美と知

 美術・教育・成長するということを考える
( by HIGASHIURA Tetsuya )

『凱旋門』

2007年04月11日 | 私の本棚


 第二次世界大戦勃発前夜の騒然たるパリが舞台。
 国籍も旅券も何も無い避難民として、フランスに不法入国した人目をしのぶ外科医ラヴィックは、かつてはベルリンの病院の外科部長であったのに、ナチスの強制収容所の恐ろしい拷問から逃れて、仮名でパリの安ホテルに生活している。
 昔、ゲシュタポで彼を拷問し、愛する人を虐殺したハーケへの復讐心・・・
 アメリカ国籍の美しいケート・ヘグシュトレームとのひと時。そのケートは不治の病魔が巣くっている。しかし、外科医である自分にもどうすることも出来ない。やがて、死を宿したケートはアメリカへと逃れていく・・・
 夜更けにたまたま知り合った歌い子のジョアン・マヅー。ラヴィックを愛し、ラヴィックも彼女を愛するが、お互いに魂の拠り所を見出すことが出来ないまま悲劇を迎える・・・
 
 自分の仕事も、名誉も・・・生きてるという拠り所そのものが、戦争によって崩壊してしまう。果てしも無い恐怖と不安、絶望が人々を襲う。
 避難民としてパリに逃げてきた主人公ラヴィックではあったが、いまさら逃げ回ってもどうにもならないと、最後のひと時を公園で過ごし、その後、パリ警察のトラックに乗せられて強制収容所に連れて行かれる。
 「だれも口を利くものはなかった・・・トラックはワグラムを走って、エトワールの広場へ抜けた。どこもあかりはなかった。広場は黒闇々としていた。あんまり暗くて、凱旋門さえ見えなかった。」
と物語りは哀愁を漂わせて終わる。


 ラヴィックという人間を通して、戦争に覆われていく時代のパリの生活や、そこに漂う人々の人間模様が、淡々と、しかし、なんとも切なく描かれている。
 自分の人生を自分で切り開いていくことの出来ない状況・・・
 なんとも切なく、深い余韻を残す物語であった。

凱旋門 (fukkan.com)
E.M. レマルク,Erich Maria Remarque,山西 英一
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