(たまに別の場所で会合するって気は・・・)
監督に呼び出された忍者が切り出した。
(監督には全然ないのかな?)
監督の答えを知りながら忍者はからかい半分で聞いた。
監督は黙っていた。
(いや、いいよ、無理に答えなくて)
忍者は笑った。
監督と忍者と中将の三人が並んで座っていた。
場所がどこであるかはいうまでもない。
(命じられればベストを尽くす・・・)
中将が監督に話しかけた。
(ただそれだけだ、心の準備はできてる)
中将は落ち着いた口調でいった。
忍者は、
自分の服のボタンがひとつ取れ掛かってるのに気付き、
そのボタンを指でいじり始めた。
花形ダンサーがワイヤーで吊り上げられて、
しっかりとポーズを取りながら、
一階のステージから二階席の高さまで宙を舞ってきた。
忍者は取れ掛かったボタンをちぎって外し、
宙を舞って上がってきたそのダンサーを目掛けて、
ボタンを投げた。
一瞬、ダンサーは空中で姿勢を微妙に変え、
忍者が投げたボタンは外れた。
外れたボタンは遠くに飛んでいき、消えた。
物質世界のボタンではないので、
どうせ当たったとしてもダンサーはわからないはずだ。
敏感な者であれば何となくチクッとするかもしれないが。
(あ、あの子、よけたぞ!)
忍者は半分おどけるようにして悔しがった。
(違う、お前が下手で外しただけだ)
中将は忍者をバカにしながら笑った。
(き、貴様・・・)
監督は忍者を睨んだ。
(あ、ゴメン、あの子は・・・)
忍者は大事なことに気付き監督に詫びた。
(監督のお気に入りの子だったね)
この晩の本題は少女に関することのはずだった。
だが忍者のイタズラのせいで監督の機嫌が悪くなり、
しばらく沈黙が続いた。
忍者はいい年をした中年のくせに、
どこか子供じみたイタズラをするのが好きだ。
小細工を考えるのが職人的にうまいのは、
そういうイタズラ好きな面があるせいなのかもしれない。
(一晩じっくり考えてみたんだが・・・)
ようやく機嫌の直った監督が二人に語り出した。
(あの少女はどう考えても危険すぎる)
忍者と中将は黙って聞いていた。
(肉を滅ぼして現世的な意味で殺す必要がある)
監督の決意は固いようだった。
(生かしてはおけない)
淡々とした監督の話しぶりは逆に意志の強さをにじませた。
(魂のレベルで封じるだけでは心配だ)
あくまで力で押して肉体的な死を与えるということだ。
(この先の数十年間、少女が復活しない保証などない)
監督には、
自分が勢力を保っている間に決着を付けたいという気持ちが、
ありありと見受けられた。
(中将、200人を率いて力押しで少女を殺せ)
監督は中将にゴーサインを出した。
(忍者、中将たちが正面から攻める裏で・・・)
監督は忍者にも指示を出した。
(お前はお前のやり方で少女を抑えろ)
監督は、中将と忍者の両者に、
同時に別々の方法で少女を攻めるように命じた。
中将率いる200人が表からの正面攻撃。
忍者は裏から忍び寄る別働隊。
(中将、たとえ半数の100人が・・・)
監督は声を強めた。
(少女に返り討ちで殺されたとしても構わない)
監督は犠牲者をすでに覚悟していた。
(それでもいいから少女を殺せ)
忍者は少しつまらなさそうな顔をした。
中将たちが成功すれば自分の仕事はなくなってしまう。
そんな忍者に、
監督はまるでクギを刺すかのような面持ちで睨み付けた。
悔し紛れにボタンをダンサーに投げるなよといわんばかりに・・・
(200人のうちの約三分の一は・・・)
中将が監督に確認を入れた。
(いま終末組の掃討戦に従事してるところだが・・・)
終末組はあと一息で完全に制圧できる見込みがあった。
(彼らを掃討戦から引き抜いたその穴はどうする?)
しっかり者の中将は確かめるべきことを確かめた。
(それはだな・・・)
監督は、忍者の手先指先を見張りながら中将に答えた。
(草薙と鉄人を対終末組に専念させる)
監督の答えを聞いて中将は安心したような表情をみせた。
(あの二人ならほかの者の数十人分の働きはできる)
監督もあらゆる成功を確信しながら言葉を発していた。
次の刺客が決まった。
中将率いる200人、そして忍者。