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2005年09月06日  |  特別寄稿:佐々木俊尚
 

佐々木俊尚 特別寄稿!『日本で「ブログ世論」は生まれるか (下)』

■ 皮肉に覆われた日本のネット文化

 ではこうした状況は、日本でも生まれてくるのだろうか。今回の総選挙が、果たしてその天王山となるのだろうか。

 私は従来、日本のネット世論についてはかなり疑わしく感じていた。韓国やアメリカと比べ、日本ではネットの世界とリアルワールドの距離がきわめて遠い――そのような感覚的な印象を持っていたためだ。

 社会学者の北田暁大氏は、匿名掲示板の2ちゃんねるについて「≪巨大な内輪空間≫とでも呼ぶべき奇妙な社会性の磁場が形成された」と説いた(『嗤う日本の「ナショナリズム」』、NHKブックス刊)。また2ちゃんねる管理人の西村博之氏はかつて私の取材に、「2ちゃんねるには熱い人、一生懸命がんばっている人を馬鹿にする文化がある。そして、そもそも2ちゃんねるにいることはとても恥ずかしい、という共通認識もあるんです」と語ったことがある。

 皮肉っぽく冷笑的に世間を見るその文化は、2ちゃんねるのみならず、ブログも含めた日本のインターネット世界を覆っているように見える。ネットによって他のユーザーとつながっていくことの面白さだけを追求したその文化は、つきつめれば壮大な暇つぶしのようでもある。そしてそうした文化からは、リアルワールドを変革しようという強い意志は現れてこないのではないか――私はそう考えたのだ。

 おまけに、日本にはディベートや議論に関する文化的土壌が乏しい。自分が書いた意見についての異論を書き込まれると、「ああ、この人は私のことを嫌いなんだ!」と思ってしまうという人は、日本人には少なくないだろう。冷静な議論にまでなかなか進まないのである。そしていったん議論になると、今度はそのまま感情的なもつれへと突き進んでしまったりする。

 そういう背景があるためか、日本のウェブではみずからの意見を強烈に主張するという文化は、米韓あたりと比べても相対的に少なかった。ブログの世界でも、どちらかといえば身辺雑記的なあたりさわりのない日記を書くケースが昔から多かったし、その状況はいまもあまり変わっていない。そしてそうした文化を持つブログの世界では、政治的な世論形成の場は作られにくいのではないか――私にはそう思えたのだ。

■ 総選挙が導く地殻変動

 ところがここに来て、状況は急激に変わってきているように見える。自民党がブロガー向けの懇談会を開いたのはなかなかいい話だったけれども、それ以上に実態としてのブログ世界は急激に政治性を帯び始めている。郵政民営化や総選挙、政権交代について言及するブロガーは増えているし、トラックバックやコメントによってそれらの意見が有機的に結合し、交換され、さらに地平を拡大していくという状況は生まれつつあるように見える。

 たとえば東京工業大の奥村学助教授らが開発しているブログ検索「blogWatcher」のブログ解析結果によれば、最近1か月間のブログのホットなキーワードランキングで、「民営」「郵政」という単語がそれぞれ2位、3位を占めている。また総選挙に特化したコンテンツを公開してるブログ検索エンジン「テクノラティ」のサイトを見ても、公示から4日を経た9月3日で「郵政民営化」がまだ、「過去12時間で最も検索された話題」の2位に入っている。関心は失われていないのだ。

 小泉首相が衆院を解散した時、ネットでは郵政民営化について最高潮の盛り上がりを見せた。この盛り上がりに対して、永田町では「インターネットや若者の間の突発的なブームでしかなく、投票日ごろにはみんな飽きてしまうに違いない」と冷めた目でネット世論の盛り上がりを見る関係者は少なくなかった。だが事態は、彼らの想定の範囲を超えて進みつつあるように見える。

 しかしもちろん、こうした状況だけをもってして、「ネットに世論が形成されつつある」とみるのはあまりにも時期尚早だ。とはいえ、これが何かの地殻変動の表れであるのは間違いないようにも思える。そしてその地殻変動が何を意味し、そしてネットの世界にどのような影響を与え、さらにはネットとリアルの関係性をどう替えていこうとしているのかについては、さらに注意深く見ていかなければならない。

 総選挙が終わり、その選挙結果が明らかになったとき、ブログの世界がどのような反応を見せ、どのような結論を導き出すのか。また政界をはじめとするリアルワールドの側は、ネットから巻き起こった「何ものか」に対して、どのような総括を行うのか。とりあえずはその成り行きを見極めたうえで、もう一度この「ブログ選挙」の行方をとらえ直してみたいと思う。

(2005年9月4日)

■ PROFILE

佐々木俊尚
(ささき としなお)
1961年生まれ。毎日新聞社で支局、本社社会部を経験。海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材。1999年10月アスキーに移籍。月刊アスキー編集部などを経て2003年2月に退社。現在フリージャーナリストとして、週刊誌や月刊誌などで活動中。

佐々木俊尚の「ITジャーナル」
http://blog.goo.ne.jp/hwj-sasaki/

(gooニュース)

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