1999

~外れた予言~

おわりに

2007-04-02 00:23:59 | Weblog

書いていてとても楽しかった。
作り話をいろいろ考えて書くことが、
こんなに快楽を伴うものだとは知らなかった。


このストーリーを創作するにあたって、
いろいろな事前設定をあらかじめ用意していたのだが、
登場させようかどうしようか迷いに迷い、
結局一度も登場させなかったキャラがいる。

御大という人物だ。

事前設定では監督の前任者であり、
監督よりもさらに年配ということになっている。

御大は、
若い頃の監督をかつて封じた過去があり、
その後監督を育て右腕にする。

ある時期、監督は実力で御大から実権を奪う。

グループの長でなくなった御大は、
その後、終末組の隠れたスポンサーとなり、
獅子髪の男を陰でサポートして育てる。


御大を登場させなかった理由はいくつかある。
御大を登場させてしまうと、
結局のところすべてが内輪揉めの構図になってしまい、
話としてはちょっと問題があるかな、とやや感じたせいだ。

外見的なイメージでいうと、
例えていえば御大は丹波哲郎がピッタリだと思う。

御大を主人公としたストーリーも、
いつか描いてみたい気もする。気だけである。


最後にやはり、
これだけは改めて断っておきたい。

私自身は、オカルト的なものは全面的に信じていない。
当然この物語も、200%完全なフィクションである。


草薙新部隊(2)

2007-04-01 23:45:58 | Weblog

私はこっそりと小説を書いて、
それをネットに公開することにした。
あくまで私の脳内で想像と妄想によって構築された、
一見して作り話とわかるような物語である。

2001年、獅子髪の男とその勢力は、
再び世界の主導権を握る。
一方、草薙をリーダーとする新しいグループは、
忍者と鉄人を左右の両輪として、
新しい実戦要員を発掘して育成し、そして前線に投入する。

かつての異能戦争よりもはるかに少ない人数で、
草薙新部隊は獅子髪の男に挑む。

新規に採用した前線要員は、
世界中から見い出されたものの、なんとわずか六人。

草薙はそのたった六人を、
獅子髪の男と10000人近い彼の仲間たちに、
造作なく放り込む。

この、どう考えても無責任極まりない無謀な策によって、
一体どういう結果になったかというと、
それは2006年という年に、
予言された出来事があったかなかったかを確認すればわかる。


私が書こうとしている空想創作小説のタイトルは、
もうすでに決まっている。

「2006~外れた予言~」
である。


草薙新部隊(1)

2007-04-01 23:30:30 | Weblog

私はまたいつぞやの中年女性の家にいた。
脳出血後遺症で寝たきりのままの、
ひとことも話せない、発語さえできない例の女性だ。

中年女性は眠っていた。
女性の夫さんは、
私のためのコーヒーを用意するために台所にいた。

私と女性のほかには、
インコと熱帯魚とプーさんのぬいぐるみだけだった。


(あなたを倒したのは獅子髪の男ですね)

私は尋ねた。返答はなかった。
女性は眠ったままだ。

(草薙は力で監督から実権を奪いましたね)

私は半ば独り言のように話していた。
心の声で。

(1999年が無事に済んだあとも争いは終わらなかった)

女性に声が届いているのかどうかは定かではない。
インコや熱帯魚には届いているかもしれない。

(たしか2006年にも何かの予言がありましたね)

プーさんのぬいぐるみは、
今日も寝たきり女性の拘縮した腕の中で、
ヘッドロックをかけられたままだ。

(2006年をめぐる争いが2001年から繰り広げられた)

夫さんがコーヒーを持ってきてくれた。
私はそれをお茶のように、
またもやガブガブと何杯も飲んだ。

(違いますか?)


忍者の少女封印(22)

2007-04-01 23:07:36 | Weblog

忍者と猫丸が、
例のショーパブの二階席に並んで座っていた。
まだショーが始まる前の時間帯である。

(忍ちゃん、少女が精神科に入院したんだって?)

(うん、そうらしいね)

(これでしばらくは少女は立ち直れないだろうね)

(多分そうだろうな、きっと数年くらいはムリだろう)

(やったね、忍ちゃん、見事だよ)

(いや、手柄は俺のもんじゃないよ)

(え?)

(少女の心を封じたのは・・・)

(・・・・・・)

(死神の妻子、念仏、中将、そのほかの死んだ仲間たちだ)

(・・・・・・)


忍者はそれほど嬉しくなさそうな顔をしていた。
猫丸は、
少なくない犠牲者や戦死者の存在のせいだと理解した。

(しかし仲間が相当減ってしまったね、忍ちゃん)

(うん、200人以上いたのに今では・・・)

(・・・・・・)

(たった17人になってしまった)

(無傷で生き残ってるのって誰?)

(んーとね、ちょっと待って、猫さん)

(・・・・・・)

(監督、草薙、鉄人、魔女、百目、巫女・・・)

(うんうん)

(神父に僧正・・・)

(うん)

(軍曹、歌姫、毒盛、女王、若頭、関取、奥様・・・)

(ふむふむ)

(あとは俺と猫さん)

(ふむ)

(この17人だね)

(忍ちゃん、神父と僧正の二人以外はみんな・・・)

(・・・・・・)

(監督を生身の人間だと知ってる者ばかりじゃないの)

(そうだね)

(というか監督を神とか天だと思ってた仲間は・・・)

(・・・・・・)

(みんな中将が指揮してたんだっけ)

(・・・・・・)

(死んだ連中は本望かね)

(・・・・・・)

(俺たちも監督の正体なんて知らない方がよかったね)

(かもな、ウンコだからな)


監督は自分の正体を配下に知られた場合、
まずその配下を封じようとしてきた。

自分のことをただの人間だと知られると、
それまで従順に指示を受けていた者であっても、
手の平を返すように反抗してくる傾向がみられるからだ。

監督の正体を知って監督に逆らったが故に、
監督に封じられて消えていった仲間たちも実は多い。


(忍ちゃん、今夜は誰がここに集まるの?)

(えーとね、誰だっけ)

(・・・・・・)

(監督、草薙、鉄人、あとは魔女あたりかな)

(そっかそっか)

(・・・・・・)

(しかしさ、草薙がいってた例の獅子髪の男だけど・・・)

(・・・・・・)

(草薙と鉄人の二人がかりでも取り逃がしたんだって?)

(そうらしいね)

(それってマズくない?)

(うん、まあ、マズイね)

(いつかまた出てきてなんかやるでしょ)

(猫さん、そうなんだ、それが問題だ)

(巫女はなんかイメージ見てないの?)

(それがね、獅子髪の男はね・・・)

(・・・・・・)

(近い将来、日本の表舞台に立つらしいんだ)

(え?)

(驚くほど目立つところに君臨するらしい)

(マジ?)

(日本の国民の誰もが知る存在になるそうだよ)

(・・・・・・)

(だから猫さん、超マズイんだよ、雰囲気的には)

(・・・・・・)

忍者は思わずタメ息をついた。


(次は逃がさない)

後ろから草薙の声がした。

忍者と猫丸が後ろを振り向くと、
そこには草薙と鉄人の二人がいた。

(猫さん、久しぶりだね)

草薙は猫丸に話しかけた。
二人は席に座った。

(魔女はまだ来てないのか?)

鉄人があたりを見回しながらいった。

(きっとまた旦那とケンカでもしてるんだろ)

草薙が笑いながら魔女をコケにした。

(露出狂の変態が何いってんのよ、スカポンタン!!)

魔女が現れた。

(あら、監督はまだなの? ショーが始まっちゃうじゃない)

魔女は監督が珍しくショーの開演前にいないことをつついた。

(私がここのショーに遅刻するはずがないだろう)

監督が現れた。


集まった全員が座った。

(しかしさ、みんな野球観てる?)

猫丸が唐突に話題を変えた。

(野茂もイチローもすごいよね)

猫丸は野球好きだ。
監督もそうだ。監督は思わず頬を緩ませた。


ショーパブの場内が暗くなった。
もうすぐ、今夜も華やかなショーが始まる。
1995年の夏。


忍者の少女封印(21)

2007-04-01 19:33:29 | Weblog

少女は母親と二人で、
リビングのソファに座りながらオヤツを食べていた。
なにげなくテレビを見ている。

テレビは何かのドラマをやっているようだった。
白衣を着た長身の男と小学生らしい男の子が、
テレビの画面には映っていた。

病院の庭らしいところで、
その白衣の男と男の子はベンチに座りながら、
並んでアイスキャンディを食べていた。

男はきっと医者なのだろう。
小学生低学年くらいの子供はどういう関係なのだろうか。


少女はなぜか魂を抜かれたかのように、
じっとテレビを眺めていた。
白衣の男と男の子の会話が自然に耳に入ってくる。


「学校は楽しいかい?」

「うん、楽しいよ」

「友だちはたくさんいるんだよね?」

「うん、たくさんいるよ」

「そうか」

「あのさ、ボクのお父さんのこと教えてよ」

「ああ、そうだね」

「ボクのお父さんはいつ目が覚めるの?」

「それがね・・・まだわからないんだ」

「早く目を覚まさせてよ!」

「・・・・・・」

二人はアイスキャンディを食べながら、
男の子の父親のことを話しているようだった。


「テレビとかよく見るかい?」

「うん、見るよ」

「そうか」

「この前ビックリしたんだ」

「なんで?」

「ニュースで飛行機が落ちたっていってた」

「飛行機が落ちたのか」

「あのさ、ちょっと聞いてもいい?」

「ああ、いいよ」

「お空は落ちてこないの?」

「え?」

「飛行機は時々落ちちゃうでしょ」

「うん」

「お空だっていつか落ちるかもしれないよ」

「んー」

「お空が落ちたら大変だよ」

「そうだね、大変だな」

「みんな死んじゃうかもしれないよ」

「そうだね」

「お空が飛行機みたいに落ちたらどうする?」

「いや、お空はきっと落ちないよ」

「どうして? 絶対に? ボクと約束できる?」

「よし、約束しよう」

「ホントに?」

「そのかわり君も約束してくれないかな」

「何を?」

「お父さんがこのまま目が覚めなかったとしても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に泣かないこと」

「・・・・・・」

「お空が絶対に落ちてこないって約束してあげるから・・・」

「・・・・・・」

「君も泣かないで頑張るって約束してくれよ」

「・・・・・・」


少年は少し迷っていた。
しかし顔を上げて答えた。

「うん、わかった」

「お!」

「お父さんが目を覚まさなくても泣かない」

「よし!」

「ボク、がんばるよ」

「えらいぞ!」

「でも約束だよ、お空を落とさないでね」

「もちろんだ」

「お空が落ちそうになったら落ちないようにしてね」

「わかった」

「ボクもがんばるから」


少年はさらに自分の悩みを打ち明けた。

「まだあるんだ、あのさ」

「ん?」

「船ってたまに沈むでしょ?」

「ああ」

「地面は沈まないの?」

「今度は地面か!」

「ちゃんと答えてよ!」

「んー」

「だってさ地面が沈んだらみんな死んじゃうよ」

「そうだね」

「大変だよ! 地面が沈んだらどうするの?」

「あのね、沈まないよ」

「ホント? 絶対に? 約束してくれる?」

「ああ、いいよ」

「約束だよ、地面は沈まないんだね?」

「そのかわり君も約束してくれないかな?」

「何を?」

「もしずっとお父さんが目が覚めなくて・・・」

「・・・・・・」

「そのことで学校でイジメられても泣かないこと」

「・・・・・・」

「誰に何をいわれても泣かないで頑張ること」

「・・・・・・」

「約束してくれるよね」

「・・・・・・」


少年は困ったような顔をみせた。

「お父さんってこのまま目が覚めないの?」

「・・・・・・」

「はっきりいってよ!」

「まだわからないんだけど・・・」

「・・・・・・」

「このまま目が覚めないかもしれない」

「・・・・・・」


この時、少女と一緒にテレビを見ていた母親が、
キャハハハと声を出して笑った。

「思いっきりテレビって面白いよね~」

母親は少女に同意を求めるかのようにいった。
少女は息が止まるような思いがした。

「みのもんた最高♪」

母の明るい表情は、
テレビの会話とは明らかにそぐわない。


思いっきりテレビ・・・?
みのもんた・・・?

え・・・?
ドラマじゃないの・・・?

ひょっとして・・・
同じテレビ見ながら違うものを見てるの・・・?

私がいま見てるものって・・・
一体なんなの・・・?


少女はやがて理解した。
白紙のはずのノートに書いてあった日記と、
これも同じことなのだと。

あのノートの日記もきっと母には見えないのだと。

自分がいま見ているテレビの映像と会話は、
自分だけにしか見ることのできないものなのだと。


白衣の男と男の子の会話はまだ続いていた。

「お父さんは多分このまま目が覚めない」

「・・・・・・」

「約束だよ」

「・・・・・・」

「お父さんの目が覚めなくても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に泣いちゃダメだ」

「・・・・・・」

「もし誰かにイジメられても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に負けちゃダメだ」


二人ともアイスキャンディは、
全部食べ終えていた。

「うん、わかったよ」

「・・・・・・」

「ボク、がんばるよ」

「・・・・・・」

「でもその代わり、約束だからね」

「・・・・・・」

「お空が落ちないように・・・」

「・・・・・・」

「地面が沈まないように・・・」

「・・・・・・」

「これから頑張ってね」

「もちろん」

「ずっとだよ、ずっと頑張るんだよ」

「ああ、君もずっと頑張るんだぞ」

「うん、頑張るよ」

「約束だ」

「うん、約束だからね」

「二人の約束だ」

「あのさ、もし・・・」

「ん?」

「誰か悪いヤツがいて・・・」

「・・・・・・」

「お空を落とそうとしたり・・・」

「・・・・・・」

「地面を沈めようとしたら・・・」

「・・・・・・」

「どうするの?」

「そんなヤツ、やっつけてやるさ」

「ホントに?」

「本当だ、そんな悪いヤツみんなやっつけてやる」

「絶対だね?」

「ああ、そうだ」

「負けないでよ」

「負けないさ、どんな強いヤツが相手でも負けない」

「約束だよ!」

「ああ、約束だ」


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

少女は突然叫んだ。
そして全力で走り出した。
リビングを出て玄関を出て家の外に。


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

少女は外を走りながら、
何度も何度も叫んでいた。

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!


少女はどこまでも走っていった。
母親がそのあとを追いかけているが追いつかない。


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!


忍者の少女封印(20)

2007-04-01 09:34:37 | Weblog

その時、急に少女の部屋のドアが開いた。
少女の母親だった。


「退院してからなんか変じゃない?」

「どうしたの? 何かあったの?」

「自分の部屋にばかりいないでリビングにも来なさい」

「ほらほら、オヤツもあるから!」


少女は母親に手を引かれ、
強引に一階の居間に連れていかれた。

少女の母親は、
少女の目が赤く充血し潤んでいたのをすぐ気付いたが、
そのことにはあえて触れなかった。


忍者の少女封印(19)

2007-04-01 09:03:46 | Weblog

少女はノートに書かれた日記を読みながら、
ノートに向かって謝りだした。


ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・


ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・


ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい



ごめんなさい・・・


忍者の少女封印(18)

2007-04-01 08:54:11 | Weblog

私の父方の実家のある村が壊滅した。文字通り壊滅だ。山あいにあるその村は、なんと村ごと地震によって滅んだ。私は、これはただの自然現象であって私の裏の仕事と何か関係があるという考えはただの妄想にすぎない、と必死に自分にいいきかせた。いまとなってはそう考えるしかない。

父方の親戚に見舞金を送ったらその親戚から電話がきた。親戚は家も財産もすべて失って毎日辛酸を舐め尽くしているはずなのに、電話では泣き言ひとついわなかった。驚いた。どういうことなのか、親戚はひたすら私を励ましてくれるのだ。きっと私が身寄りも友人もいない、まったく縁のない町にたったひとりで乗り込んで働いていることを誰かから聞いたのだろう。

それにしてもこれではまったく逆ではないか。電話で親戚の一方的な激励を聞きながら私は当惑した。死者も負傷者も難民も生じてしまった今回の地震で、よくぞ生きていてくれましたと少しでもいいたかったのだが、親戚の話の勢いはそれを私に許さなかった。

その親戚は、電話の中で何度か同じことを繰り返し私にいった。
「こちらのことは一切心配しなくていいから、あなたは自分のするべき仕事をしっかり続けなさい」

私は、ひょっとして何かの勘違いなのかもしれないが、電話で話しているこの親戚がもっと大勢の何かを代表してこの言葉を発しているように感じられた。父方の先祖の人たち全員の代表といったら適切だろうか。

電話での話を終えたあと、私は深々と一礼した。かたじけないという気持ちで一杯だった。私は自分のやるべきことを必ず完遂すると誓った。いまの私にほかにできることがあるだろうか。これまで通りに自分の信念を貫く。そうでなかったらかえって申し訳ない。



私の母方の実家が町ごと消失した。母方の実家のすぐ裏は川であり土手のすぐ近くにその実家はあった。大雨によって川が氾濫し堤防が決壊した。氾濫した川の水は、怒濤のように母方の実家のある町を丸ごと押し流した。母方の実家には私の叔父がひとりで住んでいた。川が氾濫して町が激流に破壊されたその日、叔父は幸運にも家を留守にしていた。

水に流されたその町は悲惨そのものだった。叔父が住んでいたその実家の近所では、寝たきり老人が何人も亡くなったそうだ。とっさに老人を動かせなくて激流に呑まれる様を見ることしかできなかった家族の無念さは想像を絶する。

叔父はたくましかった。そんな絶望的な災害のあとで驚くような前向きさをみせてくれた。叔父は災害後、泣きそうなくらい感動したそうだ。全国からボランティアで救済活動に何千人も駆けつけてくれたそうなのだが、家も財産も失った叔父はそのことにむしろ驚き、そしていった。

「いまの世の中、酷いことはたしかに多い、しかしまだまだこの世の中は捨てたもんじゃない、今回の水害でそれをこの目で確かめた」

この叔父の言葉を私はこの先ずっと忘れないようにしたい。この世はまだまだ捨てたものでない。私の仕事は決してムダにはならない。私の仕事は必ず大きな意味を持つ。必ずだ。



年に一度か二度、夜にディズニーランドにいくことにしている。いつもひとりでいく。エレクトリカル・パレードと花火が終わったあと、幸せそうな表情で家に帰ろうとする無数の家族連れを見るためだ。私はその無数の幸福そうな家族連れを見ていると、いつも涙を流してしまう。私はいつのまにかブツブツとつぶやいている。間違ってない、俺は間違ってない、と泣きながらつぶやくのだ。

何年もこの手を血で汚してきた。涙ひとつ流さずに戦ってきた。冷酷に。非情に。残酷なまでに。普段流さないものをここぞとばかりに両目から流すのだ。ドロドロに汚れてしまった自分を最も肯定できる場所、それがここだ。俺は間違ってなかった、きっと間違ってない、これからもやるしかない、私は無数の幸福そうな家族連れの姿を見ながら涙を流しながら自分を肯定する。

私は守るべきものを守るために、ひたすら鬼であり続けた。これからもそうだ。




忍者の少女封印(17)

2007-04-01 03:38:44 | Weblog

少女は日記を読み続けた。
何も書いてないはずの新品のノートに書いてある、
見知らぬ人たちの日記を、
ひとつひとつ、
何かに憑かれたかのようにじっくりと読んでいった。


なんで・・・
なんで死んじゃったの・・・

どうして・・・
どうして私に殺されてしまったの・・・

こんな私に・・・
私なんかに殺されないで欲しかった・・・
なんで・・・


忍者の少女封印(16)

2007-04-01 03:20:02 | Weblog

私は息子たちの父親だ。この世でたったひとりしかいない父親だ。息子たちはまだ5才と3才だ。息子たちにとって私は必要だし、私にとってもそうだ。いまの私は妻や息子たちとの暮らしが何よりも大切で、医師という仕事をしているのも家族を養うためといって過言ではない。私にとっては家族がすべてであり、それ以外の何がどうなっても正直にいえばどうでもいい。

その私が、自分のかけがえのない家族を投げ出してまで別の何かに自分のすべてを捧げるなどと、どうして考えることができるというのか。自分の命を危険に晒すような何か、自分の残りの生涯を捨てるような何か、そんなものに一体どれほどの価値があるのだろうか。

世界など滅ぶというなら滅んでも構わない。最後の瞬間のその時まで、私は自分の家族とともに暮らせればそれでいい。しかしなぜだろう。私の心の中で葛藤が生じるのはどうしてだろう。おかしなことだ。私にとって最も大切なものは家族であると、私自身は結論を出しているはずなのに。



私は関係ない。私は関係ない。必ずほかの誰かがきっとその役割を果たすに違いない。私は必要とされていない。私は無関係なままでいい。そんな大それたことに関わり合いになりたくない。この世には私よりも強い者がたくさんいるはずだ。私よりも優れた者がたくさんいるはずだ。きっとほかの誰かが使命を果たす。私は関係ない。私はまだまだ死にたくはない。危険な話に巻き込まれるのは迷惑な話だ。私には妻や息子たちがいる。すでに私は家族を守るという重い責任を背負っている。私はまだ死ぬわけにはいかない。私は無関係だ。力のあるほかの誰かがきっとやってくれる。



仕事を終えて病院から家に帰ると、息子たちが玄関まで飛ぶように走ってきてくれて私を出迎えてくれる。笑いながら。大声を出しながら。
「パパ~! 今日も死にそうな人を助けてきた~?」
最近はこのセリフが息子たちにとってブームのようだ。毎晩息子たちはこのセリフを大声で叫びながら私を玄関で出迎える。なかなかシュールなセリフだ。息子たちは私が医師であることをすでに知っている。飼っていたペットのハムスターの死別を通して「死」とはどういうことなのかも体験を通して知っている。

ハムスターが死んだ時、私は息子たちと一緒に庭にハムスターの死体を埋めた。土をシャベルで掘って、土をかけて、踏み固めた。私はわざわざ息子たちにその埋葬の作業を手伝わせた。息子たちに「死」を教えるために。動かなくなって息をしなくなって冷たくなって、そしてこうやって土に埋められることが「死」なのだと。息子たちは泣いていた。

医師とは病気で死にそうな人たちを助ける人なのだと、どうやら妻が息子たちに教えたようだ。そして父親である私が、その医師という仕事を家の外でしていることも。息子たちにとって私は誇りなのだろうか。息子たちにとって私は「死」に真っ向から立ち向かう頼もしい存在に思えるのだろうか。

「そうだよ、パパは今日も死にそうな人を助けてきたんだよ」
私は毎回そのように息子たちに答えて、二人を順番に両手で抱き上げる。高く。できるだけ高く。そして同時に私は例えようもない後ろめたさを覚える。私は息子たちに対してはそれは口に出さない。しかし自分の心の中では隠し切れないほどとなる。後ろめたさとはつまりはこういうことだ。

「ごめん、パパは本当は卑怯者なんだ、大勢の、ものすごくたくさんの死にそうな人たちを黙って見殺しにするような酷いパパなんだよ」
「でも、それはお前たち家族のためなんだ、お前たちのためにパパは卑怯者の道を選んだんだよ」

決して口に出していえないことを私は心の中に閉じ込めて、これからも息子たちに笑って接しなくてはならない。これが私の選択だ。仕方がない。



大きな公園に一家四人で遊びに行った。妻が用意してくれた昼食を四人で食べた。いろんな遊具で遊び、そして息子たちと一緒に広い芝生を走った。楽しかった。しかしどこか楽しくなかった。

その大きな公園には多くの家族がいて、多くの子供たちがいた。みんな楽しそうだった。みんな幸せそうだった。しかしどうなんだろう。近い将来、この中でどれくらいの人が生き残っているというのか。わからない。私にはわからない。しかし確実に、いまあるような幸せはどこかに消え去っているに違いない。私はそのことを知っている。だから楽しいはずなのに楽しめない。すごく苦しい。



ある悪性疾患の患者を知る機会があった。いま私が勤めている職場とはまったく関係がない、別の病院の患者だ。無論私も職務上はまったく関係がない。彼はごく最近死んだ。死因は移植後合併症だ。彼は勇気ある男だった。意識を失う直前まで自分が生き延びる希望を失っていなかった。生きるということの壮絶さを死の瞬間まで体現していた。

私は言葉を失った。彼の死因を知ったためだ。私はいまは一般内科だがかつては悪性疾患を専門とする移植医だった。私は移植後合併症の治療を得意としていた。誰よりも得意なはずだと自惚れていた。移植治療の現場は自分の戦場だと信じていたし、自分が戦い続けることで少しでも移植死亡は減るはずだと意気込んでいた。しかし私はその戦場から逃げた。一年中まったく休みのない、朝から朝まで緊張の続くその戦場で戦うことに疲れ果て、ちょうど長男が生まれたのを機会にもっと楽な職場に移ろうと決めた。私は移植医をやめて一般内科に転身した。

かつて私が逃げ出した戦場で、誰よりも私が長く戦うべきだった移植後合併症という敵のせいで、いまも命を奪われている人たちがいる。それをまざまざと目の当たりにしてしまった。逃げ出そうと決心したあの頃、私は辛かった。苦しかった。多忙すぎた。自分の命を縮めていると感じた。自分に家族ができたのをいい機会に地獄から脱出したくなった。

いま私は再び逃げようとしている。家族が大事だからというのを言い訳にして。自分が戦うべき戦いから逃げようとしている。それでいいのだろうか。自分と自分の家族さえよければそれでいいのだろうか。たとえ周囲が丸ごと灰燼と化して、その灰燼の中の炭となるのが自分たちだとしても、その最後の瞬間まで私は戦いから逃げたことを後悔しないのだろうか。



寝ている二人の息子たちの寝顔を見ながら考えた。この子たちが、成長して恋をして大人になって結婚して家庭をもって年をとっていく、そういう未来の重要性を私は見失ってはいないだろうか。この二人だけではない、世界中の子供たちの幼い世代の未来の重みを、私はもっと考えるべきではないだろうか。幼い世代が今後生きるはずの「場」が崩壊するのを、何もせず見ているだけでいいのだろうか。

たとえ私が命を失ったとしても、たとえ私が家庭を離れて孤独になったとしても、それでも挑戦するべきなのではないだろうか。私はもう逃げたくない。きっと逃げるべきではない。