1999

~外れた予言~

忍者の少女封印(21)

2007-04-01 19:33:29 | Weblog

少女は母親と二人で、
リビングのソファに座りながらオヤツを食べていた。
なにげなくテレビを見ている。

テレビは何かのドラマをやっているようだった。
白衣を着た長身の男と小学生らしい男の子が、
テレビの画面には映っていた。

病院の庭らしいところで、
その白衣の男と男の子はベンチに座りながら、
並んでアイスキャンディを食べていた。

男はきっと医者なのだろう。
小学生低学年くらいの子供はどういう関係なのだろうか。


少女はなぜか魂を抜かれたかのように、
じっとテレビを眺めていた。
白衣の男と男の子の会話が自然に耳に入ってくる。


「学校は楽しいかい?」

「うん、楽しいよ」

「友だちはたくさんいるんだよね?」

「うん、たくさんいるよ」

「そうか」

「あのさ、ボクのお父さんのこと教えてよ」

「ああ、そうだね」

「ボクのお父さんはいつ目が覚めるの?」

「それがね・・・まだわからないんだ」

「早く目を覚まさせてよ!」

「・・・・・・」

二人はアイスキャンディを食べながら、
男の子の父親のことを話しているようだった。


「テレビとかよく見るかい?」

「うん、見るよ」

「そうか」

「この前ビックリしたんだ」

「なんで?」

「ニュースで飛行機が落ちたっていってた」

「飛行機が落ちたのか」

「あのさ、ちょっと聞いてもいい?」

「ああ、いいよ」

「お空は落ちてこないの?」

「え?」

「飛行機は時々落ちちゃうでしょ」

「うん」

「お空だっていつか落ちるかもしれないよ」

「んー」

「お空が落ちたら大変だよ」

「そうだね、大変だな」

「みんな死んじゃうかもしれないよ」

「そうだね」

「お空が飛行機みたいに落ちたらどうする?」

「いや、お空はきっと落ちないよ」

「どうして? 絶対に? ボクと約束できる?」

「よし、約束しよう」

「ホントに?」

「そのかわり君も約束してくれないかな」

「何を?」

「お父さんがこのまま目が覚めなかったとしても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に泣かないこと」

「・・・・・・」

「お空が絶対に落ちてこないって約束してあげるから・・・」

「・・・・・・」

「君も泣かないで頑張るって約束してくれよ」

「・・・・・・」


少年は少し迷っていた。
しかし顔を上げて答えた。

「うん、わかった」

「お!」

「お父さんが目を覚まさなくても泣かない」

「よし!」

「ボク、がんばるよ」

「えらいぞ!」

「でも約束だよ、お空を落とさないでね」

「もちろんだ」

「お空が落ちそうになったら落ちないようにしてね」

「わかった」

「ボクもがんばるから」


少年はさらに自分の悩みを打ち明けた。

「まだあるんだ、あのさ」

「ん?」

「船ってたまに沈むでしょ?」

「ああ」

「地面は沈まないの?」

「今度は地面か!」

「ちゃんと答えてよ!」

「んー」

「だってさ地面が沈んだらみんな死んじゃうよ」

「そうだね」

「大変だよ! 地面が沈んだらどうするの?」

「あのね、沈まないよ」

「ホント? 絶対に? 約束してくれる?」

「ああ、いいよ」

「約束だよ、地面は沈まないんだね?」

「そのかわり君も約束してくれないかな?」

「何を?」

「もしずっとお父さんが目が覚めなくて・・・」

「・・・・・・」

「そのことで学校でイジメられても泣かないこと」

「・・・・・・」

「誰に何をいわれても泣かないで頑張ること」

「・・・・・・」

「約束してくれるよね」

「・・・・・・」


少年は困ったような顔をみせた。

「お父さんってこのまま目が覚めないの?」

「・・・・・・」

「はっきりいってよ!」

「まだわからないんだけど・・・」

「・・・・・・」

「このまま目が覚めないかもしれない」

「・・・・・・」


この時、少女と一緒にテレビを見ていた母親が、
キャハハハと声を出して笑った。

「思いっきりテレビって面白いよね~」

母親は少女に同意を求めるかのようにいった。
少女は息が止まるような思いがした。

「みのもんた最高♪」

母の明るい表情は、
テレビの会話とは明らかにそぐわない。


思いっきりテレビ・・・?
みのもんた・・・?

え・・・?
ドラマじゃないの・・・?

ひょっとして・・・
同じテレビ見ながら違うものを見てるの・・・?

私がいま見てるものって・・・
一体なんなの・・・?


少女はやがて理解した。
白紙のはずのノートに書いてあった日記と、
これも同じことなのだと。

あのノートの日記もきっと母には見えないのだと。

自分がいま見ているテレビの映像と会話は、
自分だけにしか見ることのできないものなのだと。


白衣の男と男の子の会話はまだ続いていた。

「お父さんは多分このまま目が覚めない」

「・・・・・・」

「約束だよ」

「・・・・・・」

「お父さんの目が覚めなくても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に泣いちゃダメだ」

「・・・・・・」

「もし誰かにイジメられても・・・」

「・・・・・・」

「絶対に負けちゃダメだ」


二人ともアイスキャンディは、
全部食べ終えていた。

「うん、わかったよ」

「・・・・・・」

「ボク、がんばるよ」

「・・・・・・」

「でもその代わり、約束だからね」

「・・・・・・」

「お空が落ちないように・・・」

「・・・・・・」

「地面が沈まないように・・・」

「・・・・・・」

「これから頑張ってね」

「もちろん」

「ずっとだよ、ずっと頑張るんだよ」

「ああ、君もずっと頑張るんだぞ」

「うん、頑張るよ」

「約束だ」

「うん、約束だからね」

「二人の約束だ」

「あのさ、もし・・・」

「ん?」

「誰か悪いヤツがいて・・・」

「・・・・・・」

「お空を落とそうとしたり・・・」

「・・・・・・」

「地面を沈めようとしたら・・・」

「・・・・・・」

「どうするの?」

「そんなヤツ、やっつけてやるさ」

「ホントに?」

「本当だ、そんな悪いヤツみんなやっつけてやる」

「絶対だね?」

「ああ、そうだ」

「負けないでよ」

「負けないさ、どんな強いヤツが相手でも負けない」

「約束だよ!」

「ああ、約束だ」


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

少女は突然叫んだ。
そして全力で走り出した。
リビングを出て玄関を出て家の外に。


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

少女は外を走りながら、
何度も何度も叫んでいた。

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!


少女はどこまでも走っていった。
母親がそのあとを追いかけているが追いつかない。


もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!

もう、いやああああああああああああああああああ!!!