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2005年09月03日  |  特別寄稿:小倉秀夫
 

小倉秀夫 特別寄稿 『ブログと選挙──どこまで自由化すべきなのか? (下)』

■ ブログと公職選挙法の未来

 では、公職選挙法を改正して、選挙期間中、特定の候補者なり政党なりを推薦ないし支持しあるいは反対する内容のエントリーを立ち上げあるいはコメントを自由に投稿できるようにするべきでしょうか。

 特に国会議員や地方自治体の長を選ぶ選挙の場合、「勝てば官軍」といいますか、勝つことによるメリットはとても大きいので、虚偽ないし誇大な発言を行ってでも自分が支持する候補者を当選させあるいは支持しない候補者を落選させたいという誘惑に駆られがちです。現在でも、衆議院が解散される前後から公示日直前にかけて、特定の政党ないし候補者を不当に貶めまたは必要以上に持ち上げているブログや、特定の政党に関するある種の陰謀論を他人のブログのコメント欄に投稿される方は少なからず存在しています。

 それらの活動が組織的に行われているのか否か、組織的に行われているとしてその駆動力は金銭その他の現実的な利益なのか宗教的なものなのかは全く分かりませんが、選挙に関する話題をエントリーとして立ち上げると程なくして特定の政党に関する陰謀論的なコメントが投稿される等の現象が見られますので、選挙期間中のネット上での表現活動を公職選挙法による規制の対象外とした場合には、虚偽ないし誇大な発言がネット上で横行し、国民による判断が不当に歪められるおそれが多分にあります(そうでなくとも粘着系ブロガー・コメンテーターに対して「対抗言論」で対処するのは大変であるのに、選挙期間はごく短いしその期間中スタッフは大忙しですから、この場合、「対抗言論」というのは実際的な対抗手段たり得ません。)。

 すると、現実的には、新聞紙・雑誌による選挙に関する報道及び評論に関する規定を参考にして、ある種のブロガーに対して報道及び評論を掲載する自由を認めていく方向での改正というのが精々なのではないかという気がしてなりません。

 さすがに、「定期に有償頒布する」という要件はクリアしがたいし、選挙期間中もブロガーに報道及び評論をなさしめるようにするという観点からは有償性というのは不要な要件ですから、これに類する要件は不要でしょう。ただ、選挙活動に対する量的な規制の脱法行為となるのを防ぐという意味では、毎月3回以上新たにエントリーを立ち上げること、そのような状態を公示又は告示の日の1年以上前から継続していることなどは要件としてもよいでしょう。

■ ブロガーに問われる責任と匿名・顕名問題

 また、発言者に発言に対する責任を追及される可能性を負わせて虚偽ないし誇大な発言をしにくくするとともに、特定の政党ないし候補者との間に特別な関係があればそれは明らかにされる可能性を担保すべきという観点からすると、選挙期間中に選挙に関する報道及び評論を掲載することが許されるブロガーは、「共通ID」等によりその氏名及び住所が確実に把握され、不特定人により容易に知りうる状態に置かれていることが必要になるのではないかと思います(「IT時代の選挙運動に関する研究会」はメールアドレスでいいといっているようですが、メールアドレスだけでどうやって責任をとらせるおつもりなのでしょう(ex.羽田タートルサービス事件 ※注1)。)。

 そして、何人たりとも、ブロガーに対して「金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込若しくは約束をし又は饗応接待、その申込若しくは約束をして」自分たちに有利なことを書かせようとしてはいけないとか、ブロガーもそのような利益供与等を受けてはいけないという趣旨の規定も設けられるべきでしょうし、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならないという趣旨の規定も設けられるべきでしょう。

 これは、選挙ビラについて作成者の氏名等を掲載しなかったからと言って刑事処罰することは問題であるとしたMacintyre vs. Ohio選挙管理委員会についての米国連邦最高裁判決よりは後退しているかもしれません。ただ、米国における「匿名発言の自由」に対する憧憬というのは建国の歴史に裏打ちされたものであってそのまま日本で受け入れられるものではないですし(従前の憲法学者はほとんど「匿名発言の自由」を日本法の解釈に導入していません。)、Macintyre氏はその氏名等を掲載しないビラも配ったというだけで、基本的には逃げも隠れもしていなかったのに対し、我が国では、特定の政党や政治家を批判するブログの多くがトレーサビリティの低い匿名でなされているという現実を目の当たりにしてしまうと、それも仕方がないのかなあととりあえず思います。

(2005年9月3日)


※注1 羽田タートルサービス事件
 インターネットサイト上に労働条件について書き込みを受けた会社が、発信者情報の開示を求めたが、発信者のメールアドレスとID・パスワードしか情報開示を受けられず提訴した。判決では、レンタルサーバー会社に情報開示が認められたが、経由プロバイダーについては特定電気通信役務提供者に当たらないとして請求は棄却された。



■ PROFILE

小倉秀夫
(おぐら ひでお)
弁護士。中央大学法学部兼任講師。1968年生まれ。著作権等の知的財産権、IT関係はとりわけ強い。これまで、中古ゲーム差止訴訟、「mp3.co.jp」ドメイン名訴訟、対WinMXユーザー発信者情報開示請求訴訟などで勝利を収め、ファイルローグ事件では、高裁での逆転勝利をねらう。主な著書として『著作権法コンメンタール』(編著:東京布井出版)、『インターネットの法務と税務』(共著:新日本法規)などがある。

「benli」(ブログ)
http://benli.cocolog-nifty.com/

「東京平河法律事務所」(事務所HP)
http://www.tokyo-hirakawa.gr.jp/staff/ogura.html


(gooニュース)

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2005年09月03日  |  特別寄稿:小倉秀夫
 

小倉秀夫 特別寄稿 『ブログと選挙──どこまで自由化すべきなのか? (上)』

特別寄稿第四弾は小倉秀夫弁護士です。「ブログ(ネット)と選挙」と公職選挙法の関わりが、ニュースなどでも取り上げられています。IT法の第一人者で、自らブログを持ちネット上で発言されている小倉弁護士に、専門家の立場から「ブログ(ネット)と選挙」「ブロガーの選挙報道や論評」の問題点と将来の可能性について寄稿していただきました。


ブログと選挙──どこまで自由化すべきなのか?

特別寄稿 by 小倉秀夫(東京弁護士会所属 中央大学法学部 兼任講師)


■ 選挙の平等とインターネット

 「ブログと選挙」といいますか、「インターネットと選挙」という話題になると、常に問題となるのが公職選挙法との関係です。

 公職選挙法にて選挙活動の方法及び量について様々な規制が設けられている趣旨が、財力等によって選挙活動が左右され、候補者間の平等が図れなくなることを防止する点にある以上、候補者(政党を含む。)によるウェブサイトのようにコストがかからないものについてはこれを規制する合理的な理由はないという考え方は一理ないわけではありません。

 もっとも、訴求力のあるウェブサイトを作成しようと思うと、議員事務所や政党のスタッフなどの手には余ってしまうのであり、それ相応の実績のあるプロを雇ったりなんかすると結構コストがかかるので、話はそう単純ではありません。動画配信を利用すれば、政見放送類似のことまで自前でできてしまうわけで、動画配信のためのインフラを用意できる候補者・政党とそうでない候補者・政党の差は開くばかりではないかという危惧もないわけではありません。

 まあ、そういう問題は各候補者の方で考えればよいことだとして、では、ブログ上で特定の政党なり候補者に投票するように呼びかけたりあるいは特定の政党なり候補者なりに呼びかけたりするエントリーを立ち上げたり、その種のコメントを投稿したりすることはどうでしょうか。

■ 公職選挙法とメディア

 まずは、現行の公職選挙法との関係で見ていくこととしましょう。

 現行の公職選挙法は、「選挙運動のために使用する文書図画」については、第142条ないし第143条にて定められた方法・量を超えて頒布又は掲示することを禁止した上で、第146条第1項において、
 何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない。
としています。その一方で、報道の自由への配慮から、第148条第1項において、
 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
と定めています。もっとも、「新聞紙」「雑誌」と銘打てば自由に文書を配布できるのでは選挙活動規制のための文書配布等の制限の趣旨に反してしまいますので、同条第2項において、
 新聞紙又は雑誌の販売を業とする者は、前項に規定する新聞紙又は雑誌を、通常の方法(選挙運動の期間中及び選挙の当日において、定期購読者以外の者に対して頒布する新聞紙又は雑誌については、有償でする場合に限る。)で頒布し又は都道府県の選挙管理委員会の指示する場所に掲示することができる。
とするとともに、同条第3項において、
 前二項の規定の適用について新聞紙又は雑誌とは、選挙運動の期間中及び選挙の当日に限り、次に掲げるものをいう。ただし、点字新聞紙については、第一号ロの規定(同号ハ及び第二号中第一号ロに係る部分を含む。)は、適用しない。

一  次の条件を具備する新聞紙又は雑誌
イ 新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。
ロ 第三種郵便物の承認のあるものであること。
ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、六月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。
二  前号に該当する新聞紙又は雑誌を発行する者が発行する新聞紙又は雑誌で同号イ及びロの条件を具備するもの
と規定しています。

■ 「選挙運動」とは

 もっとも、公職選挙法上の「選挙運動」とは「一定の選挙に付、一定の議員候補者を当選せしむべく投票を得若しくは得しむるに付、直接又は間接に必要且有利なる周旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことを汎称する」(大審判昭和3年1月24日刑集7巻6頁)とされており、単に特定の候補者の当選を妨害するような行為はこれに含まれないとされています(大審判昭和5年9月23日刑集9巻678頁)。

 ただし、直接には特定の候補者の当選を妨害する行為であっても、それが間接に他の候補者の当選を目的としてなされる場合には、公職選挙法上の選挙運動となるとされています(最判昭和47年10月6日刑集26巻8号443頁)。

 したがって、小選挙区において自民党と民主党が事実上の「一騎打ち」状態にある場合においてその一方を当選させるために他方の候補者の当選を妨害するような行為を行った場合の他、比例代表において特定の政党の当選者を増加させる目的で他の政党の当選者を減少させるような行為を行った場合にも公職選挙法上の「選挙運動」にあたるとされる可能性はあろうかと思います。

 ただし、公職選挙法上の「選挙運動」にあたらない場合であっても、公職選挙法第235条第2項によれば、
当選を得させない目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
とされており、法定外文書等を頒布・掲示した場合(二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金)よりも重い法定刑が定められています。

■ ブログは「文書図画」なのか

 1996年10月に旧自治省が行った
公職選挙法の「文書図画」とは、文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示をいい、スライド、映画、ネオンサイン等もすべて含まれます。したがって、パソコンのディスプレーに表示された文字等は、公職選挙法の「文書図画」に当たります。
という公権的解釈を総務省が継承していることから、誰かが自分のみを危険にさらしてこの解釈に逆らって行動し、正式に起訴されて法廷で当該解釈の当否を争わない限り、この解釈がまかり通ることになります。

 すると、特定の候補者なり政党なりを推薦ないし支持する内容のエントリーを選挙期間中に立ち上げたりする行為は公職選挙法第143条に違反するということになります。

 また、衆議院選挙の場合、比例代表の部分がありますから、特定の政党を貶めるエントリーを立ち上げてその当選者数を減少させようとする行為もまた同法に違反する可能性があります。

 ブログの場合、たとえ毎日定期的に更新していたとはいえ、ブログの場合、有償で頒布されるものではありませんし、第三種郵便物の承認などあろうはずがありませんから、公職選挙法第148条にいう「新聞紙又は雑誌」にあたらないことも明らかです。他人のブログのコメント欄や掲示板に投稿する行為が「文書図画」の「掲示」にあたるかは若干悩ましいところはありますが、いざ刑事裁判になったら認定されてしまうような気がします(実際に、捜査するかは別問題として。)。

(2005年9月3日)


■ PROFILE

小倉秀夫
(おぐら ひでお)
弁護士。中央大学法学部兼任講師。1968年生まれ。著作権等の知的財産権、IT関係はとりわけ強い。これまで、中古ゲーム差止訴訟、「mp3.co.jp」ドメイン名訴訟、対WinMXユーザー発信者情報開示請求訴訟などで勝利を収め、ファイルローグ事件では、高裁での逆転勝利をねらう。主な著書として『著作権法コンメンタール』(編著:東京布井出版)、『インターネットの法務と税務』(共著:新日本法規)などがある。

「benli」(ブログ)
http://benli.cocolog-nifty.com/

「東京平河法律事務所」(事務所HP)
http://www.tokyo-hirakawa.gr.jp/staff/ogura.html


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