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& Patrick Chan is the ONE

氷の孤独その11

2011-02-16 13:09:38 | 氷の孤独
シールドを張って 決勝での自分の滑走の後、アドリアンはキス&クライに残って映像で勝敗を決するクリストファーの滑走を見守った。
57頁写真



ナショナルの優勝候補者たちはシーズンを通して闘ってきたわけだが、ショート・プログラムを約一時間後に控えてマルメのアイス・スタジオに集合したのが、三人が一堂に会した最初の出来事であった。彼らはお互いから可能な限り距離をおくことで、その状況に対処した。
アドリアン・シュルタイスは緑色の帽子を眉の辺りまで深く被り、黒いダウンジャケットの毛皮で頬を覆って、ギャラリー席に半ば身を委ねて虚空を見上げている。アリーナの反対側では、クリストファー・ベルントソンがIphoneを耳に、カットしたばかりの前髪を額に流して、廊下を行ったり来たりジョギングに余念がなかった。アレクサンドル・マヨロフは更に遠く、彼のスケート靴の入ったローラー付きキャビンバッグを保管する両親と共に身を潜めている。コーチがすべてそうであるように、彼らも自分の選手たちの装備がサボタージュされないよう常に監視を怠らなかった。
クリストファー、アドリアン、そしてアレクサンドルの三人は、その後リンクでの6分の共通練習でもお互いに一瞥もくれなかった。ファイナルの他の二選手-彼らには事実上メダルのチャンスはない-が演技を終え、アドリアンが再び氷上に登場して、青いラインの脇で両手を顔の前に副える開始ポーズを取った。下唇のリングとタイトなニットに散りばめられたスパンコールがスポットライトに輝いている。軽いエッジで踊りながら後ろ向きに走り、いくつもの難しいジャンプを決めた、が、トリプル・アクセルは着地が不安定だった。
パントマイム師の装いで氷上に入りながら、クリストファー・ベルントソンはアドリアンの点が69,67である由スピーカーが告げるのを聞いた。失敗さえしなければ勝てると思う。
クリストファーの演技はきれいなトリプル・アクセルで始まった。彼のジャンプにはアドリアンほどの軽さがない。着氷に何かどすんという感じがある、が、彼は経験にものを言わせてさらにいくつかコンビネーションを決め、71,95を獲得した。
キス&クライ-選手が採点を待つ場所-の一角から、クリストファーはアレクサンドル・マヨロフが緊張した面持ちで冒頭の挑発的なダンスを始めたものの、トリプル・アクセルとコンビネーションで失敗するのを見た。ショートの後、マヨロフは57,71で三位になった。
二日後、競争者たちは再びマルメのアイス・スタジオに集合した。同じホテルに泊まっているにも拘わらず、三人は見事にお互い顔をあわせないで済ませていた:朝食も別時間にとり、練習時間以外は自室に篭るというように。
アレクサンドル・マヨロフがリベットと革ストラップ付きの茶色いセーターに身を包んで氷上に降り立った時、クリストファーは依然として更衣室の外の廊下を行きつ戻りつして、音楽を聴きながらジョギングしていた。彼はアレクサンドルが身震いしながら歩を進め、リブで立ち止まって父親の手を握って最後の指示を受ける様も見ることはなかった。イヤホンを耳から外した時、クリストファーにアレクサンドルが129,13だったことが聞こえてきて、彼が良い滑走をしたんだと知れた-しかしショートで失敗しているので総合(で勝つ)には足りないだろう。
アドリアン・シュルタイスがリブ脇ではやる競走馬のように足を踏み鳴らしている頃、クリストファー・ベルントソンは更衣室でスケート靴の紐を結んでいた。だから、彼は膨らみ袖のロミオ風衣装に合わせるため、へアスプレイの助けを借りて左右に分けたアドリアンの髪型を見ることはなかった。わざわざアドリアンを見なくとも知るべきことはもうわかっている。アドリアンはプログラムの最初のジャンプとしてにクワドラプル・トゥーループを入れている。それが決まれば、勝負はもう決したも同然だ。
氷上ではアドリアンが一連のスピンから演技を開始していた。24秒が過ぎた時、彼はリブの短い側の一方に向けて速度を上げ、そして振り返った。後ろ向けに2度蹴り込み、両手を広げ右足に乗って滑る。一回転してから膝を曲げ、身体を伸ばして跳んだ。1回転、2回、3回、4回。観客のあいだにざわめきが広がる。が、右足が着氷した瞬間、アドリアンは前方に傾き過ぎていた。彼は転倒し、しばしCitygrossの広告の方向に尻餅で滑る羽目になった、がその後すぐに立ち上がり5つのトリプル・ジャンプを決める。
クリストファーがピンストライプのズボンにお揃いのチョッキという出で立ちで更衣室の廊下からスポットライトの中に進み出た時、アドリアンはちょうどコーチと共にキス&クライに辿り着いたところだった。
「失敗した」と彼は顔に手をやる。
「悪くなかったわよ、アドリアン」とコーチのマリアが言った。「良い滑走だった。最後のルッツは完璧だったわ。それに貴方嬉しそうだった。調和が取れていた」
審査員も彼女と同意見だったらしく、スピーカーはアドリアンの点を129,20と告げた。つまりクリストファーには大きな失敗をする余地がないということだ。
彼は中央の輪の中に立ち、マイケル・ジャクソンのSmooth Chriminalビデオに登場するギャングスターに習って、頬の近くに拳銃仕様の両手を副えた。

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2 Comments

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Unknown (はしるん)
2011-02-16 23:22:28
演技の描写が良いですね!
ジャンプに入る前の動作を細かく書いてあるのが特に、スポ根漫画的な迫力を感じました。主役登場でクライマックスへ向かう演出ばっちりです。
(↑小説と勘違いしているような感想)

マリアコーチの「それに貴方嬉しそうだった」がちょっぴりじーんと来ました。

まあでも、自分の出番直前の選手の様子なんてどんな人でもたいてい見てないのでは…(笑)
劇画調 (悦)
2011-02-17 04:17:54
>はしるんさん

ほんと劇的効果狙いまくりですよね。
反面やっぱりフィギュアに関する知識がにわかなせいで「え?」って箇所もかなりある。

>まあでも、自分の出番直前の選手の様子なんてどんな人でもたいてい見てないのでは…(笑)

そうそう、これ↑がその最たるものです

シュル太、新しいコーチに可愛がってもらえたらいいですね。なんか彼は落ちるとこまで落ちてこれからは上昇あるのみという気がします。昇り龍!!

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