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不動産受験新報2007年12月号 田中利和

2007-12-14 09:00:00 | Weblog
住宅新報社・月刊「不動産受験新報」20007年12月号
       (毎月1日発売 定価910円)


第10回
ネコでも分かる供託法
司法書士 田中利和
 
(1) 差押えと配当要求とが競合する場合
教授「本日は,『差押えと配当要求が競合する場合』からだね。まず,過去の本試験の問題を見てみよう」
 
 金銭債権の一部について差押えがされ,次いで他の債権者から配当要求があった場合には,第三債務者は,差押金額に相当する金銭を供託しなければならない。(平成3年 問14肢4)
司法「この問題は,正しい肢です。民事執行法156条2項の規定のとおりです」
教授「そのとおりだね。それでは,念のため,配当要求の定義を押さえておこう。説明してくれるかい?」
司法「えっ……配当要求……」
教授「配当要求とは,配当要求債権者が,債務者が第三債務者に対して有する債権から弁済を受けようとする場合において,既に目的債権が他の債権者より差押えを受けた場合に,自ら差押えの申立てをすることなく,先行する債権差押手続を利用して,その手続に参加する制度なんだ(『執行供託の理論と実務 申立手続から配当まで』210頁から引用)。根拠条文は次のとおりだ」
 
 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は,配当要求をすることができる(民事執行法154条1項)。
司法「ちなみに,教授の説明にあった,『配当要求債権者』とは,民事執行法154条1項に規定する債権者のことですね」
教授「そういうこと。配当要求があると差押債権者は差押債権の取立てができなくなり,第三債務者は差押債権額に相当する金銭の供託義務が生じることとなる(民執法156条2項)。したがって,平成3年の問題は正しい肢ということになるね」
司法「配当要求があると,民事執行法156条2項の規定により供託をしなければならないことは分かりました。しかし,なぜ,差押金額に相当する金銭を供託しなければならないのでしょうか?」
教授「これは,配当要求の申立てがあっても,差押えの競合の場合とは異なり,差押えの効力は拡張しないからなんだ」
司法「差押えの効力の拡張?」
教授「説明しよう。差押えの効力の拡張とは,債権の一部に対して,差押え等がされた場合において,その残余の部分を超えて差押え等がされて競合が生じ,または債権の全部に差押え等がされた場合において,その債権の一部について差押え等がされて競合が生じたときに,そのいずれの一部差押え等の効力もその債権の全部に及ぶことなんだ(民執法149条)。これを『差押効の拡張』というね。これは債権者間の平等な配当を確保するために認められたものなんだ」
司法「なるほど」
教授「債権の一部に対して差押えがされ,これに対して,配当要求がされた場合は,差押金額に相当する金銭を供託しなければならない。たとえば,100万円の債権について50万円の差押えがあり,これに対して60万円の請求債権をもって配当要求があった場合には,50万円を供託すればよいということになる。この場合,50万円を50対60の割合で配当を受けることになる」
司法「つまり,配当要求は,すでになされている差押手続に加わり,配当の分配を受けるものなんですね。だから,供託すべき金銭の額は,差押金額に相当する金銭なのですね」
教授「そういうこと。もう1つ過去の本試験の問題を確認しておこう」
 
 金銭債権の一部に対する差押命令の送達後,配当要求があった旨を記載した文書の送達を受けた第三債務者は,その債権の全額に相当する金銭を供託しなければならない。(平成8年 問11肢3)
司法「そうすると,この問題は誤りですね」
教授「供託しなければならない金銭の額は,差押金額に相当する金銭の額だからね。では,この問題が『供託することができる』という記述であったとすると結論はどうなるかな?」
司法「差押えに係る金銭債権の全額を供託することができるかどうか,ということですね……。民事執行法156条1項を根拠として供託することができそうな気もしますが……」
教授「この場合,差押金額に相当する金銭については供託義務を負い,残余の部分は,義務供託と一括してする限り,権利供託として供託することができると解されているんだ。したがって,債権全額を供託する場合は,民事執行法156条1項および2項を根拠として供託することになる(『執行供託の理論と実務 申立手続から配当まで』213頁から引用)」
(2) 差押えと滞納処分による差押えとが競合する場合
教授「この論点に入る前に,滞納処分の意義から押さえていこう。理解が早いと思うよ」
司法「分かりました。それでは滞納処分の意義を説明してください」
教授「滞納処分とは,納税者が租税を滞納した場合,国または地方公共団体が自ら納税者の財産を差し押さえて,そこから租税債権の強制的満足を図る手続をいうんだ。そして,滞納後の国税の徴収に関する手続の執行については,国税徴収法に規定している。この国税徴収法の特色は,①実体的な面としては国税の優先権,②手続的な面としては自力執行権であるとされているんだ。この2点の特色を頭に入れておいてくれるかい」
司法「具体的にはどういうことでしょうか?」
教授「つまり,国税債権は,原則として,すべての公課その他の債権に先立って徴収するとされ(徴収法8条),私法上の債権は債権者の自力救済が禁止されているのに対して,国税債権においては,その滞納があった場合,債権者である税務官庁の徴収職員がする滞納処分の手続によって,強制的に実現することができるということなんだ。滞納処分による金銭債権を差し押さえた場合には,第三債務者は,差押債権者たる国や地方公共団体の徴収職員に対して支払うべき義務を負い,徴収職員が,差押えに係る金銭を取り立てたときは,その限度において,滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみなされる(徴収法67条3項)」
司法「なるほど。よく分かりました」
教授「これらを踏まえて,差押えと滞納処分による差押えとが競合する場合を学習していこう。まず,同一債権に対して,強制執行による差押えと滞納処分による差押えがあった場合においては,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律によって,その手続の調整が図られているんだ。両者の差押えが競合する場合とは,強制執行による差押金額と滞納処分による差押金額の合計額が,被差押債権額を超える場合をいうんだ(滞調法20条の4,36条の4)。たとえば,被差押債権が100万円である場合に,強制執行による差押えが60万円,滞納処分による差押えが50万円であるときは競合が生じているけれども,強制執行による差押えが60万円,滞納処分による差押えが20万円である場合には,競合が生じていないことになる」
司法「なるほど」
教授「つまり,強制執行による差押えと滞納処分による差押えが競合する場合には,強制執行による差押えの効力は差押債権額の全額に及ぶことになり,差押効の拡張が生じる。ところが,滞納処分による差押えの効力は拡張しないんだ。滞納処分によって徴収される租税債権は,実体法上,一般の債権に優先する関係にあり,たとえば,滞納処分が先行する場合には,後行の強制執行による差押えの存在に関係なく,取立てができることから(徴収法8条),滞納処分による差押えに差押効の拡張を認める必要はないんだ。これに対して,強制執行による差押えの場合には,強制執行が先行する場合に滞納処分も含めて配当手続を行う必要があることなどの理由から差押効の拡張が生じることとされたんだ(『注釈民事執行法(6)債権執行』263頁から一部引用)」
司法「そうすると,強制執行による差押えの場合にのみ差押効の拡張が認められた結果,競合する部分は,滞納処分による差押えがされた部分のみということになるのですね」
教授「そういうこと。それでは,過去の本試験の問題を確認していこう」
 
 金銭債権の一部について滞納処分による差押えがされ,さらに強制執行による差押えがされて差押えが競合した場合には,第三債務者は,差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託しなければならない。(平成3年 問14肢5)
 
司法「この問題は,誤りの肢ですね」
教授「そのとおり。根拠条文を確認しておこう」
 
 第三債務者は,滞納処分による差押えがされている金銭の支払を目的とする債権について強制執行による差押命令又は差押処分の送達を受けたときは,その債権の全額に相当する金銭を債務履行地の供託所に供託することができる(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律第20条の6)。
教授「つまり,滞納処分による差押えが先行する場合,徴収職員は,その差し押さえた債権の額につき,取立てをすることができる。租税債権が一般債権に優先するからだ。この場合,強制執行による差押えをした債権者は,滞納処分による差押えがされている部分については,滞納処分による差押えが解除された後でなければ,その取立てをすることができない(滞調法20条の5)」
司法「そうすると,その反対解釈として,滞納処分による差押えがされていない部分については,差押債権者は,その取立てをすることができるのでしょうか?」
教授「できるんだ。だから,徴収職員や強制執行の差押え債権者は,各別にその取立権の及ぶ範囲で取り立てることができ,第三債務者は,その取立てに応じて差し支えないので,供託義務まで課す必要はないんだよ」
(参考書籍)
 ●『供託の知識167問』日本加除出版
 ●『執行供託の理論と実務 申立手続から配当まで』社団法人民事法情報センター
 ●『注釈民事執行法(6)債権執行』金融財政事情研究会


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