忍者と猫丸が、
例のショーパブの二階席に並んで座っていた。
まだショーが始まる前の時間帯である。
(忍ちゃん、少女が精神科に入院したんだって?)
(うん、そうらしいね)
(これでしばらくは少女は立ち直れないだろうね)
(多分そうだろうな、きっと数年くらいはムリだろう)
(やったね、忍ちゃん、見事だよ)
(いや、手柄は俺のもんじゃないよ)
(え?)
(少女の心を封じたのは・・・)
(・・・・・・)
(死神の妻子、念仏、中将、そのほかの死んだ仲間たちだ)
(・・・・・・)
忍者はそれほど嬉しくなさそうな顔をしていた。
猫丸は、
少なくない犠牲者や戦死者の存在のせいだと理解した。
(しかし仲間が相当減ってしまったね、忍ちゃん)
(うん、200人以上いたのに今では・・・)
(・・・・・・)
(たった17人になってしまった)
(無傷で生き残ってるのって誰?)
(んーとね、ちょっと待って、猫さん)
(・・・・・・)
(監督、草薙、鉄人、魔女、百目、巫女・・・)
(うんうん)
(神父に僧正・・・)
(うん)
(軍曹、歌姫、毒盛、女王、若頭、関取、奥様・・・)
(ふむふむ)
(あとは俺と猫さん)
(ふむ)
(この17人だね)
(忍ちゃん、神父と僧正の二人以外はみんな・・・)
(・・・・・・)
(監督を生身の人間だと知ってる者ばかりじゃないの)
(そうだね)
(というか監督を神とか天だと思ってた仲間は・・・)
(・・・・・・)
(みんな中将が指揮してたんだっけ)
(・・・・・・)
(死んだ連中は本望かね)
(・・・・・・)
(俺たちも監督の正体なんて知らない方がよかったね)
(かもな、ウンコだからな)
監督は自分の正体を配下に知られた場合、
まずその配下を封じようとしてきた。
自分のことをただの人間だと知られると、
それまで従順に指示を受けていた者であっても、
手の平を返すように反抗してくる傾向がみられるからだ。
監督の正体を知って監督に逆らったが故に、
監督に封じられて消えていった仲間たちも実は多い。
(忍ちゃん、今夜は誰がここに集まるの?)
(えーとね、誰だっけ)
(・・・・・・)
(監督、草薙、鉄人、あとは魔女あたりかな)
(そっかそっか)
(・・・・・・)
(しかしさ、草薙がいってた例の獅子髪の男だけど・・・)
(・・・・・・)
(草薙と鉄人の二人がかりでも取り逃がしたんだって?)
(そうらしいね)
(それってマズくない?)
(うん、まあ、マズイね)
(いつかまた出てきてなんかやるでしょ)
(猫さん、そうなんだ、それが問題だ)
(巫女はなんかイメージ見てないの?)
(それがね、獅子髪の男はね・・・)
(・・・・・・)
(近い将来、日本の表舞台に立つらしいんだ)
(え?)
(驚くほど目立つところに君臨するらしい)
(マジ?)
(日本の国民の誰もが知る存在になるそうだよ)
(・・・・・・)
(だから猫さん、超マズイんだよ、雰囲気的には)
(・・・・・・)
忍者は思わずタメ息をついた。
(次は逃がさない)
後ろから草薙の声がした。
忍者と猫丸が後ろを振り向くと、
そこには草薙と鉄人の二人がいた。
(猫さん、久しぶりだね)
草薙は猫丸に話しかけた。
二人は席に座った。
(魔女はまだ来てないのか?)
鉄人があたりを見回しながらいった。
(きっとまた旦那とケンカでもしてるんだろ)
草薙が笑いながら魔女をコケにした。
(露出狂の変態が何いってんのよ、スカポンタン!!)
魔女が現れた。
(あら、監督はまだなの? ショーが始まっちゃうじゃない)
魔女は監督が珍しくショーの開演前にいないことをつついた。
(私がここのショーに遅刻するはずがないだろう)
監督が現れた。
集まった全員が座った。
(しかしさ、みんな野球観てる?)
猫丸が唐突に話題を変えた。
(野茂もイチローもすごいよね)
猫丸は野球好きだ。
監督もそうだ。監督は思わず頬を緩ませた。
ショーパブの場内が暗くなった。
もうすぐ、今夜も華やかなショーが始まる。
1995年の夏。