ファミリー メンタル クリニック

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要するにひとりごと・・・

産婦人科・大学病院主任・指導医で 母であり

2006年04月27日 | 精神保健・医療行政
衆議院 TVです
奥田美加(横浜市立大学附属市民総合医療センター母子医療センター医師)参考人としての意見です。厚生労働委員会でタイゾー議員はちゃんと聞いただろうか?
横浜市立大学病院で周産期医療の部長(と思われる仕事)であり,本来は危険の高い出産がそもそも高度な機能を持つセンター病院であったはずだ。確かに大学病院なので学生や研修医のために通常分娩も扱うがあくまでも教育の一環だ。
しかし,産婦人科医療のひずみはどうしもない。(先の逮捕で更に決定的なものとならないことを祈るばかりだ)
近くで分娩を扱っていた病床数が減ってきた。
救命救急も行うためこの病院ではどんな分娩でも受け入れるというまさに横浜市の基幹病院である。

しかしリスクが低いまたは中程度でも受け入れる病院が減ってきたためドンドン紹介されてくる。(高度医療センター構想という厚生省の考え方とは逆のことが世の中で起きている。)
また世の中の変化なのか一度も産婦人科を受診したことのない妊婦に陣痛が起こり運ばれてくる。どの病院も素性のしれない?分娩は引き受けない。そのセンターが病棟一杯でも引き受けるしかない。

さて奥田先生の平均的な1日。先日は朝から勤務に当直そのあとの1日です。
午前中は通常通り外来。午後からは帝王切開の予定が2人。しかしその直前に緊急の手術が入る。予定の二人目の帝王切開が終わると夜7時過ぎ。執刀中も病棟で分娩まちの胎児の異常で併行して帝王切開を他のメンバーがしていると連絡が入る。部長だから全て連絡が入ってくるはずだ。
病棟でも普通に手術はしないものの分娩は行われるため,全てのスタッフがその日業務が終わるのは9時過ぎ。
前日当直でその日も4件の手術のうち2件の執刀医で研修医の指導などもしないといけない。
家に帰るのが夜11時過ぎ。更に翌日はまた当直が入っている。
深夜(0-8時)の当直帯でも担当医が喘息で休みカバーしないといけないので 8件のお産を扱った。
夜中2時台に18分もしない間に3人のお産。  緊急帝王切開の術中に更に緊急の患者が搬送され帝王切開を行った。
大量出血の患者さんに救命治療を行っている隣のベッドに,切迫早産の患者さんを診ていることもある。
胎児の心拍モニターの異常で10分内で「判断し帝王切開を行う」ことなども要求される。
すごいストレスです。
淡々とそれを国会の場で話し続けます。

確かに毎日忙しいわけではない。とそれでも述べます。
しかし分娩はいつ起こるか計算がきかないし同時並行で起こることも多い。当直帯(労働法上は夜間勤務です実質は)に2,3人の医師が確保できることは難しい。一人で行うことになる。
それでも部長として当直医を翌日は帰らせてあげたいが,現実は無理なので仮眠がとれたら良い方だと後輩への懸念を語る。
病院側は当直翌日は帰宅して良いと言うのだが実際に帰る医師はいない。代休なんてない。
更に責任のある立場だと臨床の業務を減らすことも出来ない。

彼女は続ける。病院の診療だけではない。教育機関なので学生研修医の指導。学会発表のため診療の後にPCに向かい終わると夜の2時それでも7時には出勤。
診療研究の論文は深夜にしか読む時間はない。更に病院内での会議・・ 地域への貢献・・ 

小学1年生の自分の子どもが起きている間に帰ることはままならず。
休日も当直が多く,家にいてもオンコールでいつ病院から呼び出されるかもしれない。
71歳の母親(祖母)が子どもの面倒をみているので自分は家事は0と言ってますが,それも辛いですよね。

産休もぎりぎり産後8週だけ。育休なんてもらえない。育休をもらった同僚はそのまま戻ってこない。
WHOは6ヶ月までは母乳でよいと主張し,自分たちも病院では母親にそのように指導している。
でも実際自分が母親としては全く子どもを育てる時間もない。

そんな過酷な労働だ。
600人の研修医で産婦人科を志望する者は10人だけ。しかしこのセンター病院も毎年10人が辞めていく。
収入が良く楽な検診医師に鞍替えした者。分娩を扱わないクリニックに移った者。医師自体を辞めた者・・・
給料だけではないけど楽な仕事の方が給料が高いという矛盾した労働環境。

また医療過誤ではなく真面目な産婦人科医であればあるほど難しい出産を扱うことになる。
低いリスクであっても大病院にお願いするような風潮が目立ってきた。
一人の医師が真面目に治療しても分娩には危険がつきものだという認識は少ない。
医療事故が犯罪として逮捕される。
誰も産婦人科医になんかならない・・・・


後半はビデオを見ていて涙を禁じ得ない。
一体何を改革していこうとしているのだろうか。
アメリカ流の訴訟社会で真面目な産婦人科医ほど,仕事が過重となり疲れ家族との生活も奪われ悪循環となり終いには訴訟沙汰となる。
決定的に何かが違う。

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10 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
涙...涙... (befu)
2006-04-27 22:37:50
こんばんは

なかまた先生



ほんとに涙なしでは見れない映像でした。「この問題は絶対にほったらかしにしないでくれー」と叫びたくなりました。



トラックバックさせていただきました。
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すごい!すばらしい女性ですね! (在宅介護人)
2006-04-27 22:48:55
その言葉・その勤務実態とプロ魂、そうした個々のほぼ献身の上におんぶしている医療であることを、もちろん川崎厚労相も聞いたんでしょうね? 母の主治医(脳外)も二人で外来と入院患者と救急に当たっていて、それでも患者一人一人への応対はいつも穏やかで謙虚で頭が下がってます。 コストばかり問題にしてる政治家達に聞かせるにはもったいない話ですね! そして、そのお母様が突然介護が必要な身になったら・・・タイゾー君達はそれでも高齢者医療のことなど我関せず、なのでしょうか? 次々とおかしな法案ばかり出さず、審議から国民の目をそらす醜い手など使わずに、大切な問題をじっくりと審議してほしいものです。
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忙しい医師は儲からないだけでなく (なかまた)
2006-04-27 23:22:29
(befu)さん (在宅介護人)さんどうも

奥田先生が淡々と語る姿に涙が出ます。

こんなに産婦人科医が超人的な診療(他の仕事なら過重労働です)を続けている。国会でも参考人として意見を述べている。

にもかかわらず亡くなった方には哀悼の意を感じますが,刑事罰で団婦人科医師が逮捕されるこの国はおかしいですよ。

忙しく一生懸命患者さんの治療をする医師は給料が上がるわけでもなく上がってもIT長者の足下にも及ばない。

それだけでなく,多くの難しい患者さんを診る機会が増えるため訴訟に一歩足を踏み入れていくことになります。

やはりおかしな話です。
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訴訟 (ashiyu)
2006-04-28 02:34:07
なかまた先生がお書きになられているように、いまはアメリカ並みとまではいかなくても、医療には訴訟がつきものになってきています。

この間、母と話していたのですが、産婦人科医特に周産期医療の産婦人科の先生が不足しててまた公立の産科が締めてしまいました。

大学からの派遣で、なんとか婦人科のみは温存のようですが、常駐ではないということもあり患者としては不安だよなあと。

小児科も公立の病院から姿を消しつつあり、どうしてもひどい状態になると、遠い病院まで行かなければならなくなっています。

おかげで開業医にはことかかないのですが、一歩違えば・・・死・・・という問題を抱えている家庭はビクビクものです。



本当に、どうにかならないものなのでしょうかねえ。

夜中に呼び出しがほとんどなくて、大体が少々手術がのびても命に関わらない、そしてお年寄りが増えていることもあり儲かるということでしょうか、整形外科医の数は増えていそうな気がします。

入院していると病院でいろんな声が聞こえてきますが、一番遊んでいるのは(結婚するまでに)整形外科医なのですと~
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奥田先生 (バジル)
2006-04-28 06:47:10
TBありがとうございました。

お産の時に軽いトラブルがあり、先生のとっさの判断がなかったらこどもが呼吸困難になっていたかも、という経験があります。私にとっては神様。

妊婦さんに産婦人科の先生の反応は心理的な影響がとても大きい。誕生の瞬間の先生の言葉というのは一生忘れられないものです。そういう先生が疲れていらっしゃるというのはいいことではないですよね。

こんな勤務状況は余りにも先生にも患者さんにも危険過ぎます。

友人のお嬢さんが産科、小児科を志望してらしたのですが、もうとても体力的に無理そうというので整形外科に転向しました。ちょっと寂しいです。

厚生労働委員会は辛くて見ていられないことが多いのです。

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何のための医療改革なのか (なかまた)
2006-04-28 07:23:10
(ashiyu)さん 出産は病気ではないという認識が強すぎるのかもしれません。確かに管理されすぎた出産から自然分娩をとか女性雑誌で特集が組まれることも一時ありましたね。

一昔前までは出産で母子ともに危険なことは少なくなかったはずですが。 

(バジル)さん 確かに厚生労働委員会の参考人の意見を聞くのは辛いです。マスコミのニュースは公開されている国会の質疑を元にきちんと調査し報道している印象をうけませんね。



次回のblogで近藤教授のやりとりを書くつもりですが,アメリカ型の医療はサービスだと考えるのか,ヨーロッパ型の生存権という人権と考えるのか そういう本質的な議論がマスコミには見られませんね。

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日本はアメリカでなくヨーロッパを見習うべきだ (kaetzchen)
2006-04-28 07:47:40
というのは以前から私も書き連ねているのですけど,これってやっぱり「歴史の重み」が違うせいなのかなとモーソーに浸ってしまったりします。



そもそも,医療保険を支払えない貧困層が半数近くいる国が「世界一」だなんておかしすぎますよ。そのくせ,安倍や暴力団がでっちあげた「拉致」だけはでっかくマスコミが取り上げて,お涙ちょうだいで,安倍の人脈を使って,わざわざ小ブッシュに会わせたりする(笑) こんな茶番劇にいつまで日本人はつきあってるんでしょうねぇ。



たかが十数人程度の人間が暴力団にさらわれた事件と,現在生まれてくる命を守るために働く医師が過労によって生活も家庭も崩壊しつつある現状と,果たしてどっちが大切なんでしょうか,と言いたい。私なら簡単に前者を斬り捨てますけどね(笑) だって,動物の医者ですから。

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イギリスでもカナダでも (なかまた)
2006-04-28 11:28:35
医療費抑制に極端に傾いたイギリスでは手術を待つのに1年半とかとんでもない事態を招いた反省から医療費を再び増大するような政策に転換しているようです。

あまりにもアメリカ流のやり方を進めるツケが出てきているので

補選でも負けたと言うことは皆さん重々承知の筈なのに・・・

人を挑発する会話は出来ても、きちんと耳を傾けることの出来ない人物が国の最高責任者である間は、問題は解決しませんね。
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記事にとりあげて下さりありがとうございました (事務局)
2006-05-02 06:32:52
周産期医療の崩壊をくい止める会事務局です。このたびは奥田先生の証言をとりあげて下さり、誠にありがとうございました。

当会のHPに、奥田先生の証言全文を掲載してございます。どうかご覧下さいませ。

当会のブログリンク集でもこの記事をとりあげさせていただきました。

今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。
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周産期医療の崩壊をくい止める会事務局の方どうも (なかまた)
2006-05-02 07:11:14
奥田先生の意見は本当に涙が出るようなお話でした。

医師の書いているblogもあちこち最近のぞいていますが、もうこのまま個人の熱意や使命感だけでは日本の医療は成り立たないところに来ているのではないでしょうか?

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