

(ああ)

(・・・・・・)

(忍者よ、いろいろ考えたぞ)

(・・・・・・)

(200人全員で少女の作る世界に飛び込んでみる)

(!!)

(少女の作る世界を中から破壊する)


「なに~っ!?」

忍者は風呂場で思わず肉声を上げてしまった。
あまりの驚きのため黙っていることができなかった。


(そ、そんなことできるのか~っ?)

(できると思えばきっとできる、違うか?)

(・・・・・・)

(少女の作る世界を破壊すれば・・・)

(・・・・・・)

(そのダメージはきっと少女の肉体に帰るはずだ)

(・・・・・・)

これはありうる話である。
霊体が受けたダメージは生身の肉体に反映しうる。
少女がオートで無意識に操っている世界が、
たとえそれが異時空や異次元であったとしても、
もしも内部から完全に破壊され尽くして消滅した場合、
少女の生身は無事では済まない可能性が高い。


(まず神父と僧正の二人を先行させて少女に捕捉させる)

(神父と僧正って確かシールド・マスターだよな?)

(そうだ)

(なんかドキドキしてきた)


シールド・マスター・・・
シールド張りに関して突出した異能者を、
よくこのように呼ぶ。

神父と僧正は、
実生活でそのまま神父であり僧正だ。
かたやカトリックの敬虔な神父、
かたや法力に定評のある高名な密教僧。

二人とも監督や中将が生身の人間だとは知らない。
二人の能力を監督や中将が利用している。


(少女の世界に・・・)

(・・・・・・)

(シールド状態のままの神父と僧正を飛び込ませる)

(・・・・・・)

(この二人のシールドはとても特殊で・・・)

(・・・・・・)

(複数の次元、複数の時空の間を・・・)

(・・・・・・)

(長時間、持続的に穴を開けるように接続することができる)

(・・・・・・)

(二人の開けた穴を突破口に200人同時に飛び込む)

(・・・・・・)

(200人の中には・・・)

(・・・・・・)

(ボマーが50人、リッパーが30人、溶解屋が10人いる)

(・・・・・・)

(解除屋の類も数十人規模でいる)

(・・・・・・)

(残りはそのサポートやガード役を果たす)

(・・・・・・)

(破壊後に下手すると全員が道連れになる恐れもあるが・・・)

(・・・・・・)

(神父と僧正のシールドをうまく脱出口にすればいい)

(・・・・・・)

(これで何とかなると思う)

(・・・・・・)

ボマーは爆破系アタッカー、リッパーは切り裂き屋、
溶解屋はそのまま溶かし屋のことである。

そして解除屋は、
相手の能力を減殺したり奪ったりするのだが、
おそらくは、少女の世界における、
トラップや内部設定を解除する役割なのだろう。


(おい中将、少女が作る世界を・・・)

(・・・・・・)

(ホントに中から壊せるのか?)

(やってみないとわからないが・・・)

(・・・・・・)

(やってみるしかないだろう)

(・・・・・・)

(死神も念仏も失敗したんだからな)

(・・・・・・)


忍者は興奮してきた。
うまくいけば本当に少女を倒せるかもしれない。
完膚無きまでに少女の世界を破壊して消去できれば、
生身の少女を殺せるかもしれない。

しかし失敗すれば、
おそらく200人は全滅するだろう。


(200人全員、一度に少女の世界に投入か?)

(ああ)

(外にある程度はバックアップ要員を残さないのか)

(正直いって・・・)

(・・・・・・)

(どれくらいの人数や戦力で内部破壊が可能なのか不明だ)

(・・・・・・)

(逐次投入はかえって失敗のリスクを上げるだろう)

(・・・・・・)

(使える人数を使えるだけ同時に使う)

(・・・・・・)

(しいていえばだな、バックアップ要員というのは・・・)

(・・・・・・)

(忍者、お前のことだぞ)

そうかもしれない、いわれてみればその通りだ、
忍者は中将に指摘されてそう納得した。


(中将、お前も一緒に中に入るのか?)

(もちろんだ)

(・・・・・・)

(俺はいつだって陣頭で指揮をとってきた)

(・・・・・・)

(200人を危険に曝して自分だけ後方でコソコソできるか)

(・・・・・・)

(俺は監督とは違う)


「あ~っはっはっはっは!!」

忍者は湯船に漬かりながら、
またしても声を口に出してしまった。
耐えきれないおかしさに爆笑が止まらなかった。